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第68話 人間とは違う新たな生物は扱いに困る

「…………人の容姿をした魔物が現在騒がれているのは知っているだろう」

「ふぁぁ……」


 やっぱりどうでもいい話だった。どうでもよ過ぎて欠伸すら出てくるレベル。


「刀夜くん眠いのかな? 膝枕しよっか?」

「刀夜殿眠いのか? わ、私の方にもたれ掛かってきていいんだぞ……?」


 欠伸をしたからだろう、2人が色々と魅力的な提案をしてくるわけだが。


「寝るなら家で寝たい……」


 普通に眠い。というか話がくだらな過ぎたのが悪い。


「あー、気にせずに続けてください。こんな雰囲気でもきちんと聞いてますので」

「…………」


 何やら酷く色々と言いたげな王だった。何でムイはそんな平気で敬語で話せるんだろうか? 俺にはこんな奴を敬う気にはならない。


「その詳細を調べている。何か手掛かりはないか?」

「あー……あれか。どうでもいいな……」


 手掛かりというかどうやって作っているのかとかその辺りも資料を読めば分かったりする。分かったりするがこいつらに渡してもな……。


「知っているのか?」

「知ってるけど教えるかどうかは別の話だ」

「…………理由を答えろ」

「教える理由がない。メリットがない。教えたところでお前らは役に立たない。お前を信用していない。全部当てはまるからどれでも好きなように解釈してくれていいぞ」


 腹が立つだろう。俺も相手の立場なら俺の言動は腹が立つだろう。だからあえてやって教える気はないとアピールしてるわけだが。


「…………アイというギルド員、そいつがどうなっても」


 余計なことを言い始めようとしたその瞬間、俺は再びホルスターから拳銃を抜き、銃口を真っ直ぐに王に突きつける。そのまま遠慮することなく引き金を引く。


「ストップ」


 …………つもりだったのだが立ち上がったマオに止められてしまった。あと一瞬遅ければ、仮にライジンを使用していた場合は間違いなくこいつは死んでいただろう。


「またルナちゃんに直させる気かしら?」

「悪いつい……」

「ふふ……優しいからなのは分かってるわよ」


 マオは優しげに微笑むと俺の頭を撫でてくる。子供扱いされてしまったが感情的になった時点で否定は出来ないか。


「この子はこの通り人を殺すのにも遠慮がないわ。優しいからこそ大切な人を傷付けられるようなら遠慮なく手を下すでしょう」


 にっこりと笑っているのにとんでもないことを言うマオである。王は顔面蒼白とさせていた。いや、俺が銃口向けた時点で真っ青だったけど。


「それじゃあ話を続けましょうか? けれどあなたは私達に対して何の報酬も提示していないわね。私達は冒険者よ、それなりの物を用意してもらえると期待してもいいのかしら?」

「金貨を……というのは駄目なのか」

「私達は別にお金に困ってないもの。報酬の価値としては低いわね」


 こういう時マオのような落ち着いた人がいると安心出来る。交渉とかはマオに任せても大丈夫かもしれない。


「なら望みを聞かせろ」

「望み……そうね。しばらくの間はお休みが欲しいくらいかしら?」


 はい? 何言ってるんだマオさん?


