第51話 報われるべき者達に夢のような幸せを
俺の部屋にやってくるとルナは早速鞄から何かを取り出した。何だろうかとマジマジ見ていると拳銃が出てくる。ブラ紐をくっ付けて。
「…………俺どうすりゃいいんだ?」
「す、すみません! 用があるのは銃だけなんです!」
慌てた様子でブラを鞄に押し込んだルナ。この魔法の鞄は収納は出来るのがウリだが入れた物は空間を彷徨っているような感じになるらしい。その空間でブラの紐が銃に引っ掛かってしまったようだ。ルナは別に悪くはない。どうしようもない偶然というだけだ。
しかし紫か。ルナが紫の下着を……それはそれでエロいな。ちょっと見てみたい。新作の下着だったのだろうか。
とりあえずルナが顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしてるのであえてブラについては流してやる。話進まなさそうだし。
「それで銃がどうした?」
「少し改良していただきたくて」
「それならわざわざ俺の部屋に来る必要はないんじゃないか?」
別にあいつらに見られて困るようなことじゃないだろうに。隠れてすることか?
「いえ、その改良して欲しい内容がですね……あの……えっと……」
「……?」
何この雰囲気。エロいこと? いや、確かにルナは若干オープンなところもあるだろう。俺が誘ったら昼夜問わず、また場所すら問わないという溺愛っぷりを見せるが。
しかし清楚で可憐な乙女。男の部屋でいきなりエロいことをしてくださいなんて言わないタイプだ。
「その……わ、私の魔法を組み込んでいただきたくて」
「ルナの魔法を?」
今までは俺の魔法陣を組み込んでいたがルナの魔法陣を組み込むとなるとその威力は倍増する。だってルナは魔法使いが天職なのだから。
「はい。一応理論上は出来るらしいので」
付与魔法の理論上は確かに可能かもしれんが。まぁ確かにそういうやり方もいけるっちゃいけるのか。
「でもなんでその話をこんなに隠れてするんだ?」
「その……ふ、普段皆様の体調を気遣っているのですが……」
「あぁ」
「その私がその……生活習慣を乱してしまっては……」
あー、つまりそういうことか。ほら、恋愛禁止の学校で委員長的なポジションの人が恋をしちゃって悪いなぁ的な。分かるだろうか、分からんな。
とりあえずルナにとっては生活習慣を崩すことは悪いことだということだ。そしてそれを自らの意思で乱すことが悪いことだと思っているのだろう。何その優等生みたいな考え方。
「別に悪いことしてないんだから堂々としてりゃいいのに」
「そ、それは……」
「それにそれが悪いことになるなら俺めちゃくちゃ悪いことしてるみたいなんだけど」
「そんなことありません! ご主人様はとても頑張っていらっしゃいます!」
ほら、こうやってすぐに甘やかす。だから俺の生活習慣が余計に乱れていくんだろうに。しかも今回はルナまで巻き込むわけか。
「しかし確かにそうだな。ルナの魔法を組み込めるならもうちょっと改善の余地があるか。二重に重ねる魔法も試してみてもいいかもしれないしな」
「で、では!」
「あぁ、構わない。というかむしろそういうことなら俺の方からお願いしたいくらいだが。でもいいのか? 魔法を組み込む工程以外は暇だぞそれ」
ルナにやってもらうのはそういう部分だ。しかも色々と組み込むタイミングがあるからずっとそばにいてもらう必要がある。タイミング逃したら終わりだからな。
「ご主人様を見ているので問題ございません」
「問題しかないような気がするんだが……」
そういや初めて会った時から趣味らしい趣味はなかったな。基本的に魔法の勉強してるか家事してるか俺とイチャイチャしてるかのどれかだもんな。
「それじゃあ組み込める魔法も試しながら始めていくか」
「はい!」
「あとお前がいなくなったらあいつらも心配するから話はしておくこと」
「あ、そ、そうでしょうか?」
当たり前だろうに。今更誰か1人が欠けたら心配になるだろ普通。
