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第78話 萩 刀夜vsメディシーナ・リーベ

 2人によって研究所は見事に倒壊した。最後の1発を残すのみということになるが、当然奥地にいるのがボスというものである。


「が……がが……」


 しかしそのボスも見るも無残な姿で現れた。もう人間なのか化け物なのかも分からないレベルだ。火傷で既にボロボロである。

 角を見るに恐らくはメディシーナ・リーベだろう。既に虫の息な訳だが。


「油断するなよ」

「はい、撃ちますね」

「え、お、おう」


 容赦無さ過ぎてちょっと引いた。火傷をしている相手にも全力である。

 ルナの例の最高火力でメディシーナ・リーベを撃ってみた。やり過ぎな気はしない事もないが油断が出来ない以上は仕方のない話か。

 避ける事も出来ずに直撃したものの異常な事態が発生してしまう。


「なっ!? 魔力を吸収してる!?」

「あー、面倒くせぇ……」


 やっぱりタダでは終わってくれないのがこの世界だ。メディシーナ・リーベはルナの放つ魔力をどんどんと吸い上げ、身体の火傷が瞬時に治ってしまった。

 ルナが慌てて魔法を切り上げるがもう遅い。メディシーナ・リーベはどこからか幾つもの薬品を取り出した。

 裸の男が立っているという様はちょっと違和感。寒くないのだろうか?


「ガウ!」

「ん?」


 リルフェンが何やら提案があるようだ。俺のズボンを甘噛みして引っ張ってくる。


「ガウガウガウ!」

「あら、いいわねそれ」

「……?」


 リルフェンは何を言ってんだろうか? マオが認めるってことは割と問題ないのかもしれないが。


「早くやりなさい! 間に合わなくなるわよ!?」

「ガウ!」


 あ、話してくれる余裕はなさそうだな。リルフェンは魔法陣を展開すると色々な中級属性魔法を放った。


「犬畜生が! 見てなかったのかぁ!」

「犬畜生とか今現在聞かないな」


 腕を突き出したメディシーナ・リーベはそれらの魔法を吸収し始める。幾つか外れた魔法が周囲の氷を破壊し、足場を崩す。


「うお!?」


 メディシーナ・リーベはその場に手を付いてバランスを保とうとする。しかしその状況に紛れて近付いたリルフェンがメディシーナ・リーベの腕目掛けてタックルをかました。


「ぐわ!?」


 そういやあれって戦闘力はそんなに高くないって言ってたっけ? 厄介な薬を使われる前に殺しちまった方が良いということか。

 というわけでリルフェンの意図を汲んで俺も一気に突っ込んだ。こいつにはまだ意識がある。序盤でこいつの計画は崩したはずだがまだ何かあるかもしれない。

 賢い奴に知能で勝負するなど馬鹿のする行為だ。相手の得意分野にわざわざ付き合うつもりもなければ即殺処分に限る。


「神速の風刃!」


 一気に距離を詰めてその首を切り落とす。これで終わり、というわけにはいかないか。


「リルフェン!」

「ガウ!」


 リルフェンがこちらにやってきたので抱っこして足に炎を纏わせ思い切り跳躍する。炎魔法による逆噴射で一気に上空へと避難した。

 切り落としたメディシーナ・リーベの死体は氷の地面を突き破って出てきた巨大なタコの触手のようなものに掴まれて下に引きずり込まれていった。


「はははっ! この私が分身を用意していないはずがなかろう!」

「うーわ、面倒くさ」


 何だろうかこの面倒くささ。別に動じもしないがこの中ボス感が凄いうざい。


「ガウガウ……」

「ん? あぁ、仕留められなかったのは気にしなくていいぞ。というか俺もそれに入るんだけど」

「ガウガウ!」

「慰めてくれてるんだろうけどすまん。分からん」


 やはりマオがいないと話にもならないな。風魔法で方向を修正してルナ達の元へと戻ってくる。しっかし面倒くせぇ。


「もうあのタコ放置していいんじゃね?」

「何言ってるんだ!? あんなのを残しておいたらとんでもないことになるだろう!?」

「そうか? まぁそうか……」


 別に問題ないんじゃなかろうか。というかなんでタコなんだろう?


「…………触手もの。……18禁」

「悪いが俺は触手には興味ないな……」

「…………じゃあ殺す」


 早いなおい。


「魔法も通じませんし、どう致しましょうか?」

「女性陣は却下で。触手と美人はロクな未来にならない気がする」

「…………男の子だけ? ……誰得?」


 いや別に得とかないから。それよりもやはりこの相手は男だけでやらないとな。ムイやミケラに触手に絡まるこいつらを見せるわけにはいかない。


「援護くらいはするわよ。けれど魔法は効かないのよね……」

「まぁお前らはここにいろ、援護は最低限でいい。ムイ、ミケラ、行くぞ」

「え、あ、うん」

「別にいいけどよー」


 ムイとミケラと3人で下へと降りる。触手が氷の中へと戻っていき、中央から人形の白衣の男が現れた。

 眼鏡を掛けた中年のおっさんだ。短髪で優しげな瞳をした青髭が残る男である。

 こんな優男がさっきまで犬畜生とか言ってたわけだ。人は見かけには寄らないとはよく言ったものである。いや、この場合人じゃなくて魔人か?


