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特別編コウハ視点第4話 恩返しをしたい

 刀夜殿達の助力もあって少しずつではあるがエルフ族の皆とも打ち解け始めて来た。刀夜殿はいつの間にか数人のエルフ族と仲良くなって魔法を教えてもらっていたりと見事なコミュニケーション能力を発揮していた。

 いや、実際は恐らく刀夜殿が選り好みしているのだろう。テイル殿もいるようだったし、恐らくはそういう人達を集めたのだ。

 人を引き付けてしまう魅力というのが刀夜殿にはあるからな。そして私もそれに釣られた1人だ。

 私もそれなりに色々な人と話すようになった。エルフ族だけでなく獣人族も好意的にしてくれるから本当に幸せだ。


「ふふ……」

「ん? どうした?」


 今日は特に出掛ける用事もない。刀夜殿はソファに座って獣人族やエルフ族から借りた本を読み漁っている。ちなみにルナ殿も同じようだ。

 私がつい笑みを浮かべてしまうと隣にいた刀夜殿がキョトンとした顔で本から顔を上げた。


「いや、幸せだなと思っただけだ」

「…………そうか」


 無愛想な返事だったが刀夜殿は物凄く優しい表情を浮かべていた。それが何よりも嬉しい。

 私は刀夜殿に何を返せるだろうか? ここまでしてもらったのに返せるものが何も思い付かない。


「刀夜殿、何かして欲しいことはないか?」

「して欲しいこと? …………そうだな、特にはないけどな」

「そうか……」


 そう簡単に見つかるものでもないだろう。うぅ、しかし私は刀夜殿に何かしてあげたい。いや、したい。私は刀夜殿の役に立ちたい。

 刀夜殿が喜ぶことは何だろうか? 普段から刀夜殿がしていること……む、胸を揉ませるとかか?


「っ……!」


 急に頬が熱くなってしまった。わ、私は何を考えているんだ!? そんなのは痴女だろう!?


「コウハ?」

「な、何だ!?」

「顔真っ赤だぞ。何かあったか?」

「な、何でもないぞ! 何でも!」


 刀夜殿に不審がられてしまった。慌てて否定したが刀夜殿は訝しむように目を細める。


「何か隠してるな?」

「何も隠していない! その……刀夜殿がどうすれば喜んでくれるか考えてただけだ」


 って私は何を言ってるんだ!? こんなの刀夜殿もキョトンとするに決まっているのに。


「と、刀夜殿?」

「今顔見るな」


 刀夜殿は明後日の方向を向いていた。あ、あれ、耳まで真っ赤になっていないか?


「ふふ……不意打ちでしたね」

「びっくりしたぞ……」

「不意打ち?」


 ルナ殿は何を言っているんだろうか? 不意打ちって……それに何故刀夜殿が今度は真っ赤になっているんだ?


「無自覚か。まぁ確かにコウハはそっち関係疎いからな」

「ご主人様もですよ?」

「いや……そうかもしれんが流石に今のは分かるぞ?」


 2人は何の話をしているのだろう? 私のことについてなのだろうが無自覚? 疎い?


「そ、そういうのはもういいんだ。それより刀夜殿、やはりして欲しいことはないか?」

「んー…………いや、特にはないな」


 刀夜殿は少し考え込むがやはり何もないようだった。なら私はどうやって刀夜殿の役に立てばいいのだろう?


「コウハ様、良い方法がありますよ」

「ほ、本当か!?」


 ルナ殿が耳打ちで教えてくれる。


「ご主人様は昨日もお休みになっておりません。実は私がしようとしていたんですがそろそろお昼寝するように促すつもりでしたので添い寝してあげてください」

「い、いいのか?」

「エルフ族の事のお礼をしたいんですよね? なら今日は譲りますよ?」


 ルナ殿は本当に大人だ。それに優し過ぎて涙が出そうになってしまう。


「ありがとう!」

「いえいえ。ですが今度は譲りませんよ?」


 そんなことを言いながらも言えばお邪魔させてもらえるんだろう。ルナ殿も私のことを気遣ってくれているんだな。

 刀夜殿だけでなくルナ殿にも何かしないと! でもやっぱり一番悩ませてしまった刀夜殿が一番だろう。


「と、刀夜殿!」

「ん?」

「ひ、昼寝したくはないか!?」


 声が上ずってしまった! 刀夜殿に不審に思われてしまった!


「昼寝……? あー、もしかして俺が寝てないの分かってるのか」

「う、うむ」


 本当は全く分からなかった。でも刀夜殿は朝は自分の部屋から出てきたはずだ。ルナ殿はどこで見分けているんだろうか?


「でももうちょい読んでたいんだよな……。駄目か?」

「身体には気を遣って欲しい。前に体調を崩したのを忘れたのか?」

「うっ……それを言われると痛いんだが。でも今更なんだからもういいと思うんだが」


 確かに今更だろう。何日徹夜しても刀夜殿は平気そうな顔をしているし。でも実際は平気じゃないし頑張っている証拠だ。

 刀夜殿はそういった努力を全く感じさせないような言動を取ってしまう。それがさも当然であるかのように。

 いや、刀夜殿にとっては本当に当然のことをしているだけなのかもしれない。だとすればその才能は天性のものなのかもしれない。


「ご主人様、心配になるのでお休みください。ご主人様が体調を崩して苦しんでおられるのを見るのは辛いです……」

「ルナ……」


 刀夜殿は恥ずかしげに頬をかくと小さく溜息を吐いた。


「分かった……大人しく休む」

「と、刀夜殿。私も一緒していいだろうか?」

「ん? 昼寝に? 別にいいけど」


 やった! いや、刀夜殿のことだ、断られることはないと思っていたが……。


「んじゃ部屋行くか……」


 刀夜殿は名残惜しそうに本をテーブルに置くと腕を回して肩をほぐす。


「肩が凝ってしまったいるのか?」

「ん? まぁそうかもな」

「そ、そうか……」


 肩こりか。本当ならルナ殿に任せた方がいいのかもしれないが……でも私だって刀夜殿を癒したい!