「ちょっとマオ?」

「いいからあなたは黙って休んでなさい」


 軽く頭を叩かれた。と思ったらそのまま撫でられた。


「本当に心配ばかり掛けるんだから。私達も休ませなさい」

「…………そうだな」


 俺ばかり突っ走っても仕方ないだろう。こいつらが休みたいというのなら大人しく休むことにしよう。


「ということらしい。悪い、ムイ、ミケラ」

「まぁー確かにお前のこと気遣ってたら疲れるわなぁ〜」

「…………」


 そうか、そういうことか。確かにこいつらにどれだけ心配を掛けたことか。それなのに俺は自分の事で手一杯だった。本当に鈍いな俺は……。


「恋人として失格だな……」


 誰のこともきちんと見れていなかった。ちゃんと自分を見つめ直さなくては。


「ふふ……」

「何故撫でる」


 コウハがずっと俺の頭を撫でてくるんだけど。しかも普段ルナやアリシアがしてくるような子供を見る親のような優しい目で。


「そんなことはないんだ。刀夜殿は少し鈍いだけでちゃんと優しいことは私達は全員分かってる。だから恋人失格だなんてそんな悲しいことは言わないでくれ」

「…………悪い」


 こんな俺でもまだ好きでいてくれている人達がいるんだ、腐ってはいられない。


「休み、か」

「えぇ。休もうとしてもギルド側に呼び出されるんだもの。たまったものじゃないわ」

「いいだろう。貴様らが望むまで休ませてやろう。だから情報を寄越せ」


 なんでこいつは本当に横柄な態度なんだろうか? めちゃくちゃ腹立つんだが……。あ、マオが表情は笑顔だがテーブルの下で手を握り締めてプルプルと震わせていた。

 俺以上に人間嫌いのマオだ。この役回りはあまり任せるべきではなかった気がする。

 俺はマオの手を握り締めると大きく溜息を吐いた。


「刀夜さん……」

「ここからは代わる」


 流石に俺が話を付けなければならないだろう。俺が挑発したんだしな。


「人の容姿をした魔物についてだが……あれは元は人間だ」

「なんだと?」

「人間に魔物の細胞を埋め込む実験。その失敗作があいつらだ。魔人はその成功作とでも考えればいい」


 本当は魔人に関してはよく分かっていない。が、恐らくはそういうことだろう。


「つまり元は人間で……俺達が相手にしているのは人間だというのか!?」

「そういう話になるな。あの化け物をまだ人間と認めるならの話だがな」


 ああなってしまった以上はもうどうしようもないだろう。むしろ楽に殺してやる方がいいとさえ思う。


「…………人間とは認めない気か?」

「当たり前だろ? あれが人間に見えるのか?」


 もはや人間の姿をした化け物だ。それを未だに人間だと認めることは俺には出来ない。


「優しい、と言われている割には随分と酷いことをおっしゃるのですね」


 ギルド員に指摘されてしまう。優しいと言っているのは俺じゃないんだがな。


「…………有翼種を人間と認めてない人に言われたくない」


 アスールの援護射撃は物凄く核心を突いた言葉だった。確かに有翼種も魔物の血が入っている。

 魔物の核の有無によって変わるのか、それともやはり適正の範囲内の話でアスールが特殊なのか。結局のところ俺には分からないが。


「…………刀夜は私も愛してくれる。…………それがお前らとの差」


 後ろからアスールに抱き締められてしまう。あの、胸がね?


「ズルいです! 私もご主人様とイチャイチャしたいです!」


 何故か立ち上がったルナまで抱き着いてくる。ぎゅうぎゅうになるからやめて欲しいんだが。


「お前らそういうのは帰ってからにしてくれ……。休み取れるんだから幾らでも出来るだろ?」

「そうね」


 全員納得いってないご様子だが一応は離れてくれた。こんな話とっとと終わらせて家でイチャイチャする方がまだ建設的だ。


「一応実験結果とやらを盗み出してきた紙はある。お前らにやるよ」


 紙の束をテーブルに滑らせる。ギルド員がそれを手に取って確認すると驚いたように目を見開いた。


「なるほど……確かに情報通りのことが書かれています。事前にこの量の紙をご用意するのは不可能かと思います」


 ライジンを使えば多分いけると思うが……。まぁこいつらはそれに関してもよく分かっていない可能性があるからな。どうでもいいが。


「この紙はどこで入手した?」

「奴らの施設だ。だが3つあるうちの2つはほとんど外れだと思っていいだろう。片方は既に倒壊、もう片方はもぬけの殻だが」

「3つ目はどこにあるのだ」

「それが分かりゃこんなところでぐだぐだはしてない」


 まぁだからといって目星が付いていないわけじゃないんだが……。確証はないから言う気もないけどな。


「俺らが提示出来る情報に関しては以上だ。これ以上欲しけりゃもう1つ条件を飲め」

「…………言ってみろ」

「クロとヒカリに住む場所の提供と冒険者としての活動の容認」


 そうしないといつまで経っても金は貯まらない、生活が出来ないというので困るだろう。俺も早くあいつに会って元凶の居場所を突き止めたいしな。再会出来るようにここで段取りを組んでおく方が早い。


「…………いいだろう」

「ふっ……ならこちらの持っている情報は全て開示しよう」


 浅野のことなども全て話す。大した情報はない……とは言えないだろう。メディシーナ・リーベという魔人の生存と元凶の存在を向こうは知れるわけだから。

 もちろん俺と浅野の関係性については何一つ喋っていない。それは俺に関係することでこいつらにとっては関係がないだろう。単に殺したとだけ伝えた。

 その瞬間の全員の悲壮たる顔や見ていられないくらい心が締め付けられた。やっぱりこいつらは強い上に優しいな。


「以上が俺達の持つ情報だ。分かったら余計なことはするな、これ以上向こうの研究材料を増やされても困る」

「なるほどな……。施設へ何人か派遣してくれ」

「…………」


 余計なことするなって言ったばっかだろこいつ……。まぁ施設に関しては全て滅ぼした後だ。別に構わないか。


「ご苦労だった。下がって良いぞ」

「あぁ……。ちなみにクロとヒカリは住む場所が見つかれば俺達の元へ報告に来る手筈になっている。もししばらく経っても来ない場合は……分かってるよな?」


 軽く銃を持ち上げると王は顔を引きつらせた。


「分かっておる。約束を反故にしたりはしない」

「…………ならいい」


 その辺りの馬鹿とは違って上に立つ人間らしい。相手の危険性を悟るのに関しては早いのだろう。


「それじゃあ帰るか……」


 転移魔法陣を展開すると即座にこの場所から移動する。マオも辛いだろうしな。

 家の前まで移動して来ると大きく息を吐いた。


「マオ、さっきは助かったぞ」

「えぇ。ご褒美貰えるかしら?」

「もちろんだ」


 何が良いだろうか? マオが喜びそうなこと……デートくらいしか思い付かない。


「1日刀夜さんを私にくれればいいわよ」

「た、確かに今日のマオ様はそれくらいに素晴らしいことをしましたが……」

「ん…………ズルイ」

「ふふ……この機会に刀夜さんの1番は貰うわよ」


 余裕そうだなこいつ……。余計な心配はいらないか。


「刀夜殿は疲れているのだろう? 早く休もう」


 さっきのこともあってか心労が半端じゃない。それをコウハには見抜かれてしまったようだ。


「ムイとミケラはどうする?」

「そうだなぁ〜。ギルドで適当に依頼でも受けてるわ」

「僕もお伴します」


 2人は休む気配ねぇな……。いやまぁらしいっちゃらしいけど。


「何かあれば俺も呼んでくれ。何でも手伝う」

「刀夜が優しいな!?」


 そりゃあ俺達の都合で休むんだ。申し訳なくもなるし何かしたくもなるというものだ。


「んじゃ何かあったら呼ぶわ〜」

「それじゃあ刀夜くん、それにみんなもまたね」


 ムイとミケラを見送る。本当にあいつらは欲がないというか何というか。もっと色々要求してきてもいいんだけどな。

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