「私……そんなにも想われていていいのでしょうか?」
「当たり前だろ? むしろ今までの経験を考えるならお前は余計に報われるべきだろ」
「そ、そうですか」
ルナはずっと1人だった。師匠の後を追うだけでそれ以上でもそれ以下でもなくて。俺と契約する前は蔑まれたりも多かったらしい。今も厳しいが精霊の扱いは昔からそうなのだから。
どっと押し寄せる不幸の中で幸せを見つけてそこに甘えても何も悪いことはないだろう。むしろそういう生き方をするのは良い事だ。
「こんな世界だ、幸せに浸っておかないと損するぞ?」
「…………そうですね。ご主人様がそう言ってくださるならそんな感じがします」
こいつは相変わらず俺を中心にしてるな……。いや、嬉しいんだけどもう少し周りにも目を向けてみてもいいかもしれない。
「あと俺は自分が100%正しいとは思わない。だから間違えてると思えばすぐに否定してくれていいんだぞ?」
「では早速1ついいですか?」
「ん? おう……」
いきなりかよ。しかももう見つけちまったのかよ。早いなおい。
「先程、お前は余計に報われるべきだって言ってくださいましたよね」
「あぁ、言ったな」
まさかそこ否定するのか? さっき自分で納得してたろ。
「お前は、だけじゃなくてご主人様も報われるべきですよ」
「は?」
「お前は、なんて言い方ですとご主人様はそうじゃないという風に感じたので。ご主人様も報われて幸せになるべきですよ」
にっこりと微笑むルナの表情は大変魅力的だ。更にそんなことを言われてしまって心臓がバクバクと鼓動を早める。
「いえ、すみません。訂正致します」
「ん?」
「私が幸せにしたいです」
「…………」
目を大きく見開いてしまう。口元が乾いて喉がカラカラになる。
「…………ご主人様? あ、あの、は、恥ずかしいので何か言って欲しいんですが……」
ルナが頬を少し赤く染めてもじもじする。うん、もう駄目。
「なぁルナ」
「は、はい!?」
「ちょっと抱き締めさせてくれ」
「え、あ、はい!」
ルナをギューっと抱き締めると柔らかい感触が返ってくる。ふんわりとした甘い匂いが更に心臓の鼓動を早くさせてくる。
「ご、ご主人様?」
好きだとかそんなものじゃなくただただ愛おしい。ルナがいてくれるだけでいつでも俺は頑張れそうだ。
どのくらいそうしていただろう? ふとドア越しに視線を感じて抱擁を解いた。
「もういいんですか?」
「あぁ」
ルナが少し残念そうな表情を浮かべた。そんなにしたかったのか。俺ももっとしたかった。
ドアを開けるとそこにはアスールが。アスールはお盆を持っており美味しそうなご飯が並んでいる。
「もう夕食なのか?」
「ん…………大切な話終わった?」
「あぁ。悪いな、ちゃんとみんなと食べる」
「ん……」
アスールからお盆を受け取って居間へと向かう。
「あら、もういいの?」
「あぁ。ルナ、せっかくだし今の間に言っておけばいいんじゃないか?」
「そうですね」
ルナが何やら真剣に説明してる間、俺は座ってテーブルに頬杖を付きながらその様子を見つめる。
「いえ、それ何か隠す事あるかしら?」
「だ、だって生活習慣が崩れてしまうんですよ?」
「刀夜さん崩れに崩れまくってるじゃない……。それに強くなる為なら仕方ないでしょう?」
「うん、別に悪いことはしてないんじゃないかな?」
概ね全員同じ意見のようだ。ルナは少し真面目というか体調面に関しては本当に抜かりがないからな。
「…………刀夜」
「ん?」
アスールが話し掛けてくる。話を聞いていて理解したからこちらにきたということだろう。ルナの話はそのくらいの気にすることはない程度ということだ。
「…………ルナのことじっと見てる」
「あぁ、そうだな」
「…………好きなの?」
「好きだぞ?」
当たり前だろうに。今更何故そんなこと聞いてくるんだろうか。
「……ルナが一番?」
「一番とかは別に考えてないな。お前も大切だしな」
「ん…………安心した」
