第41話 魔法の重ね掛けは人によって違う
家に帰って来た俺達。ミケラが興味深そうに周囲を見回している。
「お前入るの初めてだっけ?」
「そうだなー。ってか良いとこ住んでんなー」
「仕方ないだろ。大所帯なんだから」
まぁそれでもちょっと広過ぎるくらいか? 金には困ってない上にこの土地は既に俺達のものなんだけどな。
「ちなみに貯金って幾らくらいあるんだ?」
「…………人間が一生遊んで暮らせるくらい?」
「マジで!?」
もちろんルナやコウハは長生きするだろうから遊ぶのは無理だろうけどな。
「全員人間だったら仕事しなくて済むだろうな」
「お前なんで働いてるんだよ……」
「働いていない。俺は最強であることを示し続けているだけだ」
だからギルドからの依頼の報酬金などはどうでもよかったりする。俺達の目的はあくまでもそこにしか行き着かないからな。
「はい! 私達は最強ですから!」
「ライジン装備作った奴が言うと説得力がちげーわ……」
そうだろうな。なんたって人間界最弱ながらも最強の魔法だからな。
ひとまず居間に通してお茶を出す。こいつの話は基本無駄だが魔法に関しては有意義だ。信用に値する。…………まぁ無駄話も楽しいか楽しくないか聞かれれば前者に傾くかもしれんが。
「ソファふっかふかだな」
「ん…………私が選んだ」
「アスールちゃんが? ほうほう、なかなか良い目をしてるじゃねーか」
「……当然」
アスールが自信満々に胸を張る。うーん、なんだこの馴染みようは。
「とりあえず本題に入りたいんだが」
「あー、魔法だっけ? そんなの知っても意味なくね?」
「あります!」
「ありまくりだろ。この世界の鍛冶師は魔法も必須項目だぞ」
実体験済みである。魔法がなければ間違いなく俺は死んでる。まぁそもそも鍛治スキルも魔法がきっかけなんだけどな。今は金属を打ったり出来るようになったけど。
「じゃああれだな。交換条件だ」
「…………条件次第では飲もう」
「俺も住まわせて!」
恥とかないのだろうか? 一回断ったのにしつこいな……。
「お前はルナ達に手を出しそうだから駄目だ」
「手を出そうとしたら間違いなく殴られてボッコボコにされちまうな!」
「…………まぁ否定はしない」
なんだかんだこいつらも強いからな。前衛職のアリシアとコウハは言わずもがな。動きながら魔法を放つルナに防御魔法をまさかの攻撃に転じさせるアスール、暗殺者の如くいつのまにか移動するマオとまさしく最強である。
魔法使いとしては一流のおっさんでも物理的な暴力には敵わないようだ。確かに襲おうとしたら顔面パンパンに膨らむまで殴られそうだ。
「でもやっぱり駄目だ。酒飲むんだろお前」
「そうだなー! ないと困る!」
「清々しい程の駄目人間ね……」
マオが呆れている。仕方ないだろう、こいつはそう言う人間だ。
「酔っ払いの相手をルナ達にさせたくない。却下の方向で」
「ご主人様も駄目です。これ以上ご主人様に負担を掛けちゃ駄目です」
「そうね。残念だけど諦らめましょう」
「ん…………ということで」
アスールが居間のドアを開けると俺達は同時に呟いた。
「じゃ」
「息ぴったりだなお前ら!?」
用がないのにいつまでもいさせるわけにはいかない。というか邪魔。
「ただいま。何を騒いでいるんだ?」
「あれ、ミケラさん?」
アリシアとコウハが買い物袋を片手に帰ってくる。
「おかえり」
2人の買い物袋を代わりに持つとキッチンへ。
「あ、ありがとう刀夜くん」
「紳士だ……ありがとう刀夜殿」
2人は頬を少し赤く染めてお礼を言ってきた。何かしたっけ?
「お前そんなこと平然とやるなよ……」
「何がだ?」
「自覚ねーのかよ!」
だから何の話だ?
