第22話 全てを焼き尽くす炎は街すら散らす
ひとまずは仲良くなる必要があったのでかなりの時間余裕を見た。正確に数えてはいないが多分2週間ちょっと。その間に色々と魔法を覚えて更に強くなったのは言うまでもないだろう。
そして俺が望んでおり、行動しようとしたことは向こうからやってきた。流石は異世界だ。
「刀夜様! ルナ様!」
それはギルドからの緊急依頼。ゴブリンキングに引き続き現れたという新種の魔物の討伐依頼だった。
新種の魔物と聞けば俺達の目的を果たすのに大いに役に立ってくれることだろう。その魔物には悪いが俺達の犠牲になってもらう。
もちろん油断は出来ない。そもそもどんな魔物かすら分からないのだから。
「お願い致します!」
わざわざ図書館にまで足を運んでくれたのだ。それ程までに緊急なのだろう。
「…………2時間300G」
「アスール、本を読みにきてるわけじゃないからな……?」
「ふぇ!? ゆ、有翼種!?」
ま、まぁ予想通りだ。ここまでは問題ない。
「とりあえずアスール、一緒に行くか?」
「…………図書館空けられない」
「そこに店番してくれるとても優秀なギルドの方がいるだろ?」
「ふぇ?」
まるで話を聞いていないかのような返事をされた。それもそうだろう。今考えたからな。
「仲良くなる為に功績を上げてみるのはどうだ?」
「功績……」
今までと違ったアプローチだ。どうしても仲良くなりたいと願っているアスールならば必ずこの案を飲んでくるはずだ。もちろん不確定要素もあるしこいつは感情を全く読めないのでアレだが。
「前衛は俺が出るし後衛はルナ。いざという時はルナの転移魔法で逃げることが出来るわけだ。どうだ?」
「…………ダンジョンで転移魔法は使えない」
「いや、そうなんだけどな。誘き出せば問題ないだろ」
「あ、いえ。そもそも今回の出現ポイントはダンジョンではなく街なんです」
そりゃあ急ぎだろうな。しかし何で街に魔物が? 誰かしら手引きしてんじゃないか?
「そうか。なら急がないとな。アスール、どうする?」
「…………」
アスールは目を閉じて必死に考えている。この間に相当頭を回転させているのだろう。俺もよくするから分かる。
「…………行く」
よし! やっぱりアスールは色々な面で踏み込むことにあまり躊躇いがない。だからこそ簡単に行動に移せる。それは長所だろう。
「で、その街ってどこだ? 転移魔法は行ったことがある所にしか行けないんだろ?」
「現在ギルドで冒険者達を招集しております。ご同行を」
「あぁ。あと真面目にこの図書館のことは頼む」
これが俺達が動く最低条件だ。
「その間の労働時間を刀夜様が負担してくれるということであれば」
「あー、じゃあそれでいいか。俺達の報酬分をそいつにやってもいいぞ?」
別に金に困ってはいない。確かに家などは欲しいが今はそんなことよりも優先すべきこと、優先したい人がいる。
「…………刀夜、それは駄目」
「駄目じゃないから気にするな。さて、行くぞ?」
「…………強引」
強引でも何でもいい。とりあえずアスールには色々と活躍もしてもらわないといけないのだ。その分心配事は消してしまいたい。
ギルドへやってくると一様に全員が俺達を注目する。いや、俺達というよりはアスールか。
「えっと……」
当然いるだろうリアも俺達に声を掛けるか迷っていた。まぁ今諸事情があるとでも思われてそうだな。
「リア、ちょっといいか」
だが逃す気はない。生存確率は少しでも高い方が良いのだ。気まずいからという理由で話し掛けられないなんてことは避けないとな。
「う、うん、その人は……どうしたのかな」
「ちょっと協力してくれ」
ついでにアスールにも聞いてもらうとして俺達はひとまず作戦の全てを話した。リアはその間何故かにっこりと微笑んでおり、アスールは相変わらず無表情である。
「…………刀夜、凄い」
「功績を立てる。後は有用性を知らしめることでコミュニケーションの拒絶という点を除外する。今この場はそれに一番適した場面だからな」
「それで僕も誘ったんだね。うん、いいよ。僕も協力するよ」
リアは本当に良い奴だな。俺も応えたい。
「あ、それと身体強化の魔法だったね。これはまた今度になるのかな?」
「あぁ。悪いな」
本当に至れり尽くせりだ。何かお礼を考えなきゃならんな。真面目に。
「リア、何かあるなら頼ってくれ。本当に命懸けだっていうのも別に構わない」
「…………」
リアは驚いたように目を見開いた。しかしそれも一瞬、すぐに意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「あまりそういうことは言わない方がいい。盾になって欲しいって言われたらどうするんだ?」
「盾にくらいなるさ。でも……それで俺が死ぬかどうかは別問題だがな」
「キミは何というか。本当に色々と考えているんだね」
そりゃあな。そうしないとこの世界じゃあっさり死ぬだろ。
「ひとまず俺達4人でパーティーだ。しばらくこれで行動したい」
今回のだけじゃ足りないかもしれない。アスールに功績を立てようとして俺達が死ねば無意味だからな。
しかし調整出来そうな相手であれば調整はするつもりだ。手を抜く気はないがあえてそちらに誘導する可能性は大いにあるな。
ん? でもそういえばリアはいつも1人だな。パーティーを組まないのだろうか?
