第23話 命すらも焼き尽くす魔人の脅威に立ち向かうは冒険者達
真っ黒だった全身にいきなり複数の赤い魔法陣が展開された。これはまた来るのか?
「俺とリアが前衛、ルナが中衛、アスールが後衛だ。基本的に回避優先。やばい時は防げ」
「はい!」
「ん…………!」
出方を探りたいがそのまえにやりたいな。先手必勝。故に最初に魔力消費することすらいとわない。
足に装備している付与魔法により上級属性魔法を付与された防具。その出力を試す意味を込めても今回はこちらから攻撃させてもらうとしよう。
手の平に魔力装備生成魔法と付与魔法を展開し、武器を創る。付与するのは水魔法にしておくべきか。
「ルナ、援護頼む!」
「はい!」
ルナの援護があれば安全に攻められる。もちろん心情的な意味で現実はそう甘くないのかもしれないが。
俺は一気に踏み込むと足からまるでジェット機のように風が吹き出して超高速移動を実現させた。身体の負担も大きい。やはり身体強化の魔法は必須か。
しかし先手は取れた。魔法発動前に魔物にゼロ距離で近付けた俺は軽く跳躍しながら創り出した剣でその首を狙う。
「ケケ!?」
魔物は驚きながらも腰を逸らした。イナバウアーみたいな避け方されても困る。
魔法が発動して魔物の全身を炎が守られてしまった。炎を纏う魔法、か。俺には関係ないがリアには影響あるか。
再度剣を振るうと魔物はバックステップで躱した。その際に炎が剣に触れるが焼けて溶けることもなければむしろ水魔法により炎をかき消してくれた。
俺は攻めるのをやめて後ろに下がると同時に槍を精製した。
「リア、これを使え」
「え、あ、うん。これは?」
「水魔法付与の槍」
俺の付与魔法の武器であればいける。リアの槍は特に魔法とかその辺りが付与されているとは思えないしな。
「なるほど……確かにこれなら問題ないかもしれない」
「問題ないのは確証済みだ。ひとまずパーティーを組んで間もない俺達に連携なんて期待するだけ無駄だ。個々で攻める」
「それは賛成だけどどうするの?」
「そこは合わせればいい。お前から突っ込んでいいぞ?」
俺は魔力の消費が激し過ぎて結構キツイしな。やはり上級属性魔法はキツイか。ルナが乱用しない理由もよく分かる。
「分かった」
リアは駆け出すとその槍の先端を魔物に向けた。絶妙な槍さばきで幾度となく突くものの魔物はそれを華麗に躱している。
槍の利点は距離感。魔物の間合いの外から攻撃出来る点と近付かれてもそのワンテンポの遅れで攻撃を予測出来る点にある。
足の方も多用は出来ない。リアを中心に戦闘を組み立てるとして俺は側面から攻めるか。
ちらりとルナに視線を送ると頷かれた。うん、付き合いあるとこういうことになるから楽だな。やっぱりルナは良い相棒だ。
今度は俺も駆け出した。魔力消費の大きい風魔法の高速移動は色々と不便過ぎる。
リアを避けるように側面に回り込むとリアが槍を突いた後の引き戻しの途中で剣で斬り掛かった。
まるで全てを見透かしたようにあっさりと躱した。でもいいのか? そんな半身な躱し方で。
「リア! 躱せ!」
「うん!」
「ウォータースライス!」
ルナが放った水の刃が迫る。リアが避けると急に迫るのだ。これは焦るだろうし俺が不安定な体勢にした。これは当たるだろう。
「ケケ」
マジかよこいつ。足元に赤い魔法陣を展開した魔物がジェット機の如く宙に浮き、そのまま後ろへと下がる。ウォータースライスをあっさりと躱した。
「いたぞ! やれ!」
周囲に来ていた冒険者達が複数やってきた。しかし、この相手に敵うのか? 多分だがゴブリンキングより厄介だぞ。
「ケケ」
魔物は赤い魔法陣を展開した。こいつ、炎魔法しか使わないのか。
「ケケケケ!」
奇妙な笑みを浮かべながら発射された魔法は複数の炎の球体だった。まるで追尾するように追い掛けてくる。
俺達に迫ってくる炎の球体は俺の剣で切り裂いた。リアも幾つか槍で突いて破壊してくれたようだ。水魔法付与をしている為に触れるだけで消せるようだ。
「うわぁぁぁぁ!」
「助けてくれぇ!」
ほれみろ。こいつら役に立たないなら来なきゃいいのに。
「…………任せて」
アスールが白い魔法陣を展開する。これが防御魔法か。
