第29話 森の中の拠点作りは結構頭を使うもの
森に着いたのだがそこは以前のような長い木々が立っている森とは言えない。これはもう洞窟レベルの暗さ。
木が日本のそれと大して変わらないからだろう。背が低いというのに枝葉が重なって真っ暗になっていた。
「…………見えないな」
「では魔法で明かりを作りますね」
ルナが炎魔法を数個展開してそれを周囲に浮かせて明かりの代わりを作った。
これは下級属性魔法のファイアボールに操作魔法という魔法を操作する魔法を使用しているのだ。俺も操作魔法欲しい。ちょっと複雑ですぐには覚えられなかった。
周囲が明るくなると自然と心も落ち着くものだ。まぁ日本に比べりゃ相変わらず暗いが見えるから問題ない。
「まずこの光のなさが問題だな。それに光らすと普通に敵にバレバレだな」
「え?」
「ほら、今まさに狙われるわけだし」
俺が指差したのは木の上からこちらの様子を伺っている魔物っぽい足。足しか見えないがまぁまず間違いなく狙われてるだろう。
「…………気付かなかった」
「俺も偶然見つけただけだけどな。ひとまずいつ飛び掛かってくるのか分からない。油断はするなよ」
俺は剣を創り出すとそれをそのまま投擲した。現状の打開をしていなければ常に先手を取られてしまう。
その微かに見える足は俺の剣を木から飛び降りることで避けたらしい。そうしてようやくその姿を認識出来た。
1m程の小さな魔物で両手両足がある二足歩行。紫色の顔をしており目は4つ。鼻がなく小さな口がある。角のような耳が生えており、また矢印のような尻尾もある。
「リトルデビルだね」
悪魔なのか。まぁ確かにそれっぽいが。何だろうなこのぬいぐるみ感。
「シシ」
奇妙な笑みを浮かべたリトルデビル。するといきなり周囲の木ががさっと音を立てた。
「複数体!? リトルデビルは群れを作らないはずなのに!?」
「生態系が崩れてるって言ったろ? つまり普段取らない行動も取る可能性も考慮しろってことだ」
生態系が崩れるということは新たな進化もあるかもしれない。生物とは得てしてそういうものだ。環境に適するようにしなければ生きていけない。
「ルナ、明かりをもっと広範囲に頼む」
「は、はい!」
ルナに明かりを広げてもらっている内に5体のリトルデビルが姿を現して奇襲を仕掛けてくる。
「この魔物の弱点やら戦い方は?」
「…………パンチキック」
「えらい武闘派だな……」
見た目可愛いのに。ま、まぁ見た目で判断しちゃ駄目だな。
ひとまず魔法を撃つ可能性も考慮するとあまり近付き過ぎるのも良くないか。なら間合いを充分に取れる大剣にするか。
俺は魔力装備精製魔法で大剣を創り出すとそれを振り払ってリトルデビルを追い払う。ついでに1体斬り殺しておく。
「シシ!?」
残ったリトルデビルは黒い粒子となって消えていく仲間を見て逃げ腰。臆病な魔物なのかもしれない。
逃げる魔物を確認しながら俺は大剣を魔力に還元させて散らせた。単に魔法を解いただけだがなかなかに綺麗だ。
「気を引き締めないとな。こっちは相手の姿が見えないが向こうは姿が見えている。その辺のアドバンテージが取られているのは戦闘に大きく作用すると思うぞ」
「そ、そうだね」
「はい」
「ん…………気を付ける」
しかしこの暗さは本当に何とかしないといけないな。木に灯りでもくくりつけてみるか?
こう暗いと恐怖心を与えてくるものだ。幽霊とか苦手な人なら駄目そう。ん? ならリアは?
「そういやリア」
「うん?」
「お前幽霊とか苦手じゃなかったっけ?」
「っ!?」
あ、もしかして今思い出したとか? いきなり顔面蒼白とさせたリアは俺の腕に抱き付いてきた。
「ちょ、おい!?」
「な、何で今そんなこと言うの!?」
「わ、悪かった!」
そんな必至になって怒らなくても。いや、俺が悪いんだけど。
それにしてもこいつ本当に男かよ。良い匂いするし何か身体柔らかいしでもう女の子なレベルだろ。ん?
「また何か柔らかい感触が?」
「だからそれは二の腕だ!」
あー、やっぱり二の腕? …………いや、二の腕はお前が腕を掴んでるから触れないんだけどな?
