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第27話 残酷な世界には冷たさだけじゃなく暖かさもある

 シャドウフレイムの襲撃から10日が経過した。アスールも今では色々と折り合いが付いたのか元気そうにしている。

 図書館は元々アスールの養母が持ち主だったらしく、別の人物に引き継がれて今も経営されている。そこにアスールを加えてくれないのはやはりまだ有翼種のことを理解していないということなのだろう。

 行く場所のないアスールは正式に俺達のパーティーに加入、というかずっと俺のそばにいて結構楽しくしている。時折ルナと俺のことで争っているようだがそれすらもどこか楽しそうだった。ルナは真剣だったようだが……。

 シャドウフレイムに関しては研究が進められ、俺の取った核が良い仕事をしてくれたらしく対策も出来るようだ。普通に入り口から街に侵入したりしてくるようで街全体の防衛ラインの強化をすることがまず第一らしい。今回は壁を破壊されて侵入されたとのことだ。


「んー…………」


 そして俺はというと相変わらず魔法の勉強をしていた。というのもリアにはお世話になっているので何か強い武器くらい作ってやりたいのだ。


「…………またリアの勉強?」

「何だリアの勉強って。普通に鍛冶師の勉強だろ」


 これは俺の為でもある。つまりリアの為だけじゃないわけだが、こいつらはことごとく勘違いして嫉妬してくる。リアは男なのに。


「アスール様、お邪魔してはいけませんよ?」

「ん…………駄目?」

「どんだけ構って欲しいんだよ……」


 何その上目遣い。頷いちまいそうだからやめて欲しい。というかもう集中力が切れた。効率悪いからここまでにしておくか。


「はぁ……何かしたいのか?」

「ん…………いいの?」

「あぁ。で、何したいんだ?」

「…………おっぱい?」


 何言ってんの?


「アスール、それは男に言っちゃ駄目なやつだ。俺が本当に胸を触ったらどうする気だ?」

「…………興奮する」


 そこは嫌がって欲しかったな……。いや恋人同士という点では良いのかもしれないが。


「ず、ズルイです! 私もおっぱい触っていただきたいです!」

「何でお前はそこで張り合うかな……。こんな真昼間からそんなことしたら宿屋のおっさんに追い出されるだろうが」


 ただでさえたまに朝一にしちまって睨まれるのに。そろそろ本格的に自分の家を買うというのを考えねばならないな。


「…………早く初めてを所望」

「いや……その……さ、流石に色々と覚悟がいるんだよ俺も」

「…………有翼種だから?」

「いや、そこは全く問題視していないが。倫理観とか前の世界の知識とかその辺だ」


 ハーレムという目的は達してるはずなのに何でこんなにも心苦しいんだろうか? ルナに全力で謝らなければならない気がしてならない。

 その辺りを無視出来る度量があったら何の躊躇いもなく初めてを奪ってるんだろうな……。そこは俺の情けない点かもしれない。


「あの……この世界では特に問題ございませんよ?」

「そうなんだがな……」

「…………難儀」


 本当にな。


「ひとまず俺の覚悟が出来るまでは待ってくれ」


 ルナもアスールなら別に問題なさそうだし、後は俺の気持ち次第な面が大きいのだろう。でも俺だけハーレムで他の人は俺だけ好きでいてくれっていうのはちょっとやっぱりあれかな。


「…………お前らは俺以外に好きな奴とかいないのか? 例えば……リアとか」

「私はご主人様以外に素敵な方はいないと思っておりますので」

「ん…………刀夜だけ」


 望んだはずなのに心苦しい。そんな純粋な思いをぶつけないで。


「ひ、ひとまず何かしたかったんじゃないのか?」

「ん…………だからおっぱ」

「胸の話は置いておけ」


 どんだけ触って欲しいんだよ。揉んで揉みしだいてやろうか。いや、喜ばれるのか。俺も嬉しいし実は問題なしなのか?


「お買い物行きませんか?」

「買い物? 買うものあったっけ?」


 この世界の買い物って言ったらあれか。ポーションとかそういう回復アイテムだな。


「実は先日アイさんに魔法の鞄が入荷したとお聞きしまして」

「マジか」


 魔法の鞄とは色々なものをとある空間に保存出来るまさしく魔法のような鞄だ。品切れになっていたのだがようやく入荷したらしい。

 ちなみにアイさんとはギルドで受付をしているお姉さんのことである。もう既に名前で呼び合ってた。


「そりゃ買いに行かないと駄目だな」

「はい」

「ん…………冒険者の必需品」


 だろうな。そういうのがなければ素材どうやって持ち帰るんだよって話だ。大量のゴブリンの素材の時は売るのに苦労したものだ。


「それじゃあ買いに行くか。1人1ついるよな?」

「はい、そうですね」

「ん…………」


 ならポーションも大量に買っておけるな。しかしあの緑の液体を飲むわけか。青汁だと思えば飲めなくも……。


「魔力消費が激しい私とご主人様はMPポーションもいりますね」

「そ、そうだな」


 あの紫のやつもか。うへぇ……飲みたくねぇな……。

 まぁいざという時はそんなこと言ってられないしな。そういう時なら普通に飲めそうだ。というか死ぬくらいなら飲む。

 3人で外に出るといきなり武装した集団に囲まれた。


「何だこれ?」

「わ、私達何かしましたでしょうか!?」

「…………奇襲?」


 いや、敵って雰囲気じゃなさそうだけど。


「萩 刀夜さんですね!?」

「そ、そうだけど……」

「俺を弟子にしてください!」

「いや、俺を!」

「私を!」


 …………何これ?


