第60話 vs浅野(化け物)
浅野の身体が変形してからというものの攻撃手段が読めなくなった。人間の骨格じゃないからというのもあるがそれ以上に……。
「気配が全然ないんだけど!?」
「想像通りだ。問題は操られてない点ってとこか」
4人で背を向けあった死角をなくす。マオでも感知出来ない程に気配を消せる浅野の能力。暴走状態に入ったことでそれが復活したのだろう。
浅野のそれはリケラの複合魔法と同じ扱いだ。操られていた場合は使えない代物。今はただの暴走状態であり操られているわけではない。だからこそ気配隠蔽の能力が使えるようになったのだろう。
「厄介だな……」
「本当にな〜」
気配が読めないんじゃ動きも想定出来ない。情報を集めるしかなさそうだ。
必ずどの生物にも癖というものが存在する。俺がいつもしているのはわざと隙を作る手法だが今回はそれが通じなさそうというか読めない相手にそれは危険過ぎる。
少し長期戦になっちまうが仕方ない。さて、どうする……俺が囮になろうと思うが動きが読めない分あまりこいつらから離れるのも得策じゃない。
魔力装備生成魔法で刀を創ると周囲を見回す。浅野の姿は既にない。空間制御魔法で隠れているのだ。
操られていない点を見るとルナ達の方へと逃げた、なんてことはないはずだ。
「…………こんな時だから一応聞いておくが、なんでお前残ったんだ?」
「なんだいきなり? 戦力分散した方がいいって言ったのお前だろ?」
確かにそうだが別にこいつが残る必要はなかったはずだ。ルナが残っても問題はない。
「何か意図でもあったのか?」
「絶対言わねーよ」
「…………まぁ信じてるからスパイとか疑ってるわけじゃねぇけどな」
もしその時は俺に見る目がなかったというだけの話だ。そんなので最強とは呼べないから死んだとしても仕方ない。
「お前はやっぱり馬鹿弟子だなぁ〜」
「なんだいきなり」
「そういうことか……ふふ、やはりミケラ殿は優しいな」
「ん…………流石」
なんかアスールとコウハが納得した様子なんだが? え、これ俺が鈍いからなのか?
「今ので分かるのか?」
「馬鹿弟子なら仕方ないからな」
「ん…………年上なら分かるかも」
「まぁこいつ無茶ばっかするからな〜」
なんで全員で責められてるんだ俺は? こんな状況下だがなんかすっげぇいたたまれない気分なんだが。
「っ!」
真上にちらっと空間の亀裂が見えた。俺は咄嗟にアスールとコウハを突き飛ばす。ミケラは既にバックステップしていた。
ミケラが後ろに下がりながら魔法陣も見えない速度で氷の壁を展開して俺と浅野の間を塞ぐ。
浅野の鋭い鎌がまるで氷の壁など意にも返さないように切り裂いて俺に迫る。ミケラも別に防げるなど思ってもいないだろう。
ただ必然的に硬いものを切り裂いているとその速度が減少する。ミケラの援護はこういう形で功を成してくれるわけだ。
半身になって鎌を躱すと同時に刀に炎を纏わせて斬り上げる。確かに俺の刀も氷によって遅れは取るものの、体勢が崩れているか崩れていないかでは大きな違いがある。
炎の壁を焼きながら斬り裂き、延長線上の浅野の身体を深く傷付ける。
「ぐぎゃぁぁぁぁ!!!!」
浅野の声ではない、まるで化け物のような声が響き渡る。伸びていた棘がいきなりパキンッと折れてボロボロと落ちていく。
「…………?」
何故斬ってもいないのに棘が落ちるんだ? そもそも棘は何の意味があったんだろうか。
追撃を入れようとしてブサリと何かが腕に突き刺さり鋭い痛みが走った。ちらりと腕を見ると落ちていたはずの棘が飛んできていて俺の腕に突き刺さっていたのだ。
「ちっ!」
すぐに状況が読めて走る。落ちたはずの棘が全て操られており俺に迫ってくる。
「破壊の衝撃!」
コウハが俺と棘の間に入ってきて大剣を振るう。すると空気が叩き付けられるようにバチンッと甲高い音が鳴り響き、棘が全て砕ける。
「…………ヒーリングサークル」
「え」
続いてアスールも回復魔法を二重に展開したかと思えばいきなり俺の身体を軸に光の玉が尾を引くようにして回り始める。瞬間腕の傷がみるみる癒えていく。更には完治した後もその光はぐるぐると回ったままだ。
「マジかよ……」
「…………私の魔力分は回復する。……多分後さっきの傷一回分は回復出来る」
「お前の魔力消費は?」
「…………少ない」
アスールが親指を立ててサムズアップ。俺がルナと銃を作っている間に新しく魔法を覚えていたのか。
「なら当然教えてたのは……」
「俺だな〜」
ま、そうだろうな。ルナがいないのに魔法の練習は非効率だしな。
「てことはアリシアとマオとリルフェンもか?」
「ん…………刀夜を驚かせる為にみんな必死」
そうなのか。それならちょっと楽しみにしておこう。
「…………それでどうするの?」
「そうだな……」
どうしようか。癖があるんじゃと思ったが前言撤回だ。色々な生物が混ざりすぎて癖も何もあったものじゃなさそうだ。