ということはこいつもしかして……? と、とりあえず折を見て話をしてみるか? でも違ったら失礼だしな……。
いやいやいやいや。こんなことで悩んでいる場合じゃないな。現状まずは安全の確保だ。拠点作りにルナは欠かせないからあまり魔力を消耗して欲しくないからな。俺達が戦闘を頑張らないと。
「拠点はこの辺りにするか」
「え? まだ全然歩いてないだろう?」
「入り口から近い方が良い。拠点は複数作るからな」
こうも暗いとどうしてもそうなる。それにギルドに報告に行くにも入り口から近くないとな。ダンジョン内は転移魔法使えないし早く着く外に出られる方が良い。
「つってもこれは……」
どうやって壁を作ろうか。木が邪魔で無理だな。土魔法で無理やり地面を上げようと思ったんだがな。
「んー…………」
「刀夜くん?」
「いや、壁をどう作ろうかと思ってな。流石にテント張って拠点とかはないだろ?」
「確かにそれは危険だけど……」
といっても壁が作れないんじゃこの案は駄目なわけだが。んー……。
「この辺りの木を全て伐採してしまうのはどうでしょうか?」
「それ怒られないか?」
「…………ブチ切れ」
だろうな。何で調査に行って木が無くなるんだよって話だ。
「仕方ない。空に作るか?」
「空!?」
いや、地上が無理ならそれしかないだろ。幸い土魔法っていう便利なものがあるからな。柱さえしっかり作っていれば平気だ。
「どういうものなんですか?」
「ほら、こう塔みたいな感じで支えて上を薄く広げる感じだな」
「あ、確かにそれならいけますね!」
「ん…………流石刀夜」
もちろん強度の計算なんて出来ないからデタラメに作ることになるが。そんなに高くする気もないので大丈夫だろう。
ついでに上からならこの森の全体を見渡せる上に木がないから明るく敵の奇襲にも対処しやすい。弱点といえば逃げ場がないことと柱が折れたら崩れるところだろうな。
「そういや聞きたいんだがダンジョン内は不思議な力が働いてて転移魔法使えないんだろ? 上空だったらどうなんだ?」
「試したこともありませんが……」
「ならやってみればいいか」
ひとまず上に土を盛り上げるところからだが。上空に何かないか聞く人するべきだな。
「ちょっと空の様子見てくるわ」
「あ、は、はい」
俺は足の装備に上級の風魔法を使用して勢い良く跳躍した。超便利。
周囲を見回すと何もなかった。これなら簡単に上空に拠点を作れるな。何ならそこから出入り口までを滑り台の如く繋いでしまっても良いくらいだ。
風魔法が解けて勢い良く落下する。あ、やべ。着地の時に木が邪魔なのをすっかり忘れてた。
「ぶっ……!」
ガサガサと葉や枝を掻き分けてなんとか下へと降りる。今度も風魔法を使用して落下の勢いを減らした。
「…………着地は考えものだな」
拠点を作るにしても毎回木の枝で怪我をしては意味がない。というか痛い。
「…………平気?」
「あぁ。でも治してくれると助かる」
「ん…………」
アスールに傷を治してもらうと今度は構造を考える。空からの敵も考えると壁や天井はやはり欲しいな。しかしそうすると重量がな……。
「色々と考えないとな……。面倒な」
「ですがご主人様の案はとても魅力的です。森であるなら上に作ってしまえば敵の心配をしなくて済みますし」
「まぁゴブリンキングのいたあの森じゃ使えないけどな。流石に木が高過ぎる」
「確かにそうですね」
それに地上の敵は心配しなくていいだけで空中の敵は気にした方が良い。その辺りもこの世界じゃあまり考えられてないのか?
そういや街も空はガラ空きだもんな。あそこから攻められたらどうするんだろうか?
「とりあえず柱を作っていくか。ルナ、柱の製作は頼めるか?」
「はい」
土魔法の特徴は土を盛り上げて使う点。つまりルナが寝て土の形が継続されているので解けない点にある。この持続性があるからこそ空に作れる訳だが。
「それじゃあいきます」
「待った」
「は、はい?」
「ここじゃ多分無理だ。この辺を探って木が少ないところに行くぞ?」
どうせ根っこが邪魔で安易に上に上がらないのは想定済みだ。ここに来るまでに木が所々生えておらず、されど人が寝泊まりするには狭い場所が幾つかあった。その辺りを使えばいいだろう。
「…………根っこ硬い」
「本当だ。刀夜くんこういう所も計算に入れて……やはり凄いなぁ」
「異世界人なら当然だ」
「異世界人!?」
え、なんで今更驚く? あ、そういやルナとアスールには話してるけどリアにはするの忘れてた。
「俺は異世界転移してきた人間だ。…………ついでに言うとお前が刀夜刀夜と呼んでいるが名前が刀夜で名字が萩だ」
「えぇ!?」
「まぁもういいぞ? 俺も名前で呼んでるしな」
「う、うん……」
何だその恥ずかしそうな顔は。やっぱりリアさんマジですか。
ま、まぁその話は後だ。ひとまずルナに柱を作ってもらい、それから床、壁、天井としてもらうか。強度は色々と実験も兼ねなければいけないがかなり丈夫に作れば問題ない。柱の数をアホみたいに増やしてやればいい。
どんどんと土の柱を立てていく。パッと見では何本か分からないレベルまで上に上がらせたので多分問題ないだろう。
「どうやって登るのですか?」
「梯子を作ればいいんじゃないのか?」
「それだと魔物も登ってきますが……」
確かにその通りだろう。しかしやり方次第ではそれを防ぐことが出来る。
「梯子を上に上げれるように作ればいい。簡単に言えば上から垂らす型を取る。俺たちが調査中は梯子を下ろしておけばいいし調査が終わった後は引き上げればいい」
「なるほど」
「…………刀夜は凄い」
いや、だからこのくらいは当然だから。
「ひとまずさっさと拠点作りを済ませちまうぞ?」
少し苦労したがまぁそれなりに形にはなりそうだ。多分だが。




