第34話 恋人が3人いると色々と問題が出るらしい
「刀夜くん! 凄いね!」
「流石に……! 1ヶ月以上戦闘してたら慣れるっての!」
俺が異世界に来てからもう既に1ヶ月は経過していることだろう。戦闘の空気感や戦い方、それに俺が多く使う剣の扱いにも慣れた頃合いだ。
俺はアリシアの槍による連続の突きを躱し、剣で防ぎながら機会を伺う。
「ふっ!」
アリシアは細かな攻撃も織り交ぜて分かりづらくしている。俺が教えた通りそういう攻撃も重要であることに気付いたのだろう。
しかしまだまだ足りない。アリシアにはパターンというか、癖というか。そういったものがある。それを自分で考えて見つけられていない。
剣で槍を斬り払うと同時に一気に距離を詰めていく。ここだ、このタイミング。
「やぁ!」
「それはもう読めてるぞ?」
「え!?」
アリシアは距離を詰められると横薙ぎ、それも足元を狙う癖がある。あるというか付いたというか。ひとまずそういう分かりやすい弱点は直しておくべきだ。
少しジャンプしてアリシアの槍を躱すと同時に剣を首元に突き付けた。完全に勝負ありだ。
「うぅ……負けた……」
アリシアが負けを認めたので俺も剣を引き下げた。流石に何十戦もしていると疲れるな。
「4勝6敗か……。まだまだ勝ち越せないな……」
「ううん、初めて対人戦をしたなんて思えないくらいの強さだよ?」
休憩したい。ルナとアスールが広げた敷物の上に座ると大きく息を吐いた。
「お疲れ様ですご主人様。マッサージ致しましょうか?」
「…………刀夜、飲み物」
お、おう。何でこんなに至れり尽くせり? 俺なんかしたっけ? 誕生日もまだまだですが?
「あ、ありがと」
アスールから水筒を受け取り、ルナからは肩を揉まれる。何でこんなに幸せな空間にいるんだろうか?
「ふ、2人ともずるい! 私も刀夜くんに何かしてあげたい!」
いやあの、何でそうなるんだ? むしろアリシアは俺に勝ち越してんだから何か要求するべきじゃないのか? 何で俺の世話?
「何か他にありましたか?」
「…………エッチ?」
「そ、そんなこと恥ずかしくて出来ないよ!?」
嫌だというわけじゃないんだな……。いや、まぁ……告白された後だしな。嫌われているなんてことはないと思いたい。
「はぁ……疲れた。これで何戦目だっけか」
「えっと……40戦です」
「もうそんなにしたのか……」
ルナとアリシアの2人に手伝ってもらい色々と実験も兼ねた対人戦闘を繰り返している。後半は慣れて来て俺の勝率も上がって来たのだがまだまだだなと実感させられた。
「流石にもう魔力もないな……」
これ以上使ったら倒れそうだ。ここで倒れて明日出来ませんとなった場合逆に効率が悪くなる。今日はこの辺りで終わっておいた方が良いだろう。
「今日はもう帰るか?」
「そうですね」
ルナも限界か。まぁ魔法主体のルナに長時間の戦闘は無理だろうな。人より多いとはいえ魔力が持たない。
「お疲れ様、刀夜くん」
「あぁ。アリシアもありがとな」
色々と付き合わせてしまった。しかしやはり身体強化魔法は難しい。ルナは相変わらずもう使えるみたいだが俺は未だイマイチ構造が分からない。
まぁそれも時間の問題なのだろう。何かきっかけがあったり教えてもらったりして分かればいい。今は別に急ぎでもないしな。
「アリシア、身体強化魔法のこと明日くらいにでも教えてもらってもいいか?」
「うん、それはいいけど……。私じゃなくてルナさんの方が教えるのは上手だと思うよ?」
「それはそうかもしれないが。俺が知りたいのは使い方だけじゃなく使い道も含めて、だから」
「でしたらランケア様の方が良さそうです」
そういう話も聞いて、後は使い心地も確かめて。色々とやることはあるな。でもそれだけ単純かつ魅力的な魔法とも言える。覚えておくべきだろう。
「…………私も覚える」
「う、うん。でも本来僧侶が覚えるようなものじゃないよ?」
「アスールもいつでも避けれるようにしておくべきだ。攻撃手段としても使えるなら持っていて損はない。そういや強化魔法はもう覚えたんだよな?」
強化魔法に関して相当強いことを悟ったアスールはそれはもう俺に並ぶ程に必死に覚えていた。徹夜もしていた。途中ちょっとご休憩もしてしまったが……ま、まぁ結果覚えたので良いだろう。
「ん……これで戦闘で役に立つ」
「そんなこと気にしてたのか?」
「ん…………刀夜と一緒にいたいから」
言いながらアスールは俺の腕に抱き付いてくる。いや、別にそんなことなくても一緒にいてもいいんじゃ……? あと胸押し付けないでね?
「わ、私も」
何故か反対側をアリシアが抱き付いてきた。何これ? だから何の天国?
「ふふ、ご主人様……」
後ろからはルナが! お、大き過ぎる胸が後頭部に!
「あ、あのー……」
指摘すべきか? いや、ここは男としては楽しむべきだろうか? くそ、悩む!
「…………一緒にお風呂入りたい」
「あ、アスール様大胆ではありませんか!?」
「そ、そうだよ!?」
うん、本当にそう。俺がそこで素直に頷いたらどうする気だ?
「…………? ……2人は入らない?」
「入りたいです」
「入りたいよ」
入りたいんかい! いや、俺も入りたいけどね!? でもこういう……えー……?