「なんであの子ら連れて行かないんだ〜?」

「だから触手と美女の組み合わせは駄目だって言ったろ」

「真面目な話だ。あの魔人が一番厄介だろ」


 顔を寄せて小声で話してくる。それをしても多分コウハとマオには聞こえちまうだろうけどな。


「危険だからこそそういう目に遭わせたくないだけだ。それより戦闘力はないからって気を付けろよ。薬で一撃で終わる可能性もあるぞ」

「その上魔法は吸収されるんだよね」


 さて、どうしたものか……なんて答えは決まってるけどな。


「俺が攻めて殺すから援護よろしく。つってもムイはミケラの護衛だしミケラは魔法効かないからほぼ待機みたいなもんだけどな。適当に頼む」

「雑だなおい!?」

「いいんだよ雑で」


 相手の方が頭が良い可能性が高い。ということで頭脳勝負なんてする気は無いので作戦など無駄だ。


「んじゃ適当によろしくってことで」


 俺は足に力を込めると一気に突っ込んだ。懐から銃を取り出してそれを乱射しながら。


「効くかぁ!」


 メディシーナ・リーベは腕を触手に変えて銃弾を弾く。触れるだけで爆破するのだがその爆破に関しては見事に吸収されていた。

 本当に銃は通用しないようだ。だがまぁどうでもいいしな。重要なのは銃弾は弾いたという事実。それだけだからな。


「ふっ!」


 更に触手は分裂して二股へ、それらが左右から俺の突進を妨げてくる。

 俺はそれらを躱しながら突撃をやめて側面へと回り込む。メディシーナ・リーベのもう片方の腕が更に触手となり、3本もの触手が一斉に襲ってくる。


「どうしたもんかな……」


 サブミッションも完璧か。一見隙だらけに見えるがいつどこでどう触手が襲ってくるのか分からない。

 物理的な攻撃は効くようだが残念ながら近付くことすら許してくれなさそうだ。


「仕方ねぇな……」


 俺は鞄から5本もの刀を取り出して操作魔法で宙に浮かせる。1つ1つが俺のオリジナル性だ。

 更にもう一本刀を創り出す。こちらは普通の刀であるが試すには丁度良い。

 振り下ろされる触手を躱しながら刀で斬り上げる。触手はスパンッ!と綺麗に斬り裂かれた。


「問題なし……か」


 刀をメディシーナ・リーベにぶん投げると更に二股に分かれた触手な弾かれてしまう。触手4本か。


「さて、本気でやるか」


 周囲に浮かせた刀を散らしながら触手を躱す。

 1本の刀の切っ先をメディシーナ・リーベに向けて一気に突っ込ませる。


「ふんっ」


 触手の1本がそれを弾こうとする。しかし回転を加え、更に雷魔法を纏わせたその刀は貫通力に優れており、触手をあっさりと貫通した。


「何っ!?」


 目を大きく見開いたメディシーナ・リーベ。貫通してくるとは思わなかったのだろう。さて、どう防ぐ気だ?

 貫通力を高めた刀のはずだが雷魔法がいつの間にか消えている。恐らく触手を貫くと同時に吸い込まれてしまったのだろう。

 まぁいい。俺も同時に突っ込んでしまおう。

 俺は深く踏み込むと一気に駆け出す。触手が刀の方に注目しているので突っ込みやすい。


「神速の……!」


 刀の間合いに入ると特技を使用しようとする。後方は俺が、前方は刀が突っ込んできている。どう対処するつもりだ?


