特別編アスール視点第4話 深夜にやろう王様ゲーム
刀夜は人一倍誰かとの繋がりを深くしてしまう。分かっていたことだ。だって刀夜は偽善を嫌うから。
刀夜と合う人は基本的に変人ばかり。それは覚悟をしている人や偽善ではない優しさを持っている人。
不器用だからそういう人としか仲良く出来ない。逆にそういう人に対しては本当に深い付き合いをしてしまう。
そんな刀夜だからこそ大切な人をこの手に掛けるということの重みは想像以上のものなんだと推測出来る。
刀夜は強い。身体的な意味でも精神的な意味でも。だから余計に耐えているのが分かる。その心がいつか壊れてしまうんじゃないかと心配になってしまうくらいまで押し留めているのが分かってしまう。
力無く泣いてしまっていたあの絶望感は刀夜を抱き締めていた私には他の人よりも大きく伝わった。だから……。
真夜中、全員が眠る中で私は刀夜を抱き締めていた。全員が寝ている……はずなんだけど刀夜は多分起きてる。私もお母さんが死んだ時はすぐには心の整理が付かなかったから。
みんなは疲れていたんだと思う。でも刀夜のそばにいたかったからこうして寄り添っている。でも誰も助けられなかった現状に満足なんてしていない。出来ていない。
刀夜の頭を優しく撫でる。寝間着が少し濡れてきたような気がしたけど別に構わない。
こうして震えている刀夜を抱き締めて頭を撫でることくらいしか私には出来ない。ルナのような包容力もアリシアのような優しさも、コウハのような気高さもマオのような強さも私には無いから。
ただひとつ、唯一刀夜の気持ちが分かるとすればそれは大切な人を失う気持ち。でも刀夜はそれを自分の意思で手放した。だからこそ余計に絶望が深いことは想像に難く無い。
「…………2人きりになれる所、行く?」
「…………」
返事はない。けど刀夜は少し離れると俯いたまま小さく頷いた。
極力後ろは見ないように刀夜の手を引いて居間へと向かう。泣いてしまって、それを誰にも見られたくないのは分かってる。
居間に入るなりいきなり刀夜に押し倒されてソファに寝転ぶ。いつもより強引なのは心に余裕がないから。
「…………刀夜、平気?」
ここまで弱っている刀夜は初めて見る。彼はいつも強く、そして何よりも優しく、また何よりも先を見据えているから。
色々なことが分かっているから常に最善を尽くしている。でも現実は無情だから突き付けられたものは絶望だけだったなんてことはよくあることだ。
いつもの刀夜とは違う。でもそれは刀夜が優しいから。ただの友達だというのなら多分こんな風に泣いたり悲しんだりしない。あくまでも他人だと割り切るから。
「…………情けないな」
「…………そんなことない」
刀夜は弱いことは罪だと思っている。そんなことはないなんていうのは簡単だけど刀夜が望む答えはそうじゃない。
刀夜はいつも臆病だ。臆病だからこそ失わないように強さを見せる。強さばかりが目立つ。
でも知ってる。私達だけはちゃんと知ってる。ルナに教えてもらって、浅野との過去を少し聞いて。
信用しても裏切られるのは怖いから。繋がってしまったら失うのが怖くなってしまうから。
刀夜は自分の心を守る為に他者との関わりを避けて生きてきた。見ているのは常に現実で、理想や妄想なんかは持たないようにしていた。
人の気持ちは移ろいやすいものだから。突然私が刀夜のことを嫌いになってしまっても多分刀夜は仕方ないと思うに違いない。もちろん悲しんでくれるはずだけど。
そんな刀夜でも許容量を超えるとこうなってしまう。やっぱり刀夜は強い。私なら多分絶望して何もしたくなくなるだろうから。
「…………他に何かして欲しいことある?」
「……しばらくこのままでいて欲しい」
「ん……」
何も言えないなら何も言わない。何も出来ないなら何もしない。ただ刀夜が望むことをしてあげたい。寄り添っていたい。
「…………あいつには何もしてやれなかったなぁ」
「……そんなことない。…………最後は笑ってた」
「それはあいつが甘いからだろ。……誰よりも現実を知ってるはずなのにな」
多分そうなんだと思う。だから刀夜は彼に……彼女に気を許したんだろう。
「幸せなんてまともに味わったことねぇのにな……。結局俺は自分の気持ちを優先してあいつに何もしてやれなかった」
「…………浅野も刀夜に嘘を吐いてまで受け入れて欲しくなかったと思う」
「…………そう、だよな」
それは願望かもしれない。浅野ならそう思ってくれるだろうという。
刀夜も浅野も不器用過ぎる。自分の気持ちに真っ直ぐに生きた浅野も保身の為に拒絶した刀夜もどちらも悪くない。
ただあまりにも現実は人が生きるには辛いことが多過ぎるだけ。だからこそこの結末を生んでしまったわけだ。
