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第83話 首謀者は精霊である

 翌日、俺達は以前やってきたあの首謀者が潜む大きな建物に侵入した。地面に嵌めていた化け物はいなくなっていた。死んで粒子となって消えていったのではと推測出来る。


「ねぇ刀夜さん、全く生き物の気配を感じないのだけれど」

「私も何も聞こえないな」

「ガウガウ」


 うちの優秀な探索部隊の網にも引っ掛からないようだ。それだけ気配を消す能力があるのか、もしくは単純に本当に生き物はいないのか。

 もちろんだからと言って油断をするわけじゃない。むしろより一層警戒してしまうのは仕方がない。


「何が出てくるのか、だな……」


 長い廊下や巨大な部屋などを通り抜け、どんどんと奥へと進んでいく。そしていかにもな高級そうな部屋を見つけた。

 ゆっくりと重そうなドアを開けると大きな広場へ出る。レッドカーペットが敷かれた床を歩くと玉座が見えた。


「あなたが萩 刀夜さんですか。初めまして」

「…………随分と礼儀正しい敵だな」


 そこにいたのは純白のドレスに身を包んだ金髪の女性だった。物語の中ではむしろヒロインになるのではと思わせるくらいに綺麗な女性だ。

 エメラルドグリーンの綺麗な瞳が真っ直ぐに俺を見つめる。その瞳には全くの殺意も敵意も感じられない。

 罠……か? こいつは囮であって別の首謀者がいるという。


「罠ではありませんよ」

「っ!」


 こいつ……心が読めるのか? そんな魔法など存在しないはずだが……。


「これは呪法です。精霊である私には幾つかの特殊な能力があります」


 やはり心が読めるようだ。そしてこいつは精霊であり呪法を使用していると言う。

 ちらりとマオに視線を向けると頷かれる。マオの気配探知でも間違いなく精霊のようだ。


「まさかここに来るお方が人間が率いているとは思いも寄りませんでした。ですが……あなたになら全てお話し出来ます。私の過ちも……そしてあなたがこの世界にやって来た理由も」

「俺が……?」


 俺もこの件に関わっているというのか? これまでの出会いは全て偶然ではない、ということか。

 何らかの関わりが俺達にはあった。俺がこの世界で過ごして来た日々の全てがこの魔人の件と繋がっていた。


「どういうことかな?」

「さぁ……刀夜さんがこの世界に来たのは偶然じゃないということじゃないかしら」

「はい、その通りですよ」


 なるほど……とりあえずこいつの話は聞く価値はあるようだ。それに話してくれるようだしな。


「今から約1000年前のことです」


 すっげぇ桁の以前の話だった。そんなことを思い出話のように話されるという新感覚。どういう反応を返せばいいのか分からないんだが。


「私はとある精霊と大の仲良しでした。名前はセラ。ルナ様のお師匠様に当たる方です」

「は……?」

「し、師匠ですか!?」


 どうやらルナの師匠とも関連があるようだ。それもそうか、俺がこの世界に来たのが偶然ではないというのならいきなり契約されていたルナとも何かしらの関わりはあるはずだ。


「セラは魔法に関して本当に一流です。そちらのミケラ様にも引けを取らない……いいえ、それ以上の魔法使いです」

「そんなにか」

「上には上がいるもんだな〜」

「ふふ……魔法陣の展開速度だけでも倍は違いますよ。気付けばもう魔法は放たれているという表現すれば分かりやすいでしょうか。


 そんな化け物がいたとは思わなかったぞ。ミケラも充分凄いんだが昔の連中は今よりもレベルが高い存在のようだ。


「セラは優秀でありながらとても心優しい、そして芯の強い女性でした。だからこそ……呪法に手を出してしまったのです」

「呪法……」


 ちょっと待て。以前にルナに聞いた話と微妙に意味合いが変わっている。確かルナの師匠は魔法を極め過ぎて次の呪法に手を出したんじゃなかったのか?


「ルナの師匠が呪法を使ったのには訳があったのか?」

「はい。その様子ですとルナ様には真実をお伝えしていないようですね」


 それはルナにとって希望の言葉なのか絶望の言葉なのか。いや、既に絶望した状態なのだ、これ以上下はあるまい。それにルナならどんなことでも受け入れる覚悟が出来ているはずだ。


「…………聞かせてください」


 ルナは普段は見せないような凛とした瞳を真っ直ぐに向けていた。


「はい、元よりそのつもりです。あの方の名誉の為にも聞いていただきます」


 女性はこほんと咳払いをしてから真剣な表情で話し始める。最初は胡散臭いと思っていたが直感的に分かる。こいつは別に悪い奴ではない……と思う。俺が今まで勝手に培われていたそういう奴に対する嫌悪感というのがまるで発動しない。


「セラは精霊のとある事情を知ってしまったのです。それを払拭しようとした……その結果手を出したのが呪法です」

「精霊の事情?」


 俺が精霊に関して知っているのは契約者に絶対服従な点と核があるということだ。それ以外にも何かあるというのだろうか?


「精霊の核は時を重ねるごとにどんどんと劣化していきます。それが精霊の寿命でもあるのは知っていますね?」

「はい、ですがそれは人間や獣人やエルフ族の老いにも似たものであると……」

「そうです。ですがその性質上老いているわけではありませんので見た目が変わることはありません」


 へぇ……そうなのか。でも別に大したことないような気がする。それは他の生物と何も変わらず寿命があるというだけの話じゃないのか?


