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第59話 vs浅野 ユキ

 社会に出て取り繕った自分を演じても何も得られなかった。虚無感だけが漂うように心を支配していた。

 人付き合いが苦手な上に醜い人間を見ると吐き気がするくらいに気持ち悪くなる。しかしこれが現実なのだと痛い程に知らしめられる。

 そんな中訪れた異世界転移で出会ったルナ。もし浅野がいなくて俺が一歩も踏み出していなければルナとこうして恋人同士になることもなかっただろう。

 ルナが人の暖かさを教えてくれた。

 アスールが繋がりの大切さを教えてくれた。

 アリシアが踏み出す強さを教えてくれた。

 コウハが曲げない信念の強さを教えてくれた。

 マオが憎しみの中の優しさを教えてくれた。

 その大前提に浅野が誰かと関わろうとする意思を教えてくれたのだ。だから俺はこうして幸せなのだとはっきり言える。

 恩返しの為にも、そして二度と失いたくない友達の為にも今俺は……。


「絶対に助けるからな……」


 ライジン使用しながら一歩踏み込んだ。刀を強く握り締めると浅野に斬り掛かる。


「刀夜! そいつに武器は!」


 ミケラが後ろで叫ぶ。振り下ろした刀は浅野に到達する前に見えない壁にぶつかってポキリとへし折れた。

 空間制御魔法は転移魔法の強化版ではあるが同時に防御魔法の延長線上でもある。一面側にしか出せないようだがそれでも正面からの攻撃に対しては絶対防御とも言える代物だろう。

 空間制御魔法を解いた浅野が俺に向かって腕を伸ばしてくる。俺は鍛冶魔法で空中に待っていた刀を繋ぎ合わせると同時に振り下ろす。


「っ!」


 浅野は一瞬驚いたような表情を浮かべ、強引に身体を捻ってなんとか躱した。


「破壊の断罪!」


 コウハが横薙ぎに大剣を振るう。狙うは浅野の角だ。俺はすぐにしゃがんでそれを躱す。


「なっ!?」


 コウハの大剣は見事にポッキリとへし折れる。浅野の空間制御魔法だ。インターバルがクロのそれよりも短いらしい。

 コウハを抱えるように抱き上げると一旦距離を取る。浅野はすぐ様追い掛けてきた。


「フォトンフレイム!」


 ミケラが赤い魔法陣を二重に展開、小さなビームのような炎のレーザーが幾分にも分かれて多方向から浅野に迫った。

 流石に浅野も対処に困ったのだろう。動きを止めて回避に徹する。しかしそれらは全てホーミングフレイムの強化版らしい。追従するように浅野を追い掛けていく。

 その間に魔力装備生成魔法で大剣を作ってコウハに渡す。さて、どうしたものか。

 武器破壊は俺だけの専売特許じゃなかったらしい。空間制御魔法の防御性能が高過ぎるな。分かってたことだが。


「仕方ないな……角はコウハが切ってくれ」

「刀夜殿はどうするんだ?」

「素手で戦う」


 俺が陽動、コウハがアタッカーだ。素手というのはあまり経験がない? 実はそんなことがなかったりするんだけどな。

 追尾する炎のビームを避けるようにバックステップをする浅野。しかし途端に見えない壁に背中をぶつけて動きを止めた。アスールの防御魔法だ。


「ナイスだアスールちゃん!」

「ん……」


 ミケラの魔法が浅野に直撃した……と思われたが防御魔法を逆手に取られたらしい。前方に大きく展開された空間制御魔法が炎のビームを防いでしまい、反対側はアスールの防御魔法で守られるという状況下を作られてしまった。


