第32話 前衛は戦闘において一番鍵となるポジションである
視認魔法を覚えることに専念するようになってから2日目。アスールは比較的順調に魔法の構造を覚えてきているらしい。ルナの教えも良いのだろう。
俺はというと一足先にアリシアが覚えてくれたので報告書作りの為に2人でダンジョンへと来ていた。
「アリシア、もういいと思うぞ?」
「あ、うん。そうだね」
髪留めを外して長い髪を整えたアリシア。やっぱ顔立ち整ってんな。普通に美人だ。
「本当に凄いね」
「あぁ、凄いな」
「うん? どうして私を見て言うの?」
いや、顔立ちが良いからな。つい見ちゃう。
「まぁそれは置いといて、覚えるの早いな」
「刀夜くん程じゃないよ。ルナさんも凄いと思ったけどやっぱり刀夜くんも凄いね?」
「そうか?」
俺としては自覚がないのだが。
「だって異世界転移してきたんだから魔法陣のことは普通は私の方が詳しいはずだよね?」
「まぁずっとルナに教わってたからな。その影響が大きいんだろうな」
特にルナは教え方上手いし間違えても怒らない。頑張ったらご褒美も貰えるしで本当に良かった。
「そ、そっか……いいなぁ……」
「ん? お前もルナに教わりたかったか?」
「ち、違うよ!? そっちじゃなくて……私も刀夜くんに教えてあげたいなって」
「何でそっちなんだ……?」
俺の周りはこうなんというか、色々と世話したい人が多いらしい。アスールもこの前俺に膝枕してくれてたし。何でそんなにも俺の世話をしたいのだろうか? 俺実は子供だと思われてる?
「だってその……私だって頼りになるって思われたくて」
「頼りにしてるぞ?」
「そ、そうじゃなくて。刀夜くん、ルナさんに頼られたいって思ってるでしょ?」
「そうだな」
最近は結構頼ってもくれてるんだけどな。でも肝心な時とか苦しい時にこっちに相談とかしてくれない。それが辛い。
「わ、私も同じ気持ち……だよ? 刀夜くんにもっと頼って欲しくて」
「…………ふむ?」
俺はルナのことが好き。だからこそ頼って欲しいと思ってるわけだ。そしてアリシアも同じ気持ち? それってつまり?
「なぁ、アリシア」
「うん?」
「それって俺のことが好きってことになっちまうんだけど……。違うよな?」
「え」
いやだって俺だぞ? ルナもアスールもよくこんな奴を好きになるものだと思う。物好きなのかね?
「ち、ちちちち違うよ!?」
「だ、だよな。でもそんな慌てて否定しなくても……。俺だってショック受けるんだぞ?」
「ご、ごめんなさい!」
いやだから謝られるとお断りされてるみたいだろ? いやまぁ最初から脈ないのは分かってたし?
「そういやずっと気になってたんだがロケットペンダントに入っている女性って誰なんだ?」
「うん? あ、これは私の姉だよ。もう2年前に亡くなってるんだけどね……」
やべ、もしかして地雷踏んだ?
「あ、気にしなくていいよ? もう私の中では折り合いがついてるから。でも……お姉様は強くて格好良くて……私の憧れだよ」
「そうか」
相当良いお姉さんだったんだろう。俺も会ってみたかったな。
「それにしても本当に周りがよく見えるね」
「あぁ、これならギルドも文句ないと思うけどな」
後はとりあえず森を見て回って終わり、くらいでいいだろう。
「そうだね。空に拠点を作る、暗闇を視認魔法で解決する。うん、この2つだけでも相当に生存率を上げれると思うよ」
「そうか? ならまぁ今回の結果は上々ってとこか」
こういうのを提案すればいいわけか。何それ簡単じゃね?
「やっぱり刀夜くんは考え方が人のそれとは違うね」
「それって褒めてる? 貶してる?」
「もちろん褒めてるよ。本当にか、格好良いと思うよ……」
アリシアは頬を赤く染めながらもそんな嬉しいことを言ってくれる。ヤバイ、可愛いな。
何だろうな。昔から仲の良い幼馴染のお姉さんって感じだ。
アリシアは女の子らしくて妙な安心感がある。ルナもアスールも少し変わってるからな。もちろん2人のことは好きだしドキドキもする。
母性というのは男に安心感を与えるものなのだろう。ルナも母性本能が強いが、アリシアも同様に強いのかもしれない。だから安心する。ちなみにアスールは同級生みたいな感じで一緒にいると楽しい。
「ま、まぁとりあえずこれで目的も果たしたんだ。後はアリシアの方だな」
「私の方?」
「約束したろ? 強くするって」
「あ…………」
俺約束を守らない男だと思われているのだろうか? 何でそんなにも驚く?
「ふふ……うん」
アリシアは嬉しそうな笑顔で頷いた。その表情にドキッとしてしまう。
アリシアはマジで可愛いなおい……。普段も髪を下ろすと物凄い美人だし。うー……俺の周りは何でこういう奴らばっかりなんだ?
「刀夜くん?」
「な、何だ?」
やべ、声上ずった。
「どうかした?」
「な、何がだ……?」
「う、ううん。顔真っ赤だよ? もしかして風邪引いたのかな?」
アリシアが心配そうに顔を覗き込んでくる。こいつ身長高いし美形だし優しいしでもう色々ヤバイんですが!?
