第40話 魔法大好き! 酔っ払いは大嫌い!
「ご主人様、これを見てください」
「ん?」
クロとヒカリが目が覚めるのを待ちながら居間で本を読んでいるとルナが何やら本を見せてくる。
今日で2日、そろそろ起きてくると思うんだが……。丸一日寝ていても起きてこないとなると死んでるのではと勘違いしてしまう。一応息はあったが。
とにもかくにも今は若干の時間が空いているわけで、鍛冶屋にこもるのもルナに禁止されてしまって暇だったりする。
なんとか魔法の本を読んで時間を潰してはいるものの復習になってしまっている。ミケラ呼んできてやろうか。
「こちらにとても良い情報が書いてますよ」
「そうなのか?」
今更ルナが反応するということは相当良い情報が載ってあるんだろう。ちらりと覗き込もうとするが見えなかった。胸で。
「あ、少々お待ちください」
ルナは俺の後ろに回り込むと後ろから抱き着くようにして本を見せてくる。これは……胸が後頭部に!
これはもしや誘ってる? 今夜どうですか的なニュアンスが含まれた行為なのか?
「…………ルナ大胆」
「ふぇ? 何がでしょうか?」
この人気付いてませんよ! 素でやってんだな……流石は天然。
「…………刀夜が嬉しそうだから問題なし」
確かに嬉しいが同時に恥ずかしいんだぞ……?
「嬉しそう、ですか?」
「ルナ、それより早く見せてくれ」
指摘したらルナも恥ずかしくて機能停止してしまうことだろう。何事もなかったように接するのが一番だ。
アスールもそれが分かっているのか何も言ってこない。とりあえず早々に話を終わらせるのが今は得策だろう。
「あ、はい。こちらです」
ルナに見せてもらった本はやはりというか魔法の本だった。こいつ本当に魔法好きだな。いや、ルナの過去のことを聞いていれば仕方ないと思うが。
ルナが指差したのは魔法の説明ではなくとある研究者の記事だった。
魔法というのは3つの機関が存在する。魔力を受け止める器、効力、発動の3つだ。魔法陣というのはそれを発動させる為の技術であるわけだが例外がある。
例えば身体強化魔法などは魔力を受け止める器、効力、発動が己自身にあるわけで、魔法陣を介することなく魔法を使用することが出来る。
とまぁこれが基本知識になるわけだがその魔法を伝導させるという技術が載っている。しかしこれが新しい情報なのか?
「これって普段からしてるよな?」
特にルナなどは自分の周りを埋め尽くすくらいに魔法陣を同時に展開し魔法を発動させることが出来る。自分の周り、ということは既に伝導されていることになる。
「私が目を付けたのはこの一文です」
「一文?」
ルナの細く長い指が一文をなぞる。俺はそれに目をやると確かに有力な情報が書かれていた。
魔法陣を伝導させ、かつ複数の魔法陣を重ね合わせることで様々な効力を付与することが出来る。
「ほう?」
「魔法というのは効力によって大きく性能が変わります。まだ発見されて間もない技術ですがこれは試す価値があると思いませんか?」
「確かに」
ミケラや獣人殺しが同時に魔法陣を展開させ、複合魔法として扱っているのは知っているがこれはそういうことじゃないだろう。
魔法陣に魔法陣を重ねて新たな効力を付与する、か。どちらかというと複合魔法の方が難しい気がする。
「ミケラなら何か知ってるかもしれないな」
「そうですね」
「いや……そもそもミケラはこの技術を用いて複合魔法を使ってるんじゃないか?」
あいつの魔法の展開速度が速過ぎていまいちよく分からないが獣人殺しは片手に炎魔法、片手に風魔法でそれを合わせて使用していた。つまり複合魔法というのはそういうことじゃないのか?