空気中に浮かぶ半透明の白いバリア。それが移動し、冒険者達に飛んで来た炎魔法を防いだ。
「…………ごめん、強化魔法は使えない」
「強化魔法……ああ、味方のステータスを上げるあれか。別にいい。使えないならまたいずれ覚えればいいさ」
「ん…………ありがと」
別に礼を言われるようなことじゃない。アスールがそういう環境で生きていないことを分かっていながら俺達は連れて来ているのだ。むしろこちらがお礼を言わないといけないかもしれない。
「助かったぞ!」
「みんな反撃だ!」
絶望の淵に立たされても冒険者達は引かない。そういう心は評価するが、もうちょっとこう、アスールに礼を言うとか謝罪するとかしろよ。殴りに行くぞこら。
一斉に放たれる魔法や特技。遠距離で出方を見るというのは良い判断だ。でもこいつには遠距離にあの頭のおかしい火炎放射がある。あんまり得策じゃないと思うが。
ひとまず撃たす余裕を与えない為に俺は突っ込んだ。余計な犠牲者を増やす気はない。
「ケケケ」
やはり俺の予想通りあの炎を纏う行為はガードらしい。炎が魔法をかき消してしまってダメージにもならない。
「水だ! 水魔法に変えろ!」
すぐに判断をするのも良いな。この冒険者達はゴブリンキングの時にはいなかったな。頭は回るようだ。パニックになる時間が勿体無いからな。
水魔法に変えた瞬間、魔物は回避に移った。しかしあっさりと手の内をバラすな。まだ何かあるのかそれとも知能がないのか。ひとまずまだ判断するには早過ぎるな。
「ケケケケ!」
また魔法か。魔法陣を展開した魔物はそれを下に叩き付けた。
「っ!」
これは下からマグマのように噴射させる魔法か。
「全員気を付けろ! 下から来るぞ!」
下からの魔法なんてどうやって防げばいいんだよ。避ける以外の選択肢がないな。
魔物は更に追撃の魔法陣を展開した。上も下もと避ける余裕なんて与えないつもりか!
「アクアキャノン!」
ルナがこの攻撃の最中、水のビームを撃った。凄いな、避けながら上級魔法を撃てるのかよ。
ルナの攻撃により回避を優先せざるを得なくなった魔物は攻撃を止めた。チャンスだな。
「リア!」
「うん!」
リアが絶妙な槍さばきで攻める。攻める。攻める。やはり前衛職がいると分担出来て楽だな。
「ホーミングウォーター!」
水の球体が左右から追尾するように魔物に向かっていく。先程魔物が見せた魔法をルナも使えるようだった。
「ケケ!」
「っ!」
いきなり魔物の全身を纏っていた炎が噴き出してリアを押し退けた。そんなことも出来たのか。
しかし今の攻撃で魔物を覆っていた炎のガードが無くなった。今は絶好の攻め時な訳だが。
「何だろうな……何か空気が張り詰めた気がする」
こう、相手の雰囲気のせいだろうか? 攻め時のはずなのにその圧に当てられて足が動かない。
「刀夜くん?」
「リア、ちょっと待て。ルナ、試しに攻撃してみてくれ」
「はい」
こういうのは近付かずに遠くから狙うに限る。
「ウォータースライス!」
ルナが飛ばした水の刃。しかしそれはあっさりと弾かれた。腕力というただの暴力で。
「なっ!?」
中級属性魔法を素手で破壊するとかマジですか。しかもノーダメージって……。
「ケケケケケケ!!!!」
奇妙な笑い声を上げた魔物の背中が急にぼこぼこと盛り上がってくる。
「な、何だこれ!?」
「やべぇ! 離れろ!」
確かに未知なことに対しては畏怖するもの。この場面で近付こうとする馬鹿は早々に死んでもらいたいものだ。
背中からは案の定腕が生えて4本となった。中級属性魔法を腕で吹き飛ばす威力の腕力だ。当たるだけで骨が数本持っていかれかねないし当たりどころが悪ければ普通に死ぬ。
この緊張感。この危険の一歩手前というのが生きていると実感してしまう。
「はは」
「と、刀夜くん?」
自然と笑みを浮かべているとリアが戸惑ったような表情を向けられた。ま、まぁそうだよな。
「あー、気にするな。強い敵がいるとちょっと面白くなってな」
「そ、そうなんだ。か、変わってるね」
そうですね。でも仕方ない。これが俺だ。
「ケケ! ケケケケ!」
こいつ! そうか、さっきのは逆だ。俺達が様子を見ていたんじゃなくこいつが様子を見ていたわけか!
