第17話 僧侶さんは回復だけでなく援護とやる事が多くて忙しい
アスールとの自己紹介もそこそこに早速目的の本を探す。とりあえずこの異世界にもあるおとぎ話とか物語とかそういうのはいらないんだけどな。
「ルナ、そっちどうだ?」
「えっと……しょ、少々お待ちください!」
ん? 苦しそうな声出してどうしたんだ?
様子を見る為に顔を出すと驚くべき光景が目に見えていた。
「ん、んん〜!」
ルナが一番上の本を取ろうと頑張ってる。爪先立ちで立ってはギリギリ届かなくて着地。また爪先立ちとなっては届かなくて着地を繰り返している。
俺が驚いたのはその際に揺れる胸である。すっげぇ上下しとる。ボヨンボヨンブルンブルンしとる。
「なぁルナ」
「は、はい!」
「台があるんだから使おうぜ?」
とりあえず見ていたい気持ちもあったがそれはまたベッドで散々見せてもらうとして今は制限時間があるのだから資料探し優先だな。本当にもっと見ていたかったが!
「あ、あったのですか……」
ルナは少し頬を染めて恥ずかしそうにしていた。ルナ可愛い。
台を持ってくるとルナはそれに乗って上段の本を確認する。結果は聞くまでもなくその表情を見て分かった。
「ないんだな……」
「はい……」
とりあえず分からないものはパラパラとめくるのだがあまり収穫はない。そもそもコーナーごとに分かれているかすら怪しい。物語の本が並ぶ中に一冊だけ魔法の本とか言われても分からない気がする。
二人掛かりで探しているとアスールがやって来た。手には何かの本を持っている。
「…………刀夜、これどう?」
「探してくれてたのか?」
「ん…………」
アスールが探してくれたらしい。読むのは駄目でも探すのはいいのか。
アスールが持って来てくれた本をパラパラとめくるとそこには全く知らない魔法陣が書いてあった。マジか。
「アスール、これどこから持って来たんだ?」
「…………こっち」
アスールに案内してもらってその場所へと向かう。見ると上段の方が本一冊分入るかのような隙間が空いている。
「ん…………」
アスールは先程のルナと同じく爪先立ちになっては届かずを繰り返していた。お前は最初から台を使え。この図書館の従業員だろうが。
アスールは時折ピョンピョンと跳ねる行動も見せる。胸は……若干だが揺れてる。おお、揺れてる揺れてる。プヨンプヨンって感じか? 違うか? 違うな。
「アスール、台使えば……?」
「…………ん」
ここにもあった台を持ってくると色々と本を探してくれる。しかし中身を見ない辺りは律儀である。俺に中身を確認させたのもそういうことだろう。
「なぁアスール、本読みたいなら読んでもいいんじゃないか?」
「…………駄目」
「いや、ほら今は店員というか。そんな感じだからだろ? 金払えば客と変わらなくないか?」
店員として読むのを禁止されているのではないか。ならば逆に金を払えば読めるということでもあるような気がする。バイト先に物を買いに行くような感じだろうか。
「…………確かに」
「だろ?」
流石に客がいないというのに待つのは暇だろう。この図書館の仕事がどれくらい稼げているのかは知らないが正当な金を払えば問題ないような気がする。
「とりあえずこの辺りの本は全部魔法関連だな。ルナ呼んでくる」
見つけた。早々に見つかって良かった。ここ広過ぎる。
ルナも呼んでくるとそれぞれ読みたい本を探して読む。俺は主に鍛冶師の本を。ルナは属性魔法関連のようだ。
「今更ルナに属性魔法の知識がいるとは思えないんだけど」
一番最上級の魔法を使用出来るのだ。いらないのでは?
