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第38話 最強対最強、その差はほとんどなくとも結果は出るもの

「今この会場にキミの実力を認めていない人はもういないよ」

「だから何だよ。言ったろ。俺が目指すのは最強だけだ。中途半端な評価なんていらない」


 そういや歓声もブーイングも消えたな。しかしまぁ関係ない。


「ご主人様格好良いです!」

「ん…………頑張って」

「と、刀夜くん頑張れ!」


 あ、3人から凄い声援が。つい手を挙げて答えてしまう。


「中途半端な評価はいらないんじゃ?」

「仲間からの声援は別だ」


 あいつらの為の戦いでもあるしな。家買ってイチャイチャし放題。宿屋の店主に恨めしそうに見られるのはもう懲り懲りだ。


「さて、どう攻めようかな」

「こっちの台詞だ。つってもそれ、弱点あるけどな」

「あ、もう気付いちゃった感じ?」


 俺は剣を創り直すと付与魔法で風魔法を付与した。そのまま剣を振り抜く。


「斬撃!」


 すぐ様反応したシクウはしゃがんでそれを回避した。同時に踏み込みも兼ねており俺の意識外から一気に攻撃を仕掛けてくる。

 中途半端な遠距離攻撃は無意味か。なら連続攻撃が必要だな。

 シクウの攻撃を半身になって躱す。少し髪が切れるくらいのギリギリだったが問題なしだ。


「神速の太刀!」


 これはまた特技か! しかし神速故に攻撃は直線的だ! 先程の攻撃位置から考えるとここだろ!


 俺は咄嗟に剣を挟んで攻撃を防いだ。鍛錬魔法は使えなかったが防げるならそれでいい。


「なっ、防いで!?」


 驚くシクウに対して俺はすぐに突っ込んだ。驚きは動揺を、動揺は隙を作る。もちろんそんなことは相手も分かっているだろうが主導権は渡さない。


「くっ!」


 咄嗟に剣で防ごうとしたシクウ。しかし途中で回避に切り替えた。長年染み付いたであろう癖を途端に直せるなんてやっぱりこいつは天才だな。

 しかし天才だからと言って勝てないというわけではないのだ。何か別の方向性を探って何かしらの行動には出てくるだろう。

 だからこそその隙を与えない。こちらも常に新しくし攻撃の隙を与えない。

 主導権を握られればさっきの技術はカウンターにしか使えなくなる。だが新しい攻撃をしていれば自然と呼吸というのは合わせられなくなる。後手に回せればこいつは単純な攻撃しか出来なくなるはずだ。

 俺は再び風魔法で速度を速めると一気に踏み込んで距離を詰める。剣を振るのではなく蹴りでシクウの腹部を蹴り上げた。


「ぐほ!?」

「剣だとどうしても一瞬遅れるからな」


 細かな攻撃を当て、出来た隙に大技を叩き込む。当然のセオリーだが一番効果的だ。

 俺は風魔法を発動させて剣を振り抜いた。風の刃がシクウに真っ直ぐに飛んでいく。


「真空斬……!」


 軽く飛ばされ、避けるという選択肢がない状況。シクウは逆に反撃に出た。

 特技と魔法では特技の方が威力が高い。俺の風魔法はかき消され、斬撃がまっすぐに向かってくる。


「ちっ……!」


 特技にも魔力核が存在する。先程もそれを破壊したわけだが。この場合はそれをしている時間はない。恐らく破壊した瞬間を狙われたら終わりだ。先程ので向こうもそれは理解しているはず。

 なら俺の取るべき選択肢は? そんなものは決まっている。特攻あるのみ!


「なっ!?」


 俺は斜め前へと出た。あえて腹部を切り裂かれながらも風魔法で速度を上げて一気にシクウとの距離を詰める。


「うおぉぉぉぉ!」


 剣を振るうと途端に我に返ったシクウが躱す。しかし休ませない。俺は更に剣を振り続けてどんどんと追い詰めていく。


「もう楽にしてあげるよ。神速の太刀!」


 カウンター狙い。分かっていた。いや、誘ったのだ。そう来るのをな!


