第3話 現実とゲームは違う! ステータスに大きな差があったらおかしいだろうが!
嘆いていても仕方がない。こうなった以上は俺は鍛冶師という職業を極めなければならない。本当に別の選択肢ないのかよ。
立ち上がるとルナに全力で頭を下げた。申し訳無さ過ぎた。
「期待させてマジすいませんっした!」
「い、いえいえ! 私は別に……」
まるで気にした様子はなく気まずそうな表情から一転して微笑んでくれた。ルナさんはマジで女神だな。目頭が熱くなりそうだ。
「ご主人様が鍛冶師ということは私が主に稼ぐということでよろしいでしょうか?」
「うぐ……それは……キツイな…………」
男としての名誉的なものが完全にないな。どうなってんだこの世界!
「俺の計画がどんどんと崩れ去っていく……」
「ご主人様の計画ですか……?」
うん、俺のハーレム計画。でも鍛冶師がモテるはずもなく、俺は一途に愛を貫くしかないらしい。
「俺の計画は良いとして、これで冒険者登録完了か?」
「いえ、これからステータスカードをいただけるかと思います」
そのまま、名前の通りステータスが書かれたカードなんだろうな。しかし全く期待出来んな! だって鍛冶師だもんな!
「ふふ、お作りしますので少々お待ちください」
まるで子供を見るかのような視線を受付の女性に向けられてしまった。職業くらいで一喜一憂していたからだろうか?
受付の女性はにっこりと笑みを浮かべながら奥の部屋へと消えていってしまう。残された俺は再度うずくまった。
「ご、ご主人様!?」
「泣きそうだ……」
「だ、大丈夫ですか!?」
「身体は大丈夫だがメンタルはズタボロだ……」
「い、癒しですか!? 今が必要な時でしょうか!?」
うん、本当に今は癒されたい。抱きついてもいいだろうか? 欲情しそうだからやめておこう。童貞には刺激が強い。
「こうなったら仕方ない……!」
「はい! その意気です!」
「鍛冶師で最強目指してやる!」
「え、そ、それは無理では……。い、いえ、頑張りましょう!」
ルナ、一瞬本音漏れてるんだが? でも諦める気はない。俺は強くなって格好良く見られたいのだ。
「まだ諦めるには早いです。もしかすればステータスがとても高いかもしれません」
「そうなのか?」
「はい。これから成長していくので後半はあまり変わらなくなるのですが」
それでも早くに強く始めれるのは良いアドバンテージだろう。もっとももう期待はしてないけどな? 日本人の弱々な身体でステータス高いとか正直あり得ないな。
「しかし職業は何が当たりなんだ?」
「そうですね……。冒険者としましては、剣士や槍使いなどの武器を扱える人、魔法使い、僧侶、武闘家などです。冒険者を支える職業として商人やご主人様のような鍛冶師などがございます」
「上級職ってのはないのか?」
「ジョウキュウショク……というのは聞き覚えがございませんが」
ないのな。RPGとしてのやり込み要素が全くないじゃないか。上級職に行ってこそのゲームだろうに。
まぁその分その一般職という扱いが大きくなるのだろう。ならばやはり鍛冶師はハズレ職業なんだろうな。
「まぁ前の世界の知識だから気にしなくていい」
ひとまず上級職がないという情報は手に入った。まぁそんなこと聞いたところで俺の職業は鍛冶師なんだけどな!
「お待たせしました。こちらがステータスカードとなります」
受付の女性は戻ってくるなり早速俺達にステータスカードとやらを渡してきた。それを受け取って中を確認する。
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|名前:萩 刀夜 |
|種族:人間 |
|性別:男 |
|職業:鍛冶師 |
| |
|Lv.1 |
|HP:300 |
|MP:300 |
|STR:50 |
|DEF:40 |
|INT:40 |
|AGI:50 |
|LUK:20 |
| |
|特技 |
|なし |
| |
|魔法 |
|なし |
+ーーーーーーーーーーーーーーー+
+ーーーーーーーーーーーーーーー+
|名前:ルナ |
|種族:精霊 |
|性別:女 |
|職業:魔法使い |
| |
|Lv.78 |
|HP:298+78 |
|MP:381+156 |
|STR:45+23 |
|DEF:43+23 |
|INT:52+31 |
|AGI:43+20 |
|LUK:26+8 |
| |
|特技 |
|なし |
| |
|魔法 |
|・初級属性魔法 ・中級属性魔法|
|・上級属性魔法 ・特級属性魔法|
|・転移魔法 ・魔力装備生成魔法|
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ステータスは読めるようだ。そしていかにもなRPG感漂うステータスだった。しかし気になる点が幾つもある。
「ルナのこのプラスになってるのはレベルで上がってるんだよな?」
「はい、そうなります」
レベルは78か。レベルが1である俺とのこの差のなさはつまりそういうことか。
例えばゲームなどでレベル1で筋力が3だったとしよう。レベルが2に上がれば筋力は6になった場合倍になっているのだ。現実的に考えてそんなにすぐに力が倍になるはずがない。
「ルナ、特技や魔法っていうのはどうやって覚えるんだ?」
「誰かに教わるんです。ですので私が教えればご主人様も魔法を使用する事が出来ますよ?」
「マジか!」
それはかなりテンションが上がる! やはり希望は捨ててはいけなかった!