「ふっ」


 薄く笑ったメディシーナ・リーベは懐から取り出した試験管を落とす。俺は咄嗟に後ろに下がろうとしたものの触手が行く手を阻む。


「神速の風刃!」


 くるりと回転して触手を切断しながら距離を取る。メディシーナ・リーベは痛みを感じている様子はなく、あっさりと飛んできた刀を躱した。

 試験管が壊れて青い煙が舞い上がる。恐らくメディシーナ・リーベには抗体のある薬品なのだろう。


「…………なるほど。私がこうすることをあらかじめ読んでいたような動きだ。萩 刀夜、厄介な敵であることを認めざるを得ないようだ」

「そりゃどうも。つっても認める云々はどうでもいい。さっさと死んでくれ」


 俺は全ての刀の切っ先をメディシーナ・リーベに向ける。大切なのは目の前の情報のみ。やはりこいつには絶対に知能で戦えない。

 こちらの動きを読まれている節がある。もちろん俺にもまだ見せていない技が幾つかあるが使い時をミスれば不利になってしまう。

 対策を立てる立てないでは戦闘に大きく影響を及ぼしてしまう。戦略では勝てないのだ、出来るだけこちらの情報は向こうには渡せない。

 しけしやはりこいつは戦闘向きではない。自分で戦うことに慣れていないのだろう。動きが単調過ぎる気がする。


「…………」


 こういう相手に対して有効なのは虚をつくこと。つまりは油断させるのが一番手っ取り早い。

 一気に踏み込むと再度突っ込む。周囲の刀全てをメディシーナ・リーベに向かって射出する。


「多角的に攻めるのは浅野 ユキで学んだようだな。だがしかしその程度では私は倒せない!」


 更に触手が三股に分かれ、合計6本となる。それぞれの触手が5本の刀、そして俺に向かって振り下ろされる。

 そういやこいつ、いつの間にか触手が生え治ってるな。高速再生まであるのか。いや、先程の薬は時間を戻すそれだったのかもしれない。

 何にしても一番厄介なのは薬だ。だからこれで問題ないはず。

 刀を振り上げて触手を斬り飛ばそうとしたその瞬間、高速の矢が幾つも突き刺さり、振り下ろす触手の軌道を変えて俺に対する直撃を避けた。


「頼りになり過ぎて困るんだよな……」


 ひとまずワンテンポ遅らせることもなく俺はメディシーナ・リーベに向かって突っ込んだ。他の刀達も雷魔法を纏って触手を貫通してくる。


「あー」


 メディシーナ・リーベは口を開くと突然口から触手が飛び出してきた。驚いたものの咄嗟に半身ななることで頬を掠める程度に被害を抑える事が出来た。

 そのまま半回転して刀でメディシーナ・リーベに対して斬り上げを行う。


「っ!?」


 しかし俺の身体は突然止まってしまった。な、何だ? 身体が動かない?

 その場で片膝を付いてしまう。ピクリとしか動かない身体は自分の身体ではないかのように全く言うことを聞いてくれなかった。


「ふふ、痺れ薬だよ。身体が動かないだろう?」


 こいつ……!

 メディシーナ・リーベは落ち着いた様子で全ての刀を躱す。それは俺に当たらないようにと避けたはずの軌道だった。

 俺の攻撃全てがこいつに読まれてるってか? どんな化け物だよそれ!


「これで終わりだな」

「…………どうかな?」


 俺はニヤリと笑みを浮かべる。この状態で動けなくなるのはあくまでも身体のみ。ならば別に問題はない。

 地面に魔法陣を2つ同時に展開する。緑色の魔法陣が2つ、それも重ねられた状態でだ。


「な、何!?」

「腕スパーンって魔法だけどな」


 突如として舞い上がった竜巻が俺達を包み込む。上級属性魔法に匹敵するそれは触れるだけで身体が切り刻まれてしまう。

 俺の身体に纏わせるとライジンの影響で自身の身体を切り裂いてしまう。しかしこうして空中で展開したり地面で展開したりすることで固定することが出来るのだ。発案者はルナだけど……。


「だからなんだというのだ! このまま貴様を殺せば同じこと!」

「そうだな」


 しかしそれは不可能というものだ。メディシーナ・リーベが立つ氷にいきなり亀裂が走る。


「っ!?」

「死ね」


 突き抜けてきた雷を纏った槍がメディシーナ・リーベの腹部に突き刺さり、宙に押し上がる。

 風魔法を解くと同時に更に周囲の刀がメディシーナ・リーベの身体に突き刺さっていく。


「が……がはっ!」


 吐血したメディシーナ・リーベ。突き刺さった刀や槍が貫通してメディシーナ・リーベが落下してくる。

 身体が動かない。が、俺の意図は伝わっていたのかそうでないのか。

 ひとまずこれは俺にとっての誤算だった。その仕事はムイにさせるつもりだったんだが。


「はぁぁぁぁ! 破壊の炎撃!」


 コウハがいつの間にか来ていた。炎を纏った大剣が落下するメディシーナ・リーベの角を見事に斬り飛ばした。

 クロの時もそうだったが角を切られた魔人は著しく戦闘力が落ちる。もうこいつはライジンの速度にも付いては来れないだろう。


「刀夜殿! 大丈夫か!?」

「俺はいいから早くそいつの身包み全部剥がせ!」

「え、えぇ!?」


 コウハには悪いが必要なことだ。全裸にひん剥いていいくらいだと思う。

 顔を真っ赤にしたコウハだったが俺の言葉に忠実できちんと服を全て破っていた。色々な所に仕掛けてあった薬品を全て取り上げることに成功したのだった。

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