「ふっ!」


 神速の太刀を片方の剣で受け止めると同時にもう一つの剣でシクウの腹部を切り裂いた。

 俺と奴の違いは二刀流か一刀流か。事前に剣を1本破壊出来たというこのチャンスは大きい。

 シクウのそれは特技、体力は更に削られていることだろう。だからこそこの一撃は大きなものとなる。


「くっ……まさかカウンター狙いだったとは」

「はぁ……はぁ……」


 カウンターのカウンター、一番狙い時だと思うその瞬間に切り裂いた。無謀にも良いところだっただろう。


「最初に呼吸の合間に関して俺が思い至るのに時間が掛かった。お前はその点から神速の太刀を連発して勝負を早く決めようとした。そりゃそうだよな、使う度に体力を消耗するんだ、長期戦は避けたいだろうな」

「なる…ほど。そこまで見透かされていたとは……」


 そう、だからこそ俺はそれを逆手に取った。それが特技の弱点とも言えるのだろう。長期戦に向いていない。

 実力が拮抗して長期戦となれば明らかに不利になる。更には手の内もバレていき、ほぼ勝率は低くなるだろう。


「お前の攻撃はそれだけか? ならこっちも全力でお前を倒してやる」

「まだ……何かあるのかい?」

「あぁ」


 相当な魔力を消費する上にまだ試作段階とも言える。しかし数を制限すれば問題はない。要は俺の技量がまだ足りていないだけだ。

 魔力装備生成魔法で3本の剣を創り出す。それらは宙に浮かび、俺の周りを守護するかのように守る。


「これは……!」

「魔力装備生成魔法と付与魔法、そして操作魔法の3つを重ねた。これで自由自在の剣ってわけだ」


 わざわざ説明しなくてもこいつは理解していたのだろう。だからあえて手の内をバラした。


「どうした、最強? お前はその程度か?」

「そう……だね。最強だからこそ負けられないね」


 シクウは立ち上がると剣を構えた。そうこなくちゃな。自然と笑みが漏れる。


「…………」


 静寂が場を支配した。妙に静かだ。しかし観客も含めてシクウがその一瞬、一撃に全てを賭けているのが分かる。

 こういうのが一番厄介だ。安易に近寄ることも、そして中途半端な攻めも通用しない。

 考えろ。相手が何をして来るのか。何が有効打なのかを。


「行くよ」


 それは一瞬にして一閃。咄嗟に宙に浮いていた剣が無意識に俺の身を守るように移動した。そして俺の持つ剣も自然とそちらに反応していた。

 3本の剣は破壊され、されど手に持っていた剣が自動的に発動した。本能で危機を悟ったのを理解した瞬間に試合は終わっていた。


「…………」

「神速の一閃……僕の持てる最速の技だったんだけどなぁ……」


 まるで追い付かなかった。本能で俺はそれを受け止めていただけだった。

 シクウの持つ剣にヒビが入っていき、ついには破壊されて砕け散る。そして体力の限界だったのだろう、シクウはそのまま膝を付いた。


「はぁ……はぁ……」


 勝ったのか負けたのか。いや、恐らくは勝ったのだろうがあの一瞬、俺よりもシクウの方が強かったのは確かだ。素直に喜べない結果だな。

 それでも今はアリシアの為、そしておっさんの心をへし折る為に俺は剣を高く上に上げた。


「しょ、しょ、勝負あり! 勝者、萩 刀夜選手!」


 湧き上がる歓声。まぁそんなものはどうでも良い。ひとまずアスールを。


「…………お疲れ様」


 アスールがやってきて俺と、そしてシクウにも回復魔法を掛けていた。流石分かってらっしゃる。


「流石ですご主人様。全額賭けて正解でしたね」


 やっぱり全額賭けてたよ!? ま、まぁ勝ったからいいか。


「刀夜くん……」

「アリシア? あ、ちゃんと賭けてくれたか?」

「…………」

「アリシアさーん? 聞いてます?」


 全く反応がなかった。しかし目尻に涙を溜めたアリシアは嬉しそうに笑って俺に抱き付いてきた。


「ちょ、ちょ!?」


 観衆の前なんですが!?


「無茶ばかりして……でも……」

「…………お、おう?」

「ありがとう……」


 嬉しそうに涙を流すアリシアを見ていると観衆の前などどうでもよくなった。抱き締め返して優しく背中を撫でてやる。

 アリシアをやんわりと引き剥がすとシクウに手を差し伸べる。


「良い試合だった。最後、全く反応出来なかったぞ」

「という割には僕の剣を破壊してくれたわけだけどね」

「神速の太刀の時に破壊出来なかったからな。常に鍛錬魔法を使用していただけだ。最後のも本能的に防衛に入っただけで防いだわけじゃない」


 シクウの手を引っ張って立たせると観客からうるさいくらいの拍手が起こった。うぜぇ。


「こいつら1発ずつ殴りたい」

「だ、駄目だよ?」

「手のひら返しが過ぎます。私も魔法でお仕置きしたいです」

「…………防御魔法で押し潰す」

「2人も物騒だね!?」


 俺達はこういう時に意見が合うよな。


「でもこれでこの街の最強はキミだ。だから……今度は僕から挑戦てもらおうかな?」

「おう、いつでも良いぞ。あ、それと頼み聞いてもらえるか?」

「うん?」

「お前の特技、機会があったら教えてくれ。俺も何かある時は力を貸すから」

「…………」


 あれ、歓声は鳴り止まないのにここだけ空気が固まったぞ?


