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第37話 最強対最強、勝者は1人

 あっという間に10日が経過して俺達はアリシアの家へとやってきていた。メイドはやはり良い。これに限る。

 しかし残念ながらそれは無駄だったわけだが。俺達はすぐ様別の場所へと連れて行かれた。この妙な舞台はなんだ? いかにも戦いを始めますと言わんばかりの場所だ。それにご丁寧に観客席まで用意されている。


「こ、ここは……」

「知ってるのか?」

「う、うん。闘技場って言って決闘に使われる舞台だよ。賭け事にも使われて……」


 あ、そういう感じなのね。確かにこれなら観衆の中で恥をかかせられるということだが。


「賭け事でも始めようってか。中々良い趣味してんな」


 本当にムカつく奴だ。これが終わって改心しないようなら本気でぶん殴るしかないな。暴力で解決するものでもないだろうけど。俺がすっきりする。


「萩 刀夜選手ですね」

「あぁ」


 いきなり執事服の男に話し掛けられる。これもあのおっさんの差し金だろうな。


「試合の準備を致しますのでご同行を」

「んじゃ行ってくる。あ、お前ら賭けるなら俺にな?」

「もちろんです!」

「ん…………お小遣い賭ける」


 貯めた金で家でも買えるかもな。アリシアにも頼んどくか。


「アリシア、俺の金も俺に賭けといて」

「え、あ、う、うん」


 もちろん貯金分は残すけどな。全額賭けるとか無謀も良いとこだ。


「…………」


 ルナとアスールも分かってるよな? 全部賭けたり……しそうで怖いな……。

 まぁいいや。ひとまず執事服の男に付いて行くとロッカールームに連れて来られる。


「時間になりましたらお呼びしますので少々お待ちください」


 執事が出て行くと俺は身体を大きく伸ばす。さて、とりあえず先に足の装備やら何やらを作っておくか。

 さて、後は相手が誰かってことだな。まぁその辺りは今考えても仕方ないな。

 20分が経過してようやく呼ばれる。さてと、やりますか。


 舞台へと向かうと相手は若い男だった。飄々としていて何処か掴み所のない白髪の少年。といっても俺よりは年上か?

 ストレートヘアーに白い瞳の優男だ。しかし何だろうか、全く読めないせいか不安になる。


「両者並んで」


 審判の指示に従い向かい合うと男はにっこりと微笑んだ。


「僕はムイ・シクウ。よろしくね」

「お、おう?」


 知らないです。というかこの男、本当に何も覇気というものを感じない。強いという感じが全く皆無なのだ。

 しかし何故だろうか? こういう感じが一番強い気がする。全く行動が読めない。


「さぁ皆さんついに始まります! まずはこちら! 知らない人など存在しない!? この街一番の冒険者! ムイ・シクウだあぁぁぁぁ!!」


 え、知らない。というかこの街一番の冒険者だと?


「キャー! ムイ様よ!」

「素敵ー!」

「あはは……」


 シクウは少し困ったように笑みを浮かべた。しかしやけに黄色い声援が飛んでくるな。まぁ顔立ちも整ってるというか幼い感じだしな。


「対するは今話題の冒険者! その名も萩 刀夜だあぁぁ!!」


 うるさい。というか自己紹介だけで時間掛けないで欲しい。


「なんと事前情報で萩選手、なんと職業が鍛冶師であることが分かっているぞ!!」


 え、急に静まったんだが?


「鍛冶師とか舐めてんのかぁ!」

「そうよ! 噂も全部ガセなんじゃないの!?」

「帰れ! 帰れ!」


 うわー、すっげぇブーイング。あのおっさんだけじゃなくこいつらも弱者は消えろ的な考え方か。


「萩選手、この情報の真偽のほどは?」

「あ? 普通に事実だが?」


 当然のように認めてやる。この戦いはそういう認識を変える為の戦いだからな。


「おおっと認めたぞ!?」

「当たり前だ。異世界転移者の俺が今ここで宣言してやるよ」


 俺はわざとらしく口角を上げて笑みを作る。その笑みは挑発的で、かつ自信満々に。


「俺にとってこの世界は異世界だ。その俺はこう考えている」


 大きく息を吸い、一気に吐き出す。この誓いはルナやアスール、そしてアリシアに向けたものであり、世間すらもそれを見せ付けると心に誓ったものだ。


「異世界の最強職は何だと思う? 剣士や武器使い? それとも魔法使い? それとも昔に存在したっていう勇者か? 違うな! 鍛冶師に決まってんだろ!」


 俺はこの職業であることに誇りを持っている。だからこそこの職業で最強を取る。これは俺のこの世界での目標だ。

 再び静まり返る周囲。しかしそれも一瞬のことですぐ様ブーイングの嵐である。


「ふふ、あはは! キミは面白いなぁ」


 シクウに盛大に笑われてしまった。やっぱりおかしなことを言ったのだろう。だがその認識、結果を見た後で果たしてそのままでいられるかな。


「それじゃあ早く始めようか。でも、そこまで言うなら一瞬で終わらないでね?」

「あ?」


 先制攻撃で終わらせる気なのか? 逆に先制攻撃をしても良いが……どうする?


「では両者少し離れて!」


 お互いに背を向けて離れるように歩く。舞台の端まで移動すると振り返った。


「では両者位置について……用意、始め!」


 さて、どうするか。まずは俺から仕掛けるか?


