第45話 疲れた時に出る本性は大抵ロクなものじゃないから後になって後悔する
「ちょっと待てお前らー!」
「うぉ、なんだよミケラ…………」
いきなり駆け寄ってきたミケラが俺の肩を掴む。なんでそんなに慌ててるんだよ。
「もう殺し合いじゃねーか!」
「ちげぇよ」
殺し合いなんてしていない。俺達からすりゃこれが模擬戦の範囲内だ。
「俺達は戦闘において手は抜かないだけだ。ふぅ……」
疲れた。俺はその場で尻餅をついてとりあえず休憩を入れる。
「…………平気?」
「ん? あぁ、悪いな」
アスールが回復魔法を掛けてくれる。やっぱり俺のとは違うな。無くなった分の血液すらもかなり補充される。
「ふぅ……」
「…………無茶し過ぎ」
「実力が拮抗してる証拠だ。強くなったなお前ら……」
まぁそれは元々だが。そもそも俺よりも戦闘経験があるんだ、当然と言えば当然の話か。
「でも負けてしまったな……」
「はい……。ご主人様のご褒美欲しかったです……」
そういやそんなこと言ったっけ。
「ん…………だから刀夜が私達にご褒美」
「ん? 何の話だ?」
その件は聞いてないな。というか言ってないだろ。
「…………刀夜に勝ったらご褒美。……でも刀夜が勝ったから刀夜がご褒美をもらうべき」
「そうなのか?」
そんな理論いつから出来たんだろうか? そもそもそういう約束をしていない以上後付けだ。駄目だろうな。
「なるほど!」
「確かにそうだ……。うぅ、仕方ない。刀夜殿の好きにしてくれて構わない」
認められちまったよ。ビックリだ。
「あのな……好きにとか女の子が言うなよ」
「私はそういうことでも全然大丈夫です!」
「俺は大丈夫じゃないなぁ……」
3人とか無理だわー。お手伝い欲しいくらいです。いやミケラは駄目だが。というか男は駄目だが。
「お疲れのご主人様を癒すのがメイドたる私のお仕事です!」
「そんなことを言ったら疲れている彼氏を癒すのは彼女の役目でもあるだろう?」
「…………妹の特権」
「妹!?」
いつから妹になったんだアスールは。そういや前にそんな話ししてたな。
「よいしょ……さて、次はお前らか」
「うーん……大丈夫?」
「明日にしましょう? 流石にもう疲れてるわよね?」
こいつらは過保護か! あ、過保護だったな。でも流石に休ませてもらうか……。魔力も結構心配だしな。
「じゃあお言葉に甘えて」
「明日もあんな過激なことするのかよ……」
そりゃああれくらいしないと訓練にならないしな。不測の事態を加味していない分まだ訓練の方がマシってくらいだ。
この世界の人間は訓練の意味をよく分かっていない。避難訓練とかもあるがあれも特に意味はないのが大多数だろう。
「…………刀夜、何して欲しい?」
「いや、特には何もないな」
「…………本当?」
いや、そんなこと聞かれたらもちろんエロいことになるんだけどな? というか普段から甘やかしてくるこいつらに対して今更何があるってんだ。
「…………刀夜、ちょっと」
「ん?」
こっそりと話がしたいらしい。アスールに手招きされたので顔を寄せると耳打ちされる。
「…………刀夜が好きな1日メイドプレイも可」
「マジか」
「ん……マジ」
1日メイドプレイ……だと!? いや、メイドだけじゃない。他にも色々出来るわけか。こ、これは……!
「またくだらない話をしてるわね……」
「うむ……いや、でもそれで刀夜殿が喜んでくれるなら……」
「確かに悪くないかもしれないわね」
おやおや? 多分聞こえているのだろうコウハとマオも乗り気だぞ? というか何でマオが乗り気?
「どうかなされましたか?」
「いえ、ちょっとね」
「うむ……ミケラ殿の前で言うのは恥ずかしい……」
俺の前ならいいのかよ。あ、俺がもてなされるんだからいいのか。
「……?」
ミケラがキョトンとしているがこればかりはこいつには言えない。というかどんな反応するか分からない。
「ちょっと恥ずかしいお願いをするだけだ。ということで明日は無しってことで」
「いや、そりゃいいけどよ〜、何されるんだ?」
「だから秘密だっての。絶対に言わねぇ」
言ったら軽蔑されるだろう。しかし同時にメイドの素晴らしさを伝えたい気持ちもある。人間の感情というのは不思議なものである。
「師匠に隠し事とか生意気なんだよ〜!」
「そうかもな」
「自覚してるのかよ。お前本当に良い性格してるよな……」
ミケラが乱雑に俺の頭を撫でてくる。やめんか、髪がくしゃくしゃになるだろ。
「はぁ……まぁとにかくありがとなミケラ。お陰で二重魔法の扱いは結構わかった」
「嘘付け。お前がやったの自分の腕スパーンだけじゃねーか!」
そういやそうだな? あれ、俺ってまともに発動したの風魔法だけだし加えて動いたら自分の腕ごと切断するんだが……?
