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第72話 エルフ族は仲間想いの同族想い

「まず初めに獣人族の強さをおさらいするか。誰か分かるか?」

「はいはい! 身体能力は他の生物より凄いよ!」

「そうだな。魔物には負けそうだけどな」


 魔物はそういう概念当たり前に超えてくるからな。少し気を付けなければならないところだろう。


「他には?」

「はい……チームワーク」

「あぁ、チームワークに関しては右に出る奴はいないだろう」


 統率力に優れ組織的に動けるというのは強みだ。そしてその強みを最大限に生かすにはどうすればいいのか。


「チームワークに重要なのは味方の行動を知ること。そして事前にある程度のことを決めておくってことだ」


 全員からキョトンとされてしまった。何当たり前のことを言ってるんだ的な。


「例えば誰が前衛、誰が後衛、誰が援護。そんな役割は当たり前に存在するだろう。だがその中でももっと割り振るんだ」

「もっと?」


 俺は紙に前衛、中衛、後衛と記載して全員に見せる。目の良い獣人族なら問題なく見えるだろう。


「まず前衛はそのチームの要とも言える。もちろん他の中衛、後衛も要ではあるが前線が崩壊すればあっという間に全員殺されちまうからな」

「確かにそうだな」

「それに前線の役割は多い。そしてその比率によってそのパーティーの特徴が出ると言っても過言じゃない」


 俺は更にペンを走らせていく。前衛の役割であるアタッカーとディフェンダーだ。


「まず前衛が攻撃力重視。こちらは中衛、後衛が前衛をサポートする役割になる。つまりは前衛主体に攻めるチームってことだ。逆に前衛が防御力重視だと中衛、後衛が攻撃の要になる。ここまでは分かるだろ?」


 全員一様に頷く。ふむ……確かに真面目に話を聞いてくれるな。


「更に前衛を掘り下げてみようか。その前に全員、この2つのパーティーはどちらが強いと思う?」

「防御力重視じゃない?」

「生存率が高いのはそっちだよね?」

「確かにそうっすね」


 あれ、なんか見習い混ざってんだけど。まぁいいか。


「答えは前衛が攻撃力重視のパーティー。こちらの方が生存率は高い」

「なっ!? ど、どうして!?」


 何故こんなことで驚くんだろうか。俺別に変なこと言ってないんだけどな。まぁいいんだけど。


「前衛が防御力重視のパーティーは簡単に言えば大体の攻撃を防ぐ必要があるわけだ。ここまで言えば察しの良い奴は分かるだろ?」

「確かに! 魔物の方が強いもんね!」

「そうだよね……それを防ぐだけでも辛いよね……」


 ぶつぶつと呟かれたこの世の現実はちょっと悲しいものがあるな。身体能力の差というのはどう頑張っても埋めれるものじゃないからな。


「それでも攻撃重視だから生存率が高い理由にはならないんじゃないですか?」

「なんでいきなり敬語なんだ……? まぁいいか。ただでさえ色々劣ってるんだ、勝つ為に単純かつこの世の真理を教えよう」


 俺はニヤリと笑みを浮かべる。その笑みが酷く冷たかったのか、それとも殺意を帯びてしまったのか。とにもかくにもここにいる全員を怖がらせてしまったのは確かだろう。


「やられる前に殺す。そうすりゃいい」


 後手に回ればあっさり殺される。殺される前に殺すことで自分の生存権を確立させるのが一番手っ取り早い。


「…………刀夜質問」

「ん?」


 アスールが質問とは珍しいな。


「…………私達も前衛後衛中衛に分けてる。…………防御重視も可能」

「よく核心に気が付いたな。これは余談でもあるが俺達にも役割がある。俺、アリシア、コウハは前衛でルナ、アスール、リルフェンは中衛、マオが後衛って感じだな」

「攻撃重視じゃないんですか?」


 先程のアスールの言葉を鵜呑みにしてしまったようだ。お前らは防御重視なのに何で攻撃重視の方が強いんだ見たいな空気になってしまった。


「いや、攻撃重視だ。だからといって防御も可能ってだけだぞ? ほら、俺やアリシアやコウハがまともに敵の攻撃を受け止めてたりしてるか?」

「…………確かにあまり見ない」


 まぁ硬化魔法もあるので通常の魔物程度であればその攻撃も受け切れるかもしれないが。しかしそんな魔物ならば受け止める間も無く先に殺してしまえるから結局不要かもしれないな。


