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第14話 最強の証明の為に

 近付いてくる巨大ゴブリン。俺はそれに向かい合って歩いた。両手には剣を持って。頭の良いこいつは俺が敵であることを認識したことであろう。


「グギオオォォ!!」

「…………」


 怖い。怖い? 怖いわけがない。ルナをは俺を守る為に命を張ってる。俺も命を張らずに引き下がる気はない。

 その咆哮だけで気圧されそうになる。俺の身体が少し後ろに下がった。否、踏み込んだだけだ。

 斧もそうだがゴブリンは全体的に大きい。間合いに入ってしまえばいい。問題は腕を乱雑に振り回すものだ。しかしルナがしてくれた腕の負傷はその突破口を開いてくれた。

 一気に巨大ゴブリンとの距離を詰めると案の定ゴブリンは腕を乱雑に振り回す。しかしやはり負傷した右腕の振りは遅くなっている。故に狙いやすい!

 両手の剣を振るう。距離があって剣自体は当たらないものの初級風魔法により飛んでいった風の刃が巨大ゴブリンの負傷した腕の皮を切り裂いた。


「グギォ!?」


 痛みで一瞬怯んだ。その隙を突いて剣を鞘に納めて一気に距離を詰める。魔力装備生成魔法と付与魔法を両手に展開して槍を創り出した。


「うおおぉぉぉぉ!!」


 俺は槍を思い切り巨大ゴブリンの腕に突き刺した。雷魔法を帯びたことでその貫通力は上がっており、ゴブリンの腕に深く突き刺さる。


「グギオオォォォォ!!」


 巨大ゴブリンが更に怯む。今がチャンスだな!

 槍から手を離すと再び魔力装備生成魔法と付与魔法を展開する。今度は大剣を創り出した。

 そしてこいつの攻撃手段を奪う。鍛冶師が鍛冶師たり得る所以を使って。

 俺は魔法陣を展開しながらそれを切り裂くように思い切り大剣をジャンプしながら振り下ろした。


「ご、ご主人様!?」


 それは巨大なゴブリンに対してではない。俺が打ち付けたのは巨大な斧に対してだ。鍛冶師とは武器を鍛えるものである。

 俺の持っていた大剣は物の見事に木っ端微塵となる。俺は少しバックステップしてゴブリンから距離を取った。


「ご主人様! 何故魔物の斧を鍛えたんですか!?」

「刀夜…くん。はぁ……はぁ……キミは本当に鍛冶師なの?」


 ボロボロになりながらもルナの護衛をしてくれていたリア。こいつにも助けられているのに俺ってやつは……。


「鍛冶師さ。だからこそあいつの斧を鍛冶してやったんだ」


 俺は少し口角を上げて笑みをわざとらしく浮かべた。まるで何かあるかのように。


「リア、護衛は中断して僧侶を探してくれ。あいつの攻撃は受け止める方が難しい」

「わ、分かった!」


 リアはすぐに駆けていった。本当に良い奴だ。俺の鍛冶の腕が上がればその内最強の装備でも作ってやろう。


「ご主人様……申し訳ありません……お役に立てず」

「いや……。むしろお前が突破口を開いてくれた。ありがとな」


 俺はルナの頭を優しくひと撫でする。続きは帰ってからさせてもらうとして俺はすぐに駆け出した。


「グギォォォ!!」


 巨大ゴブリンは強く斧を持つと思い切り振り降ろしてきた。俺は即座に靴の風魔法で速度を上げて横に移動してそれを躱した。

 自分でも驚く程に集中している。ゴブリンの一挙手一投足を見逃さないように。

 じっくりと追い込め。そして奴にもう一度さっきの技を使わせる。

 俺は巨大ゴブリンを中心に円を描くように動く。ゴブリンは縦に斧を振り下ろし続けるものの俺には当たらない。


「グギォォ!」


 縦が駄目なら横薙ぎで。そうなるよな?

 俺はすぐ様ゴブリンの下にもぐりこむように走る。大きいが故に股を抜けれるのは大きい。

 ゴブリンの横薙ぎの攻撃をスライディングで股を抜けて躱すと同時に剣で踵を切り裂いた。

 俺の魔力装備生成魔法ではこいつの身体に大したダメージは与えられない。だからこその付与魔法だ。

 雷魔法を併用すれば貫ける。風魔法があれば切り裂ける。ルナのように一気に削る手段はなくとも戦えはする。


「グギオオォォォォ!!!!」


 来た!

