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第80話 不死身の化け物の事情は分からず、されど時は進みゆく

「ガッ! グガァァ!!」


 氷の瓦礫から起き上がってきた化け物は切り裂かれた触手をすぐに元に戻していた。真っ二つになった半身も繋がってしまっている。胸の穴はぽっかりと空いたままだ。


「ふ、不死身なのではないか!?」

「どうだろうな」


 胸に風穴空いたままでも簡単に動くんだな。これじゃあいくら傷を付けようとも効かない可能性すらある。


「はっ……! 楽しくなってきた」

「こんな時に嬉しそうなのは不謹慎だと思うぞ……? って手から血が出ているではないか!?」


 ん? あぁ、さっきのレールガンでの話か。だからアリシアを連れられなくてあえなくぶん投げてしまったんだが。


「アスール殿!」

「ん…………もういる」

「うわっ!? び、びっくりした」


 いつの間にか来ていたアスールである。アリシアを下ろした後にすぐにこちらに来ていたらしい。コウハは驚いた様子だったが俺はもう慣れた。


「ん…………回復」

「魔力は大丈夫か?」

「ん……平気。…………何なら回復の輪も掛ける?」

「それしちまうと魔力本当に無くなるだろ? いざという時の為に残しておけ」

「ん……」


 回復の輪はアスールが考えた二重魔法陣の回復魔法だ。傷付いたそれを本人がいなくとも即座に回復することが出来る代物である。チートだなおい。


「刀夜くん、ありがとう」

「いや、予想外だったしな。それで魔力は平気か?」

「かなり吸われちゃったけど大丈夫だよ」


 それは大丈夫ではないのだが……まぁいいか。魔力主体で戦わないのだから恐らくは大丈夫だろう。


「ひとまず今の情報を集めると身体は再生する、加えて背の触手は柔らかいが触れると魔力を吸われる上に身体が痺れて動けなくなる。そして身体に空けた穴は戻らない、だな」

「どうしてあの穴は戻らないんだろうね?」

「視認魔法で確認しているが恐らくだがあいつの触手には核が存在する。それを破壊したからじゃないか?」


 あの触手は1本1本が全て魔物であるということ。そして空けた風穴は核を的確に貫いたからこそ修復がされないのではないだろうか? その部分の魔物はもう既に死んでいるのだから再生もクソもないはず、というのが推測である。


「もしかしてそれを確認する為に的確に銃で撃ち抜いたってこと?」

「そうだが…………ひとまず見える範囲内での核は後10個って所か。今のを10回繰り返せばいいわけだな」

「絶対に魔力持たないね」


 全くだ。いや、銃で撃ち抜けば恐らくは行けるのだが……。


「あの皮膚の触手が硬すぎるのは考えものだな。鉱物なら鍛冶魔法で1撃なのにな」

「そうなんだよね……」


 まぁ違うものをねだっても仕方ないだろう。


「あいつアホっぽいしもう一回同じ作戦で行ってみるか」

「アホっぽいって……」

「多分理性の欠片もないぞ。一番危険なのはお前らだが……大丈夫か?」

「平気だよ!」

「うむ!」


 問題ないようだ。頼りになって何よりだな。

 先程のフォーメーションのまま俺は後衛と一緒に銃を構えて隙を伺う。


「核なんて見えるかしら?」

「ん? あー、ほれ、ちょっと薄く光ってるのがそうじゃないか? 核って言ったけどあんま自信ない」

「薄く?」


 マオがじーっと目を細めて見つめる。


「あら、本当ね。けれどよく見つけたわね」

「そりゃ観察してろって言われりゃするだろ」


 よく観察して弱点の1つでも見つけないとあいつらが命を張っている意味がなくなってしまう。


「なら私も付き合うわ。刀夜さんは私の護衛を頼めるかしら?」

「そりゃいいけどって……それ使うのか」


 俺が製作したマオの最大火力の武器である。マオが取り出したのは超巨大な、おおよそ女の子が持つものではないくらいの弓である。そしてこれ専用の矢はない。


「1撃で2、3潰れてくれればいいけれど」

「むしろ身体吹っ飛ばしそうだけどな」


 矢の代わりにマオが使用するのは槍だ。これは槍を放つ為の弓ということである。うん、なんかとんでもないものを作ってしまったものだ。要望を出したのはマオだけど。

 獣人殺しの時以来自身の火力不足を気にしていたらしい。ということで矢を打つのではなく槍を撃つことでそれを得ようと考えたのだ。実際間近で見るととんでもねぇな……。


「また妙なもん作ってんな〜」

「火力はルナちゃんやアスールちゃんのあれには劣るのだけれどね」

「破壊力はな。貫通力はアリシアのそれとは比較にならないだろ」


 動きながら戦う前衛職には無理な武器だろう。それに後衛も身動きが取れないのだから当然護衛は必要だ。


「試し打ちしてもいいかしら?」

「いいんじゃねぇか?」

「じゃあ試してみるわね」


 といいながらも標準は化け物へ。触手が全てコウハの方に向けられたその瞬間、それは放たれた。

 空気を叩きつけるかのような甲高い音が鳴り響き、瞬きすることすら許さない速度で槍は迫る。

 当然槍にもギミック付きである。高速で回転されるように風魔法を、そして先端には雷魔法を付与してある。炎魔法も加えたかったのだがそれをしてしまうと大きく斜線がブレてしまい狙った位置に定まらないということから除外した。その実験で外した際のマオの顔は自分を許せないとばかりの表情だった。プロだな。