「ですが魔法使いが使用する魔法は他の人とは違います。ですのでオススメは致しません」
「そうなのか?」
「はい。こちらのステータスには記載されておりませんが実は職業によって使用する特技や魔法に影響がございます」
「なるほどな」
だから天職がある方が良いわけか。覚えていて損はないものの、いざやるとなった際には威力が大きく違うと。
「で、そろそろツッコミ入れていいか?」
「はい、何でしょうか?」
ずっと言いたかったことがある。言っていいものかと悩んだがこの際仕方ない。というか言いたい。
キョトンとするルナに俺は声を大にして叫んだ。
「何でそんなにレベル高いねん!」
何だよ78って!? 物語の終盤とかじゃなく終わった後に何しようか迷ってちょっと色々やったらやり過ぎましたくらいのレベルじゃねぇか!
「あ、えっと、私は高齢の精霊としては低い方ですよ?」
「はい? 高齢? しかも低い?」
意味の分からないことを言われて首を傾げてしまう。どこが高齢でどこが低いのだろうか?
「私はその……もう1340歳ですので……」
「…………何ですと?」
思ってたのと違う。というかそれ精霊からして高齢であって人間からすりゃ化け物レベルじゃね?
「普通ならもう100に到達していないといけないはずなんです……」
いや、うん。そうなのかもしれんが。今の俺にとっては驚異的なんですけどね?
「こんな年増の役立たずで幻滅してしまいましたか……?」
「あのー……それって遠回しにルナより役立たずな俺はもう死んでしまえって言ってます?」
「そんなこと言ってませんよ!」
そうではなかったらしい。しかしこれで分かっただろう。
「ルナ、それ以上自分を卑下するな。俺の方が惨めになる」
「す、すみません……」
とりあえずこれでルナが卑屈になることはないだろう。さて、予想外にもルナが強いのだから今日の分の金は何とかなるか。ひとまず安心だな。
「続いてそのままご依頼をお受け致しますか?」
「はい、お願い致します」
「では壁に貼っております、依頼を選んでこちらへ持ってきてください」
金がないのだから受けるしかないな。さて、どんな依頼があるのやら。
壁際に寄ると依頼の内容を確認していく。
「ルナがいるならちょっと難しめの受けるか? 初心者用のだと報酬があまりよろしくないだろ」
「良いのですか?」
「あぁ。今日は金を優先しよう」
俺は全く力になれそうにないがな!
「うぅ、悪いルナ。俺が不甲斐ないばかりに全て負担がお前に……」
なんだよ鍛冶師って。でももしかしたら鍛冶師こそが一番強い職業であるかもしれないのだからまだ諦めるには早い。諦めるのはこの世界のことをきちんと分かった後でも良いだろう。
「お、お気になさらないでください! ご主人様に仕えることこそがメイドの使命です。ご主人様よりも頑張るのは当然のことです!」
ルナは何やらやる気満々だった。何でだろうか。初陣だからだろうか?
いや、ルナのレベルから考えて初陣はないか。そもそも処女ではない可能性も……。
くそ! こんなの聞くに聞けない! どうしよう……流石に1340歳で処女とかあり得ないよな!?
「ご主人様?」
「ひゃい!?」
「ど、どうかなさいましたか?」
「いや! 何でもない! とりあえず早く選ぼうな!」
危ない危ない。そんなことを考えてるなんて思われて幻滅されるわけにはいかない。ルナがせっかく慕ってくれているのだ。俺は俺なりに強くならなければいけない責任がある。
「ご主人様、こちらはいかがですか?」
「何だ、それ?」
全く読めん。何でステータスカードだけは読めるんだろうか。
「魔物討伐です。相手はゴブリンという魔物ですね」
「ゴブリンってあれだろ? 緑の鬼面の小人だろ?」
「知っていらっしゃったのですか?」
知ってるも何も有名だしな。でもそれって簡単なものじゃないのか?
「ゴブリンって俺の知ってる世界の話だとかなり低級の魔物なんだが、この世界では違うのか?」
「いえ、弱い魔物ですよ? ですがこちらはゴブリンの巣を完全に破壊するというものですのでレベル50くらいにならないと受けさせてもらえません」
え、さらっとすごい依頼を受けようとしてないか?
「すみません。こちらをお願い致します」
「え、えー…………?」
俺の初陣とんでもない難易度なんですが? しかも俺はレベル1に加えて鍛冶師なんですが?
「もちろん2人だけでは行きませんよ?」
「あ、もしかして酒場で?」
「はい。流石ご主人様冴えていらっしゃいます」
ということで誰かを待つらしい。でも俺がいるのに一緒に行ってくれるのだろうか?
「あ、それでしたら聞こうと思っておりまして、1人同行したいという方がいらっしゃるんです」
同行したい人? というかこの人この壁に貼ってある全ての依頼の内容を覚えてるのか?
「連絡を致しますので少々お待ちください」
「はい、分かりました」
受付の女性が再度奥へと消えていった。うーむ、とりあえず色々と話が上手くいってるような気がするのは気のせいだろうか?
「お互い初めての依頼ですが頑張りましょう!」
「お、おう……」
ルナも初めてだったのな。不安だ…………。