 ちょこまかと動く的に対して範囲技を選択するのは決して間違いではない。こいつは思考能力がある。それは明らかだからこそこのタイミングを狙っていた。

 もし仮にミスっていても死ぬのは俺だけ。反対側にいるルナ達に被害はない。

 自分の命を懸けているというのに恐怖はない。むしろ笑えてくる。本当に俺の心が鍛えられたみたいだ。

 人は絶望から立ち上がると強くなるらしい。だからこそあれは俺にとってはプラスになる出来事だったのかもしれない。


「さて、どうなるかな」

「グギオオォォォォ!!!!」


 巨大ゴブリンの恐らく最強技。思い切り振り抜かれた斧から発せられる衝撃波。全員が息を呑んだのが分かる。

 しかしその全員の不安を物の見事に裏切るのが俺である。ゴブリンの持っていた斧は崩壊しており、衝撃波も何も発生しない。


「グギオオォォ?」


 巨大ゴブリンが1番驚いていた。自分の斧が柄しかないのだから当然だろう。


「ご主人様が何かされたんですね!?」


 そりゃあな。わざわざ鍛冶師の能力を覚えてきたのはこの為だ。本来の使い方とは違うからといって使えないということではない。


「斧がなくなれば怖いものなしだぜ!」

「へへ!」

「あっ、おい……!」


 斧がなくなったからといって甘く見て良い相手じゃない。それならルナが特級魔法を使う必要性もない相手だ。

 案の定甘く見て掛かっていった冒険者は殴り飛ばされてしまった。運悪く絶命した奴もいるだろう。

 1つの油断でたったの一瞬で命を奪われる。冒険者という職業……いや、殺し合いというのはそういうものなのだと実感する。


「皆様! ご主人様の邪魔になってしまいます! すぐに離れてください!」


 ナイスだルナ。邪魔になるしこれは俺が最強を証明する為の戦いだ。邪魔をしないで欲しい。


「…………ご主人様」


 ルナはまるで祈るように手を重ねて俺の無事を願ってくれている。自然と頬が緩んでしまう。

 武器を奪い攻撃手段を無くした。もちろん腕があるので油断は出来ないがこれで間合いを確保すればいい。

 幸いこいつは動きは遅い。攻撃範囲が広いだけでそれさえ分かれば特に危険はないかもしれない。

 今の俺にこいつを落とし穴にはめれる程の落とし穴を瞬時に掘るのは難しい。だからこそ俺は足に攻撃を集中させ機動力を奪おうとしているのだが硬過ぎる。


「ちっ……」


 軽く舌打ちはしてしまう。地道に削っていくしかないか。いや、少しバランスを崩せればチャンスもあるだろう。

 ゴブリンの乱雑な腕の振り回し。俺はそれに対して風の刃を飛ばしながらチャンスを探る。


「グギオォ!?」


 風の刃は運良くゴブリンの大火傷にヒットした。一瞬ゴブリンが怯む。

 俺は再度突っ込むとゴブリンの足を切り裂いた。


「グギオオォォォォ!!」


 ゴブリンは苦しんで足をジタバタとさせる。俺はすぐに離れた。

 しかしそうか。暴れるのか。なるほど、ならこれでいけそうだな。

 俺は剣の1つを鞘に納めると新たに剣を創り出す。魔力にも限りがあるのだ、長引けば長引く程こちらが不利になる。

 俺は風の刃を片手で飛ばし、隙が出来ればゴブリンの股に突っ込む。変わったのは俺の片方の手が常に土魔法を展開しながら地面を引きずっていることだろう。


「グギオオォォォォ!!」

「っ!」


 暴れるのをやめた!? いや、違う! これは!


「ご主人様!」


 こいつ! どんだけ身体柔らかいんだよ!?

 ゴブリンは片足を大きく上げ、かかと落としをせんとしていた。股の下に入るというのは相手の行動が見えづらくなるということを見逃していた。

 振り下ろされる瞬間、俺は飛び込むように横に跳躍した。ゴブリンの足が振り下ろされ、地面を大きく砕いた。


「あっぶね……! あんなの食らったらぺちゃんこだろ……」


 ん? ぺちゃんこ? かかと落としなのにかかとじゃなく足そのものを地面に着けた?

 っ! こいつのこれはかかと落としじゃない! 踏み込みか!


「グギォ!」


 ゴブリンの左腕が俺に迫る。俺は体勢が崩れていてすぐに避けれない。こいつこれを狙ったのか。

 これは死ぬ……と諦めるな! 例え結果は死ぬとしても俺は最強を証明する必要がある。ルナに情けない姿は見せられない。

 風魔法で無理やり体勢を立たせる。あばらが痛む。考え過ぎた頭が痛む。それでも俺は負けられない!

