第50話 魔人の情報は食いしん坊よりも大切
昼食を食い終わると早速居間で紅茶を飲みながらクロとヒカリの対面に座る。何故か俺の横は話し合いの末、アスールとコウハになっていた。2人とも俺の腕に抱きついてくる。
「お前らの身の上話でもいいが思い出したくないこともあるだろう。俺達が聞きたいのは魔人の目的、居場所、能力、お前らを操った奴の正体ってとこだな」
「刀夜くん真剣な話するのにどうしてイチャイチャしてるのかな……」
ムイにツッコミを入れられてしまう。というかこれは俺の意思じゃないんだが。
「そうだぞ。お前ら離れろ」
「駄目?」
「ん…………離れたくない」
「離れたくないなら仕方ないな」
「甘いよ!?」
恋人補正とはそういうものだ。何をされても許してしまえる。甘えたいなら仕方ない時もある。
「さて、話してもらえるんだろ?」
「あ、話し流すんですね」
「悪い意味でもブレないな……」
ルナとコウハにも呆れられてしまった。しかし流さないと話が進まないだろう。
「目的に関しては不明だ。俺達もその辺りは聞かされていない」
「あ、普通に話し始めるんだね」
ムイもそろそろこういう空気に慣れて欲しい。俺達は戦闘中でもこういう空気だ。これでも割と真剣なので問題ない。
「居場所に関しては常に特定は出来ている。操作魔法の類で操っているのだろうが向こうが俺達の行動を分かるように俺達もそいつの行動はある程度把握出来る」
「まぁ弱点のない魔法なんてないからな。そういうことか……」
割と容易く首謀者の喉元まで届いたわけだ。しかし俺がやりたいのはむしろその後だ。浅野との再会と関係性の再構築。それだけだ。
操られている可能性は高い。ということはまずはその首謀者から仕留めるのが先決だろう。
「能力に関しては不明だ。俺の能力は転移魔法と魔力装備生成魔法の強化版……というのはもう分かるか」
「あぁ」
俺の想定した通りということだろう。お陰で俺も色々と学ばせてもらった。
「私は何もありませんね」
「はい、特に何も使ってませんでした」
恐らく半分というのがネックなのだろう。フレイもそうなのだろうか? そういやあいつの能力に関しては聞き忘れて気がする。
「半魔人は能力が使える奴と使えない奴がいた。確かフレイとやらは炎魔法が強力だと聞いている」
「あ、そうなのか」
予想外にもフレイの情報が入ってきちまった。まぁ別にいいか。
「フレイには既に会っていてな。まぁ情報らしい情報はあまりなくてな」
「半魔人はあまり情報を与えれていない。ヒカリも含めてな」
ということはヒカリはクロに色々と聞いているだけだろう。恐らく操作魔法による操る行動に関しても逆探知はヒカリには出来ないと思っていい。
「浅野に関しても能力は知ってる。もう1人の魔人ってのが何の情報もなくてな」
「メディシーナ・リーベ。奴は戦闘向きではないが能力で妙な薬品を製作する」
「やっぱりそんな感じの能力か……」
獣人殺しの件である程度の予想は付いていた。やはりあの薬品もそうだったのだろう。俺が小さくなったとかいうあれ。
ということは戦闘向きではないといえど相当な脅威には違いないだろう。まず落とすならそっちの方がいいのか?
「そいつの居場所は分かるか?」
「あぁ」
分かるらしい。流石は魔人だ。幹部クラスの相当な地位にいたと推測出来る。
鞄から地図を取り出すとテーブルに広げる。クロは海辺近くの崖を指差した。
「ここに研究所があるはずだ」
「なるほど、意外と遠いな」
何故こんなところに研究所を……? しかし操作魔法の範囲がとてつもなく広いことは理解した。
距離にしておおよそ50000km。恐ろし過ぎないですかね。魔人じゃなけりゃ操られることはない上に角がなけりゃ効果は半減するっていう条件付きではあるが。
「他にもなんでも知ってる情報は教えておいてくれると助かる」
「あぁ」
無駄話も交えてひとしきり話を聞き終える。残念ながら首謀者に繋がる情報は場所だけで他にはないようだ。
「……俺達を助けてくれただろう。それに」
クロはちらりとヒカリを見る。ヒカリはルナに作ってもらったアイスクリームを頬張って幸せそうに頬を緩ませていた。胃、大丈夫かこいつ……?
