第31話 暗闇は人を不安にさせ、人は安心の為に明かりを探す
森ダンジョンの攻略は着々と進む。拠点が広がるのと同時に調査も多くなっており、またこの暗闇の戦闘にも慣れてきた。
「リア」
「うん!」
アリシアが槍を突き、合図と共に前衛を入れ替わる。スイッチングという奴だ。
俺がそのまま魔物を切り裂くとリトルデビルは胴体を真っ二つという悲惨な状態のまま黒い粒子となった。
「刀夜くん」
「おう」
2人でハイタッチするとルナとアスールがキョトンとしているのが見えた。
「何だよ?」
「…………刀夜とリア、仲良し」
「はい。何かあったんですか?」
何か仲を疑われてる。鋭いなこいつら……。
でも正直に話すわけにもいかないしな。適当な理由で切り抜けるしかないか。
「いいだろ別に? 前衛同士話すことも多くてな」
「うん。刀夜くんの動きは参考にもなるから」
「…………それにしても距離が近い」
くそ、鋭過ぎて隠し事が出来ねぇ!
「近い方がよく見えるだろう?」
「…………そうかも」
納得してくれるのかそれで。ま、まぁいいか。俺が難しく考え過ぎただけだろうしな。
隠し事に俺向いてないんだろうな……。今まで隠し事なんて臆病なこと以外なかったしな。バレるのも時間の問題か。
バレるのが先かアリシアが強くなるのが先か。もうこの辺りは運次第だな。ひとまずは怪しまれないように努めるしかない。
「…………刀夜がホモに目覚めたと思った」
「お前失礼な」
「そ、そうですよ! ご主人様は私達だけを愛してくれるはずです!」
ルナさん……。ごめんね裏切って。ホモではないけどアリシアもやっぱり放って置けないんだよ俺。えっと……マジでごめんね?
「心配しなくても2人の時でも刀夜くんはキミ達のことを考えてたりするぞ?」
「そ、そのお話詳しく教えて欲しいです!」
「ん…………同じく」
「う、うん」
お前ら何を必死になってんだよ。アリシアが引いてんじゃねぇか。
「お前ら、調査優先」
「は、はい」
「ん…………でも諦めない」
アスール、なんて厄介な。でもまぁその程度ならいいか、俺も仲間同士が仲良くしてるのを見てるのは好きだしな。問題は俺のことで必死になっている点か。恥ずかしい。
「…………やっぱり刀夜くんは人気者だ」
「え? どうか致しましたか?」
「あ、ううん。なんでもないよ」
ボソリと呟いたその言葉。俺もあんまり聞こえなかったけど……まぁあれだな。多分俺に呆れでもしてるのだろう。
「真面目な話をすると、この森に出る魔物は数種類だな。主にリトルデビル、次に多いのがコウモリとウッドウィップってとこか」
「コウモリではなくコウモリアです」
いや、もうあれコウモリと何も変わらんぞ? 血を吸いに襲いに来るくらいじゃないか? もちろんそういう種類のコウモリもいるのでまんまコウモリと変わらない。大きさはかなり大きいし集団ではなく単体で動いているようだけど。
「まぁそのコウモリアは音もなく近付いてくるから厄介だな」
「ん…………対処方考えないと」
多分無理だろうな。人には聞こえない超音波とか出して敵の位置を探ったりしてそうだしな。人間が分かるはずもないし、そういう探知系の魔法もなかったはずだ。
「暗闇に関してはもう木の伐採以外は方法がないな。…………焼き払うか」
「駄目だよ?」
「駄目か」
まぁそうだよな。魔物がいなくなればこの世界の生活源を絶つことと変わらない。そうなれば間違いなく共倒れだ。
「…………」
何が正しいことなのか分からない。ダンジョンがそういうものなのか。いや、違うな。
この世界は最初から正解なんてありはしないんだ。何かをしても結局何かを犠牲にする。全部を、なんて有り得ない。
人間という弱小の種族は生き残る為に知恵を付けた。されどそれが良いことなのか悪いことなのかさえも。だからせいぜい足掻いてみるしかないのだろう。精一杯の知恵を振り絞って。
ルナは二度と目の前で大事な人を失わない為に、アスールは人間に有翼種のことを知らせる為に、そして。
「うん? どうかした?」
「…………いや」
人は結局何かを抱えて生きているのだろう。俺も例外じゃないわけだ。だからせめてこいつらに対したはそれを薄めてやりたいな。
苦労した人間とそうでない人間。悩んでいる人間と直情的で短絡的な人間。それぞれ物の考え方は違って目指すものも違う。
俺とアリシアの目指す最強はやはり別のものなのだろう。だからこそ多種多様の行動が存在し、互いに自分にはないものなのだと惹かれ合う。
感じるな。考えろ。考え続けろ。それが俺の目指す最強であるなら。
「っ!」