「そしてもう1つ……ここが重要でした」


 女性は少し悲しげに目を伏せた後に力無く笑みを浮かべた。その感情を俺は感じ取ることが出来ないのだが恐らくは諦めであるのだと思う。


「優れた精霊は魔法の才能がズバ抜けています。そしてその魔法の才に劣化した核が持たず、自ら崩壊してしまうのです」

「なっ!」


 それは……確かにそうかもしれない。呪法というのが精霊の核を使用するという。そしてそれは魔法の1つ上の事象であることから何となく想像はつく。

 精霊が普段魔法を使用するのに核の負担が大きいのだ。恐らくは呪法程に影響はしないのだろうがそれでも負担は掛かってしまっているのは確かだろう。


「セラはとても優しい人です。そして目の前に自分よりも優れた才のある弟子がいた。ならばセラの取った行動は分かりますね?」

「私の知っている師匠でしたら……間違いなく原因を研究されます……」

「その通りです。そして1つの希望を見出した。それが呪法です」


 そうか……ルナの師匠はルナの為に呪法に手を出したのだ。弟子を守る為に。


「セラが見出したのはとある方法です。それは別の意味で叶うことが出来ました。もちろんとても良い意味です」


 女性はちらりと俺を見る。俺に何かあるのか?


「精霊は核を通して魔力が全身に供給されます。セラは呪法での直接的な手段を見出すことは出来ず、とある呪法をルナ様に使用されました」

「とある呪法ですか?」

「それは人間と契約させ、人間から魔力を供給することで精霊の核の負担を減らすというものです。そしてセラはあなたに強制的に契約を結ぶ呪いを掛けたのです」


 そうだったのか。それで俺との契約が無条件に完了していたわけか。


「それだけではありません。呪法の1つ、次元の転移を使用し、出来るだけこの世界に無知な異世界人を契約させるようにしたのです」

「その理由は?」


 別にそれが目的であるならばそんな回りくどいことをする必要性を俺は感じないが……。


「無知である方が何かと都合が良いのです。絶対服従を知る機会を減らすことが出来るかもしれませんでしたから」

「なるほど……」

「……これを聞いても怒らないのですね」


 怒る? 一体何の話だ?


「精霊にとって不利益になることを教える必要はないだろ。そもそもそうやってでも生き残るのは当然の選択だ」


 人間の間では精霊の話はあまり出てこない。それもそうだろう。そもそも絶対数が少なく、また絶対服従ということから一般人が手を出せるレベルの値段で売買されていないのだから。


「嬉しい誤算はその点です。とても素晴らしい方と契約することが出来たことです」

「……はい」


 ルナは心底嬉しそうに微笑みながら返事を返した。めちゃくちゃ恥ずかしいんだが……。


「利用するはずの人間がまさか他種族を連れているとは思いませんでしたよ」

「そりゃどうも……」

「ですがそんなあなたに酷いことをしてしまいました。浅野 ユキ様……彼にも本当に申し訳ないです」


 今現在話している限りではこいつな悪党には感じない。しかしだからと言って許される行為をしたわけじゃないだろう。


「俺のことは後でいい。それよりルナの師匠はどうなったんだ?」

「…………死にましたよ。次元転移によって空間を移動する際にバラバラとなって……ルナ様の目の前で死んだのは私がご用意させていただいた人形でしたが……」


 人形にそんなことが出来んのか。こいつも大概ヤバイ精霊だな。


「…………そうか」

「次にあなたのお話でしたね。私は死んでしまったセラをなんとか生き返らせようと呪法に手を出しました」


 なるほどな……。こいつにも事情があったんだろうしな。


「結果としましては失敗しました。復活させようとしたセラはバラバラのまま……命を吹き込んでも崩れていきました」

「…………呪法は呪いなんだろ。ならお前はその見返りに何を呪われたんだ?」

「私は死んだのです。そして自動で命を吹き込まれることになりました」

「それって実質不死身なんじゃ……」

「そうでもありません。魔力は消費しますし数に限界はありますよ」


 そ、そうなのか。呪法といっても完璧じゃないということなんだろうけどな。


「そして私はもう1つ呪法を使用しました。これは私がセラを生き返らせることが本当に正しいことなのかを知る為に」

「どういうことだ?」

「正しいことをすればそれに応えてくれる……。精霊の魔法というのはそういう事象です」

「意味が分からん……」


 どういうことだそれは。そんなの聞いたこともないぞ。


「あなたはエルフ族の信仰心を知っていますか?」

「まぁ知ってる。くだらないとは思っているが……」

「実は精霊も同様ですが魔法というのは神からの授かりものです。叛逆する際にはその性質を大きく歪められます」

「そうなのか?」


 それにしては俺に付いてるルナはそういうのが一切ないが……。


「私はどうしてそうならないのでしょうか?」

「魔力が刀夜様と契約されたことで変質したからと推測します。契約されていない精霊は純粋な魔力です」


 なんだか話が壮大になってきたな。しかしそうか……確かにそれを言われても否定する材料が俺達にはないわけか。


「んじゃコウハは?」

「信仰心を元々持っていない方なので。そもそもコウハ様は魔法がお得意なのですか?」

「うっ……確かにあまり得意ではない……」

「それもそのはずです。そういうものなのですから」


 やっぱり論破されてしまったよ。うーん、そういうものなのか。

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