「魔法が使える前衛なら水魔法や土魔法を併用して防ぐ事も出来るだろう。まぁ無駄な魔力消費はしたくないからな、極力避けるようにはしてる。だから防御も出来なくはないが効率が悪いからしていないっていうのが正しいんだろうな」

「…………流石」

「まぁもし逃げ道もなくて受け止めるしかなかった時はお前の防御魔法も期待してるぞ」

「ん…………」


 アスールの頭を撫でると嬉しそうに口元を緩めていた。


「かなり脱線しちまったが俺達はそんな感じだ。今の話で分かるかもしれんが敵がどんな特徴なのかによって戦い方は大きく変わる。生存率が高いのは攻撃重視かもしれないが、なら防御を疎かにしていいのかと問われれば俺はそんなことはないと思う」

「確かにそうですね」

「中衛、後衛もそれは同じだ。確かにサポートに徹するのはそれもいいだろうが、なら前衛が攻撃力重視だからと攻撃を疎かにしていいわけでもない。要は何でも極める方が強いってわけだ」


 当然のことだろう。しかしその当然を他の人は何もしていないように思う。

 例えば途中で何か別の方法を見つけて模索したりなどだ。俺もそういうことがあるから人のことは言えないが……だが一点に何かを極めるというのはかなり難しくそして何よりも強いことなのではないだろうか。


「俺の話は以上だ。自分がどういう自分になりたいのか、そしてどういう強さが欲しいのかを明確に決めてそこに向かっていくのが手っ取り早いと思うぞ」

「Yes,ma'am!」


 だから軍隊かよ。あと俺女じゃない。

 話が終わって鉱石の本を読むのに戻ろうとするもののどうもコウハが放って置けなかった。


「コウハ、ちょっといいか?」

「うん? うむ、どうかしたか?」

「あー、ちょっとこっちに」


 コウハの手を繋いで村の外へと連れ出す。コウハが何を迷っているのかも分からないし本当にこれのことなのか確信はないのだが……。


「内緒の話か?」

「あぁ。獣人族は耳が良いからな」

「そうか。それでは何か重要な話なんだな。何でも相談してくれ」


 何でちょっとウキウキしてるんだろうか?


「悪いんだが相談じゃなくてな」

「そうか……」


 そんなあからさまに落ち込まなくてもいいだろ。というか俺普段からそんなにお前らに頼ってないのか?


「いや、俺の勘違いだったら別にいいんだけどな」

「うむ」

「もしかしてコウハ、獣人族を守ろうとしたのはエルフ族も守って欲しかったから……とか思ってな」

「っ!?」


 あ、すっごい目を見開いて驚かれてしまった。どうやら図星だったみたいだ。


「…………どうしてそう思ったんだ?」

「いや……別に何か理由があるわけじゃなくてな。何となくというか……お前仲間想いだからな」


 みんな孤独を知って1人になりたくないと思っている。だがコウハにとってはようやく繋がった繋がりでそれを失うまいと必死なのだ。

 俺達とは違う。多分俺達の誰よりも仲間の事を想っているのはコウハだろう。


「それは皆もそうだろう?」

「確かにそうだけどお前は特別みんなのこと想ってんだろ。お前と初めて会った時もそんなだったしな」

「そ、そうか……」


 もっともその時もあの奴隷にされそうだったエルフ族はコウハに良くしてくれていたからな。助けたいと想っても無理はないはずだ。

 しかしそのエレフ族もコウハの為に何かはしてもコウハの為に何かを切り捨てるというようなことはしなかった。

 人もエルフ族も何も変わらない。何よりも自分が可愛いのだ。だからこそ自分を犠牲にしようとしない。

 そんな奴らにコウハが命を賭ける必要はあったのだろうか? 危険だと分かりながら俺に挑んできたあの時のコウハを昔の俺は命知らずかもしくは極度に優しい奴だと思ってしまっていただろう。