「刀夜くん? どうかしたのかな?」
「…………魔力視」
そうだ。忘れていた。魔力を視認するという魔法を。
魔力というのは基本的に宙に分散しており、人は寝ている間に無意識にそれを吸い込んで補充しているらしい。
その魔力というものは薄く光り輝く性質があり、魔法陣が輝いているのはそれが原因であると聞いたことがある。
ダンジョンというのは冒険者が魔法を放ったり魔物が魔物同士を食らい合って霧散した魔物の影響で魔力が最も散りやすい場所だ。
魔力視というのを使うのに最も適しており、更にはその発光するという性質を利用すれば魔物の存在を先に知れる可能性もある。
「…………探索を中止していいか?」
「な、何かあったんですか!?」
「…………緊急事態?」
俺がいつもと違う様子なので不安にさせたか。でもこの状況を打開出来るのならやる必要があるだろう。
「今から魔法を覚える。もしかすれば暗闇を打開出来るかもしれない。ルナ、お前が多分一番早く覚えれるだろうから使って様子を伺ってくれ」
「は、はい!」
ひとまず拠点に戻ると転移魔法で街へと戻って来る。急いで図書館へと向かった。
「えっと……」
常連なので本の位置は完全に把握済み。俺達4人は手分けして目的のものを探す。
「…………あった」
「早いな。ルナ」
「はい」
アスールが見つけた視認魔法という魔法の構造を全員で眺める。やはりというか理解が早いのはルナだった。
「えっと……あ、こうですね」
「す、凄い。もう覚えたのか……」
「ルナはその辺りが凄いからな。ちなみに世話好き加減も凄い」
「…………爆乳」
「あ、確かにそこもだったな」
一番重要な部分を忘れてしまっていた。
「あの、ルナさんが真っ赤になってるよ?」
「…………刀夜、謝る」
「俺が悪いのかよ」
むしろ指摘したのアスールさんじゃなかったっけ?
「えっと……すまんルナ」
「い、いえ……。ですがその」
「ん?」
「お、お詫びにたくさん愛して欲しいです……」
ルナさん? それはつまり……そういうこと? これは遠回りなお誘いなのか?
「ルナさんも何言ってるの!?」
「…………流石ルナ、抜け目ない」
えっと、やっぱそういう意味か。
「ま、まぁその……俺も嬉しいしいいけど……」
「っ! ありがとうございます! では早くダンジョンへ戻りましょう!」
「お、おう。凄いやる気だな……」
めちゃくちゃ楽しみにしてるんだろうな……。いや……えー?
やる気になったルナは我先にと転移魔法を展開した。お前魔力消費抑えて欲しかったんだけど……まぁやってしまったものは仕方ない。
ダンジョンに作った拠点に戻って来ると早速下に降りる。
「ではいきます」
「あぁ」
ルナが視認魔法を使った。魔法陣などは出ないが目が輝くのですぐに分かった。真っ暗な場所で光る目ってのはちょっと怖いものがあるな……。
「あ、凄いです! まるで夜のような感じです! ちゃんと見えますよ!」
「そうか。じゃあとりあえず全員視認魔法を覚える必要があるな」
これで魔物側のアドバンテージを防げる。更にこれは身体強化魔法と変わらないので一度使用すれば寝るまでは魔力消費無しで使える。これは大きい。
「これは報告にあげるとした……お前ってどの程度で魔法を覚えれるんだ?」
「…………5日くらい」
「僕は2日もあればいけるかな」
魔法の基礎知識が抜けているアスールは少し遅めだろう。ちなみに俺はもう少しで覚えられる。多分もう数時間あれば。
「それじゃあ役割分担をするか。多分俺はもうそろそろ覚えられるから俺がリアを教える。ルナはアスールを頼む」
「それは構いませんが……その間の報告はどうされますか?」
「今日はこの件を報告、明日くらいにはリアも使えようになるだろうからな。その後に何か考えておこう」
1日くらいサボっちゃ駄目かな。駄目だろうな……。評判悪くなりそうだし。そんなことしたらアスールの努力を無に帰すことになる。
「ひとまずそんな感じで動くってことで」
「…………刀夜、リアとイチャイチャしたいの?」
「うん!?」
「ちょっと待てアスール。それは誤解だ。俺にそっちの気はない」
「…………同性愛、応援する」
「やめろ」
どうしても俺をそっち方面に持っていきたいらしい。だが残念! アリシアは女である!
とは口が裂けても言えないので軽くアスールの頭をチョップする。アスールも冗談だったのだろうが。
「さて、時間が勿体無いし動くぞ?」
「う、うん……」
ひとまずは少しでもアリシアが気を抜ける場所を作らないとな。俺くらいはそのストレスの捌け口にでもなってやるべきだろうか。