「あ、刀夜くん。あとこれ福引で貰っちゃって」
「ん?」
福引なんてあったんだな。アリシアから渡されたチケットのようなものを確認する。というかまんまチケットだった。
「…………飲み屋の100日間無料券?」
「一応一等賞だよ?」
「うむ。アリシア殿の運は凄まじかった」
一等賞ってもっと温泉旅行とかそんなんじゃないのか。いや、まぁ温泉旅行なんてあるわけないよなこの世界に。
「俺達にはいらねぇな……。丁度良い、ミケラこれやるよ」
「うえぇ!? これすっげぇ高額で取引されるような奴だぞ!?」
「そうなのか? まぁいらねぇからやるよ」
ミケラにチケットを手渡すとソファに座って本を開く。他のページには有力な情報とか乗ってねぇか?
「物で釣ろうとか考えねーの?」
「その程度の物で釣られるのか?」
「その程度って……」
いや、高額だって言ってたな。確かに100日間の無料券だと100日間の食は保証される訳だ。これ程良い待遇もないだろう。
「まぁやっぱりその程度だろ。お前のそれは一般的には未知の技術な訳だしな」
この本も最近発売されたばかりだ。今になってこれが出ているがミケラのそれは自分で研究した成果。手探りで探し続けたものの重みは100日では済まない話だろう。
「はぁ〜…………」
「なんだその盛大な溜息は」
俺何か変なこと言ったか? 言ってないよな?
「…………ミケラはからかってただけ」
からかってた? というか何故アスールがそんなこと分かるんだ?
「ちょっとアスールちゃん!?」
「……慌てた。…………図星?」
あ、カマかけてたのか。びっくりした……深い仲なのかと思ってしまったぞ。そうなったらミケラの男の象徴を切り落とさなければならないところだ。
「…………最初から教える気だった」
「そうなのか?」
「……ちげーよ」
そこで視線逸らすなよ。
「お前不器用かよ」
「お前にだけは言われたくない!」
確かに俺も不器用だがお前も大概だろ。最初から教えてくれるのならそうしてくれりゃいいのに。
多分回りくどいやり方を取ったのは恥ずかしいからなんだろう。俺も気持ちは分からんでもないが。
「あー、もう! つかライジン装備貰ってんだから技術提供くらいするっての」
「それはお前の安全の為に渡しただけだ。役に立たない奴はいらないからな」
「お前本当に可愛げねーな」
「男に可愛げなんて求めるな」
そもそも可愛いとか言われても男は喜ばないだろ。男に言われるなんて嬉しくないどころか気持ち悪いぞ。
「そんなことありません! ご主人様はとても可愛いです!」
「そうよ! そこは否定しないでもらえるかしら!」
「刀夜くんは可愛いに決まってるよ! むしろ私達より可愛いよ!」
「お、おう……すまん…………」
なんかウチの過保護達が騒ぎ出したんだが。だから可愛いとか言われても嬉しくねぇって。
「……確かに刀夜殿は可愛いし格好良い」
「ん…………この前の寝顔は良かった」
お前らも直接は言わなくても影で言ってたら一緒なんだよ……。はぁ……なんで俺なんかが可愛いってことになるんだか。
「話戻していいか?」
「早く戻してくれ〜! というかどうにかしてくれ〜!」
全員からの責められるような視線に耐えれなかったらしい。
「まぁ一応言っておくがお前のその照れ隠しは可愛げあるんじゃねぇの?」
「お前何言ってんの?」
「…………冗談なんだが」
「分かりづらっ!」
そうか? ひとまず話を進めないといつまで経っても終わらなさそうだ。いつまでもこいつを束縛するわけにもいかないしな。
「んじゃとりあえず魔法の伝達から説明頼む」
「私達も聞いておくね」
「あぁ」
全員参加で魔法の講習会。ここまで大規模にするつもりはなかったが聞いておいて損はない技術だ。
「紙とペン入るか?」
「おう」
本当はホワイトボードがあると楽なんだがな。作るか?
