第77話 圧倒的なまでの最強は誰にも止められない
ドラゴンの群れを片付けると攻撃の手が止まる。これを機会に研究所を崩壊させたいわけだが……。
流石に体力が心配になって来たのでルナ達の元へと戻る。ムイとミケラが微妙そうな表情を浮かべていた。
「す、凄いね……」
「お前会う度に訳分からなくなるなぁ〜」
「何言ってんだ? とにかくまぁそんな感じだから、ほい」
鞄から同じ装備を出してムイとミケラにぶん投げる。ムイには俺と同じタイプの剣を、ミケラにはルナと同様の効力の色違いの黄色のリストバンドを。もちろんリストバンド自体は俺達全員が付けてるんだけど。
「わわっ!?」
「お前こういうの易々と渡すなよ〜」
「別に困るもんじゃないしな。お前らが死なれる方が問題だろ」
さて、そろそろ完璧にぶち壊すか。
「ルナ、ラスト頼む」
「はい♪」
ルナは大きく脚を開いて拳銃を真っ直ぐに研究所に向かって構える。
「行きますね」
にっこりと女神の如き微笑みを浮かべるものの やる事はえげつないんだよな。
ルナが魔法陣を空中に同時に展開する。更に銃口からも魔法陣を展開、多重に重ねられた魔法陣が真っ直ぐに研究所に向けられる。
「な、何だそれ!?」
「あー、魔法陣の重ね掛けってあるだろ? エルフ族の技術でそれを更に重ねまくるってのがあってな。ルナだけの特別性」
流石に俺もこれは真似出来ない。色々な魔法陣を組み合わせるだとかそんな難解なことは俺には出来なかった。
もちろん魔力は全て銃から発射される外気の魔力を使用しているので問題はないのだが……。
「耳塞いだ方が良いと思うぞ?」
「う、うむ……」
「そうね……」
「ガウ……」
普通の聴力の俺達でもうるせぇくらいだからな。優れているコウハ、マオ、リルフェンはかなり厳しいものがあるだろう。
「撃ちます!」
ルナが引き金を引くと超巨大なビームが研究所を呑み込んで一気に焼失させる。おー、よく燃え散るな。
キィィィィンとおよそ炎魔法や銃では鳴らないような甲高い音が響く。研究所はどんどんと燃え散ってしまい、跡形も無くなっていく。
「っ! ルナ!」
「っ!?」
俺の声に咄嗟にルナが銃を撃つのをやめる。同時にビームを抜けてきた黒い影がルナに向かって鋭い腕を突き出してきた。
「縮地!」
俺は即座にその黒い影との距離を詰めた。一瞬で敵との距離を詰める縮地というものだ。敵がいなければ使えない上に姿を認識した上で初めて使用出来るという制限付きの特技ではあるが奇襲に対してはかなり有効だ。
「閃脚!」
神速の一閃の蹴りバージョンで黒い影を真下に蹴り落とす。人型のそいつはシャドウフレイムと変わらない。
ということはもしかしてシャドウフレイムもこいつらの作り出した生物だということか? 街の中に侵入するようにしたってことか?
魔人というのはこの世界の生態系に大きく影響を与えている。それどころか俺の仲間にまで大きな影響を与えたと?
「殺す!」
俺は空を蹴ると落下する黒い影を追う。
「と、刀夜くん! 深追いは!」
「…………んっ!」
「うぉ!? あ、アスール?」
飛んだきたアスールに身体を掴まれてそのまま宙へ浮遊する。女の子が男の俺を片手で支えて飛ぶって絵面的に凄いんだろうな……。
「…………落ち着く」
「いや、でもな?」
「ん…………何となく考えてること分かる。……でも落ち着いて」
一番飛び出したいのはアスールだったのかもしれない。それでも俺の生死を優先してくれ、こうして止めてくれた。
「悪い……」
「ん…………でもありがと」
「礼を言うのは俺の方なんだけどな」
そうだ、ここで命を落としている暇はない。それよりもあの化け物はルナの最高火力にも耐えうるんだ。物理攻撃は通用するようだが。
みんなの元へと戻るとにっこりと微笑んだルナに迎えられる。うん、怖い。笑顔なのが怖い。
「ご主人様?」
「ひゃい!?」
「駄目ですよ? 1人で先走らないでください」
「す、すいませんでした……?」
あれ、なんか優しい?
「ん…………それよりさっきのはやっぱりシャドウフレイム?」
「多分そうじゃないかな? でもその……かなり強くなってたね」
「はい、私の魔法も通じませんでした……。私もまだまだですね……」
あ、あれ……?
「お、俺怒られる流れじゃなかったか?」
「私達は知らないけれどアスールちゃんの事を想ってなのでしょう?」
「うむ、それならルナ殿も怒らないだろう」
そ、そうなのか。でも単に俺が気に食わなかっただけだったんだがな。まぁルナに怒られなくてよかったと思っていればいいか……?
「…………とりあえず全員回復?」
「そうだな」
「ん……」
アスールに回復魔法を掛けてもらって全回復。ひとまずあの影はシャドウフレイムのそれとは大きく性能が違うのは理解した。
鋭利な槍のような腕を駆使して戦うようだ。魔法耐性があり、物理攻撃で戦うことを強いられるわけだが……。
「…………」
下を覗くと青い血のような魔力がどんどんと身体を纏っていく。以前にも見たことがあるが連続攻撃が必須というわけである。
前回は生身であれば魔法も通用したはずだ。今回はそれが効かないようになっているということは以前の銃の対策をしているという事に他ならない。
が、向こうも誤算だろう。こちらは特技に関してもかなり熟知していることを。
氷の壁を恐ろしいくらいの脚力で走り上がってくる黒い影。名前を付けるとすればシャドウランサーとでも言うべきだろうか?
