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最終話 異世界の最強職って鍛冶師だと思うんだけどどう?

 シルアの資料を読みながらの数日はそれはもう大変有意義なものだった。まさか他種族が発見していない鉱石の場所まで書いてあるとは。

 シルアが鉱石に関して探っていたのはその性質が精霊の核に似た働きをするものがあるかも知れないからと考えたからだ。代用は可能かと考えた結果だろう。本当によく頭が回る奴だ。


「フレイさん、クロさん、ヒカリさんには事の顛末は伝えましたしどう致しましょうか?」

「そういや珍しくやる事が無くなったな」


 完全にやりたい事が無くなってしまった現状である。次は何をしようか。いや、まぁ考えるまでもなく決まってんだろうけどな。


「強くなるだけだ。誰にも負けないくらいになる」


 相手は神かもしれないというシルアの忠告を無視は出来ない。仮に神が相手だとすれば……どんくらい強いんだろうか? 魔人のそれとは比べ物にならないだろう。


「何か依頼でも探すか?」

「ムイ様とミケラ様がロクなものがないと仰っておりましたよ?」

「マジか……」


 魔人事件も一通り落ち着きを取り戻したからな。それに騒がされていた世間だ、解決してしまってすぐに別の、というわけにはいかないのだろう。


「それじゃあここ行こう」

「どこですか?」


 かなり難しいと評判のダンジョンである。もちろんムイやミケラ、それにクロとヒカリにフレイとソルティアも誘おうか。


「何かあるんですか?」

「奥地に鉱石があるらしい。シルア情報」


 この鉱石は色々と使えそうだしな。まだまだ色々と改良の余地がありそうだ。


「そうですね。皆様今か今かと待っているでしょうから」

「どんだけ戦闘狂なんだ」

「ご主人様がそれを言ってはいけませんよ?」


 確かにそうかもしれんが。


「まぁいいや、俺上着を羽織るだけだから先に外で待ってるぞ?」

「はい」


 ルナは笑顔で準備しに行った。あいつもちょっと好戦的になってきてしまったのかもしれない。主に俺のせいで。


「コウハ、マオ、聞こえてたよな?」

「えぇ」

「うむ」


 近くにいた2人は聞こえているだろう。やる気満々だなおい。


「アスールちゃんとアリシアちゃんにも声を掛けてくるわね」

「刀夜殿は待っていてくれ」

「あぁ」


 2人も出て行って居間には俺とリルフェンのみ。俺は近くに置いてある鞄から上着を取り出して袖を通した。


「リルフェン、行くぞ」

「ガウ!」


 リルフェンを連れて外へと出る。相変わらずこの辺りの景色は良いな。


「…………」


 綺麗な景色を前にすると色々と考えてしまう。これでよかったのだろうかと。

 ルナに初めて会ったあの日から……いや、ゴブリンキングを倒したあの日から俺の異世界での生活は始まったのだろう。

 日本では孤独だった俺にもちゃんと仲間が出来た。相棒が出来た。恋人が出来た。

 俺達の関係性を言い表すなら何が的確だろうか? 運命共同体とでも表現すべきなんだろうか?


「相変わらず綺麗な景色だな」

「ガウ!」


 欺瞞に満ちた世界で過ごしてきた日々も俺にとっては大切なものだ。浅野と過ごした短い時間があるのだから。

 この世界で再会した時に何度も考えた俺と浅野の関係性も結局は曖昧なままなのだろう。


「なぁリルフェン、俺達の関係性ってなんだと思う?」

「ガウ?」


 リルフェンに聞いても分からないことだろう。仕方がない、俺にとってはみんな大切な家族であり恋人であり姉でもあり妹でもあり仲間でもあるのだから。


「1つに絞れないくらい深い関係性って考えておけばいいのか」

「ガウガウ!」


 何でもかんでも決め付けてはいけないな。そんな単純なものじゃないのだろう。

 世の中が単純ならばきちんと正解が存在するはずだ。そう考えると神とやらが下した現生物の根絶というのも間違いである可能性は十分にありえる。

 もちろんただ死んでやるつもりなんてない。むしろ敵ならば間違いなく殺すだろう。魔人ということで命を弄んだのだから。

 ひとまずは現状のことを考えるしかないだろう。もっと強くやるには何をすればいいのやら。

 勇者なんかはもっと強かったのか。そして魔王はそれ以上に強かったのか。


「この世界の最強の職業ってなんなんだろうな」


 強さの果てに見る景色はどんなに違うのか。そしてどんなに幸せなのか。どんなに不幸なのか。それは行ってみなければ分からないことなのだろうが。


「ガウ〜」

「そんな真剣に考えることじゃないぞ……?」


 真剣に悩んでいる様子のリルフェンの頭を撫でる。俺のくだらない質問にそんなに真面目に答える必要なんてないだろう。


「それはもちろん決まってます!」

「ん…………間違いない」

「そうだね。1つしかないよね?」

「うむ、1つだろう」

「本人がいつも豪語しているのにどうしていきなり疑問に思うのかしら?」


 全員戦闘準備万端のようでいつもの戦闘服で家から出てきた。しかし……はて? 最強の職業というのは決まっているもののようだ。


「お前らの思う最強の職業って何なんだ?」

「それはもちろん……」


 全員顔を見合わせた後ににっこりと微笑んで俺を真っ直ぐに見つめる。


「鍛冶師!」


 鍛冶……師? ってそれ俺なんだけど。


「鍛冶師が最強だって証明、もう済んでるようなものよ?」

「うむ、エルフ族でも話題だからな」

「もちろん獣人族もよ」


 どうやら他種族にまで鍛冶師の最強は証明出来ているみたいなんだが……そんな最強であることを示したことあったっけ?

 俺の預かり知らぬところで何やら色々とあるんじゃないだろうか? もしかして俺以外にも強い鍛冶師がいるとか。


「確かに最強の職業は鍛冶師だよね」

「ん…………でもだから鍛冶師が一番じゃない。…………私達全員で最強」

「はい! 私もご主人様には負けません!」


 なんかもう1人の鍛冶師の存在とか疑うのが馬鹿らしくなるな。多分いないんだろうな……こいつらの中では本当に俺達が最強だと思っているのだから。

 そして俺もその最強を譲る気はない。俺だって最強だ、この強さを持って世界に示し続けることをあの頃から誓ったのだから。


「もう小難しい話はいいかしら?」

「小難しいって……そんなに難しい話ししてないだろ」

「どうせいつもみたいにどうでもいいこと考えてたんでしょう?」


 どうでもいいことなんて考えていないんだが……。


「あなたが思っているより世の中複雑に見えて簡単かもしれないわよ」

「難しく考えずにフィーリングで過ごしてもいいと思うよ?」

「それで袋小路になってしまってはいけないからな」


 確かにそうかもしれないな。


「……そうだな、それより早く行くか」

「はい!」

「ん……」


 全員が前を歩くのを後ろから見守る。やっぱり俺はこいつらのことが大好きだ、絶対に失いたくないと改めて思う。

 だから世界に問おう。俺が俺の仲間を守れるかどうかを。神さえ敵対しているかもしれないこんな世界で。

 異世界の最強職って鍛冶師だと思うんだけどどう?

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