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第70話 悪口は結構心に堪える

 翌日、マオの転移魔法陣ですぐに移動してくる。森の中に入ると一気に静けさの中の殺意が感じ取れる。


「あら、もしかして相当警戒しているのかしら?」


 その空気感にマオもほっと一安心する。ここまで気を引き締めているのなら安全だろうし大丈夫だろう。


「何者だ!」


 いきなり獣人族の集団に囲まれてしまう。やはり警戒していたらしい。マオの気配もあるだろうに。それを見逃すくらいに気配に敏感になっているのか?


「ってヴェール様!?」


 あー、その呼び方懐かしいな。マオは愛称でマオルーク・ヴェール・フォレストゥリアっていうのが本名だからな。


「それに刀夜様も!」

「よう。何かあったのか?」

「もしかして村が襲撃されているとかかしら?」


 緊急事態なら大変だしな。流石に全員の顔が強張った。


「いえ、全員無事です。ですが最近は妙な化け物が侵入してくることがありまして。警戒を強めているところです」


 俺達が来るより前に先に元人間の化け物が来ているようだ。全員無事ということは対処は出来たということだろう。


「そいつは獣人殺しと同種よ? 詳しく説明する為に来たのだけれど」

「流石ヴェール様です! もう情報を掴んでいるのですね!」

「主にこの子のお陰だけれどね」

「何で俺?」


 別に俺1人の力じゃないんだけど? お前らだって頑張ってたろ。


「カイル・レイルとやらから情報を聞き出して総合的にまとめながら次々と情報を繋げていって模索しているのはどこの誰かしら?」

「ご主人様です」

「…………刀夜」

「刀夜くんだね」

「刀夜殿だろう」

「ガウ!」


 何この満員一致の雰囲気。俺が何言ってももう無駄じゃねぇか。


「流石です! 刀夜様!」


 ほら信じちゃったよこいつ。どうしてくれるんだろうか?

 村へと案内されると以前と何も変わらない木造の家々が並ぶ村というよりは集落と呼ぶべきだろう場所へ。

 以前はここも獣人殺しを仕留める為の囮として使われていた。今ではもう1つの村として機能しているようだ。


「人間風情がぁ!」


 そしていきなり襲われた。俺は腕を上げてゴリラのパンチを受け止める。もちろん身体強化魔法と硬化魔法を使用しての話だ。流石に何も無しで受け止めれる程俺は強くない。


「なっ!」

「ちょっとゴリラ何してるのかしら?」


 名前ゴリラじゃないだろこいつ。マオが物凄くキレてる。それはもう物凄く。


「刀夜さんに手を出してタダで済むと思っているのかしら……?」

「ひぃ!」


 ゴリラは逃げ出した。もちろんそれを追い掛ける……はずもなくマオは弓矢を取り出して射抜いていた。殺すなよ……?


「あの、刀夜様」

「ん?」


 獣人族の女性に囲まれてしまう。え、何。


「ヴェール様って普段からあんな感じなんですか!?」

「もしかしてラブラブですか!?」

「きゃー! ヴェール様可愛い!」


 何だろこれ。俺どう反応返せばいいんだこれは。

 余計なことを言うとマオに怒られそうなので無難に今日はテンションが高いんじゃと言っておいた。なんだかんだで全員無事で安心したんだろう。

 口では何も報告がないから大丈夫と言っていても心配にならないはずがない。マオも優しいからな。


「まったく……」


 一仕事終えたマオは腰に手を当てて少し不機嫌そうだった。ゴリラは色々な箇所に矢が刺さって大変なことになっていたが。


「…………平気?」


 アスールがそれをじーっと見下ろしながら適度に回復魔法を掛けていた。いや、全部抜いてまとめて回復してやれよ。


「…………刀夜に手を出した罰」


 あ、そういう感じか。と納得してしまうのだから俺も色々毒されてきているのだろう。


「ひとまず情報の話をしよう。遊ぶのはそれからでもいいだろ?」

「遊んだつもりはないけれど……」


 とりあえず命優先で行動しなければな。情報があれば先に攻められても大丈夫だろう。

 奥へ通されると何やら少し豪華な木造の建物へと案内される。ここにこの村の村長がいるらしいのだが。前は会ってないからな。


「主が萩 刀夜殿か。此度はよくぞ参られた」


 年老いた犬のような獣人族だった。温厚で優しそうな人だったので話もスムーズにまとまってくれて助かった。


「ちょっと聞いてもいいか?」

「うむ」


 最後にどうしても聞いておきたかった。いや、これは俺が聞くべき責務があっただろうが俺はそれを放棄してしまっていた。


「貴重な戦力であるマオを俺が貰ってしまったわけだが……ここは大丈夫なのか?」

「大丈夫……とは言えぬのが現状じゃろう」


 やはりそうだろうな。いわば軍隊の隊長クラスをいきなり引き抜かれたとかそんな感じだもんな。

 俺は鞄に手を突っ込むと色々と探し出す。


「なんじゃ?」


 ライジン装備やら銃やらを色々と取り出していくと一体何なのかと興味深そうに覗き込まれる。


「ちょっと刀夜さん?」

「これならマオに充分か? いや、そもそもこの程度じゃ無理か。むぅ……他に何がいるのか」


 やはりこの村全員分のライジン装備は必須だったな。それでも全然足りないから……。何かマオと同じくらいに強いロボットとかの構造考えた方がいいのか?


