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第25話 認められていく有翼種、されどそこには既に意味などなく

 アスールのあの好意は恋愛的な意味か人間的な意味か。そういう部分は本人も分かっていないようなのでとりあえず保留としてあの魔物を倒してから数日が経過した。

 あの魔物はシャドウフレイムという名前が付けれられ、またまた素材は展示品のように飾られてしまっている。これで俺達の注目度がとんでもないことになってるわけだが別に関係ないからいいか。

 とにもかくにも無事に新種討伐も終えて俺達はいつもの日常を過ごしているわけだが……。


「…………」

「あの、刀夜くん」

「リア、何も言うな。分かってるから」


 俺は今左右の腕を美女に抱き付かれているわけだが。何でこんなことになっている? 勉強出来ないどころか我慢出来ない。


「えっと……」


 2人は互いに睨み合っており一触即発な雰囲気。何故?


「ご主人様の一番は私です!」

「…………譲れない」


 どっちが好きだとか考えると…………あれ? ルナと即答出来ない自分がいる。というか2人とも美人だし好きだしな。もちろん好きの度合いは違うんだろうけど何でだろうか。ルナと即答出来ない。


「リア、今この状況は怒るべきだと思う? それとも男として喜ぶべきだと思う? もしくはベッドに連れて行くべきか。どれが正解だ?」

「えっと……とりあえず怒るべきじゃないかな」


 俺の対面に座るリアは本を読みながらも俺達の様子をチラチラと伺っている。まぁそうだろうな。

 同じ男としてはこの状況はアレだよな。パーティーを組むと言ったから律儀に図書館にまで付いてきてくれてるわけだが。


「お前ら勉強出来ないから離れろ。欲情したらどうする気だ」

「刀夜くんもちょっと怒り方おかしくないか!?」


 え、そうだろうか?


「ご、ご主人様にご奉仕出来るなら構いません!」

「ん…………初めて奪って欲しい」


 駄目だこいつら! 俺のこと好き過ぎないか!?


「愛され過ぎだろう……」


 いや、それは俺に言われても。ま、まぁ好きになられて悪い気もしないしいいのか……?


「ま、待て! 昼間からそれは駄目だ」

「…………そうなの?」

「いや、そうなのって。ま、まぁいいんだけど」


 こいつはちょっと人とは違う考え方をするからな。ある程度の感情すらも読めないし。


「そもそもアスール様はご主人様のどこがよろしいんですか!? 好きになってしまう気持ちは大変良く分かりますが!」

「ん…………それが理由」


 やべぇ、何の話してるのか全く分からねぇ。隠語でも使ってんじゃねぇの?


「そ、そんな! 確かに大変魅力的な方ですが!」

「ん…………分かる」

「寝顔なども可愛らしくて素敵なんですよ?」

「…………見たい」


 いや、仲良いなお前ら。喧嘩してたんじゃないのかよ。いきなりどうした。


「いや、だからさっさとどけって。さもないと胸揉みしだくぞ?」

「ん…………望むところ」

「是非お願い致します!」


 何で乗り気なんだよ。もう嬉しい通り越して怖くなってきた。詐欺とかじゃないよな?


「だ、駄目! というかそういうのは僕がいないところでしてよ!」

「ん…………刀夜、ベッド行こう」

「ナチュラルに誘うな。というかお前図書館空けていいのかよ」

「…………駄目」


 アスールは諦めたようにシュンとしてしまった。いや……俺が悪いの?

 俺がどうしようかと考えているといきなり大きな揺れが発生した。これは……地震か?


「な、何ですかこれは!?」

「もしかして外で何かあったんじゃないかな!?」

「ん…………確認しないと」


 もしかして地震って概念この世界にはないんじゃ。プレートがどうのこうのとかこの世界にはないから地震というものそのものがないとか。

 ということはこれは結構緊急事態か? 3人とも慌ててるし、多分そうなんだろうな。

 図書館の外に出るとあちこちから黒い煙が上がっているのが見える。黒い煙は火事だな。間違いなく。


「刀夜様ぁぁぁぁ!!!!」


 遠くからギルドの受付の女性が走ってきた。あ、やっぱり緊急事態か。


「はぁ……はぁ……はぁ……と、刀夜様!」

「聞こえてるし落ち着け。状況は?」

「は、はい! 街にシャドウフレイムが入ってます! 近くにいた冒険者達が交戦中です!」


 そういうことか。シャドウフレイムが現れた場合街は滅ぶ。どうしようか?


「シャドウフレイムの素材あったろ。あれ解析やら何やらに回せ」

「え、で、ですが」

「このままシャドウフレイムが街に入って来るんじゃ駄目だろ。何故入って来てるのか、対策はあるのか。その辺りをちゃんと調べて周囲の街にも注意喚起しておけ。そういうのをしないから同じことを繰り返してんだろ」

「は、はい!」


 これで良し。後はシャドウフレイムの討伐に行くだけだな。


「早く行くぞってアスール? どうした?」


 まさしく顔面蒼白という顔をしていた。何かあったのか?