 槍は見事に化け物の右肩から左肩にかけてを貫き、核を3つも破壊した。怖い。


「いけそうね。もう1撃するわ」


 すぐに次弾装填である。弓は身体全体を使っているので俺のように手が裂けたりはないらしい。羨ましいことだ。かといって俺は普通の弓でもコントロールが怪しいのだ、こんなもの使えもしないけど。

 残る核は見える範囲では6つ。俺は大きくよろめく化け物目掛けてレールガンをぶっ放した。

 それは見事に化け物の左足の核を破壊し、化け物はその場に倒れ込む。


「双雷撃槍!」


 その隙に跳躍したアリシアの槍が右足の核を貫いて破壊した。アリシアはそのまま槍を持ち上げ化け物を宙に浮かせる。


「神速の一閃!」


 更に連撃、ムイの一撃が背の触手を全て切断する。これでこいつの大きな攻撃は使えない。更に隙だらけとなった。


「破壊の炎撃!!」


 炎を纏ったコウハの大剣が化け物の身体を真っ二つにする。更に核が2つ破壊される。


「これで……終わりよ!」


 最後にマオの槍が放たれ、化け物の残りの核を全て破壊しながら大きく吹き飛ばした。俺が言うのもなんだが全員容赦ねぇな……。


「刀夜」

「ん?」

「お前兵器作り過ぎじゃねーか?」

「別に兵器じゃねぇよ。全部魔剣に分類するだろ?」

「外気の魔力使ってプラス特技で上乗せ出来るのは魔剣じゃねーよ……」


 確かにそうかもしれないな。でも別に問題はないだろう。


「そりゃ俺達は」

「最強ですから!」


 ルナにセリフを取られてしまった。しかも嬉しそうに俺の肩から顔を出しながら。可愛いから許す。


「…………最後余裕」

「核10個は厳しいと思ったんだけどね」

「刀夜殿とマオ殿が隙を作ってくれたお陰だ」


 前衛組も帰ってきてひとまず終わりだ。俺は身体を大きく伸ばすと血が吹き出た。


「あ」


 そういや最後に撃ったんだから当然俺の手も裂けているはずだ。しかし俺今日全然活躍してない気がする。

 しかしこれで魔人事件は終わりなのか? 元凶もここにいたとすれば死んでいると思ってもいい……はずだが。

 魔人を作るような奴だぞ……? そんな簡単に死ぬのか?


「納得いってないって感じだな〜」

「まぁそうだな。ちょっと気になることもあるしな」


 ギルド側も色々としてくれているはずだ。クロが合流すれば安否や居場所も分かるだろう。多分だが……。


「ひとまず帰るか」

「うむ、そうだな。刀夜殿も疲れているだろうし」

「なんで俺だけ……?」


 お前らも同じことしてんだけど。


「…………回復」


 アスールに手を回復してもらい帰ろうとした瞬間、氷の瓦礫が崩れた。下半身は埋まったままだが上半身だけメディシーナ・リーベが顔を出した。

 まだ生きているようだ。暴走状態は終わっており、既に放っておいても死ぬだろう。


「…………まだ来るのね」

「マオ」


 マオが弓を構えようとするが手で制した。そのまま歩き出す。


「と、刀夜くん!」

「危ないです!」

「大丈夫だから心配するな。油断はしない」


 せっかくの機会だ、聞いておきたいことがあったのだ。別に魔人に関してではなく、個人的な恨みである。

 メディシーナ・リーベを助ける必要性を感じない。こいつはフレイやクロやヒカリとは違う。


「き……さま!」


 ボロボロの腕を伸ばして俺の足を掴もうとしてくる。が、届かない。俺は無慈悲に話し掛けた。


「リケラ・ソーサリーを選んだ理由と獣人族を襲わせた理由を吐け」

「何故貴様などに……俺が話す理由はない」

「そうかよ」


 刀を抜くと首元に突き付ける。別に聞きたいわけじゃない、ただ知っておきたかったのだ。ミケラを苦しめ、マオを狙った理由を。

 まともに聞くような奴ではないのは分かっている。こいつに対して俺が何か示す対価もなければこいつが俺に対して話す理由がないのも確かだ。


「…………」


 何も感情は動かなかった。動かした刀は易々とメディシーナ・リーベの首を刎ね、その生命を終わらせた。

 刀に付着した血を振り払うとゆっくりと鞘に納める。魔人の死体は銃で焼却しておいた。一瞬また魔力を吸われるのではと心配はしたがこのまま放置して妙な事になる方が問題だという判断からだった。

 ルナ達の元へと戻ると聞こえていたのだろうコウハとマオは心配そうに俺を見つめる。


「…………刀夜さん、そこまで気にしなくていいのよ?」

「別に気にしたわけじゃねぇよ。ただ……理由があるなら聞きたかっただけだ」


 俺達が敵と見定めたリケラは実際は敵ではなくただの被害者だった。もちろんそれでもその状況下に陥ったリケラが悪いという意見は変わらない。


「一体何のお話ですか?」

「刀夜さんのいつものよ。余計な気を回し過ぎなのよ」

「余計って何だ。それに別に気を回したわけじゃない」


 そう、別に気を回したわけじゃないのだ。俺が単に知りたかっただけで。


「種族間の争いというのは刀夜さんが思っているよりも根強いのよ。だから……例え魔人だとしてもそれは例外じゃないわ。私達がメディシーナ・リーベに何かしていたとしても不思議じゃないもの」

「…………そうか」


 やはり世界はそれを知る機会を与えてはくれないらしい。生き物はいつだって自分の事情でしか動かない。だから……。


「帰るか」

「そうね」


 この件を今俺が気にしたとしてもそれは世界にとってはきっと大したことはないのだろう。だが俺だけはそれを大切にしたい。敵だろうと味方だろうとそれぞれ何かを考え、何かを成そうとしているのだから。

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