「ヒカリが迷惑を掛けているしな……」
「お前本当に苦労してるな……」
大丈夫だろうか本当に。なんかこれからのこいつらのことを考えると苦労するのが目に見えてる。
「…………何ならここに住むか?」
流石に人間社会に魔人2人が暮らすのはキツイだろう。馴染むのは人間社会だとしても2人を受け入れるような人間は少ないだろう。
「いや、やめておく。そいつの面倒は見れないだろう」
「そうだな……」
俺には手が余りそうだ。というかマジ無理。
「美味しいです」
今もどんどんとルナの作ったアイスクリームの皿が山積みになってるしな。冒険者稼業と並行してこれは無理だな……。
「んー……まぁせめてこの街で俺の名前使えばまだ過ごしやすいと思うぞ」
「それも迷惑だろう。俺達の行動の責任がお前に行ってしまう」
「別に構わねぇよ。俺達の独断でお前らを生かしてるんだからな」
殺すことも出来たし普通ならば未知の種族は殺すべきってのが当たり前の話だ。それを独断で生かした上に住めばいいなんて言っているわけだしな。
「お前は甘いな」
「甘くはねぇよ、流石に」
殺す時は殺すし別に正義の味方たとかほざくつもりは毛頭ない。守れないならあっさりと見捨てる気でいるしな。
「はい、優しいだけですよね」
「そうだよね」
「うむ、その通りだ」
なんでこいつらそんなに俺のことを勘違いしてるんだろうか? いや、嬉しくないわけじゃないんだが。
「優しい、か……。確かにそうなのかもしれないな」
「お前まで認めんのかよ」
そもそもクロは俺のことあんまり知らないだろうが。これだけのやりとりで判断されても困る。
「それじゃ名を借りる件についてはこちらも甘えさせてもらおう。また家が決まり次第ここに来る」
「それまでにはなんとか魔人の一件は終わらせるようにする」
「あぁ。俺達ではもうどうしようとないからな」
話はまとまった上にこれからかなり強い助っ人の確保が出来たわけだ。世の中意外と捨てたものじゃないな。こいつらのこと以外で幸福に感じたことなんてあまりないことだ。
「では早速俺達は出発させてもらおう」
「あぁ」
クロが立ち上がるとヒカリの肩に手を置く。ヒカリはまるでリスの如く頬を膨らませていた。
「アイスでそんなことして大丈夫なのかよ」
「ん……魔人ですから」
「それは理由にならねぇよ」
魔人だからといって痛覚が遮断されているわけではないだろう。知覚過敏の人がそれすると終わるぞ。
「ヒカリ、行くぞ」
「あ、うん」
「食い過ぎだ」
「美味しくてつい。あ、ルナさんありがとう」
立ち上がったクロとヒカリを見送る為に玄関へ。
「僕達も2人とギルドへ行くね」
「刀夜、また飲もーぜ」
「俺は飲まねぇよ……」
ムイとミケラも帰るらしい。もうちょいゆっくりしていけば、とも思ったがまぁそれなりに準備が必要だろう。
「研究所行くか首謀者を直接叩くかだけでも決めておいてくれ。出発は……5日後でいいだろ」
「そりゃいいけど大丈夫か〜?」
「5日もあったら移動するんじゃないかな」
確かにその可能性もあるにはあるが。その時にはまたクロとヒカリを頼らせてもらうとしよう。
「俺も用意しておきたい武器があるからな」
「ああ、なら仕方ないね」
「そうだな〜。じゃ行くぞ〜」
ミケラが先導してくれてそのまま全員が家を出ていった。さて、俺は早速武器の準備でもするかね。
「あ、あの、ご主人様」
「ん?」
見送りを済ませてからルナが少し申し訳なさそうに声を掛けてくる。何か悪いことでもしたのか? ルナのことだ、それはないな。
「その……少しお付き合いいただいてよろしいでしょうか?」
「……? 別に構わないぞ」
ルナがこういうことを言うなんて珍しい。いつもは周りに付き合う形だとか俺の為だとかその辺が理由なのにな。
何にしてもルナの相談事だ。これはどんなものよりも真剣に考えなければならないだろう。




