第81話 終わった後の疲労は凄まじい
家に戻ってくるなり倒れるように居間のソファに寝転ぶ。死に掛けたこともあってか疲労が凄まじい。いや、俺だけじゃないな。
「ふぅ……」
「アリシア、大丈夫か?」
多分身体が痺れたというのに無理をした俺とアリシアは特に疲労が凄まじいようだ。麻痺というのがかなり体力を持っていかれるようだが……。
「うん、平気だけど……眠いかな」
「そうか……じゃあ仕方ないな」
「え? きゃっ!?」
アリシアの手を引っ張ってソファに引きずり込んだ。そのまま抱き締めて目を閉じる。
「と、刀夜くん?」
「眠い……」
「そ、そうだね」
このまま眠ってしまおうか? いや、しかし飯くらいは食わないと駄目なんだろうな。
「頑張ったものね。いいわよ、寝てても。ご飯の時には起こしてあげるわ」
「いいのか……?」
「えぇ、私は後衛で打っていただけだもの。けれどアスールちゃんもかなり魔力を使ったのだからアスールちゃんも一緒に寝させてあげなさいよ?」
マオ姉さんマジ大人。とりあえず確かに俺達は相当な魔力を使ったが……。
「魔力を使ったのはお前もだろ?」
「私は特技しか使ってないわよ?」
「知らないのか……? 特技だって生命力を魔力に転換させてるんだから当然魔力消費と同義だぞ?」
もちろん魔法を使用するという点での魔力を消費するわけではないのが利点だが。だからといって疲れないわけがない。
「そんなこと言ったらルナちゃんもコウハちゃんもリルフェンも疲れているに決まっているでしょう?」
「そうだよな……」
なら俺達ばかりが休んでいる暇はないな。手早く飯を済ませて全員で早く寝よう。
「仕方ないからさっさと飯作るか……」
アリシアを抱き締めながら起き上がる。ん? アリシアから全く力を感じないんだが?
「アリシア?」
「すぅ……すぅ……」
「寝ちまってたか」
相当疲れたんだろう。優しくアリシアの頭を撫でた後にソファに降ろす。さてと……。
「さっさと飯の用意するか……」
「刀夜さんは寝なくていいの?」
「全員放置して眠れねぇしな。ムイ、ミケラ、お前らも一緒に食ってけ」
今更2人分増えたところで手間は変わらないしな。
「ありがとう、助かるよ」
「おー、というかこういう日に外で食わないのか〜?」
「アリシアが寝ちまってるしな」
流石に今から起こすのも申し訳ないしゆっくり休んで欲しいからな。
「仲間に対してはダダ甘だな〜」
「別に甘くはねぇよ」
「いや、相当甘いと思うぞ?」
コウハにまで言われてしまった。でも仕方ないだろう、好きなんだから。
「そうかもな……。まぁいいや、とりあえず座ってろ」
「私もお手伝い致します」
「ん…………早く終わらせる」
ルナとアスールの手伝いの元手早く料理を済ませ、テーブルに並べていく。
「料理出来る男子ってモテるって本当なんだな」
「誰がモテるんだ?」
「お前に決まってんだろ……鈍チンが」
誰が鈍チンだ。
「別にモテてない」
「ウチの子達にも人気者だものね?」
「エルフ族にも人気だろう?」
「…………そうなのか?」
確かに獣人族は結構尻尾振りながら近付いてくるが……。あれってどちらかというと信頼の表れじゃないのか?