「まずその本の記述通り魔法の伝達、そして重ね掛けをすることで効力を変えられる。問題は変わる効力が全くの別物という点だ」
「別物?」
つまりは炎魔法を前方に撃ち出す、もう一つ魔法陣を重ねて右に炎を撃つという効力を与えて炎を右に曲げようとしても全く違う効力が発揮されるということだろう。
「例えばだが炎魔法を撃ち出すとしよう。ここにもう1つ同じ魔法を使えばどうなると思う?」
「普通に考えますと大きくなりますね」
「そうだな〜。でも実はこうすると消滅するんだ」
消滅……ということは相殺するということか。
「同じ魔法の核は共存出来ないんだよな〜。じゃあ今度は右に撃つ魔法と左に撃つ魔法を重ねた場合どうなると思う?」
「えっと……前に飛ぶんじゃないかしら?」
「いや、消滅するんじゃないか?」
魔法の核が同じ場合は消滅するんだ、方向が変わろうとも核は変わらない。相殺してしまうのならこのパターンもそうだろう。
「さっすが刀夜〜」
「ご主人様は凄いです!」
「この法則を具体的に見極めたミケラの目の前で言われると馬鹿にされてる気分なんだが……」
しかしなんとなく理解はしてきた。同じ核が共存出来ないということは全く別物の効力同士を組み合わせる必要があるということ。普通に考えると似たような魔法でも同じ現象が起こる可能性が高い。
「効力の法則とかはないのか?」
「お前もう大体分かってないか……? まぁいいや。別の魔法同士を組み合わせるんだ、使ってみないと分からないだろう」
それに、と付け加える。まだ何かあるのな。
「俺とお前の魔法じゃ差があるだろ〜?」
「そんなことないよ! 刀夜くんは魔法だって凄いんだよ!」
「ん…………ミケラにも負けてない」
なんでお前らが否定するんだよ……。そもそもミケラの言いたいことはそういうことではないだろう。
「天職の差って言いたいんだろ?」
「さっすが〜。俺やルナちゃんが使う魔法とその他の職業が使う魔法には大きな差があるんだよ」
つまりそうすることで威力が変わる。何かしら影響が出てもおかしくはないだろう。
例えば俺の使う火球とルナが使う火球は威力が違う。この差はその魔法に込められる魔力の濃度と言われている。つまりはルナの方が濃度が高いということになる。
例えば火球に散弾銃のような分散型の魔法を重ねるとしよう。しかしその威力が変わる為に魔法の効力も変わる可能性が高い。魔力濃度が違うのだ、当然同じものが出来るとは限らないだろう。
「それに加えて魔法使いが天職だろうと得意魔法、不得意魔法ってのは絶対にあるからな。その点でも何か変わるだろうな〜」
「つまり教えてもらっても何ともならないってことか?」
「ある程度は同じになるだろーけどな。きちんと使えかどうかは別問題だ」
なるほどな。一定水準の威力がなければ普通に魔法を撃つ方が強いということだろう。随分と高難易度なこった。
「複合魔法も人によって変わる、ってことか?」
「そういうことだな〜。しかも複合魔法にすると消滅じゃなくて暴発する可能性もあるから気を付けろよ〜?」
炎魔法に風魔法を加えれば炎が大きくなる。炎属性同士ならば相殺するだけだが別属性を混ぜると最悪爆発する可能性もあるわけか。命懸けだな……。
「つーわけで、俺が一緒に訓練に付き合ってやろう!」
「マジか」
予想外の言葉に驚いてしまう。ミケラが訓練に付き合ってくれるなら心強いことこの上ない。何たって人類最強の魔法使いだからな。
「だから刀夜、今夜飲みに行くぞ」
「え」
何だその交換条件は。し、しかしそれだけでミケラの助力が得られるのか。
「………………………………………………………………………………くっ、行く」
「そんなに考えることか!?」
俺にとっては苦渋の決断だ。しかし! 今日は地獄だ……。
「ご主人様だけに負担は掛けません。もちろん私達もご一緒します」
「ルナ……。おっさん酔っていようともこいつらに手を出せば殺す」
「しねーって」
本当だろうな? その辺がこいつは結構軽いから困る。あっさり女に手を出して女性関係で揉めそうだ。というか揉めたことがありそうだ。不安だな……。