 咄嗟に挟んだ剣。別に俺は剣道などしていない。全くの素人だ。それでもこれに賭けるしかない。これは完全に100か0か、生か死かしかない。


「ぐっ!」


 弾かれるように俺の体勢は半身になる。しかしギリギリで間に合わなかったらしい。手の先に腹部を掠めて横っ腹が抉られた。


「がはっ……!」

「ご、ご主人様ぁ!!!!」


 吐血する。吐血するが……死んでない! ここで引いてたまるかよ!


「うおおぉぉぉぉ!!」


 俺はむしろ前に出た。身体が伸び切っており攻撃はないと仮定する。今が最大最高のチャンスだ!

 剣を捨てて槍を創り出した。機動力を奪うとともにバランスを崩す。これで完全に取る!


「グギオオォォォォ!!!!」


 足に突き刺した槍。それは風魔法で切り裂かれたのも全く同じ場所だ。硬い皮膚が切り裂かれており雷魔法と相まって楽々と貫いた。

 片足に力が入らなくなったのかゴブリンは前屈みに倒れた。俺はゴブリンの足を足場に背中に乗る。


「これで終わりだ!」


 背中を足場に大きくジャンプする。本当にこれで決める。これで終わってくれ!

 俺は全体重を掛けて槍をゴブリンの首に突き刺した。首を刎ねられて死なない生物など俺は見たことがない。


「グギオオォォォォ!!」

「うおっ……!」


 苦しんだゴブリンに振り下ろされて俺は背中を地面にぶつけた。痛いがそれでも耐えてすぐに立ち上がった。


「あ、あれ? ゴブリンは……?」


 気付けばゴブリンがいなかった。周囲を探してしまうものの何もない。

 すると空から何か降ってきてコツンと地面にぶつかって転がってくる。


「何だこれ? 緑色の玉?」


 それは緑色のまん丸な玉だ。半透明で黄色い力の本流のようなものが見える。


「うおおぉぉぉぉ!!」

「やりやがった! あの少年1人で!」

「すげぇ! すげえよ!」


 勝った……? 誰が? 俺が?


「ご主人様!!」

「ルナ?」


 ルナが元気そうに駆け寄ってくる。目尻に涙を溜めて。よかった、僧侶は無事だったのか。


「ご主人様!」

「うぶっ!」


 ルナに力強く抱き着かれた。めちゃくちゃ傷口にくる。痛い、泣きそう。


「うぅ……ご主人様ぁ……」

「何でルナが泣いてるんだよ。というか物凄く痛い……」

「す、すみません! は、早く僧侶の方を!」


 ルナはすぐに僧侶を呼んできてくれる。流石に疲れた。俺はその場に座り込んでしまう。


「お疲れ様。本当にキミは鍛冶師なのか怪しくなってくるな……」

「鍛冶師だ。ほれ」


 リアに疑われたのでステータスカードを見せる。これで疑われることはないだろう。


「ほ、本当だ。それにレベルももう28だ」


 ん? もうそんなに上がったのか。いや、さっきのゴブリンの影響か?


「まぁ何にせよこの世界でレベルの概念は結構効果薄いと思うがな」

「うん、僕もそう思う。いや、そう思ったというべきかな。キミのように強い人もいるし……」


 リアにステータスカードを返してもらうと俺は大きく息を吐いた。


「これでルナに情けないと思われないかな」

「思うはずないだろう? むしろ格好良かったと思うよ?」

「そうか? でも泣かれたし結局心配掛けちまったしな。何か言われそうだ」

「それはあるかもしれないね」


 本当に。とりあえず俺は最強を示せたのだろうか? 答えは単純だろう。


「すげぇ! すげぇよ!」

「あんたは俺達の英雄だ!」


 周りを見れば分かる。俺は今この場において誰よりも強い。英雄ともてはやされるくらいに。


「ご主人様! 僧侶の方を連れて来ました!」

「あぁ……。ルナ」

「は、はい?」


 戻って来たルナに言いたいこと。早く言いたいがここだと流石に恥ずかしい。


「帰ったら大事な話があるから聞いてくれ」

「は、はい!」


 あの顔は何言われるのか分かってそうな気がする。めちゃくちゃ顔赤くなってたし。これだけで恥ずかしくなって来た。

 とにもかくにも俺達の初めての依頼、ゴブリン退治の延長線上。ゴブリンの巣の大ボスの討伐は見事に完了されたのだった。

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