「ちょっとじっとしててね?」
アリシアは驚くことに俺の額に自分の額を当てて熱を測ってきた。顔近っ!?
「うーん……熱はないね。ってあれ!? さっきより真っ赤になってない!?」
「あ、あの……いや、これはただ恥ずかしいだけだから……」
「恥ずかしい……? あ!?」
ようやく自分のしたことを把握したのかアリシアも真っ赤になった。恥ずかしがるならやめておけばいいのに。
「こ、ここ、これはその!」
「い、いや心配してくれてるのは分かってるから」
何でそんなことをしたのかと言われると俺を心配してのことだろう。決して好意などではない。これは善意だ。勘違いするなよ、俺。
「う、うん」
「それで話を戻すとひとまず前衛の役割は中衛後衛の盾と攻撃速度だ」
「そ、そうなの?」
「あぁ。基本的には、だけどな」
前衛がいなければ注、遠距離攻撃が得意な中衛後衛が襲われる。それでは意味がなくなってしまうからな。前衛がきちんとタゲを取っておかなければならない。
「でも例えばゴブリンキングを相手にした時にあの攻撃を受け止められると思うか?」
「それは無理だね……」
「あぁ。人間の筋力じゃどう足掻いても無理だ。だから考え方を変える必要がある」
「考え方を?」
そこでどうやって防ぐのか。どうやって中衛後衛に攻撃を届かせなくするかということだ。
「例えば先制攻撃で先に攻撃手段を奪っておくとかな。他にも攻撃を受けるだけじゃなく逸らす、バランスを崩させる、攻撃の方向を変えさせるとかな」
「な、なるほど……」
それを考えないからパーティーは全滅するのだろう。常に頭は回転させ、柔軟に状況を分析対応しなければあっさり死ぬことになる。
「そういうのを意識しながらやってるとすぐに慣れるぞ? あともう一つ」
「まだあるの?」
「あぁ。槍ってのは別に突くだけじゃない。薙ぎ払いをすることで範囲攻撃にも使える優れものだ。敵との間合いを測りながら攻撃、範囲攻撃で牽制するのも大事だぞ?」
「そ、そうだね……あんまり考えたこともなかったよ」
やはりあんまり考えての行動はしていないらしい。力と力の対決で人が勝てる場面なんて限られているだろう。
「後は使える魔法やら特技だが、その辺りはまた今度図書館でゆっくりと調べよう」
「あの……一つ聞いてもいい?」
「ん?」
別に一つと言わずに何でも聞いてくれていいんだが。そういう質問からまた新しく戦い方を身に付けることが出来るかもしれないしな。
「刀夜くんはその……自分のことはいいの?」
「俺のこと?」
「う、うん。この前魔力消費量が多いのが悩みだって言ってたよね?」
ああ、その件か。もちろん色々と考えている。
「今思い付いているとしてはまず第一に武器の精製はあらかじめ汎用性の高い武器を作って持っておくことだと思う。風魔法と雷魔法を今のところ考えているが、素材も集めないといけないし時間は掛かりそうだなとは思うがな」
「そ、そうだね」
「それともう一つ。移動手段に魔力を極力使わないようにしようと思ってる」
「そんなこと出来るの!?」
もちろん出来る。これも考え方次第だし出来たら俺のパーティー全員分に持たせたいものだけどな。
「ここだけの話だから他の商人とかには言わないでくれよ?」
「あ、う、うん。そんなに凄いことなの?」
「おう」
この根底を完全に覆すことだからな。色々と調べて可能であることも分かっているしな。
「視認魔法である程度分かっていると思うが、世界中どこを見ても魔力ってのは空気中に存在しているわけだが」
「う、うん」
「その魔力を使って魔法を発動させる」
「え!?」
つまり空気中の魔力で魔法を発動、また空気中に霧散するので永久的に使い放題というものだ。
「もちろん魔法陣をあらかじめ組み込む必要もあるし専用の素材も必要になるが使えるようになれば最強だろ?」
「そ、そんな便利なものがあるの!?」
「もちろん俺が作る。これも時間は掛かるけどな。でも出来れば最高だろ?」
「確かに……でもそんなこと聞いたことないよ?」
「もちろん俺も上手くいくかどうかは半信半疑ではあるがな。でも試行錯誤はしてみるつもりだ」
実現はさせるつもりだ。でも実在にやってみないと分からないこともあるからな。絶対に出来るってのは流石に言えないな。
「刀夜くんはそんなことまで考えてて……今までそういうのを考えてこなかった自分が恥ずかしくなるよ……」
「そんなことないっての。今から考えても別に遅くない。今お前はまだ生きてるんだからな」
結果が全てであり過程などどうでもいい。今生きているのなら今から改めればいい。別に悪いことをしていたわけじゃないしな。
「それじゃあまずはそういうのを意識してリトルデビルと練習してみるか」
「うん!」
ひとまず方向性が見えてアリシアも嬉しそうだ。俺も精一杯アリシアの力になるとしよう。それがアリシアの幸せに近付けると信じて。