「そんなことありませんよ。属性魔法は色々な応用が利きますので」
「そうなのか?」
「はい。基本的な攻撃の他にも色々と。あの時ゴブリンキング様にインフェルノが通用しませんでしたから。もっと多様性を持たせないと」
「そうか」
どうやらルナも色々あるらしい。大変なんだろうな。そしてその知識俺もいるんだよな。魔法を付与する上で必要になってくる。
「まぁ前みたく俺が1人で戦う場面もあるだろうしルナが1人で戦う場面もあるだろうな。その為にもルナも近接戦闘を覚えた方がいいんじゃないか?」
「はい、そうさせてもらいます。でもだからといってご主人様が自分を犠牲にするようなことだけはやめてくださいね? ご主人様がいなくなったら私……」
「ルナ……」
お互いに見つめ合う。ルナは泣きそうになってしまっていた。最悪の未来を想像してしまったのだろう。
この世界での人の命は思いのほか軽い。一瞬で死ぬし油断すれば死ぬし通りすがりに死ぬ可能性まである。
「…………刀夜、ルナ、私もいる」
「お、おう」
「す、すみません」
甘い空気を出してしまっていたようだ。リア充が周りから疎まれるのってこういう感じだからだろうか。
「ん? アスールは回復魔法か?」
「ん…………私の天職は僧侶」
そうなのか。確かに翼も天使っぽいし癒しって感じだな。
「僧侶は役割が一番はっきりしてるからな。分かりやすくていい気がするな」
「回復と守護ですか?」
「ん? 守護?」
何それ。俺の知ってる僧侶はそんなことしない。
「…………僧侶の使用適正魔法」
「はい、回復魔法や守護魔法、それに強化魔法などです。僧侶は味方の援護全般を担当しているんですよ?」
俺そんな僧侶知らない。マジか。僧侶ってめちゃくちゃ大変なんだな。覚えること多そうだ。
「凄いんだな、僧侶って。でもそんな凄い奴が味方にいればかなり戦闘は有利になりそうだ」
「僧侶がいるパーティーの生存確率は倍になると言われてます」
「だろうな。むしろ倍以上になる可能性すらあるな」
使い方によっては、だが。しかしそうなると圧倒的に攻撃力が足りない気がする。
「僧侶って1人の場合はどうするんだ?」
「えっと……逃げるしか……」
「…………逃走の一手」
マジですか。仲間が死んだら終わりかよ。まぁでも確かに仲間が死んでるのに自分だけ生き残るってのもアレだしな。俺もルナが死ぬくらいなら俺が死んだ方がマシだ。どうせなら一緒に死んであの世で一緒にいたいレベルだ。
「しかしそれならウチにも僧侶が欲しいな。男はルナに惚れるから絶対なしだけどな」
「女性もご主人様のことを好いてしまう気がしますが……。それに私、そんなに魅力的ではありませんし……」
「…………ワガママボディなのに?」
おいこらアスール。表現が直接的過ぎる。いや俺も思ったよ? 思ったけどももっと言い方ってものがあるだろう。
「そんなこと言われましても……」
「そうだぞアスール。確かにルナの身体は肉付き良いし触ってて気持ち良いし良い匂いするしヤバイくらいだが流石に直接的な表現はよろしくない」
「…………刀夜も直接的」
いや、うん。別の言い方しようと思ったんだけどな? それ以外思い付かなかった。俺も思考回路アスールと同じかもしれない。
「…………」
おおう、ルナさん顔真っ赤。ごめんね。
「と、とりあえずだな本職じゃない俺達が回復魔法を覚えたところで多分足りない。やっぱり僧侶は必要だろうな」
それに特に俺とルナは職業柄魔力消費が多いのが特徴だ。早々にこの問題は解決するべきだろう。
「流石に信用とかもあるしな。背中を預ける以上は何か信頼出来るものがないとな」
「そうですね。地道に探していくしかないかと思います」
「ん…………頑張って」
いや、まぁアスールが入ってくれたならそれでもいいんだけどな? 本人も事情や都合があるだろうし誘いはしないが。
ひとまずは目の前の本に集中だな。俺も早く強くならなければ。まず覚えたいのは耐属性魔法だ。これは属性魔法の影響を軽減出来るらしい。前衛職が使えば初級属性魔法ならノーダメージ、中級属性魔法くらいからのダメージとなるらしいが。
「なぁルナ」
「はい、何でしょうか?」
「例えば回復魔法を武器に付与した場合ってどうなるんだ?」
「それは不可能です。付与魔法は属性と耐性、それに少しの非属性魔法くらいしか付与出来ないはずですから」
「回復魔法はその少しの非属性魔法に入ってないのか」
この辺が曖昧で分かりにくいんだよな……。斬りつけた相手を回復とか絵面的に微妙だが使えれば便利だと思ったんだが。
「その辺りは明確な差はよく分かっておりませんので試してみないことには……。ですが回復魔法は不可能だったはずです」
「そうなのか。残念だな」
でも曖昧ということは分かっていないこともあるということだ。もう少し戦術に幅を広げられそうだな。
「…………刀夜、これ」
「ん?」
アスールに見せられた本の内容を確認する。
「…………マジか」
基本的に非属性魔法に非属性魔法を合わせるというのがまず難しい技術らしい。昔の話だが回復魔法を付与した剣で斬り付けて治そうとしたものの死んだ後に回復するということがあったらしい。結局は死因を分からなくするだけで意味はないようだ。
逆に浅く切り付けた場合は回復魔法が作用しないらしく傷を付けるのみで残念ながら実現そのものが難しいのだとか。
付与すること自体は不可能ではないらしいが付与するのにデメリットしかないのが問題なのだろう。もちろん隠蔽に使われることはあったようだが死因が不明の場合は基本的にこれが要因である為にあまり効果はなかったそうだ。
「なるほどな。ありがとな」
「ん…………」
素直に礼を言ったところ相変わらず無表情だがどことなく嬉しそうに見えた。何で俺が礼を言ったのにアスールが嬉しそうにしてるんだろうか? よく分からんな。
とにかく俺達は現状問題が山積みなわけだ。俺はまだ弱い方だしルナにも限界はある。それを解決しないことには前に進めないらしい。




