第46話 ルナ先生のご奉仕メイドな1日 その1
「…………様……」
「ん、んぅ……」
「ご主人様……ください」
ご主人様って呼ぶのならルナか……。まだ眠いからもっと寝ていたい。ルナも巻き込んでやろうか……。
「ご主人様、起きてください。朝ですよ?」
「一緒に寝よう……」
昨日は恥ずかしい思いをしたせいであまり眠れなかった。今はもっと寝ていたい。
「そ、そうですか? い、いえ、従者がご主人様のお布団で一緒に眠るなど……」
「従者の前に恋人だろ……?」
うっすらと目を開けるとそこには確かにルナが立っていた。
金色のサラサラとした長い髪に加えておっとりとした顔立ちとエメラルドグリーンの綺麗な瞳の超絶美人……のはずだが今日はいつもと違う。それだけじゃなかった。
「…………女神?」
「え? い、いえ、女神ではなくメイドです」
そう、ルナはメイド服を着ていた。やっばい可愛い。お持ち帰りしたい。
「おはようございますご主人様」
「…………おはよう。で何があった?」
「今日はメイドプレイです。アスール様が仰っておりましたがご主人様へのご褒美の件で」
ああ、あったなそんな話。羞恥し過ぎてて遠い過去のようだ。あとルナ可愛い。
「ということで今日は丸一日、しっかりご奉仕させていただきます」
ルナが優雅に頭を下げる。うん、テンション上がってきた。これは寝てる場合じゃないな!
急いで上体を起こすと俺の方も頭を下げる。
「今日はよろしくお願いします」
「え……。ふふ、ご主人様が頭を下げる必要はございませんよ?」
一瞬驚いたルナだったがすぐにクスリと微笑んだ。うん、やっぱりメイドじゃない。女神だこれ。
「朝食のご用意が出来ておりますのでお持ちしますね」
「ん? 俺の部屋で食うのか?」
「はい。ご主人様に少しでも安らいでいただけるように本日はお部屋で食事を取っていただきます」
別にいつも通りの場所でいいんだが……。居間への移動すら疲れると思われているんだろうか?
今日はルナに全面的にお任せするとしよう。俺は魔法の本を片手に椅子に座る。
「お待たせ致しました。ってあぁ!? 駄目ですよ! ごゆっくりしていただかないと!」
「え、本読むのも駄目なのか?」
「あとで私が音読します!」
それ意味なくね? というかもう介護のレベル。
「本くらいゆっくり読みたいんだが……」
「駄目です。ご主人様がお疲れにならないよう精一杯ご奉仕するのが私の役目なんですから」
そうだっけ。というか俺のやりたいことさせてくれるんじゃなかったっけ?
「ではご主人様、早速朝食に致しましょう」
「あぁ……」
それはいいんだが……見たところ箸が1つしかないんだが? これはまさかなんだが……。
「私が食べさせますので」
「やっぱりか……」
それは嬉しいんだよ? 嬉しいんだけどなんというか……自由がなくなってきてるというか。うん、若干重いなこれ。
「あの、ルナさん……」
「はい、何でしょうか?」
「俺に自由というものを与えてはくれないのでしょうか?」
「自由ですか……? はっ! ど、どうぞ!」
いや何が? 両手を広げていつでもどうぞみたいな雰囲気出されても困るんだが。
「いや、だからな?」
「あ、おっぱいで食べますか?」
「何言ってんだ……。ちょっと頷き掛けただろ」
そんな魅力的な提案してこないで欲しい。
「とりあえず朝から過激なのはやめてくれ……」
「そうですね。夜ですよね……」
夜ならオーケーみたいになっちまったよ。いや、別に嫌なわけじゃないんだけどな?