アスールの頬に手を添えてやると安心したように微笑まれてしまった。こいつらも俺と同じように独占欲があるんだろう。最近ようやく分かってきた。
「けれど刀夜さんとずっと一緒っていうのはズルくないかしら?」
「そ、それは……な、なら皆様もご一緒にどうですか?」
「うむ! あ、でも刀夜殿の邪魔はしたくないしな……」
何やらものすごく悩んだご様子だが。
「そろそろ飯食わないと冷めるぞ?」
「あ、うん。そうだね」
ひとまずは夕食が先だろう。手頃な肉を取り分けてリルフェンの元に置く。
「ガウガウ」
「美味いか?」
「ガウ〜♪」
今日も絶品のようだ。アリシアが作ったのだろう。ルナに引けを取らない腕になってしまって……成長したな。
リルフェンの頭をひと撫でした後に俺も飯にありつく。うん、美味い。
「と、刀夜くん。どうかな?」
「ん? あぁ、今日も美味いな。毎日作って欲しいくらいだ」
「そ、それって毎日一緒にいて欲しいってことだよね……?」
期待したような伺うような視線を向けてくるアリシア。当然だろうに、好きなのだからずっと一緒にいたいに決まっている。
「当たり前だろ?」
「う、うん……私もそう思ってるよ?」
アリシアも同じように思ってくれているらしい。幸せだな。
「むぅ……確かに皆様とは仲良くしたいですがご主人様のこととなると話は別です」
「そうね」
「私だって譲れないよ? それに私は刀夜くんがずっと一緒にいたいって思ってくれる相手だからね♪」
アリシアが嬉しそうにしているが何やら他の全員はアリシアを敵視しているご様子。いきなりなんだよ……。
「ご、ご主人様! 私はどうですか!?」
「早いわねあなた……。刀夜さん、私も聞かせて欲しいわ」
「ん…………私達に関しても同様の待遇を希望」
いきなり全員こっち向いたんだけど。俺どうすりゃいいんだよ。
「お前ら全員ずっと俺のそばにいて欲しいに決まってんだろ?」
「そ、そうよね」
「う、うむ……嬉しいものだ……」
「ん…………幸せ」
この一言だけでいいのかよ。いきなり睨むからびっくりしたぞ。
「むぅ……」
と思ったら今度はアリシアが膨れっ面だった。もう俺にどうしろと……。
しかし独占欲というのはそれだけ愛されているという証でもある。こいつらは全員俺と仲良くしたく、また仲間達とも上手くやっていきたいと思ってくれているのだろう。
もし仮の話だが俺が誰か1人を選べばこの関係性は変わるのだろうか? 答えは多分変わらないのだろう。こいつらは絶対に常に一番を目指す。
そういう意味でも最強なのだ。確固たる意志なんて大層なものじゃなくただ単にワガママなだけだが。
「ご主人様? どうして笑ってるんですか?」
「いや、別に」
もちろん俺は平等に全員好きだ。誰が一番だとかはあんまり考えたことはない。だからこいつらもそういう争いをしてるのかもしれない。
常に一番を目指すこいつらだからこそ俺は好きになったし他にはないそれぞれの魅力がある。全員が好きだなんて俺も贅沢なものだ。
「私達の気持ちに気付いておいて笑うだなんて良い度胸ね?」
「流石に私も酷いと思うよ……?」
「ん…………お仕置きが必要」
「確かに酷いな。私も納得出来ない」
「ご主人様、きちんとご説明してください」
幸せだなと感じてたら全員から責められてしまった。
「気にしなくてもいいって。俺は充分報われてるって気付いただけだ」
「あ……」
ルナとの話の延長線上だと気付いたのだろう。もちろん気付いたのはルナだけだが。
「ふふ……はい、そうですね」
「ちょっと、何2人だけ分かったみたいな雰囲気なのよ」
「ん…………説明求む」
こんなにも想われていいのだろうか。ルナが悩んでいたそれが俺にもよく分かった。報われ過ぎて幸せ過ぎて夢のように感じる時間なんだ。
しかしこれが俺達の現実だ。夢なんてものではなく積み重ねてきた時間と想いの上で成り立った関係性。
夢のようなこの時間を失わない為にも俺は精一杯この空間を守り続けよう。最強として。