「アリシアはまだ未経験何だからいきなり変なプレイは駄目だろ」
「刀夜くん……私のことそんなに考えてくれて……」
「露出とかハマったら俺もう手に付けれる範囲外だぞ?」
「心配の方向性が違う!?」
あれ、アリシアから何やらツッコミを入れられてしまう。何か間違ったか?
「…………流石。……先を見据えてる」
「2人は私のこと痴女だと思ってるの!?」
「いえ、お2人の冗談かと思いますが……」
俺は割と真剣だったんだが。そんな変なこと言ったっけ? 全然そんな自覚ないんだけどな。
「ひとまずここでダラダラしてないでさっさと宿屋に戻って惰眠を貪るか……」
「…………お眠?」
「まぁな……」
流石に疲れた。徹夜明けにこの運動は死ぬな。もちろん夜の運動はいつでもウェルカムだが。あ、でも回数にだけは気を付けてね? 3人同時とか俺が持たない。
「…………添い寝チャンス」
「いや、それいつものことだろ」
ルナとアリシアが俺の両隣を、アスールが何故か俺に乗っている。人一人分乗ると重い。身体が痺れてくる。気持ち良いけど。ムラムラもするけど!
「あと流石に長時間上に乗られると俺もしんどい」
「…………エッチの時は問題ないのに?」
「それとこれとは話が別だ」
何でことごとくそういう話に持っていこうとするの? 溜まってるの? もしかして俺じゃ満足出来てない?
「…………ということは定員は2人まで?」
「それだと1人で過ごす人が出ちまうだろ? 2人ずつに分かれる方がいいんじゃないか?」
そうしないと暇だろうしな。というか俺は別に1人でもいいんだが?
「俺どうせ寝てるだけだし1人でもいいぞ?」
「そ、それは駄目です!」
「う、うん。刀夜くんは絶対に誰かと一緒にいて欲しいなぁ」
「ん…………寂しくて死んじゃう」
俺はウサギか何かか? 今までも1人だったし別に問題ないんだが。
「…………それに刀夜と一緒にいたい」
「はい! 当然です!」
「う、うん、そうだよね」
実はそっちが理由なんじゃ? いや、そう言われて俺も嬉しいんだが。やはり現実問題定員は1名だろう。
「…………刀夜、いつもの考えで4人で寝る方法、ない?」
「4人でか……。ベッドが大きけりゃそれも可能だが」
やはり今の宿屋のベッドだと定員は3人までだろうな。それが限界だ。
「あ、では私はあまり眠くありませんのでご主人様に膝枕してあげたいです」
あー、そういう解決手段に出ちゃう? ルナの膝枕で両隣りアスールとアリシア? 何それ何の天国? 絶対我慢出来ないからやめて欲しい。
「…………そうすると隣に寝ている人がキス出来ない」
「いや、するなよ」
だからやめて欲しい。我慢出来ないでしょうが。
「それは由々しき問題です」
「そうか? ん? ちょっと待って? それって普段からしてるってことか?」
だってそうでないと由々しき問題なんてならないよな?
「…………刀夜、女の子の口から言わせるの?」
「お前らなぁ……」
「す、すみません」
本当にしているようだ。何してんだよこいつら……。
「キスするなら起きてる時にしないと俺が嬉しくないだろうが!」
「えぇ!? 怒るところそっち!?」
当たり前だ。恋人なのだからキスくらい当然する。でもこいつらだけ楽しんで俺は寝てるとかズルイ。俺も楽しみたい。
ひとまず早く宿屋に戻ろうか。眠り方はそれからだろうしな。
「まぁ話は後だ。アスール、転移魔法頼む」
「ん…………」
比較的魔力が余っているアスールに頼んで転移魔法を展開してもらう。
宿屋へと戻ってくるなり俺はベッドに倒れた。
「疲れた……」
「ふふ、お疲れ様。見事にだらけてるね」
「そうだな……」
そりゃあだらけるってもんだ。俺がベッドでゴロゴロしているとアリシアがベッドに座ってまるで我が子を見るかのような優しい、そして愛おしいような瞳を向けてきた。
「…………もしかして今可愛いとか思ってないか?」
「ど、どうして分かったの!?」
やっぱりかよ。だってそんな表情してたもん。絶対に子供を見るような目で見てた。俺やっぱり子供っぽい?
「あのな……」
「ふふ、可愛い」
お、おい、文句を言う前に頭を撫でられてしまったぞ。しかもアリシアめちゃくちゃ嬉しそうなんですけど? やめてくれとか言えない雰囲気なんですけど?
「なっ!? ランケア様ズルイです!」
「ん…………おっぱいも大きい」
「こ、これはその! ってアスールさん!? おっぱいの大きさは関係ないよね!?」
おっぱい連呼すな。というかみんな思ってたんだな。サラシが凄いのかアリシアの胸が凄いのか。ごくり……。
「…………刀夜が触りたそう」
「えぇ!?」
「ちょ、酷い言い掛かりだな!?」
そんなことちょっとしか思ってない。思ってないよ? ちょっとしか。
「…………触りたくない?」
「触りたいな」
そりゃあもう。
「そ、そういうのはまだ早いと思うよ!」
「ということだ。とりあえず俺はもう寝る……」
眠い。そろそろ寝たいのだ。くだらない争いに巻き込まれる前に。
「だ、誰が添い寝しますか!?」
「…………早くしないと刀夜が寝ちゃう」
「そ、そうだね」
何やら相談を始めた3人だったが俺は気にも止めずにゆっくりと目を閉じた。3人が何やら真剣な様子だったのが印象的だった。