「…………あ、あっち、私の家」

「え?」


 アスールが指差した方向は特に被害が大きい所だった。周囲を黒煙が蔓延しており、とてもじゃないが無事であるとは思えない。


「ルナ、転移魔法頼む。アスール、確かめに行くぞ」

「ん…………」


 俺はアスールの手を取って握り締めた。こういう時誰かの温もりを肌で感じている方が落ち着くらしいから。

 ルナの転移魔法ですぐに被害地へやって来る。周囲はやはりボロボロで現在も家が燃えたままとなっていた。


「…………刀夜」

「あぁ、遠慮なく引っ張れ。付いて行くから」


 アスールに急かされて走る。2人も付いて来るが今はアスールのそばにいてあげた方がいいと思うから無視かな。

 アスールは激しく燃える家の前まで走るとその場で膝から崩れ落ちた。俺もその光景に全て悟ってしまった?

 燃えている家の中には既に黒焦げで動けなくなったままの人の姿をした何かが。


「…………アクアキャノン」


 出力を抑えた上級属性魔法で大量の水を掛けた。魔力消費だとかそんなことよりも先にアスールのことを優先したいと思ったから。

 鎮火してより鮮明に現実を叩きつけられたかのように錯覚してしまう。もう既に助かる命などなく、またアスールの目的すらも見事に打ち砕かれたことに。

 こんなことは望んでいない。例え恨んでいたとしてもアスールはこんな結末は望んでいなかったはずだ。


「…………お、母さん」

「っ!」


 母親? いや、有翼種には見えない。

 恐らく育ての親ということだろう。友達だったとか多分そういう感じのもの。

 アスールが仲良くしたいと思っていたのはこの人のことなのだろうか? 自分を受け入れて、本当の娘のように扱って欲しくてしていたことだったのだろうか?

 しかしこれからだって時にその想いを見事に断ち切られた。現実とは常に無情だ。でも頑張っているアスールに対してこの仕打ちはあんまりだろう。


「…………なぁ、ルナ、リア」

「はい……」

「…………何かな」


 2人も悲しむアスールの様子を心配そうに見つめる。でも俺には分からないから。


「やっぱり親を失うのは悲しいこと……なんだな」

「当たり前だろう……」

「そう、だよな……。でも多分俺はそんなことないんだろうな……。親の顔も知らないし、物心付いた頃には既にいなかったしな……」


 だから俺はアスールの気持ちを理解出来ない。積み重ねたものが崩れてしまうのと最初から失っているのでは全く話が違う。


「…………刀夜」

「…………どうした?」

「…………胸貸して欲しい」

「あぁ……」


 アスールに抱き付かれる。俺にはこういうことしか出来ないんだな。


「アスール……」

「ぐす……ん……」


 ギュッと抱き締められる手に力が込められる。アスールの不安が、悲しみが、少量ながらも理解出来る。

 完全に人の気持ちを理解することなんて出来ない。でも寄り添うことくらいは出来る。だから俺はせめてこの人のそばにいたい。


「…………1人になった」

「1人じゃないだろ。俺達がまだいる」

「ん…………」


 それはきっと孤独になってしまったという意味だ。俺達と本当の意味で繋がれることなど出来ないかもしれない。そんな不安からくる言葉だったんだと思う。

 それでも俺は……俺はそんなこと認めたくない。多種族だから何だ? そんなことで努力が報われないなどあってはならない。


「ご主人様……」

「刀夜くん……」

「…………なぁ、今回の敵、俺1人に任せてくれないか?」


 俺がそう言うと2人は驚いたように目を見開いた。そりゃそうだろう。以前はギリギリ4人で勝てたくらいだからな。


「そんな! 危険です!」

「そうだよ!」


 確かに言いたいことは分かる。でもそれじゃあ駄目だ。


「今回の出現場所は既に破壊された街じゃない。現在進行形で稼働している街だ。だから……お前らは人の救助に力を入れて欲しい」


 どちらにせよ救助に力を入れないなんて選択肢は取れない。そしてシャドウフレイムを抑えていたとしても戦闘だけで周囲に被害が及ぶ。


「た、確かにそうだけど……」

「わ、私の特級属性魔法で倒すのは……」

「街に被害が及ぶ上級属性魔法より上は駄目だ。そんなこと分かってんだろ?」

「は、はい……」


 分かっていても止めてくれるのは嬉しい。でも現実的に考えるとこうするしかないしこうしなければならない。


「それに俺が負けると思ってるのか? 俺は最強だぞ?」


 そう、俺が最強だ。だから絶対に負けないし負けられない。


「そんな! それでも1人の力には限界が!」

「…………分かりました。はい、ご主人様にお任せします」

「ルナさんまで!?」


 リアが心配してくれているのも分かるがだからといってここで俺は引き下がれない。何よりアスールの親の仇は取る。


「リア、頼む」

「刀夜くん…………はぁ、もうどうなっても知らないよ?」

「あぁ、それでいい」


 責任は全て俺が取る。そして俺が全てにケリを付けてやる。

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