「キミだけ晒すんじゃ不公平だ。僕の職業も伝えておくよ」

「剣士だろ?」

「あ、知ってた?」

「その二刀流を見りゃ分かる」


 両手に剣、普通に考えれば遠距離はないが特技に斬撃などもあるかもしれない。なら間合いをどう取るべきか。この狭い空間じゃ大きく逃げ回ることも出来ない。


「色々画策してるようだからこっちから行くね」


 シクウはニヤリと笑みを浮かべた。しかし何だろうか、やはり何も覇気を感じない。それどころか戦闘する気あるのかこいつ?


「っ!」


 気付けばそこにシクウの姿はなかった。何故だ!? 目を離してないのに!


「くっ!」


 シクウは後ろにいた。剣で突き刺すように俺の首を狙って。俺は咄嗟に首を傾けてギリギリ躱す。頬を掠めてしまったが問題はない。


「お、避けられた?」


 こいつは今何をした!? 俺が認識出来ない程高速で……というわけではないな。なら俺は既に斬り伏せられている。


「初見殺しなんだけどなぁ、やっぱり最強を豪語するだけはあると思うよ!」


 再び突っ込んできた。しかし途中でその姿を俺が認識出来なくなる。何でだ?

 しかし反応出来るなら問題はない。ギリギリのような綱渡りだがここで大人しく死んでやるほど俺は甘くはない。

 今度は側面から剣を振ったシクウ。俺はギリギリで自分の剣を挟んだ。


「あれ」


 シクウの剣が木っ端微塵になって破壊される。以前ゴブリンキングにもした鍛錬魔法による強度の変更、武器破壊だ。

 シクウは少し距離を開けて壊れた自分の剣を見つめる。


「驚いたなぁ、その剣相当強い?」

「まさか。ただの剣だ」


 そう、俺が持っている剣はただの剣だ。されどこの場で鍛錬魔法を使ったなど普通は思わないのだろう。


「えっと……あ、鍛錬魔法かな。ということは剣の打ち合いになったら僕の負けなわけかぁ」


 マジかよこいつ。気付きやがった。多分剣の打ち合いにはもう持ち込まれない。片方の剣を破壊出来たのは大きいが二度同じ技が通じる相手ではないだろう。


「それじゃあ僕の技の謎も解いてみなよ?」

「ちっ……どこまでも優位なのは自分ってか」


 こういう態度が最強と呼ばれる所以なのだろうか。そしてこいつは全く理解出来ない技術を持っているわけだが。

 考えろ、この技がどういうものか。魔法なのか、それとも特技なのか。

 再び目の前でシクウは消えた。横? 後ろ? 違う、上か!

 俺は飛び込むように前方に飛ぶと俺の元いた位置に剣が振り下ろされた。読み通りだな。


「ありゃ、凄いね。それじゃあ!」


 時空はその場で剣を振るった。視認魔法で魔力の存在を確認。風魔法、斬撃か!


「真空斬」


 飛ばされた緑の斬撃。これはちょっとあれかな。でも関係はない。

 付与魔法により剣に風耐性を付与。そのまま剣を振り下ろした。

 斬撃の丁度中心部分。魔力核を切り壊して魔法そのものを破壊した。ルナとの対人戦闘をしていて良かった。これが出来ないと負けているだろうしな。


「え、す、凄いね」

「今度はこちらの番だ」


 風魔法を発動しての高速移動。シクウとの距離を一気に詰めると剣を振り上げた。


「おっと」


 後ろに下がって避けた? そうか、こいつは剣士だ。身体強化魔法が使えるから前衛職たるこいつの反応速度はアリシアのそれと変わらないということか。


「神速の太刀」

「っ!」


 また消え!


「ぐっ!」


 腹部を少し切り裂かれた。致命傷、だな。くそが! でもようやく理解したぞその技術。


「そういうことか……」

「僕の勝ちかな」

「あん?」


 俺は回復魔法を使用して傷を癒した。この程度で死ぬなら最強は名乗れない。


「回復魔法まで覚えてるのか。凄いなぁ」

「お前に言われたくはないな」


 凄いのはどっちなんだか。タネが分かっても俺はこいつの技術を真似出来ない。そもそもそれはもう既に才能の域、こいつは間違いなく天才だ。


「え?」

「人体ってのは行動を起こす際に必ず息を吐く。逆を言えば吸う瞬間は完全な無防備だ。お前はそこを突いて身体強化魔法で高速移動、攻撃をしている。違うか?」


 こういうのボクシングなんかでも使われる技術らしい。相手の呼吸やリズムを狂わせることで身体が全く反応出来なくなるというものだったはずだ。


「この技を初見で躱した人も、それにタネを分かった人もキミが初めてだなぁ。本当に何者かな、キミは?」

「そこの審判が言っていたし、俺も宣言したろ? ただの異世界転移者で鍛冶師だよ」


 しかし厄介だ。タネが分かれば後は呼吸のタイミングをズラせばいいと思うのだが、こいつは攻撃のタイミングが全く分からない程に覇気が希薄だ。

 無理やりズラしたらタイミングが悪ければやられかねない。これは賭けになってしまう。最終手段だな。

 1番の問題はこのまま試合が長引くこと。こちらの呼吸を完全に理解されればどう足掻いても俺が反応する前にやられる。

 しかしその攻撃には幾つか弱点がある。まずはそこから切り崩していくしかないか。

 最強は何人いてもいい。ただ最強同士が争うというのなら話は別だ。最強は1人でなくてはならない。


「なるほど、手強そうだ」

「お互い様だろ」

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