「あはは! 本当にキミは面白いね。普通最強を目指すなら自分の手の内なんてバラさないと思うよ?」

「手の内をバラしたとしても別の方法を考えばいいだけじゃないか?」

「確かにね。ふふ、だからキミは最強なのかもしれないね?」

「…………?」


 どういう意味? というか俺が勝ったはずなのに向こうの方が余裕そうだ。多分次やったら勝てないだろうな。俺の手の内全部バレてるだろうし。


「それじゃあ僕は怒られる前に退散するよ。萩 刀夜くん、だったね」

「あぁ。名前は刀夜の方だ。刀夜でいいぞ?」

「それじゃあ僕もムイで。またね」


 颯爽と帰って行かれた。何というか、やはり掴み所がない人だ。しかしそれが強みなのだろう。結局あの呼吸の方に関しては中途半端な攻略になってしまったしな。でもまぁ遠距離攻撃には弱いという弱点もあり、また身体強化魔法があるなら反応も出来る。その辺を改善してくるかもしれないな。


「それじゃあまぁ、アリシアの父親をぶん殴りに行くか」

「殴るの!?」

「気に食わない奴はとりあえずぶん殴るのが俺の心情だ。まぁ最も改心してないければの話だけどな?」


 試合が無事に終わり俺達は莫大な資産を手に入れたわけだ。これだけあれば家を買うことも出来るだろう。今から楽しみだ。

 その楽しみはひとまず後にして俺達は観客席から覗き込んでいたアリシアの父親に会いに行った。


「…………あのクソガキめ。こんなゴミクズに負けるなど」


 あー、これは全く治ってないな。よし殴ろう。


「と、刀夜くん、待って」


 おっと? 殴ろうとしたらアリシアに止められた。何故だろうか?

 訳を聞こうとした瞬間、アリシアはおっさんの方へと歩いていく。


「なんだ? ようやくランケア家としての自覚が出て」

「…………お父様なんて嫌い!」


 バチンッ! と甲高い音が響いた。冒険者のビンタは強烈だ。く、首は大丈夫なのか?


「リア……?」

「あれだけ必死に頑張ってた2人を見てもまだそんなこと言うの!? お父様が挑んだって刀夜くんには勝てないでしょ!」

「そんなことはない」

「あるよ! シクウさんにも勝てないのにそれに勝った刀夜くんに勝てるはずないでしょ!? その2人を蔑んで気に入らないからって認めようともしない。刀夜くんの言ってた通り、お父様は弱いよ!」


 お、おう。アリシアがすっごい怒ってらっしゃる。というか怖いんですが?


「わ、私は……」

「言い訳しない!」

「は、はい!」


 あのおっさんがたじたじだな……。これ見てると男より女の方が強いように思えて来た。というか女怖い。


「私はもうお父様の言いなりになんかならないよ! 私は自分の意思で刀夜くんと一緒にいたいと思ってるし自分の意思で女であることを認めたの! それを邪魔するならお父様だって許さないよ!」

「すいませんでした……」


 うわー、なんかもう見てられない。威厳たっぷりだったおっさんがもう今では年老いたただのおっさんにしか見えない。


「私には目標に出来る人が2人もいる。もうお父様がいなくても私1人でもその2人を目指したいと思ってるよ」

「誰と……誰だ?」

「1人はお姉様。私が目標とする強い女性だよ。それにもう1人は……」


 何故か知らないがアリシアは俺の方を見て来た。えっと、つまり俺は目標にされてるってことか?


「そ、そうか……」

「ま、まぁ約束してるしな。アリシアは俺が最強にしてみせる。それに俺も最強であり続ける。お前もアホみたいなプライドなんてとっとと捨てて改心しろ。頭の毛全部削ぐぞ」

「良い話なのに全部台無しにしましたよ!?」

「…………刀夜、アウト」


 どうやら俺はアウトらしい。でも仕方ない。俺も殴るまでは無くとも色々と言いたいことはあったのだ。この程度は大目に見て欲しい。

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