第33話 森のダンジョン完全攻略は新たな決意とともに
森の探索を始めて更に時が経過した。アスールも視認魔法を覚えて全員で攻略開始。といっても俺とアリシアであらかた見て回ったので最後の確認というだけだ。
「明日はどうしましょうか?」
「あー、まぁちょっと俺とリアは予定ありだな」
「何かなさるんですか?」
「まぁな。お前らも参加してくれてもいいんだが……一応戦闘訓練をしようと思ってな」
戦闘訓練しておかないとな。対人戦なんて俺は全く経験ないしな。アリシアのことも見ておきたい。
「うん。ご、ごめんね?」
「いえ、ご主人様がそうおっしゃるのなら」
「ん…………私達も参加する」
参加するらしい。まぁいいんだけど。その場合でも充分練習になるしな。
「それじゃあそういうことで」
「ご主人様は対人経験がありませんから。これを機会にしっかりと勉強に励むのはとても良い事です」
「だろ?」
「はい。ふふ、良い子良い子」
だからって俺の頭は撫でなくてもいいんだけどな?
「と、刀夜くん!」
「ん?」
「わ、わた……あ、ううん。ぼ、僕も撫でていい?」
「頭を……か?」
正気か? そんなことしてバレないだろうか? うーん、誤魔化せるか微妙だぞ……。
「う、うん」
「あの、俺のこと子供だと思ってない?」
それに元々アリシアの為にやってるようなもんなんだけど。俺の対人経験は言わばついでみたいなものだし。
アリシアに頭を撫でられるとやはり何というか不思議な安心感がある。特ににっこりと幸せそうに俺の頭を撫でるアリシアはやはり可愛い。
「…………刀夜が嫌がってない」
「知ってるかアスール。人ってのはある程度似たような経験をすると飽きたりするらしい」
「…………つまり?」
「慣れた」
もちろん男だと思っていた当初はあれだが綺麗で可愛い女性だと分かった今では撫でられるのも悪くない。もちろん子供扱いされてるという意味なら願い下げだが。
「流石ご主人様です」
「いや、流石とか言われることじゃないんだけど……」
ま、まぁいいか。とりあえず今重要なのはバレなかったことだ。誤魔化せたようで何よりだな。
「ご主人様! 何やら空気が……」
和んだような空気が一気に張り詰めたものへと変わる。俺は驚いて目を大きく見開いてしまった。
それは恐らく殺気というものなのだろう。全身が芯から冷えるような。逃げ出したくなるような強烈な圧力を叩きつけられたかのような感覚。
「全員気を付けろ!」
「っ!」
和んでいたせいか気付かなかった? いや違う。警戒心の強いルナとアスールがそれに気付かないってことは相当な潜伏能力ってことだろう。
殺気を感じた瞬間全員の顔が強張った。この暗い場所だ。暗殺に適したような魔物がいても不思議ではない。
この場において前衛中衛後衛に意味などない。どこから来るか分からない敵に対してどう動くのが正解なのか。
こういう相手に対してはまず誘い出すのが得策だ。だから俺は逆にこの場において気を抜いた。危険な仕事に関しては俺が引き受けるべきだ。男なのだから。
「ヒュシシ!」
「っ!」
なっ!? いつの間に目の前に!?
それはリトルデビルの見た目をした何か。違う点は腕が鎌のようになっており今俺の首元に刃を突き付けているところだろうか。
ヤバイヤバイヤバイヤバイ。何も出来ないまま首を刎ねられる。し、死ぬ!
「刀夜くん!」
アリシア!? 俺を庇うように飛び込んできたアリシアに押し倒され、鎌がギリギリ首元を掠めるだけに済んだ。
「あ、アリ……り、リア。髪留めが……」
「え? あ…………」
アリシアの髪留めが取れて長い髪が露わに!? あ、いやこの程度なら大丈夫か?
「でもいいの……刀夜くんが無事で良かった……」
「アリシア……」
何て嬉しいことを言ってくれるのだろうか。自分のことより俺のことを優先してくれるなんて。
「フリーズウォール!」
ルナが周囲を囲うように氷の壁を展開する。木々など構ってられず、木ごと凍らせたか。確かに命優先だ。
そしてこいつは気配がなく、また速度も恐ろしいくらいに速い。身体強化で反応速度が上がっていたアリシアだからこそ反応出来たのだろう。
そしてルナはそれを理解して即座に周囲に氷の壁を張って奇襲という手段を完全に奪った。これは確かに良い手だ。魔力消費大きいけどな。
「ヒュシ!」
このリトルデビルもどきは引く気はないらしい。先程の速度だ、普通に戦っても強いかもしれない。
「…………刀夜くん」
「どうした?」
「私が前衛を行く。だから刀夜くんはサポートに回って欲しいの」
「いや、それは危険だろ」
ここは絶対に協力すべきだ。それなのに何故一人で行くんだ?