「…………明日だけじゃなく休みは3日」
「え」
「……1人1日。……そうしないとややこしくなる」
なるほど、確かに時間をきちんと三等分には出来ない。加えて俺は起きてる時間寝てる時間共に不定期だからな。予定を組んで、というのはあまり得意じゃない。その場の気分で決めることも割と多いのだ。
「なら3日じゃなくて5日ね」
「お前らも参加するんかい」
「…………2人はしなくてもいいのに?」
そうだな。これはご褒美なのだからこの2人はまだ必要ないことだ。
「だって私達が勝っても同じこと要求するもの」
「…………ん?」
「ごめんね、何の話か全く分からないんだけど……」
アリシアはいまいち理解していなかった。まぁ聞こえていなかっただろうからな。
「いいから任せなさい。悪いようにはしないわ」
「悪いようになってるような気がするんだが?」
「刀夜さんにご奉仕するだけでしょう? いつものことじゃない」
確かにそう聞くといつものことなんだろうけど。拒否権があるのとないのとでは大きな差があるんじゃないか? いや、メイドプレイしたからって拒否権がないわけじゃないんだが。
「…………報酬の先取り」
「確かに変な感じね……。なら私達は今回譲った分の借りを返すってことにして、また私達の訓練の時にあなた達も何か要求すればいいんじゃないかしら?」
つまり今回の報酬とは別に戦闘訓練の報酬を要求するわけか。いや、まぁ俺は負ける気ないから俺が何か要求する可能性も大いにあるわけだが。
「俺はそれでも構わないぞ?」
しかしここまでのんびりしていてもいいのだろうか? 魔人の脅威って結構間近に迫ってきてるんだろうけどな。
…………いや、こういう事態だからこそのんびりするべきなのかもしれない。気を張りっぱなしだと疲れるからな。適度に休む時期も必要だろう。
余裕があるからこそ戦闘でも有利を取れる。冷静に、そして心を落ち着けて。
歴戦の猛者は心が冷たいかもしれない。冷徹なまでに心を殺し躊躇うことなく敵を殲滅する。
もしくは酷いくらいのカリスマ性。誰もが付き従えば必ず幸せになれるというくらいの魅力を持っていればそうなるかもしれない。
しかし俺には冷徹な心は持てても仲間を裏切ったりは出来ない。カリスマ性や魅力なんて俺にはないのは分かっている。
だから必死に考える。誰も、そして何も失わない方法。その大前提としてこいつらとの日常が、平穏が、余裕が必要なのかもしれない。
「刀夜さんが何やら大人っぽいわね。疲れているせいかしら?」
「…………疲れた時こそ人間の本性が出てくる」
酷い言われようだ。しかし確かに余裕がない時が人間性が一番出るだろう。
「そうなのですか! で、ではご主人様、私のことはどう思ってますか? 好きですか?」
「いや」
「そんな!?」
「大好きだ」
「はう!」
当たり前のことを答えたはずなのにルナは胸を押さえて顔を赤くしていた。そんなに照れるようなことか?
今更俺の好意を珍しがるわけでもなさそうだし。何かの冗談か何かか?
「凄い破壊力ね……」
「ルナ殿死んでしまうのではないか?」
「本当に大丈夫か? お前に死なれたら俺もう生きる希望がないんだが……」
「そ、そうですか? で、では意地でも死ねません」
本当に死んでもらっては困る。こいつらのうちの1人でも死んだら俺はもう耐えれなくて自殺して後を追うことだろう。本当にゲームオーバーだ。
「お前らだけが俺の希望だ。だから一生俺のそばにいてくれ」
「ご主人様が畳み掛けてきます!?」
ルナの手を取ってぎゅーっと握るも顔を真っ赤にしていた。可愛いなおい。
「とりあえず早く帰って休んだほうがいいんじゃないかな……。刀夜くん普段言わないようなこと言ってるし」
「アリシアも可愛いな。俺の心配してくれてるのか?」
「え、あ、う、うん。本当に平気?」
アリシアが心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。その表情から伝わる愛が俺の心を満たしてくれる。
「大丈夫だ。だからアリシア、もっとその顔見せてくれ」
「何言ってるの!?」
「刀夜が暴走しちまってんだけど……」
暴走か。何やら色々と今なら歯止めが効かないようだ。マズイな……。
「仲間を傷付けたショックが相当大きかったのね……」
「…………刀夜と模擬戦は気を付けるべきだった」
そうかもしれない。コウハの腕を切断しちまったしルナには首元に刀を突き付けてしまった。
「コウハ平気か?」
「な、何がだ?」
「腕」
コウハの腕を掴んで無事かどうか確認する。アスールの回復魔法だ、大事はないとは思うが……。
「平気だ。そもそも刀夜殿相手に腕くらいは仕方ないだろう」
「そんなことねぇよ。せっかく綺麗な手だってのに傷付けちまって……」
「どうして泣きそうな顔になるんだ!?」
本当模擬戦で手が抜けないからって粗末にし過ぎた。どこにも傷は残ってないけど……。
「動かして違和感とかないよな?」
「大丈夫だから! も、もう早く帰ろう!」
「それは駄目だ。リルフェンと肉食う約束だしな」
「ガウガウガウガウ」
リルフェンが何やら言ってるがよく分からない。
「憔悴中の刀夜さんを見てたら別日でもいいって思ったらしいわよ?」
「リルフェンは優しいな。リルフェンも大好きだ」
「ガウ!?」
ギューっと抱き締めてやるとモフモフとした毛の感触が全身に伝わってきて気持ち良い。
「早く帰った方がいいぞ……。つかなんか気持ち悪くなってきた」
「そ、そうするわ。ありがとうミケラ、それじゃあ刀夜さん、帰りましょう」
「おう」
転移魔法で家に帰ってゆっくりする。夕食後にお風呂に入って落ち着いた俺は1人この件でベッドで悶えることになるのだが……。