「何してるの!? そんなにもいらないわよ!?」

「何言ってるんだマオ。娘さんをくださいっていう感じなのに生半可な物でいいわけないだろ」

「何よその訳の分からない話は!?」


 そうだった。結婚という概念がないから娘さんをくださいはないんだった。

 いや、しかし俺としてはそういう覚悟だ。仕方ないからもう少し色々と考えなければならない。


「相変わらずよく分からないね」

「ん…………考えが至高過ぎる」

「常人には理解出来ないのだろうな……」


 何やらアスール、アリシア、コウハから誤解を受けていた。俺そんなに至高なこと考えていない。というか普通に日本の知識だしな。


「ご主人様の世界の通例ではないでしょうか?」

「なるほど……確かにそうかもしれないね」

「ああして対価を支払うのか……。いや、しかしマオ殿と釣り合うものなどこの世に存在するのか?」

「…………ないかも」


 ちょっと違うんだけどな。対価というか普通に手土産のつもりだったんだけど。しかしマオを貰うのに相応しい手土産がない!


「いらないわよ! というかそんなにライジン見せびらかさない!」

「え、これ全部あげるつもりなんだけど」

「刀夜さんってそんなに馬鹿だったかしら!?」


 馬鹿とか言われてしまった。別にいいんだけどマオに言われるとかなり……いや、うん……死にたくなるくらいヘコむ。


「馬鹿……そうか…………馬鹿か」

「え、ちょ、ほ、本気にしないでよ? と、刀夜さん?」


 いや分かっている。俺が馬鹿なことをしてるのは……。いや、してないな? マオ貰うのに筋通してるだけだしな。

 それでもマオの目からは俺が馬鹿なことをしているように見えたようだ。ということはやはり俺は馬鹿なのかもしれない。


「これ全部あげます……。他にも何かあればどうぞ……」

「と、刀夜さんが露骨に落ち込んでるわ!?」


 ライジン装備と銃をそのまま放置して立ち上がる。


「外の空気吸ってくる……」

「ご、ご主人様!?」

「だ、大丈夫!?」


 何やら心配された様子だったが……うん、心折れた。

 外に出ると自然の心地良い風が頬を撫でてくれる。


「と、刀夜さん!」

「あぁ……マオか。中放置して悪いな……」


 普段ダダ甘な分、逆に馬鹿にされてしまうと弱かったらしい。こんなのじゃ情けな過ぎて駄目だな、慣れないと。


「マオ、頼みがある」

「な、何かしら?」

「俺を罵ってくれ」

「…………はい?」


 真剣に頼んだつもりなのにキョトンとされてしまった。頼み事って普通キョトンとされないと思うんだが。


「俺はどうやら仲間の罵倒に弱いらしい。例えば思っていることと逆のことを言わせるような能力がある敵に出会った時に負けちまうだろ」

「…………真剣に馬鹿なんじゃないかと思ってきたのだけれど……」


 いきなり罵倒されてしまった。覚悟していなかった分不意打ちのダメージだ。俺は膝から崩れ落ちた。


「と、刀夜さん!?」

「マオ殿、刀夜殿は……って何があった!?」

「世界って残酷だな……」

「刀夜殿が何かおかしい!?」


 出てきたコウハにまで罵倒されてしまった。もう駄目だ俺は……もう無理かもしんない。


「ご主人様! ああ……大丈夫ですか!?」

「ルナ、俺はもう駄目かもしれん……」

「そんな!? ご主人様がいない世界でなんて生きる価値ありません! 私も後を追います!」

「いや、死にはしないが……」


 流石に罵倒されたくらいじゃ……泣きそうになるくらいだ。死にはしないだろう。


「大丈夫です……大丈夫ですよご主人様々…」


 ルナが俺を抱き締めて頭を撫でてくれる。あー、うん、癒される。


「…………なんなのかしらこの茶番」

「刀夜殿の意外な弱点だったな……」


 確かに傍目に見れば茶番だろう。しかしだ、当人にとっては大きな問題である。俺はそれを声を大にして言いたい。


「過剰に甘やかされた反動だな。ルナ、これからは厳しくしてくれ」

「分かりました! ご主人様のこと、少ししか褒めません!」


 少しは褒めるんだなおい…………。


「これを狙ってやっていたのか……」

「茶番のように見えてここまで読んでるんだからタチが悪いわよね」


 随分と酷い言い様だ。しかし流石は冒険者らしい、色々な意味で観察眼に優れているものだ。


「いや、例え冗談だとしても刀夜殿は皆の前で弱点を晒したりはしないだろう」

「それもそうね……。えっ? ほ、本当に悲しんでたってこと?」

「そうなんじゃないだろうか?」


 本当に俺のことをよく知っていますねあなた方。


「ご、ごめんなさい……」

「マオ殿が謝る事ではないだろう。異世界の事は刀夜殿しか分からないからな……」


 今は別に日本のことは関係ないんだけどな。まぁいいか。


「刀夜さん、その……ごめんなさい」

「ルナの胸を堪能出来たから問題なしだ」

「良い意味でも悪い意味でもあなたはブレないわよね……。心配して損したわ」


 そんな酷いこと言わないで欲しい。本当に傷付いたんだから。でもまぁこれからもずっと一緒に入れるんだから心配しなくてもいいだろう。…………多少は優しくしてもらうってことで。

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