「そういやリアって誰かとパーティー組んでないのか?」
「うん? 今キミ達と組んだだろう?」
「いや、俺達以外で。そんなにレベルが高いなら引く手数多だろ」
俺はレベルの重要度は低いと思っているが他のみんなはそうではないらしい。大多数がレベルを重視している。学校というものがない分、馬鹿なのかもしれないが。脳筋多そうだしな。
「いや、僕は……。えっと、ま、まぁ色々ね」
「…………?」
まぁ何かしら事情があるのかもしれない。立ち入った話なら聞かない方がいいか。本人が話してくれるのを待つのみだな。
「何かあれば相談しろよ?」
「うん、ありがとう。それじゃあそろそろ行った方がいいかな。流石に街に暴れられたままだと困るしね」
「そうだな」
冒険者達も続々と転移魔法陣を展開して出発していた。俺達も遅れを取ってチャンスを逃すわけにはいかない。
「それじゃあ僕が展開するね」
この中で一番魔力消費が少ないのはリアだろう。前衛であるリアはどちらかというと特技方面で攻めるはずだ。それに俺もルナも行ったことのない街に行けるはずもなく、結局リアに頼るしかねぇな……。
リアに転移魔法を展開してもらって俺達は街へとやってきた。しかしここは街なのか。廃村とかそんなレベルの壊れ方をしている。
「これはまた凄いね……」
「そうだな」
これが少し前まではきちんと活動していたわけか。街にいても安全じゃないってことなんだろうな。
「ん?」
ふと、奇妙な損壊を見つけた俺はそれを眺めた。
「ご主人様、どうかなされましたか?」
「…………いや」
これは……壊されたっていうのもあるが溶かされてる? これは魔法とかそういうのか?
「刀夜くん?」
「なぁ、これどう思う?」
割れたガラスの破片を見せた。見事に溶解したそれは明らかに異常だ。
「これって炎魔法ですか?」
「…………溶けてる」
この世界は日本よりも鉱物の種類が多い。特に家などは耐久度を重視して作られているためこのガラス片も相当な強度だったはずだ。
これを溶かすとなるとルナの特級属性魔法と同等クラスでないと駄目……のはず。確かそんなことを鍛冶師の本でちらっと見た。
「念の為に対策はしておくか。全員耐性魔法付与したコート作るから羽織っておいてくれ」
「ん…………そんなこと出来るの?」
「鍛冶師だからな」
俺が自信満々に言ったところで疑いの目を向けられてしまった。何でだよ。
「見せてやるから」
俺は魔力装備生成魔法と付与魔法でそれぞれの色のコートを創り出した。
「ほれ、好きな色選べ」
「お洒落ですね」
「うん、本当に凄いなぁ……」
「…………魔法陣の展開も早い、流石」
そんなにいきなり褒めんなよ。恥ずかしいだろうが。
「とりあえず早く選んじまえ」
それぞれ色の付いたコートを着て歩き出す。分かりやすいからこういうのはいいな。
「コート着てるからって油断はしないでくれよ? 多分ガラスが溶けるくらいの熱量ならあんまり意味ないと思うからな」
「は、はい」
「それくらい強いってことだよね。うん、気を付けるよ」
気を付けてどうにかなる相手ならいいんだが。ひとまずアスールに活躍させるという点に関しては叶いそうにないな。残念なことに。
「ぎゃああぁぁぁぁ!!」
「熱い! 熱いよぉ!!」
突如として聞こえてきた叫び声。俺達はそれに反応してすぐに駆け出した。
「これは……」
ゲームで聞き覚えのある音が聞こえてきた。それよりも規模は大きいがこれはもしかしなくても……。それに近付くだけで熱いしな。
「全員止まれ!」
曲がり角に来た瞬間、俺は急ブレーキ。先頭の俺が止まったことで他の3人も止まる。
「ご主人様? どうされまし」
ルナの言葉を区切るように俺達の眼前に炎が迫った。火炎放射とも呼ぶべきその音。ゾンビゲームやったことがあって良かったと今心の底から思った。
「ど、どうして分かったの!?」
「音と熱。それより行くぞ」
急いで角を曲がるとそこには焼け焦げた複数の死体。中央には人型で2m程の黒い人の姿をした何かが立っていた。
一瞬影が立っているように見えるのだがそれにしては体格が大き過ぎる。特徴からいって男だろうか。
顔などもない。ただただ真っ黒な存在だった。こんな魔物がいるのか。人の姿と何も変わらないんじゃないか?
俺達の存在に気付いたそれはこちらに目がないはずなのに視線を向けた。そして口元に赤い線が入る。
「ケケケ」
それは笑いだった。赤く見えたのか口の中だろうか。歪んだ笑みを浮かべるその存在に自然と恐怖心が煽られる。
だが俺には関係ない。3人は初めて見る魔物に圧倒されているようだが俺は既存する魔物のことも知らないからな。
常に相手の情報を入れながら戦うしかない。今回もそれは変わらない。
「お前らは心配しなくていい」
「…………刀夜?」
俺は自然と笑みを浮かべていた。俺自身意図しない笑みを。
「あいつは確かに驚異的かもしれないが……」
そう、素人の俺でも分かる。あの魔物は強い。されど強いからといって引けないのだ。そして俺は心に誓った言葉を告げた。
「この世界の最強は俺だ」
「っ! はい!」
ルナが嬉しそうに返事を返してくれた。やる気にもなるし俺の生きる為の目的にもなる。こんなところで死んでたまるかよ。
「やるぞ」
「はい!」
「うん!」
「ん…………!」
…………そこは全員統一しようぜ。




