第82話 魔人の生き残り勢揃い
「…………きてください」
「ん……」
誰かに肩を揺すられている。そういえば疲れてそのまま眠ってしまったんだったか……。しかし誰だろうか?
「ご主人様、朝ですよ?」
あぁ、ルナか。いつも通り早起きなようだ。飯の準備が出来て起こしにきたというところだろう。
「クロ様とヒカリ様が来られてますよ?」
「何ですと……?」
ギルドに進捗状況を聞きに行く前に事は済んでいたようだ。寝惚けた頭で目を開けるとルナは嬉しそうに女神の如き微笑みを浮かべる。
「おはようございます」
「…………女神」
「女神ですか?」
もちろんルナの事なのだが当の本人はキョトンとしていた。うん、女神だ。
「ふぁぁ…………おはようルナ……」
「おはようございます」
改めて上体を起こして朝の挨拶。さて、あいつらが来ているのなら着替えないといけないか。
「朝食の準備も出来ております」
「何から何まで悪いな」
「いえ、ご主人様はお疲れだったのですから」
それを言うなら俺だけじゃなくみんなだけどな。そういやアリシアもいないな、もう起きてるのか。流石だ。
「…………」
「…………」
で、ルナは何故か固まってしまった。というより何か期待されているような気がするが。
「ルナ?」
「はい、何ですか?」
「着替えたいんだけど」
「お手伝い致します」
そんなにっこりと微笑まれても困るんだけど。
「恥ずかしいから1人で着替えさせてくれ」
「そうですか……」
そんなあからさまに落ち込まなくてもいいだろうに。
「そういうのはその……夜とかにな」
「っ! はい!」
これだけで嬉しそうにしてくれるんだから女神かよ。
ルナが去った後に手早く着替え、髪を手ぐしで整えた後に居間へ。
「…………ヒカリ」
「ふぁい……ふぁんふぇふふぁ?」
「いや…………何でもない」
相変わらずの食いしん坊がそこにはいた。クロが止めようにも飯の途中であるヒカリを止めることは出来なさそうだった。
「コウハとマオは?」
「ムイくんとミケラさんを探しに行ってるよ。それよりおはよう刀夜くん」
「おはよう」
行動が早いこった。俺だけ完全に出遅れてるな。
「アリシアは身体はもう平気か?」
「ちょっとだるい感じかな? でも大丈夫だよ、多分魔力切れしてるからかな」
恐らくそうなのだろう。魔力切れを起こせばすっげぇ身体がだるいからな。
「……刀夜、メディシーナ・リーベを倒したそうだな」
「あぁ。研究所そのものをぶっ壊して来た」
「…………フレイのと合わせると俺の所だけが残っているということか」
「そこもギルドに押さえられているけどな。
その辺りについては一通り話しておくべきだろうな。しかし……。
「おかわりをお願いします」
「…………飯食ってからにするか」
「…………すまん」
楽しく真面目な話を、というわけにはいかないからな。それにこいつらの今後も色々と考えないといけないだろうしな。
朝食が終わってムイとミケラも合流してゆっくりと近況の説明をした。浅野のこともこいつらは知っているので大まかには話した。
「…………そうか」
「魔人に関しては暴走状態ってのがあるようだ。恐らくは角がないからしないとは思うが……」
「……その時は殺してくれ」
確かにそうするより他ないだろう。今の所は、だけどな。
「可能性があるならそれに賭けるが、まぁいざという時はそうさせてもらう。それで首謀者に関してはまだ反応はありか?」
「あぁ、まだ生きている」
やはりそうか。あの研究所から抜け道があったのか、それとも元よりそこにはいなかったのか。
何にしても居場所が分かるなら手っ取り早く終わらせることが出来るだろう。
「っ! 刀夜さん、もう1人魔人が来てるわよ。1人が半魔人、もう1人は人間だけれど」
「ん? …………あ、フレイとソルティアか」
そういえばあいつらも住む家が決まれば、とか言ってたな。あれ、近況報告もう一回しなきゃならないのか?