「悪いアスール。もう落ち着いた」
「ん…………でも眠れない?」
「…………そうかもな。俺のことは放っておいて寝てきていいぞ。疲れてるだろ?」
確かに疲れてる。でも多分私は眠れない。
ちょっとみんなの様子を見に行ってみようかな。
「…………刀夜が暇になる。……遊ぶ道具持ってくるからちょっと待ってて」
「え、お、おう……」
遊ぶ道具なんて実はない。あるにはあるけどそれは抜け出す為の理由作りだ。
刀夜との抱擁を解いて自室に向かうフリをして刀夜の部屋のドアをゆっくりと開ける。
「アスール様……」
「あ、と、刀夜くんもいる?」
「いえ、いないわね。刀夜さんは居間にいるわよ?」
「うむ、アスール殿だけだ」
「ガウ」
全員起きてた。分かってたけどみんな刀夜のこと心配してる。
「…………今日は徹夜確定」
「そうみたいね。遊ぶ道具なんてあるのかしら?」
「ん……ということで全員集合」
私1人で刀夜を慰めたいけどそれをするには私は力不足だった。だからみんなを頼ろう。
「は、はい」
「刀夜くん大丈夫かな……」
「早く行こう! ほら、早く!」
「ちょ、コウハちゃん押さないでよ。行くから」
「ガウガウ!」
全員すぐに起きて居間へと向かってくれる。やっぱりみんな刀夜のこと大好きなんだろう。
居間に戻ると刀夜は驚いたように目を見開いた。泣いた時間が短いお陰か目が腫れることはなかったみたい。
「何で全員で来るんだよ。というか寝てたんじゃ?」
「…………その状態の刀夜を放っておいて眠れるほど無神経な人はいない」
何度も意外そうに目をパチクリとする刀夜。そんなに意外……?
「…………ということで刀夜が喜ぶゲームをする」
「俺が喜ぶゲーム?」
「ん……王様ゲーム」
刀夜というよりは多分男の子が喜びそうな遊びのはず。加えてここには刀夜が好きな女の子しかいない。刀夜が王様になれば命令し放題のやりたい放題が出来る。
「深夜にそのゲームは危険だろ」
「…………だからこそ燃える」
「お前はとことん変わってるな……」
刀夜が呆れた様子を見せる。作戦失敗?
「んなことなくてもお前らのお願いくらい全部叶えるに決まってんだろ?」
「…………刀夜マジイケメン」
「何だその言葉遣いは」
今は刀夜が弱ってるから余裕はないはず。ということは心からそう思ってくれてるということに他ならない。
「ご主人様……」
「うぅ……は、恥ずかしいね」
「あ、あの、その……えっと……あ、あまり見ないでくれ……」
「刀夜さんは可愛いわね本当……」
あ、私だけじゃなくてみんなキュンキュンしてた。これは不意打ちだから余計に来るものがある。
「…………でもこういうゲームにすることに意味がある」
「そうなのか?」
「ん…………ちょっと過度なこと言ってもゲームだからって言い訳が出来る」
「そんな大人の事情は挟まなくていいんだが……元々恋人なんだから言い訳せずに甘えていいんじゃないのか?」
今日の刀夜は本当に格好良いことを言う。この数秒で私達全員を赤面させた。
「…………刀夜はあまり甘えない。……ならこれがチャンス」
「甘えないって……十分甘えてるつもりなんだけどな……」
「ん……もっと甘えていい。…………ということでクジを作った」
さっとクジを出す。それを箱の中に入れて軽く振って混ぜる。
「箸とかでしないんだな」
「ご主人様の世界ではそうなのですか?」
「その箸の模様や傷でクジが分かってしまうだろう? 刀夜殿の世界ではそういうのがありだったのか?」
「そんなとこ注目してる奴いねぇよ……。そもそも分かる奴がいねぇよ」
でも私達は冒険者。そういう観察眼が大切なのは仕方ないこと。
「…………とりあえず引いて」
「俺からでいいのか?」
「ん……」
刀夜がクジを引いて中を確認しようとする。
「…………待って。……確認はみんなで」
「そうか? それにしても無駄に綺麗な切り口の紙だな」
刀夜を静止すると興味深そうに呟いた。お手製であるクジはきちんと見分けが付かないように切り分けてある。
「ん……他のと遜色ないようにした」
「なるほどな。これ作るの結構時間掛かるんじゃないか?」
「ん…………でも刀夜に命令出来るなら吝かでもない」
「何命令する気だよ……」
それぞれクジを引いていって残った一枚を私が手に取る。私は2番だった。
「俺が王様だな」
流石は刀夜だった。何言われるんだろう?
「そうだな……2番ちょっと俺について来てくれる」
「ん…………2番は私」
「アスールか。んじゃ来てくれ」
刀夜が居間を出るのでそれについて行く。何されるんだろう? 刀夜のことだから酷いことはされないはず。
居間を出ると刀夜の顔を見つめる。刀夜は少し恥ずかしそうに視線を逸らして頬をかいていた。可愛い……。