「とりあえず俺が動きを止める。コウハは隙を見て頼む。アスールとミケラは援護だ」
「うむ!」
「ん……」
「それが一番だよな」
あいつに距離の概念がない以上後衛であるアスールやミケラが狙われる可能性は大いにあり得る。すぐに援護出来るように距離感は考えておかないとな。
「ぐ、ぐぅぅぅぅ」
バキバキと身体から再度棘が生えてくる。そいつの棘は再生可能か。面倒だなおい。俺の付けた傷すらも回復してやがる。
俺は目を閉じると覚悟を決める。己の中に揺らいだものを押し込めて。悲しみなんて戦場には不要の代物だ。こんなものがあっても仕方がない。
頭が酷く痛む。だがこんなものはさしたる問題でもない。やると決めたんだ、それを貫かないでどうする。
「コウハ、もう角は狙わなくていい。多分そんな余裕はねぇしな」
「ど、どうするんだ?」
「…………浅野を殺す。今までの奴らと同じように」
遠慮をしてコウハが殺されかけた。もう無理だ。リケラや他の暴走状態の奴らは角がない。それにすがって角を切ればあるいは、なんて甘い考えをしていた。
「そんな! 刀夜殿はそれでいいのか!?」
「ん…………傷付くのを見たくない」
「おい、刀夜。本気……じゃねーよな?」
全員が真剣な表情で俺を見つめてくる。俺の判断一つでこいつらはやると言えば多分やるんだろう。
「…………こういうこともある。それだけだ」
悲しい。苦しい。しんどい。やめたい。
そんな負の感情を全て切り捨てる。心を作り変えろ。鍛冶師たる俺はそれが出来る。それが出来たからこそゴブリンキングにも勝てた。今回することもそれと同じだ。
「俺はお前らに普段から言ってるよな。お前らの中の誰かが死ねば俺も終わりだと。その中にあいつは含まれていない。それが答えだ」
刀を強く握り締める。握り締めた腕からポタポタと血が垂れて白い床を赤く染めていく。
決意を、意思を曲げることは出来ない。はき違えるな。大切なものと何者にも代え難いものは違う。
「…………刀夜、もっとワガママを言うべき」
「…………」
確かにそうかもしれない。遠慮なんかしていては駄目だ。助けられるなら俺だって助けたい。
でも現実はそんなことを許してくれる環境下じゃない。俺がまだまだ弱いから……だから大切なものを取りこぼしてしまう。
素直に浅野は見逃して逃げる道を選べばよかった。無理をして浅野と戦う必要はない。浅野を足止めしながら本拠地を潰せるくらいの力があればそれも可能だったろう。
しかし現実は俺達が力を合わせてようやく魔人という種族に追い付く。そんなギリギリの状況下で手加減するなどという余裕は待てない。
「ならお前は助けられる方法があるってのか?」
「…………それは」
アスールが言葉に詰まる。分かっている、アスールが俺のことを想ってそう言ってくれているのを。
それでも駄目だ。そんなことをして失うくらいなら俺は切り捨てる。それしかない。そうすることしか出来ない。
目尻に溜まりかけた涙を腕で拭うとゆっくりと浅野に歩み寄る。浅野は鋭い鎌を振り下ろそうと腕を上げる。
「ごめんな……」
俺は瞬時に速度を上げて浅野の懐に飛び込んだ。大振りの鎌の下を通り抜けて浅野との距離を一気に詰める。
握り締めた刀に力込める。練習では出来なかったそれだが本番では案外出来る気分にもなるらしい。いや、出来なけりゃいけないだけか。
「神速の太刀!」
浅野の腹部を斬り裂きながら横を通り抜ける。更に強くその場で踏み込むと更に刀に魔力を込める。
「神速の太刀!」
刀を返して振り上げる。腹部と背中を大きく斬り裂き、大量の血を噴き出させる。しかしその傷は瞬時に塞がった。
「っ!」
突然棘が射出されるように飛んできた。咄嗟にバックステップでその威力を軽減させると共に幾つかは回避する。
空中にいるその隙を狙われた。予想外にも背中から触手のようなものが飛び出してきて俺の腹部に絡まりつく。
「ちっ!」
舌打ちをしたのと同時に高く上に挙げられてしまう。そのまま地面に叩きつけられるように振り下ろされる。
俺は咄嗟に魔力装備生成魔法で盾を精製し、地面に向ける。直撃だけはするか!
盾をクッションにしたはずなのにいきなり床が柔らかくなった。何事かと思ったもののこんなことをするのは1人に決まっている。
「だから無茶すんなって言ったんだよな〜!」
ミケラが地面に手を付いていた。俺が破壊した地面を使って床のその下の地面を柔らかくしたんだろう。床そのものは鋼材なせいで土魔法でもいじれないからな。
「刀夜殿が決めたのなら仕方ない!」
「ん…………平気?」
コウハが大剣を振って触手を切り裂いてくれる。アスールが即座に俺の前に立って体勢を立て直す為の時間を稼いでくれる。
「これは……負けられねぇな……」
立ち上がると刀を強く握り締める。浅野には悪いがやはり俺は過去よりも今を選ぶ。こいつはもうその肝心の未来さえないのだ。俺が殺して楽にしてやる。