「確かに誰かの為に命を賭ける人なんてほとんどいないよね」
「ムイまで……はぁ、さっさと飯食ってくれ」
何でそんなに俺が褒められているんだろうか。とりあえずアリシアを起こさないと。
「アリシア、飯だぞ?」
「んぅ……もうちょっと…………」
「もうちょっと寝ていたいなら仕方ないな」
「甘っ!?」
アリシアの頭を少し持ち上げ、ソファに座るとゆっくりと太ももに乗せる。普段から俺がされる方だが今日くらいはこれでいいだろう。
「お前らは気にせず飯食ってろ」
テーブルに手を伸ばして置きっ放しにしてあった本を開く。しかし相当疲れているのか眠くなってくるな。
「何故かしら……物凄く絵になって悔しいわね」
「う、うむ……お似合いのカップルのようだ」
「…………もともとお似合いだったけど」
ん? 何やら言われてるんだが……。
「ご主人様、あーんです」
「ルナちゃんすげーな」
「天然があそこまで強いと思わなかったわ」
ルナも何か言われてるんだけど。というか流石にこれは貰えない。
「アリシアが起きた時に1人で飯を食う羽目になるだろ? 今はいらない」
「そうですか……では私もご主人様が食べる時にご一緒しますね」
ルナは嬉しそうにお椀をテーブルに置くと後ろから抱き締めてくれる。うん、柔らかい感触が気持ち良い。
「ご主人様は暖かいです……」
「そうか?」
「はい……最近寒くなってきましたので……」
「そうだな、俺もちょっと寒いと思ってるからな」
もう少し寒くなってくるようだ。四季があるとは思わなかったがちゃんと寒暖差がある時期が存在する。
以前アリシアが手作りのマフラーを作ってくれているところを見掛けた。そういえばあれから多分もっと進んでいるんだろうな。
「なんかあっちとこっちでえらく空気に差がないか……?」
「仕方ないでしょう?」
「…………私もあっち側行きたい」
何やら羨ましそうに見られてる気がする。というかまぁ仕方がないといえば仕方がない状況なんだが。
「僕達のことは気にせず刀夜くんの方へ行ってもいいんだよ?」
「それは駄目でしょう。そんなことしたら刀夜さんがこっちに来るもの」
「ままならんな〜……。つーことで刀夜、俺らも待ってるわ〜」
律儀なこった。そんなに気を遣わなくてもいいんだけどな。
「…………アリシア、みんな待ってるし起きてくれ」
「ん……んぅ? …………っ!?」
ゆっくりと目を開けたアリシアは俺の顔を見るなり顔を真っ赤にして慌てて起き上がった。
「ご、ごご、ごめんね!?」
「いや、仕方ないだろ」
「はい、アリシア様は直接魔力まで吸われてしまってるんですから」
俺達の中で一番疲労していたのはアリシアだろう。だから誰も怒ることはない。
「んじゃ飯食うか」
「う、うん……」
「ふふ……今日はご主人様が作ってくださったのでとても美味しいですよ」
「お前も手伝ってくれたろ……」
何で俺だけの功績みたいになっているんだろうか?
「待たせて悪いな」
「そりゃーいいけどよー。それよりこれからのことも話さないといけないよなー?」
これからのこと、というのは魔人に関してだろう。確かに重要な話ではあるが……。
「そういえばまとめて銃で撃っちゃったけれどもう全滅したのかしら?」
「そんなに簡単に終わるものなのか? 確かに以前刀夜殿があの研究所に全員集合するだろうと言っていたがそんな簡単に終わるのなら苦労はしないのではないか?」
「はい、私もそう思います」
概ね俺と同じ意見のようだ。あっさりと終わり過ぎて何か怖い。
魔人を創り出すということがどれだけのことなのか。そういう能力があるというのならそれでいいのだがそれが力の一端であるとなった時にあの化け物以上の化け物と対峙する羽目になるわけだ。
「その辺は俺も考えていたが答えはすぐに出るだろ。ほらリルフェン、肉だ」
「ガウ〜♪」
リルフェンに肉を与えながら少し思案する。
「すぐにって……当てはあるのか?」
「わざわざギルド側に情報を与えてまで得た対価があるだろ?」
「うん? あっ、もしかしてクロさんとヒカリさんかな」
「なるほどな〜。もしかしてそれを狙ってギルドにそういうことを頼んだのか〜?」
そりゃあそこまで考えてこそだろう。使えるカードをここで切っただけのことだ。
「あいつらの情報はかなり信用出来る。それに常に敵の位置を把握出来ているというのはかなり大きい」
「ん…………その代わり大食い」
それはヒカリだけなんだがな。食費が凄いことになりそうだ。いや、別に今は金に困っているわけではないのだが。
「それじゃあクロ達が来るまでは待機だな〜」
「そうなるな」
多分すぐに来るだろうけどな。ギルド側にも進捗状況は聞いておくとしよう。