「早く行こう!」

「分かったから別に引っ張らなくても」


 刀夜殿の腕を掴んで引っ張っていく。早く刀夜殿を癒したい! 早く刀夜殿の喜んだ顔が見たい!

 刀夜殿の部屋に入るなり私はすぐに刀夜殿をベッドに座らせる。


「眠る前に肩を揉ませて欲しい」

「肩? それに揉んでじゃなくて揉ませてなのか?」


 案の定刀夜殿はキョトンとしていた。性急過ぎたかもしれない。


「うむ、肩が凝っているのだろう?」

「多少はな。でも別に大丈夫だぞ?」

「それでもだ。やらせて欲しい」


 刀夜殿は私の真意を確かめるようにじーっと見つめた後に諦めたように頷いた。


「相変わらず世話好きだなお前ら」

「そ、そうか?」


 刀夜殿は後ろを向いてくれる。私はすぐに刀夜殿の肩に手を置くと刀夜殿の肩を揉み始める。

 確か力を入れ過ぎると駄目なはずだ。もうちょっとこう……撫でるように……。


「んっ……」

「ど、どうした!?」

「いや、くすぐったくてな」


 刀夜殿は少し恥ずかしそうに視線を逸らした。可愛い……。


「そ、そうか? ではもう少し強くするぞ?」

「あぁ」


 更に少し力を込めると刀夜殿は気持ちよさそうに間延びした声を出す。

 刀夜殿が気持ち良さそうにしてくれるだけでこんなにも嬉しいとは思わなかった。これが惚れたものの弱みという奴なのだろうか? 刀夜殿が望むことは何でもしたくなってしまう。


「どうだろう?」

「気持ち良いな……」


 刀夜殿は目を閉じて私の肩揉みに浸ってくれている。胸の内からぽかぽかと暖かくなってきて色々なものが満たされていくような感覚がした。

 どうしようか。私はもう刀夜殿の喜んでくれる顔を見ることでしか嬉しいことがなくなってしまうかもしれない。


「他にも何かして欲しいことがあれば遠慮なく言って欲しい」

「なんか今日はえらく労われるな。別にいつも通りだから気にしなくてもいいんだぞ?」

「私がしたいんだ。駄目か?」


 全て私の意思だ。私がしたくてしていることをしているだけだから刀夜殿は何も気にすることはない。


「そうか……? でも流石にお前も疲れてるだろ?」

「そんなことはない。私は幸せばかり貰っている」


 刀夜殿にもっとワガママに生きて欲しいと言われた。だから私はもう我慢なんてしない。刀夜殿を幸せにしたい。


「だから少しでも刀夜殿に恩返しをしたいんだ」

「恩返しって程別に俺は何もしてないんだけどな……」


 本当にそんなことはない。交渉や譲渡などは全て刀夜殿が行ったことだ。加えてライジン装備まできちんと作ってくれた。

 エルフ族の身の安全の為、と刀夜殿は言うだろうがそれよりも何よりも私の為にそれをしてくれているのが分かってしまうから本当にズルイ。

 私も刀夜殿の1番でありたい。その想いが更に強まってしまった。


「ふふ……」

「どうした?」

「いや、何でもない。本当に他に何かして欲しいことはないのか?」

「んー……とりあえず晩飯の時間に遅れるとルナに申し訳ないしな。とりあえず早く寝ないか?」


 確かにルナ殿に迷惑は掛けられない。名残惜しいが仕方がない、か。

 肩揉みをやめて刀夜殿と2人でベッドに寝転がる。私はすぐに刀夜殿の手を握り締めた。


「ふふ……」

「またニヤニヤしてるぞ?」

「幸せなのだから仕方がないだろう?」


 そう、幸せ過ぎるのが全て悪い。刀夜殿がここまで私を惚れさせたのが悪いのだ。刀夜殿のそばでこうしていられるだけでも私の心は満たされてしまう。


「…………そうか」


 こうして無愛想ながら優しい表情を浮かべてくれる。刀夜殿は変わった。浅野殿を亡くしてしまってからより一層優しくなった気がする。いや、少し意地悪にもなったか?

 よく私の下着のホックを外すようになってしまった。いや、あれは色々と誤魔化す為の刀夜殿の照れ隠しだというのも分かっているが……。

 とりあえずはそれだけ刀夜殿が私達に心を開いてくれているということに他ならない。他人には見せない自分を見せてくれるだけでも特別な感じがして嬉しいものだ。


「刀夜殿……」

「ん……」


 私は刀夜殿の頬に手を添えると顔を近付ける。刀夜殿に優しくキスをすると意外そうに目を見開かれてしまった。


「珍しいな、お前がこういうことしてくるなんて」

「そうだろうか?」


 確かにそうかもしれない。以前の私なら恥ずかしがってしまってそんなことはしなかったはずだ。


「ふふ……私をこんな風にしたのは刀夜殿だぞ?」

「俺か? …………ん? 俺なのか」


 キョトンとする刀夜殿に私は満面の笑みを向ける。恥ずかしさよりも愛おしい気持ちの方が強くなってしまったのだからやはり刀夜殿のせいだろう。

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