 今は違う。俺はコウハのことを知っている。誰かと繋がろうとした人を、誰よりも人を想って、孤独に耐えてきた人を俺は知っている。


「俺はエルフ族は基本的に嫌いだ」

「それは知っている……」

「お前のことを神の怒りの体現者だとか訳の分からん感性で除け者にしたような奴らだからな。正直ぶち殺したいとも思ってる」

「うむ……」


 コウハにとってもあまり良い思い出はないだろう。それらを思い出したのか落ち込んだ様子で俯いてしまった。


「だから……」


 俺は最後にぼそりと呟く。コウハにはあまり伝えたくない言葉だったが……それでも伝えよう。


「…………守ってやるか」

「え?」


 目を大きく見開いたコウハは俯いていた顔を慌ててあげた。その目は一体どういうことかと聞きたそうだった。


「あんまり自分を曲げたくないからな……。情けないったらありゃしねぇけどな」


 こんな俺をあいつらが見たら何て思うだろうな。情けないなんて思うかもしれないな。


「そ、それなら守る価値なんてないのではないのか!?」

「あぁ、守る価値なんて皆無だと思ってるが? でもお前が守りたいんだろ? なら守るしかないだろ」


 コウハが悲しむ顔を……我慢している顔を見たくないなんていう俺のワガママだ。そのワガママの為に自分を曲げないといけないのなら俺は曲げてしまう。俺も弱い人間だから。


「刀夜殿……」

「俺にとって何よりも大切なのはお前らだ。だから……お前がそうしたいなら俺も手を貸す」

「ふふ……本当に仲間には甘いのよね……」

「っ!?」


 ビックリした。いきなりマオが木の陰から現れて満面の笑みを浮かべる。


「自分を曲げるなんて刀夜さんが一番嫌いな人と同じじゃない」

「そ、れは……」


 見られちまったし聞かれちまったし幻滅されちまった。特にマオが人間が嫌いだからな。や、やっちまったか?


「…………いいんじゃないかしら?」

「え?」


 あのマオさんが容認した……だと?


「コウハちゃんがそうしたいんでしょう? ならいいんじゃないかしら?」

「そ、それでも私は刀夜殿に自分を曲げて欲しくない! だから別に気にしなくていい!」

「…………ねぇ、コウハちゃん」


 マオは悟すように柔らかく微笑んでいる。これは任せてしまってもいいかもしれない。俺はそういうの苦手だしな。


「刀夜さんがどうして自分を曲げてくれたんだと思う?」

「それは……刀夜殿が優しいからだろう」

「そうね、それは認めるわ。けれどね、刀夜さんも私達のこと大好きなのよ。コウハちゃんが刀夜さんに自分を曲げて欲しくないって思っているように刀夜さんもコウハちゃんに悲しんで欲しくないと思っている」

「それは…………」


 あー、すっげぇ恥ずかしくなってきた。何この綺麗事?


「大好きなんだから仕方ないわよ。だから今は刀夜さんの善意に甘えておきましょう? それに……刀夜さんも随分とコウハちゃんにお世話になったんでしょう? 浅野の事で」

「そうだな。少しでも返したい」


 慰めてくれたから立ち直れたんだ。だから俺もコウハに同じ事をしたい。


「そ、そんなこと気にしなくても。それに私も泣いてしまって……」

「俺の為に、だろ。その……嬉しかったに決まってんだろ」


 頬をかいて視線をそらしてしまう。

 コウハは目尻に涙を溜めるとそれを隠すように俯いた。


「なら……その……頼む。…………私の種族を守って欲しい」

「…………おう」

「えぇ」


 コウハが見せるいつもとは違う弱さ。それが俺の目には眩しいくらいに綺麗に見えた。

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