第53話 いじめられっ子の優しさと朝のイチャラブ
「さて、どう落とし前を付けてくれるんだ? それともこのまま黙ってるつもりか?」
「それは……」
といってもこのままじゃラチがあかないだろう。それに俺は直接の被害者ではない。判断は浅野に任せるとしよう。
「浅野、お前はどうしたい」
「え、僕?」
「お前のことだろうが」
何故キョトンとするんだこいつは。
浅野は顎に手を当てて少し思案すると苦笑いを浮かべた。
「うーん……僕としてはこれから関わってくれなければそれでいいかな」
「…………あ、そう」
確かに余計なことをしてこいつらの二の舞になるのはごめんだな。俺も立場が逆転しないように気を付けなければならない。
「うぐっ……えぐぅ……ひっぐ……ごべんなざぁい……」
「ちょ、は、萩くん泣いちゃったよ!?」
「自業自得だろ。放っておけ」
いきなり泣き始めた女子生徒達に冷たい視線を向けてしまう。こいつら泣けば済むとでも思っているのだろうか?
「萩くん酷過ぎないかな!?」
「むしろお前は何故そんなにも平気そうなのか分からないな。こいつらに殺されかけたんだぞ?」
殺されかけておいて何故そんなにも平気なのだろうか? 世間一般としては普通は許せないことだろう。
「う、うん、そうなんだけどね。なんというか……多分この人達が関わることに関しては疲れちゃって」
「ようするに関わりたくないってことだな。なら余計に牢獄送りにしてやればいいのに」
「それって訴えるってことだよね?」
「あぁ」
そうなれば二度と会うこともないだろう。いや、逆恨みはされるかもしれないがその時はその時だ。
「お願いします! それだけは!」
「喋んな」
「はい……」
こいつの謝罪などはどうでもいい。浅野の意見が第一だ。
「は、萩くん……! もういいよ……でも二度と僕には関わらないでね」
浅野は睨みつけるように女子生徒達を見た後に俺に向かって微笑んだ。
「萩くん、ありがとう」
「はぁ……もういい。とりあえずお前ら二度近付くなよ。あとちなみに言っておくがこの会話、録音してるから。妙な事をするなよ」
「なっ!? 盗聴!?」
面倒な……。そういうのを持ち出すからゴミなんだろうに。
「いじめでの証拠ってのはこういう風に取るもんなんだよ。これで訴える、と言いたいならそうすればいい。どうせ加害者と被害者という関係性は変わらない。言ったよな? 警察は証拠さえあれば動く。これが充分証拠になりうる」
これは脅しと取られるかもしれないが正当防衛だ。だからこそ問題ない。
「浅野」
「え、あ、え?」
浅野にボイスレコーダーを渡す。これでこいつがいじめられることはない。つまり俺のいる屋上に来る理由もなくなる。
「それやるからとっとと失せろ」
「は、萩くんは?」
「まだ話すことがあんだよ。とっとと行け」
「ちょっ!?」
浅野の背中を押して部屋から追い出す。さて、ここからは大人の話なわけだ。
「…………まだ何かあるのか?」
「このまま俺はお咎めなしで普通に登校、なんて学校側が納得しねぇだろ」
俺は席に座ると足を組んで横柄な態度を取る。今の状況下ではそれを注意する奴もいないだろう。
やはり浅野は許しても俺は許す気はない。食べ物の恨みは恐ろしいというからな。俺の飯じゃなかったが結果的には俺の飯が減ったのだからこれくらいはやり返させてもらおう。
「停学3日。俺とそっちの女子全員だ。それで手を打ってやるよ」
「な、なんで私達まで!?」
「なら退学でもするか? 流石にいじめをしておいてお咎めなしなんて甘い考えじゃねぇよな?」
女子生徒は黙る。泣いたり驚いたり慌てたりと忙しそうだ。よくそこまで表情豊かになれるものだ。
「こっちは100歩譲って停学を受け入れてやるって言ってんだ。お前らは正当どころかむしろ罪を軽くしてやってる分感謝して欲しいくらいだな」
そもそも俺が停学するのはまぁそれなりに罪悪感というものだ。というか浅野が甘過ぎた。そのせいだろう。
「で、どうする? こっちは随分と譲歩してやってるんだが?」
「…………受け入れよう」
「受け入れる?」
それは違うな。それはこいつらがそれで譲歩しようとした結果という言葉だ。譲歩したのはこっちであってこいつらじゃない。
やはり大人とはこの程度のものか。クズはクズでもここまでのクズだと敬語どころか喋る気すら無くなる。
浅野の気持ちがまた分かってしまった。俺がこの大人と同級生に感じている事を浅野も感じていたという事だろう。
「お前らと喋ると疲れる。浅野がどんだけマシだったか再認識したぞ……」
浅野も俺も少し似ているからかまだ話しやすい。もっとも俺はその繋がりを持とうとは思わないが。
「キミ達には美化活動も追加で課します」
「は、はい……」
担任がそんな追加事項も加えて来る。こいつもそういう罪悪感みたいなものだろう。
「話がついたならもういいよな。俺は今週は家でゆっくりさせてもらう。まぁバイトには行くがな」
俺としても生活がかかっているのだ。そこは譲れない。
「じゃあな」
「う、うん……」
そして俺は3日間学校を休んだ。浅野がごちゃこちゃと何やら騒いでいたがどうでもよかったので無視した。
それからだろうか。浅野は何故か余計に俺に関わって来るようになった。いつしか俺と浅野がデキているんじゃないかという噂まで立っていた。
「ご、ごめんね萩くん」
「…………」
サンドイッチを頬張り本のページをめくりながら隣の雑音を無視する。今日も今日とてこいつは関わってくる。その根性だけは流石の一言だろう。
「あの……僕にその気があっても萩くんにその気がないのは分かってるから!」
「…………」
「え、あ、あれ? え、えっと……で、でも萩くんがその同性愛者なら……えっと……僕も嬉しいなぁ?」
やべぇんだけど、色々と。何言ってんのこいつ?