攻守を切り替えた魔物は一気に踏み込んで距離を詰めてくる。その速度は身体強化しているリアと同じくらい。反応出来ない程ではないが速い。
「ちっ!」
狙う先は俺。恐らく最初の攻撃で速度が一番あることがバレたのだろう。
リアから離れるように側面に移動すると魔物を引きつける。これで他の奴らの援護がしやすくなったはずだ。
魔物は大ぶりのパンチを振り下ろすだけ。特に後ろから生えた手は振り上げることはないだろう。問題はその手数か。
「ご主人様!」
ルナが叫ぶ中、俺は冷静に充分に距離を保ちながら後ろに下がり続ける。
最初の超反応を見るに一撃で倒すのは無理か。ならまずはその攻撃手段、もしくは機動力を削ぐ!
俺は後ろに下がるのをやめ、急に前進する。更に足の風魔法を発動して高速移動をした。
「ケケ!?」
逃げからの一転。動揺させる上にタイミングを読まなければほぼ回避は不可能。もちろん狙ってやっている。
驚く魔物。振り下ろされる腕は止められないだろう。このままでは俺の方が殴られるか。なら斬り飛ばすのはその腕だな。
振り下ろされる左腕2本を斬り裂き切断する。これで攻撃力は半減だろ?
「っ!」
しかし魔物は引かなかった。右腕で殴り掛かってくる。流石に避ける手段なんてないな!
「ちっ!」
咄嗟に腕を挟んで魔力装備生成魔法で小手のような盾を創り出した。盾をぶん殴られるとあっさりと破壊されるものの威力は激減する。
拳は俺の左肩を見事に捉え、俺は殴られて向かいの建物を破壊しながら中へと飛ばされてしまう。
「ご主人様ぁぁ!!」
「ゲホッ! ゲホッ! 大丈夫だ!」
「よ、良かったぁ……」
吐血しながらも何とか無事を伝える。危ない。背中を強打したがまだ動ける……か?
「安心するのは速い! 来るよ!」
片腕となってもこの魔物は引かない。痛みを感じていないかのように当たり前に突っ込んで来る。
「っ!」
立ち上がろうとして気付いた。腕折れてる。動かない。
「くそ!」
まだ右腕が残ってる! 俺は戦える! 最悪足だけでも殺し合え!
「…………ヒーリング」
と思ったら全部完治した。お、おう……。
「…………僧侶も忘れないで」
「い、いや、忘れてたわけじゃないぞ!? でも流石に骨が折れるのまで治るとは思ってなかっただけだ」
ひとまず向こうの戦闘力を激減させるということには成功したらしい。時間を掛けた分析のおかげかもしれない。
「さて、今度こそ仕留めますか」
「ん…………怪我には気を付けて」
怪我を気にしてたら冒険者出来ない気がするが。まぁ深くツッコミを入れるのはやめておくか。




