第39話 変わりゆく日常の中でも変わらないものはある
ムイとの決闘が済んでから数日が経過した。
アリシアの父親はアリシアから聞く分には未だに横柄な態度を取っているらしい。しかしアリシアが女性服を着ていることに対して何も言ってこないようでこれを機にと独り立ちを提案して出てきたらしい。
というかこれもう独り立ちというか同棲なんですけどね? 恋人見つけたからそっちの家に住みますってだけなんだけどね?
とまぁそんなこともあったが俺達は呑気に家を見に来ていた。一応この世界にも不動産屋はあるらしく色々な家を紹介される。
「これなんかどうだ?」
「…………駄目、部屋が小さい」
「え、そんな大きな部屋がいいのか?」
「…………刀夜と寝るのに必要」
寝るってどういう意味ですかね? 普通に添い寝的な意味ですよね?
「…………エッチにも広い方が良い」
「はい、アウト」
分かってましたよ。アスールがこういう奴だって。
「ですが確かに大きいお部屋でないと大きなベッドが置けません。ご主人様と一緒に眠りたいです……」
「ルナ……」
「…………私の時と態度違う」
ルナはこう、そういう雰囲気を感じさせないのだ。むしろ純粋に一緒にいたいと思ってくれているまである。ここが違いだ。
「…………おっぱい揉んでもいいって言ったら?」
「よし、アホみたいに大きな部屋がある家探すぞ」
「刀夜くんは時々男の子になるからエッチだ……」
そりゃあ男ですから。いや、男の子か。まぁ思春期だしな、仕方ないだろう。
「エッチな俺は嫌いか?」
「そ、それはその…………す、好きだけど……」
こういう可愛らしい反応するからアリシアは良い。メイド服着せたい。
「…………刀夜が幸せそう」
「きっとアリシア様の言葉に感動しているのでしょう。私にももっと可愛らしさがあれば……!」
「…………刀夜なら今の私達でも問題ない」
そりゃあな。じゃなきゃ恋人なんてやってない。それにルナも充分可愛い部類だしもっと言うと世界を狙えるレベルの美人なんだけどな?
「そ、そうですよね!」
「ん…………自信持って刀夜を誘惑」
「それはやめなさい。止まらなくなるだろ?」
「ん……それで問題なし」
なんと、問題ないというのか。いやいや俺はそんな無理やりみたいなことはしたくないな。
「その話は家を決めてからだな。それで本気でどうする?」
ふざけるのも大概にしてそろそろ決めないと不動産屋のおっさんの視線が冷たいんだが。こいつ美女3人に好かれやがってみたいな視線を向けられてるんだが。
「ここなんてどうですか?」
「ん? ちょっと住宅街からは外れるのか」
しかし周りに誰もおらず、のどかでかつ景色も綺麗な所のようだ。間取りもかなり広いというか普通に豪邸だなおい。
「…………ベストチョイス」
「凄い金額だけどお金は大丈夫?」
「はい! 問題ないです!」
そりゃそうだろうな。全額賭けてたもんな……。でもまぁお陰でかなり儲かったわけだし、別にいいか。結果良ければ全て良しってことで。
「ここ、とりあえず見に行ってみてもいいか?」
「もちろんです」
ということで許可を貰ったのでのんびりと歩きながら我が家になる予定の地へと向かう。もちろん確定ではないが。
向かう途中に住宅街を抜けるとそこはまるで街の中とは思えないくらいに自然に溢れた場所だった。
天然の芝生のような草花に透き通る程に綺麗な湖もある。小動物も生息していてはっきり言ってここは癒しの空間だ。
「綺麗なとこだな……」
こういう所に住めるならいいかもしれないな。なんて思いながら湖の先を見つめていると不意に手を握られた。
「ん?」
隣を見ると幸せそうに頬を赤く染めてアリシアが微笑んでいた。
「ありがとう」
「え?」
いきなり礼を言われた。何かしたっけ?
「あ、そのね? いつも私は自分のことがバレるのが怖くて。だから誰とも一緒にいようと思わなかったの」
そういやアリシアは誰ともパーティーを組んでいなかった。俺達に対して優しくしてくれていたのは確かだが同時に避けられてもいたのかもしれない。
「でも今は自分のやりたいことが出来る。自分がやるべき目標がある。それを教えてくれたのは全部刀夜くんだから」
「俺は何もしてないだろ? 選んだのはお前だ」
「そうだとしても、きっかけをくれたのは刀夜くんだよ。だからありがとう」
そう何度も礼を言われると照れる。頬をかいて視線を逸らしてしまう。
「刀夜くん……」
「アリシア?」
アリシアは頬を真っ赤に染めながらも潤んだ瞳で俺に顔を近付けてきた。こ、これってもしかして?
「大好き……」
そのまま優しくキスされてしまった。ルナやアスールで慣れていたと思っていたが、こう……凄くドキドキしてしまった。
「ふふ……しちゃったね」
「そ、そうだな」
アリシアも意外と大胆だな。恥ずかしそうだけどそれ以上に嬉しそうな顔を見ていると俺も満足だ。
ん? そういやこういう時あいつらは絶対に反応するんだがな?
「わぁー」
「…………おめでと」
何か祝福されていた。拍手までされていた。
「お前らが何も言ってこないなんて珍しいな」
「ファーストキスをお邪魔する程に無粋ではありませんよ?」
「ん…………女の子にとっては大事なイベント」
空気を読んでくれたらしい。なら仕方ないな。
「2人ともありがとう」
アリシアが笑顔で礼を言っている。アリシアの日常は以前と大きく変わったのだろう。されど変わらないものもある。
それはアリシアが優しいということ。そして俺も、それに仲間も幸せそうだということだ。
「…………」
俺はこの関係を守り続けようと沈みゆく夕日を眺めながら心にそう誓った。