「やっぱ駄目か〜!」

「…………厄介」


 確かに厄介だがこの後に少しのインターバルがある。それを狙うことは出来るだろう。

 俺はすぐ様突っ込むとアスールの防御魔法が消える。良いタイミングだ。

 拳を握り締めて腰を捻る。腕ではなく身体全体でパンチを放つ。


「…………」


 あっさりとそれを受け止められた。やはり力に関しては魔人には敵わないらしい。バックステップしようとして浅野が反撃しようとする動きを見せた。俺の読み通りに。

 俺は回避するように見せ掛けた反撃に転じる。浅野は驚いたように目を見開いた。

 縮地という技術だ。膝の入り抜きを利用して動く歩法。動くと認識出来ないからこそ人間は不意を突かれる。間違いなく魔物には通じないだろう。


「ふっ!」


 再度腰を捻って全身で浅野を殴り飛ばす。更にもう片方の手で魔法陣を展開すると10本もの剣を創り出す。それらは宙に浮遊し、様々な方向へと飛んでいく。

 操作魔法で剣を動かしながら更に浅野との距離を詰めていく。振り抜いた拳が見えない壁に阻まれてしまう。

 拳が痛むが関係はない。手が折れようともこのチャンスは逃さない。

 散っていた剣が切っ先を浅野に向けて射出される。勢い良く射出された剣をギリギリの紙一重で浅野は躱した。瞬間空間正義魔法が解ける。

 俺は腕の傷を治すこともなくすぐに突っ込んだ。反撃の隙は与えない。攻撃は絶やさない。

 出来れば無傷で、なんて甘い考えは持たない。四肢を全部斬り落としてからでないとというくらいの覚悟だ。動けなくなるまで攻撃を続ける。

 正拳突き、裏拳、回し蹴りなどで絶やすことなく攻撃を繰り返す。俺の動きに慣れてきたのか浅野は反撃に転じた。

 俺の攻撃を弾いたと同時に懐に飛び込んでくる。拳を握り締め、アッパーのように殴り上げる。俺は咄嗟に腕を挟み込んで衝撃を和らげる。


「ぐっ!」


 それでも壮絶なまでの馬力の差だ。俺の身体は一瞬宙に浮いてしまう。それを浅野はチャンスと見たのだろう。

 空間制御魔法で俺の首を切断するつもりか。でも遅過ぎる。浅野の元には既に幾つもの剣が迫っていた。

 浅野は咄嗟に右横に空間制御魔法を使用した。しかし反対側から迫った剣が浅野の腹部に突き刺さった。


「っ!」


 多角的に攻めれば浅野は対応出来ない。特に同時攻撃などもってのほかだろう。そしてこいつは今重大なミスを犯した。

 空間制御魔法を防御に使った。だからこそそこに大きな隙が生まれる。このインターバルは見逃さない。


「コウハ!」

「大丈夫だ!」


 コウハをちらりと見ようとすると既に駆け出していた。よし、これで角を切り裂く!

 一気に浅野との距離を詰め、拳を振るうフリをする。視線が拳に集まったその瞬間、足払いで浅野の体勢を崩す。

 瞬時に魔力装備生成魔法と操作魔法を使用して剣を落下と射出を同時に行う。剣は雷を纏って浅野の四肢を貫き、地面に深く突き刺さって動きを封じる。


「破壊の断罪!」


 コウハが勢いよく大剣を振り下ろす。俺は咄嗟にバックステップでそれを躱すとコウハの大剣が地面にぶつかったのか床を破壊して大きく砂埃を発生させる。


「…………どうだ?」


 砂埃で詳細にどうなったかが分からない。ちゃんと角は切れたのだろうか?

 コウハの大剣の腕は確実だ。間違えて首チョンパしたとかはないだろうが……。


「っ!」


 砂埃から何かが飛び出してくる影が見えた。そのシルエットは……。


「コウハ!」


 見間違うはずもない。受け止める為に駆け出すと飛んできたコウハを受け止めようとしてその威力を支え切れず壁に飛ばされる。


「ぐっ!」


 背中を強く打ち付ける。打撲程度の衝撃だったが一瞬呼吸が止まる。

 しかしそんなことはどうでもいい。コウハは腹部を深く切り裂かれており、大量の血が噴き出していた。

 すぐに回復魔法を掛けようとして誰かがそれを止める。


「……私がする」


 相当慌ててしまっていたらしい。アスールの接近に全く気付かなかった。多分アスールも瞬時にその影がコウハだと見抜いて駆けていたのだろう。

 アスールの回復魔法でなんとか傷を癒す。コウハの目の焦点が合ってきた。


「大丈夫か!?」

「刀夜殿……すまない……しくじってしまった……」

「んなことどうでもいいんだよ馬鹿……」


 ぎゅーっとコウハを抱き締めてしまう。よかった……本当に。


「…………何があったの?」

「分からない。いきなり何か鎌のようなもので腹を切り裂かれてしまったんだ」


 あの砂埃は向こうの仕業だったのか。大剣は浅野を切り裂く前に止められていたということだろう。

 浅野を確認しようとしてゾクリと全身が震えた。寒気がするくらいのおぞましい何かがすぐそばにいる……。そんな感覚だ。


「は…ぎ……くん…………」

「っ!」


 俺は即座にアスールとコウハを抱えて壁から距離を取った。浅野が意識を取り戻して声を出してくれたのかそれとも偶然なのかは分からないが。

 空間制御魔法で俺達の背後の壁を通して亀裂が入る。そこを大きな鎌がズザンッ! と振られているのだ。


「…………意図的に暴走させたってのか」


 空間の亀裂から全身を露わにした浅野。それはもう人の姿を保ってすらいない。

 顔はぐちゃぐちゃになっており、片目の眼球は先程の地面に落ちてしまっている。ドロドロに溶けたような肌で1つの眼球が飛び出している。

 身体は大きく膨れ上がり、右腕が鋭い黒い鎌に変形している。上半身の衣服から飛び出した骨のような白い棘など相当ヤバイウイルスでも使ってるんじゃと思わせてくる。


「…………刀夜」

「…………分かってる」


 あれはもう人間じゃ……浅野じゃない。浅野はそれでも生きたいと思うのだろうか? あんな容姿になって……それでも。

 一瞬視界が滲んだ。それでもまだ駄目だ。まだ泣くな……諦めるな。


「暴走を止める手段はない。ひとまず角を切り裂く」

「ん……刀夜がそれでいいなら」

「…………刀夜殿、今度こそ私も油断しない」


 これで最後かもしれない。でも浅野ともう一度くらいは話したいな。

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