「刀夜くん」
しかし状況に対してアリシアはにっこりと微笑んだ。
「私は刀夜くんと同じで最強だよ?」
「なっ……」
その言葉はまさしく俺と同じだ。最強であることを目指した。いや、最強であることを信じさせる為の台詞だ。
それはつまりそういうことだ。本当にその選択を……俺が提案した選択を取るんだな。
「2人ともごめんね」
「え?」
「…………ん?」
突然のアリシアの謝罪に2人がキョトンとする。まぁ急に謝られてもって感じだろうな。
「私ね……本当は女なの」
「…………ふぇ?」
「ん…………?」
あ、言ってもキョトンとするんだな。ま、まぁいいか。
「それに本名はアリシアっていうの。本当にごめんね……」
嘘を吐いていたことをアリシアはずっと苦しんでいた。恐らくアリシアは2人のことを高く評価しており、感謝しているだろうしアリシア自身が優しい性格だからだろう。
「…………刀夜、同性愛じゃない?」
「まだそれ引っ張んのかよ」
何回も違うって言ってんだろうが。
「ご主人様は知ってらしたんですか!?」
「まぁな……」
俺もちょっと気まずい。隠し事しててごめんね?
「あ、後もう一つなんだけど……」
「ま、まだあるんですか!?」
「ん…………隠し事多い?」
え、まだ何かあるの? それ多分俺も知らない。隠し事多いなアリシアは。
「あの……わ、私も刀夜くんのことす、好きで……」
…………ん? はい?
「それは知ってます」
「…………今更?」
「えぇ!?」
いやいやいやいや。俺は初耳なんですが!? え、しゅ、周知の事実なの?
「と、とりあえず早く倒してしまいましょう! お話はそれからです!」
「ん…………サポートする」
「う、うん!」
ま、まぁいいか。今はとりあえず敵に集中だな。こっちは随分とのんびりしてたのに襲って来ないってことは待っててくれたのか?
「ヒュシシ!」
違うな。出方を伺っていたのか。ならこいつは恐らくだが頭が回る。暗殺もそうだがこういう相手が一番厄介だ。どうする?
「刀夜くんの助言もあるから平気だよ」
アリシアは笑って返すとリトルデビルもどきと向かい合った。俺達が手を貸すのは最低限、死ぬかもと判断したその時くらいだ。
「行くよ」
仕掛けたのはアリシアからだった。槍を強く握り締め、強烈な突きを放つ。
「ヒュシシシ!」
それをあっさりとバックステップで躱したリトルデビルもどきは回り込むようにして側面から攻めてくる。速過ぎかよ。
「ふっ!」
しかし俺の助言通りアリシアは槍を薙ぎ払うように振って牽制。リトルデビルもどきは急ブレーキを掛けて立ち止まった。
「遅いよ!」
アリシアが一気に踏み込み、距離を詰める。しかし相手の攻撃は届かず、自分の攻撃は届くという絶妙な間合いをキープして。
「す、凄いです」
「ん…………刀夜みたい」
「まぁ俺が教えたからな……」
ここまではな。アリシアがここからどう考え、どう動くのか。それがアリシアの成長ということになるはずだ。
アリシアは何度も突きを放ってリトルデビルもどきを追い詰めていく。壁際まで行けば逃げ場はない。
「ヒュシシ!」
ここで方向転換、リトルデビルは右側に避けて壁に追い詰められるのを回避した。やはり頭が回るなこいつ。
アリシアはまるでバトンのように槍を回転させながらどんどんと追い詰めていく。
先程と同じパターンだ。後ろに逃げ、壁が近付いて来た際に横へと逃げるパターン。それを繰り返してしまう。
しかし俺の予想に反してアリシアは行動に出た。横に逃げようとしたリトルデビルもどきの足を槍が横薙ぎで払ったのだ。
「足払いか!」
なるほど。確かに槍ならば間合いが広く、また威力も遠心力で大きくなる。そこまで考えてしてるかは分からないが最高の選択肢だろう。
「突くだけが槍じゃないんだよね!」
そのまま転倒したリトルデビル。間合いの差を簡単に埋めることは出来ない。それがこいつの敗因だ。
「これで終わりだよ! 紫電の突き!」
隙を作って大技を叩き込む。紫の雷を纏った槍が立ち上がろうとするリトルデビルもどきの腹部に突き刺さった。
「ヒュシ! ……シ…………シ……」
リトルデビルもどきは力なく倒れ、そのまま黒い粒子となって霧散する。
「か、勝った……?」
「あぁ。流石だな」
1人で勝ってしまうというのは現実感がないものだ。俺もゴブリンキングの時そうだったからよく覚えている。
「と、刀夜くん」
「どうした?」
「私、やれた?」
「あぁ」
嬉しさが込み上げてきたのかアリシアは目尻に涙を溜め始める。
「やった! 刀夜くんのお陰だよ!」
「え? ごふっ!」
勢い良くアリシアが飛び込んでくる。凄い良い匂いするし……ってこれもしかしてサラシ巻いて隠してるけど巨乳なんじゃ!?
「ちょ、ランケア様!?」
「…………リア、離れるべき」
2人がアリシアを引き剥がしに掛かる。そのせいでルナとアスールの胸まで押し付けられて!?
何これ。天国? 俺はもう死んでもいい。そんな幸せな状況だなおい。