「…………俺はノンケだ」
「あ、返事してくれた!」
「うぜぇ……」
酷い誤解を生みそうだったからわざわざ言ってやったら過剰に反応された。なんだこれ、俺もいじめを受けてるんじゃなかろうか?
「ふふ……そっかぁ。じゃあ萩くんが僕のこと認めてくれるように頑張らないといけないね」
「…………」
こいつは何を目指しているんだろうか。というか俺としては近付かないで欲しいくらいなんだが。
「萩くんって何が好きなの?」
「1人」
「そういうのじゃなくて! 好きな食べ物とか!」
「…………」
なんで俺がそんな事を答えないといけないんだ? そもそも何故そんなものを知りたがるんだこいつは。
「なんで肝心なところで黙っちゃうの!?」
「…………」
これ以上こいつの相手をしても疲れるだけだ。面倒くせぇな……。
「萩くんの意地悪……でもそういうところもちょっといいかも……」
こいつはもう駄目かもしれん。ここから妙に積極的になってきた浅野の気持ちには当然気付いていたが見ないフリをした。
「ん……んぅ?」
目が覚めると見慣れた光景が広がっていた。どうやらまたあの頃の夢を見ていたようで上体を起こしても現実と夢の境が曖昧になった今ではどっちが現実なのか分からなくなってきた。
「…………おはよう刀夜」
「ん?」
下を向くと何故かアスールがいた。ゆったりとしたシャツを着ており、形の良い胸が押し出されて少しエロい。
「…………お前なんで俺のベッドに? というかそれ俺の服なんだが」
「ん……刀夜の服は良い匂い」
「恥ずかしいからやめてくれ……」
と言いながらも脱がすわけにもいかないので軽くアスールの頬をつねる。痛くはしていないはず。
「ん……裸エプロンの方がいい?」
「そういう事じゃない。そういう事じゃないけど見てみたい」
「ん…………また今度」
また今度してくれるんだな。これは早速楽しみになってきた。やっぱりこっちが夢だな、うん。
「アスール、俺の頬もつねってくれ。夢か現実かよく分からなくなってる」
「…………別の方法でいい?」
「別の方法? 目が覚めるならそれでいいけど」
アスールも上体を起こすと俺の頬をがっちりとホールドする。
「何するんだ? フェイスクラッシャー?」
「…………そんな物騒なことしない」
だろうな、もちろん冗談だ。
アスールは目を閉じて近付いてくると優しく唇を合わせてきた。つまりはキスされたわけだが。
「…………おはようのチュー」
「…………」
何この甘酸っぱい恥ずかしさ。アスールの手を握り締め、頬から離すとつい顔を背けてしまう。
「…………耳真っ赤」
「不意打ちは卑怯だろ」
まさかいきなりキスされるとは思わなかった。あー、顔が熱い。まぁお陰で目は覚めたんだが。
アスールは俺の胸元に顔を押しつけるように抱き付くと何故か頬ずりを始める。
「…………良い匂い」
「朝から全開だなおい。というかお前もマオみたいなことしなくていい」
「…………マオもしてるの?」
「俺の体臭は獣人殺しらしいぞ? 嗅がせるだけで獣人族を堕とせるらしい」
まぁ多分マオの冗談なんだろうけど。
「…………確かに」
「納得するのか」
「ん…………私達全員刀夜の匂い好き」
そういえば人間も動物だ。好きな人の匂いというのは本能的に好きだと思うものらしい。これがそういうことなのか?
「…………朝はいつも元気なのに今日は違う?」
「お前いつもどこ見てんだよ」
「…………股」
「生々しい言い方しなくていい」
まぁ直接的に言われるよりはマシだが。でももう少し恥じらいを覚えて欲しいものだ。
「…………処理しに来たのに無駄だった」
「お前何を狙ってんだよ……」
「……刀夜の朝立ち」
ちょっとは慎み持ってくれ……。
「そんなことしてたら痴女みたいだぞ」
「ん…………刀夜専用」
それは痴女なのか一途なのか分からないな……。間違いない女性としての慎みは足りないが。
「…………嬉しくない?」
「……正直嬉しい」
「ん……」
満足げに頷くアスール。しかし俺は朝のこれはあんまり好きじゃない。
「でもやるなら夜に頼む。朝はあんまり好きじゃなくてな」
「…………そうなの?」
「ま、まぁ……生理現象じゃなくてお前の魅力で興奮したいというか…………」
「…………」
こっちが恥ずかしいの我慢して言ったってのになんでこいつは無言なんだ。ちょっとは反応してくれてもいいだろうに。
アスールは俯くと何故か俺の頬をつまんでくる。なんでお仕置きされているんだ俺は。全く痛くないけど。
「…………可愛いこと言わない」
「可愛くはねぇよ」
「……刀夜は可愛い。…………それに純愛」
そうでもないような気がするが……。そもそもエロい話してるってのがもう純愛もクソもない気がした。
「まぁいいや、さっさと飯食おう」
「ん…………今日は行かないと」
「そうだな」
ルナとの武器の方向性もある程度確立して今日は約束の5日後だ。今日から敵陣に乗り込むことになる。準備は万端とは言えないが時間を掛け過ぎるのも考えものだ。