「双雷の矢!」
シャドウランサーの突撃をマオが迎撃する。しかし腕の槍が矢を平然と弾いてしまう。
「面倒な相手ね」
「…………私の出番」
アスールが意気揚々と前に出るわけだがかなり危険なの分かってんだろうか?
魔法に関してはルナの独壇場、回復魔法や防御魔法は残念ながら付与出来ない為に俺にはどうすることも出来なかった。
そう、出来ないはずだった。しかしアスールがしてきた提案はおおよそ僧侶の役職とはかけ離れたものだった。
アスールが翼を広げて落下するように一気にシャドウランサーとの距離を詰める。迎撃に出たシャドウランサーだがその槍がアスールに届くことはない。
アスールの高密度に重ねられた防御魔法は恐ろしいくらいに硬い。それもそのはず硬化魔法を防御魔法に付与してそれを何枚も重ねているのだから当然だ。
シャドウランサーの槍を防いだアスールは拳を強く握り締める。まさか……。
「お前らそっちに飛び移れ!」
咄嗟に俺達は距離を取った。俺達は全員アスールが何をするのか分かっているので行動が早いがムイとミケラは別だ。
刀を鞘に戻して2人を抱えて大きく跳躍する。しかし距離的に側面の壁には届かなさそうだ。
「ご主人様!」
ルナが咄嗟に氷魔法で足場を作ってくれてなんとか全員その場から離脱することが出来た。
「ちょ、アスールちゃんが!」
「まぁ見てろよ」
2人を抱えながら後ろを向くと今まさにそれが行われた最中だった。
肘当てから炎魔法が発生し逆噴射して更にその威力が高まる。リストバンドから更に白い魔法陣が展開される。
「……えいっ」
可愛らしい掛け声と共に振り下ろされた拳はシャドウランサーの頬を見事に捉えた。
魔力の衣がアスールの拳を受け止めようとまるでゴムのようにへこむ。しかし……。
パァン!と破裂するように魔力が散ってしまい、また拳はシャドウランサーの生身の身体にまで達した。瞬間まるで飛び散るようにその衝撃に耐え切れずシャドウランサーの身体が粉々に吹き飛んだ。その衝撃波で先程俺達が立っていた氷の壁は大きく大破してしまい崩れてしまう。
「…………なぁにあれ」
「な、何をしたんだい!?」
案の定2人は驚いていた。無理もない、俺も最初言われた時はめちゃくちゃなこと考えるなと思ったものだ。
「あいつの天職は僧侶なのは分かるよな? 身体強化魔法、それに強化魔法で俺達とあいつの身体能力を向上させてるだろ?」
「そうだな〜」
「それにプラスで硬化魔法も使用してる。俺が作った肘当てで炎のブーストを作って攻撃力を底上げ、更にリストバンドから強化魔法を付与してもう一段階底上げしてる」
「お、おう……」
いやまぁそこまではいいんだけどな? それだけであの威力なわけだしな。
「周りの地形に影響を及ぼすのはそんだけ」
「ん? どういうことだ〜?」
「言ったろ、あいつは僧侶で援護がメインだと。あれで殴る瞬間にいろんなデバフを相手に掛けてる。だから流石のあの化け物でも身体が持つ訳がないわけだな」
確か念の為にと強化解除魔法と防御力低下魔法、加えて衝撃が一点に集中するとかいう焦点魔法とかで衝撃を逃がさないようにしてる。うん、これこそチート。
特級属性魔法にも匹敵するレベルに難しい魔法を幾つも覚えたのだ。かなり努力したのは認めるがそれでもこれはセコ過ぎる。
「実質ウチのツートップは現状ルナとアスールだと思う」
「マジかよ〜」
まぁ単純な火力で言えばの話だが。しかしルナのあのビームは自分は動けない上に自分の視界をあれで塞いでしまうという弱点があるしアスールのあれも魔力を消費してしまうので乱用出来るものでもない。
全てを叶えようとするのは不可能だった。もちろんそれが出来る万能な能力などこの世には存在しないわけだが。
「何でお前の周りってそんなに異質な奴ばっか集まるんだ?」
「いや、俺に言われても。というかアスールは別に異質じゃない。可愛い女の子だ、異論は認めん」
「溺愛し過ぎだろ……」
当然だ、恋人なんだぞ? 溺愛して何が悪いんだろうか?
「…………終わった」
「お疲れさん。序盤からそこまで飛ばさなくていいぞ?」
「…………短期決戦じゃないの?」
「短期決戦だが他に回しても別に構わないぞ? さて、ルナとアリシアは研究所ぶち壊しの続き頼む。多分もう潰せんだろ?」
ルナのあの一撃をもう撃つ必要もないはずだ。隙だらけになる攻撃は避けたいからな。
またあのシャドウランサーのような化け物が出る可能性も高い。このまま終わるようなら簡単な相手だが流石にそれはないだろう。
「では撃ちますね」
「ルナさん右側をお願い出来るかな?」
「分かりました。アリシア様は左側ですね」
分担して銃を乱射する2人を見て少し微妙な気持ちになった。たくましく成長し過ぎだな、うん。