玄関まで迎えに行くとやはり予想通りフレイとソルティアだった。タイミング一緒かよ。
フレイは片目を眼帯で隠して魔人であることを伏せているようだった。まぁこいつは元々のスペックが高い。片目を塞ごうともそれは変わらないだろう。
「よう」
「…………あぁ」
「お久しぶり」
ということで2人も招いて居間へ。なんだろうかこの絵面。
「魔人クロ、半魔人フレイ、半魔人ヒカリ、それに人類最強刀夜。なんかとんでもねーメンツだな〜」
「おっさんうるさい」
面倒くさいながらもフレイとソルティアに近況報告を繰り返すとソルティアは心配そうな表情を浮かべる。
「大丈夫?」
「何がだ?」
「ほら、浅野さんのこと……」
あー、心配されてるのか。当然の反応なのかもしれないがもう割り切ったことだ。今更気にすることじゃない。
「別に俺のことはいいって。もう平気だ」
「そっか……」
それでもその表情は暗いままだ。そんなに心配させるような間柄じゃないはずだが……まぁ俺の第一印象ではソルティアはルナ達に引けを取らないレベルの優しい人間だ。納得と言えば納得だが。
「俺のことよりそっちは上手くいってるのか?」
「上手くというのは何の話だ」
「ほれ、恋人になっただとかそういう感じの」
以前はフレイはそのことを否定し、俺はそのことに対して肯定を示した。それだけのことだが関係は変わったかもしれない。
「何故俺がお前にそんなことを」
「うん♪ ふふ……」
「おい……」
ソルティアが嬉しそうにフレイの腕に抱き着いていた。問題ないらしい。
「それならよかった」
「刀夜くんのお陰だよ。ありがとう」
「俺は特に何かしたわけじゃないからな。さて……そろそろ本題に移るか」
面倒だが仕方がない。流石に1日程度じゃ身体がだるいままではあるがせっかく来てもらっておいて疲れたからまた今度とはいかないだろう。
「つっても後は首謀者の場所聞いてぶち殺しに行くだけなんだけどな」
「今世間を大きく賑わせているだろう。公表しなくていいのか?」
「んー、しなきゃならない理由もないしな」
クロの言いたいことももっともだが俺は別に一般人がどうなろうと知ったことじゃないからな。
「報酬に興味ないのかな。そういえば萩 刀夜は報酬に興味を示さない善人って噂だよ?」
「善人? 何でそうなったんだ?」
ソルティアの情報はどこ情報だ? 全然分からないんだが。
「ゴブリンキングを討伐して冒険者一団を救った。シャドウフレイムの街へ侵入する対策の提案。森系ダンジョンの即時転移の方法と暗闇の攻略法の発見。他種族を問わない差別をしない生き方。後はとある姉弟が報酬を全額貰ったって聞いたよ?」
俺が今までしてきたことがめちゃくちゃ表に出てるんだな。なんというか……暇なのだろうか?
「ゴブリンキングに関しては俺が最強を目指すきっかけに過ぎない、他の奴らは知らん。シャドウフレイムは2度と街に侵入させない為、まぁ俺らの身の安全とアスールの親みたいな犠牲者を2度と出さない為に提案しただけだ。ダンジョンに関しちゃただの依頼をこなしただけ。他種族は俺の大切な仲間達を否定するのが腹立つからだ。最後の姉弟に関しては別に報酬なんていらねぇからくれてやっただけだぞ」
全部俺が勝手にしたことであって結果はその副産物である。残念ながら俺の目的としたものとは程遠いものだ。別に意図してそうなったわけじゃない。
「俺の息子を殺したことを馬鹿正直に言って号泣したりな〜」
「…………」
俺は無言でミケラの顔をアイアンクローする。もちろん身体強化魔法を使っている。
「痛ってぇ!? ちょ、潰れる! 潰れるぅ!!」
余計なことを喋るこいつが悪い。こんな大勢の前で何とんでもないこと言ってくれてんだこのおっさんは。
「それはかなり酷くない!?」
「仕方なかったのよ。その……私を守る為っていうのと今回の魔人事件の被害者で操られていたから」
「あ、そういうことなんだね」
何やら納得されてしまった。
「とりあえず首謀者の位置だ。体力が回復次第すぐに向かうから場所を教えてくれ」
ミケラから手を離して地図を取り出す。クロはすぐに指を差した。
「今はここだ」
「ん? 移動していないのか?」
本拠地から移動していないようだ。ということはもしかして研究所へ避難、ということもしていなかったということか。
それは移動することが出来ないのか、はたまた魔人以上の戦力があって俺達を迎え撃つ準備が出来ているのか。
「そういやミケラ」
「んー?」
「お前確か事前に魔人の存在知ってたよな? どこで知ったんだ?」
確か魔人の存在を知っていると聞いたことがある。魔法の域を超えた力を持つというのも確かこいつから聞いたはずだ。
「古い本だぞ? 魔法の本を漁っていた時に偶然見つけたんだけどな〜」
「随分と昔から魔人に関しては存在してたってことか……。じゃあなんで3人しかいなかったんだ?」
歴史が古いのであれば量産されているはずだ。それがされていないというのはどういうことなのか?
「それは分からねーな」
「そうか」
現段階の情報だけじゃよく分からねぇな。
「他には何か分かるか?」
「いいや、せいぜい勇者が倒したとかそれくらいだな〜」
勇者は魔人を倒すだけのポテンシャルがあるようだ。ということは魔王ってのはかなり強いんだろうな。
まぁ今更存在しない魔王のことなど考えても仕方ない。そんな奴のことは放っておいて現状どうするかだ。
「まぁとりあえず色々と分かった。終わったら報告に行くからお前らの家の場所教えてくれ」
「……あぁ」
「うん!」
クロとソルティアに家の場所を聞いて今日は解散となった。明日にでも首謀者はぶち殺すとしよう。