「全く状況が読めないんだが……」

「ふふ、ご主人様がとても凄い方なのだとようやく世間が認めたんですね」

「ん…………流石」


 いやいやいやいや。うーん? どういうこと?


「話がちっとも見えないんだが。これは……新手の嫌がらせか?」

「ですから、ご主人様がとても凄い冒険者であることが広まってこうして弟子入りに来ているんですよ」


 マジかよ。でも俺には教える技術なんてない。そもそも鍛冶師だからな? お前ら武闘派とは違うのだ。


「有翼種の奴隷まで連れて! 流石です!」

「あん?」


 今何つった? 奴隷、だと?


「お前ら俺に鍛えて欲しいんだよな?」

「は、はい……」

「なら心が潰れて死にたくなるまでしごいてしごいてしごきまくってやるよ」

「…………刀夜、落ち着く」


 おっと、つい過剰に反応してしまったか。ん? お前らなんでそんなにビビってんだか。


「ご、ご主人様が怒りました……こ、怖いです……」


 いやお前もかい。何で怖がるんだよ。軽く脅しただけだろうが。


「…………刀夜、行こう」

「そうだな……」


 俺って顔怖いのかな。今まで言われたことないんだが……。

 3人で歩いているとふいにアスールが呟いた。


「…………さっきの刀夜、凄く怖かった」

「そ、そうなのか?」

「ん…………殺気漏れてた」


 マジかよ。いや、殺気ね。うーん?


「…………私の為?」

「え、いや、ま、まぁ……そう……なるのか?」


 ひとまずウチの大事な仲間を奴隷扱いしたことだけは許せん。あいつらの顔は全員覚えた。次に面を見せて来た時はドロップキックしてやろうか。


「…………刀夜に愛されてる、嬉しい」

「むー……ご主人様! 私も愛してますよね!?」

「街中でそんな恥ずかしいこと言えるかよ」


 何で今そんなこと聞く。そんなの愛してるの決まってるのに。


「そんな……私もう愛されてないんですか?」

「ち、ちが! そんな訳ないだろ!?」


 何でそうなる! ちょ、ルナさん半泣きなんですが!?


「…………刀夜は恥ずかしがってるだけ」

「ほ、本当ですか? な、なら良かったです」


 何も良くない。というか何だこれ。妙に辱められた気分なんだが。

 3人で歩いて商店の方へ。目的のものは……お、あるな。

 それぞれ魔法の鞄を購入する。デザインが違うだけで性能は同じなのだろうが。

 全員リュックサックにしておりこれで戦闘中に邪魔になりにくいという算段だ。もちろん本当に邪魔になったら外すんだろうけど。

 しかしあんまり重さを感じないな。普通に空の鞄を背負ってるみたいだ。


「あの、どうして幾つも魔法の鞄を購入されたんですか?」

「ん? まぁこれから仲間が増えた時に使えるかなと」

「ま、まだ増やす気なんですか?」


 まだって何だ? むしろ10人、20人が普通のこの世界で4人だけの俺達がまだっていうのはおかしくね?


「前衛は一番危険だからな。分担する為にももう1人欲しいな。後は後衛が1人だな」


 特に今は後衛がいないのだ。最低限後衛で援護出来る人は欲しい。


「あ、現実的な話なんですね」

「え? それ以外何かあるのか?」

「い、いえ」


 ん? 何が言いたいことがあるのか?


「…………刀夜はパーティー作りながらハーレム作ると思ってた」

「あ、アスール様!?」

「あぁ、なるほど。確かにそれもいいかもな。でも命を預けるんだ、俺の好みで選ぶ訳ないだろ?」


 何だその意外そうな顔は。俺そんなに軽い男に見られているのだろうか?


「…………顔だけで選んでないの?」

「は、はい、てっきり……」

「ちょっと待て。それだとリアが俺の好みになっちまうんだが」


 男相手だぞ。そんな訳ないだろ。


「…………リアは綺麗な顔してる」

「はい。肌もとてもきめ細かでした」

「いや……ま、まぁ確かに美形だが。でも男相手って……」

「…………両刀?」

「違う」


 何でそんな話になるんだよ。そもそも俺がいつリアに好意を示したんだよ。


「とにかく俺はノーマルだし好きなのはお前ら2人。それでいいだろ?」

「ん…………」

「ご、ご主人様……」


 あ、勢いで告白しちまった。くそ、恥ずかしい。


「…………刀夜、顔真っ赤」

「お前も赤いだろうが……」

「ふふ……」

「微笑ましげに見てるけどお前も赤いからな?」

「わ、わざわざ指摘しなくても良いじゃないですか!?」


 全員で顔真っ赤にして何してんだか。でもこういう平和な休日も良いもんだな。

 この世界に来てから勉強したり命を賭けたりと色々と忙しかった。それでも何とかやって来れたのは2人が……いや、リアも含めると3人か。3人がいたからこそだろう。

 残酷なまでの無慈悲な世界。その点に関しては日本のそれの何も変わらない。それでもこの世界には冷たさだけじゃなく暖かさもある。今俺の目の前に温もりがある。だからそれはきっと幸せなことだから。


「ご主人様?」

「…………嬉しそう」

「いや……」


 嬉しいし楽しい。だから俺が言えることはただひとつだ。


「この世界に来れて、お前らと出会えて良かったよ」

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