「で、では、ご主人様。今はあーんしてください」
「……あーん」
仕方ないのでルナに付き合うとしよう。本当は俺もルナにあーんしたかったんだが……。
野菜炒めを食べさせてもらうと何やらいつもと違う。味が濃厚で特に塩胡椒がよく効いている。もちろん美味い。
「どうですか?」
「美味いな。でもいつもと違う気がする」
「はい。今回はご主人様の好みに合わせてお作りしましたので」
俺の好み……? いやもちろん普段からルナが全員に美味しく食べれるように味の調整をしていたのは知ってるが。
「ご主人様の好きなお野菜だけを使用しています。あ、もちろん栄養面にも気を遣っておりますのでご安心してお食べください」
「お、おう……」
そこまでしてくれたのか。何から何まで抜かりなしだな。
「ではあーん」
「あーん」
ルナに食べさせてもらいながら食事を続けるもののやはり何か寂しい。俺1人で食ってもな。
「ルナ、やっぱり2人一緒に食べないか?」
「そんな! 従者がご主人様と一緒に食べるなど……!」
「そこまで成り切らなくてもいいだろ? というか俺が寂しいから一緒に食べたい」
「ご主人様……」
うっとりとした様子で頬を赤くして俺を見つめるルナ。この程度でうっとりされても困るんだが。
「で、ではお箸を持ってきます!」
「あぁ」
慌てた様子で部屋を出たルナ。さて、今の間に今日は何するか考えないと。
多分ルナのことだ、今日は何もさせてもらえないだろう。ということは鍛冶屋にこもることも無理だろう。
「ただ今戻りました!」
「はやっ」
そんなに急いだのか? もう転移魔法使ったんじゃねってくらい早かったけど。
「まぁいいや。ルナ、あーん」
「そ、そんな! 今日は私がご奉仕する日ですのに!」
「じゃあ命令だ。黙って俺に食べさせられなさい」
「そんな……わ、分かりました……」
俺はルナに食べさせてもらった野菜炒めを箸で摘むとルナの口元まで持っていく。
「ほら、あーん」
「あ、あーん……」
少し遠慮がちに口を開いたルナに野菜炒めを食べさせてやる。ゆっくりとそれを咀嚼したルナは少し染まった頬に手を添えてにっこりと微笑んだ。
「幸せです……」
「あぁ、美味いよな。…………ん? 今、味の感想じゃなかったな?」
「はい。お味はいつも通りですので。ただご主人様に食べさせてもらえるというだけでもう何でもいいです。幸せです」
それは何というか…………。まぁ彼氏冥利に尽きるというか。しかしだ。
「例えばだが俺が黒焦げになった物体を食わせようとしたらどうするんだ?」
「喜んでいただきます」
「それは俺としては遠慮して欲しいところなんだけど」
仮に俺が別に必要ない物をプレゼントで贈ったとしてもそれを無理に使おうとしてしまうだろう。そういうのはちょっとな……。
「好きな方からいただけるものはどんなものでも嬉しいです」
「んー……どうせから貰って嬉しい方がいいだろ?」
「そうですが、ご主人様ですので」
俺だからというのは理由になってんのか? なってないと思うんだが。
自分で言うのも何だが俺は間違いなく世間一般から外れている。だから全く必要ないものでも平気で渡せてしまうわけだ。
「俺が変な物渡しても使うなよ?」
「例えばどんな物ですか?」
「えっと…………」
例えばと言われてもな……。その時になってからじゃないと分からないが。
今の俺がルナに渡す物を考えればいいのか。えっと……何がいいかね。
「下着とか?」
「それはその……えっと……そういう時に脱がしたいということでしょうか?」
ルナは顔を真っ赤にして俯きながら呟いた。それって俺とのその……エロい感じの時のあれだよな?
「そ……それでは……着ないわけにはいきませんよ」
「な、何で……?」
「そちらの方がご主人様が興奮していただけるので」
ルナってなんというか……素でご奉仕精神が強くないか? いや、分かってたんだけど。
「も、もしかしてそういう意図ではありませんでしたか!?」
「いや……男が女に下着を贈るってなったらそういう意味になるよな……」
そこまでは考えていなかったが例えばルナが俺の為に着てくれた下着を俺が脱がす……うん、テンション上がるなそれ。
「は、はい……」
「でもそのなんだ……断ってくれてもいいんだぞ?」
「い、いえ! ご主人様のお願いとあれば聞かないなんてことはありません!」
うーん、嬉しいがそれだとルナの意思を無視してるようでちょっと嫌だな。
しかしルナは意外と強情だ。このまま直接言っても無駄だろうし、少し一捻りする必要があるな。
「なぁルナ」
「はい?」
「何でもかんでも肯定するのは好きってことにならないんだぞ? 相手を想っているからこそ否定することも必要だ」
「はい、私もそう思います。ですのでいつも無理や無茶をなさるご主人様はゆっくりとお休みくださいね」
わぁー……俺の生き方そのものを否定された。予想外だった。
「無理や無茶をしなきゃいけない場面もあるだろ?」
「それはそうですが……その度に胸がキュッと締め付けられて苦しいんです……」
「ルナ……」
ルナは俺のことを心配してくれてるのだ。それもそうだろう、俺もルナ達が無理や無茶をしていて心配にならないわけがない。
同じ気持ちを感じているのなら俺も改めるべきだった。でもそんな余裕はこの世界にはないのも事実だ。
「ですから今日だけでもゆっくりお休みいただきたいんです」
「…………いつもごめんな」
ルナの頬に手を伸ばすと優しく撫でる。ルナには特に心配ばかりさせているだろう。この世界に来てからずっと一緒にいるのだ、俺の心情に関して一番理解があるのはルナだ。
「謝らないでください。そ、それだけご主人様が頑張っていらっしゃるってことですから」
「…………今日は精一杯甘えるようにします」
「はい、そうしてくださるととても嬉しいです」
確かに俺がご奉仕される日になるのかもしれないがそれでルナが安心出来るような1日に出来ればいいんだが。