「なるほど!」
「聞きに行くか」
「はい!」
血が疼いているんじゃなかろうか? ルナは嬉しそうに微笑んだ後に走って居間を後にした。
「ということでちょっと行ってくる」
「はいはい。相変わらずね……」
「…………いってら」
「あぁ」
アスールとマオに見送られながら居間を出る。ルナが玄関で既に準備万端なご様子。
「ご主人様、早く行きましょう!」
「そうだな。でもその前に着替えろ」
「へ?」
ルナが己の格好を見て顔を真っ赤にする。部屋着なのだ、少し大胆である。まぁルナだから当然似合ってるんだが。
肩や胸元が大胆に露出している肩出しのワンピースだ。水色で大変可愛らしい。
「す、すぐに着替えてきます!」
「いや、俺も着替えるし慌てなくていいぞ」
俺も部屋着だ。と言っても黒いズボンに黒いTシャツだ。別に外に出ても問題はないが。
慌てた様子のルナを尻目に自室へ。
軽く着替えるだけでいいんだが……。実演とかするかもしれないしな。一応冒険者の格好にするか。
手早く着替えて上着を羽織ると部屋を出る。丁度ルナも部屋から出てきた。
「行きましょう!」
「お、おう……。完全武装だな……」
銃まで用意してるし。流石に魔法となったら手を抜けないのだろう。
外に出ると早速歩き回る。しかし俺達はミケラの家を知らない。宛がないわけではないが。
しらみつぶしに居酒屋を見て回る。道中何故か女性に声を掛けられるので正直困る。飲みの誘いとかやめて欲しい。時間の無駄だ。
「…………ご主人様はやはり人気者です」
「目的は肩書きだけだろ。俺のことを詳しくも知らないで誘ってくるのは警戒心が足りないと言わざるを得ないがな」
「…………ご主人様は鈍いです。天然です」
「天然はルナだろ?」
人のこと天然とか言える立場じゃないだろ。それがさっき部屋着で外に出ようとした奴の台詞か。
「そんなことありませんよ!」
「いや、あるぞ?」
ルナ以上に天然な奴も見たことがない。元々人付き合いが多い方ではないが……。
ひとまずこういう時は困るんだよな。どうすりゃいいんだ。
「ご主人様は以前どうやって見つけたんですか?」
「以前って言うとあれか」
獣人殺しの父親だと判明した時のことだろう。確かギルド近くにいたんだよな。でも今回は状況が違う。
ミケラも獣人殺しの謎の真相を負う為にそっちに集中している。その状況下ではとてもじゃないが依頼をこなしているとは思えない。
「あれはなんとなくギルドに顔出せばと思っただけだ。今回は無理だぞ?」
「確かにそうですね……」
「お〜? 何か探し物か〜?」
目的としていた人物の声が聞こえた。俺とルナは同時に振り返ると顔を真っ赤にしたいかにもな酔っ払いが立っていたわけだが。
「…………ルナ、駄目だこいつは。帰ろう」
「そうですね」
話す価値がなくなった。これならまだ2人で試してみた方が確実だったりする。
「おいおい、ひでーな」
「酒臭いから近寄るな」
「消毒しましょうか?」
ルナが赤い魔法陣を展開していた。消毒っていうか焼却じゃねぇか。
「水で濡らして雷の方が良く焦げないか?」
「確かにそうですね」
「酷過ぎるだろ!?」
そうでもない。酔っ払いには当然の報いだ。
「まぁとにかくとして見つけちまったわけだが……」
「無駄足でしたね」
「ん? 俺のことか?」
俺達の会話を聞いて目的が自分であることを悟ったミケラ。しかし酔っ払いに聞くことなどない。
「魔法陣を伝達、重ね掛けして効力の変化を起こすってのを聞きたかっただけだ」
「あー、あれか。混合魔法の劣化版じゃねーか」
やっぱりか。やはりこいつは詳しいのだろう。
「でも酔っ払いは遠慮する」
「私もです。失礼致します」
2人で頭を下げるとその場から立ち去ろうとする。そんな俺の肩をミケラは掴んできた。酒臭い。
「まだ完璧に酔ってねーから大丈夫だ!」
「遠慮する」
「えー! 構ってくれよ! クロとヒカリ? が起きねーから暇なんだよ!」
やっぱりそれを待ってるのか。でもそれをどうやって知るんだこいつは。
「ミケラ、お前の家ってどこなんだ?」
「俺は宿屋を渡り歩いてるな」
「ふーん……」
宿屋か。ということは特定の住所があるわけでもないのか。それは困るが……こいつを俺の家に泊めればもっと困る。
「お? なんだなんだ? 一緒に住みたいか?」
「いや、遠慮する」
「えー! 泊めてくれよー!」
酔っ払い面倒くせぇ……というか年下にたかるな。おっさんだろこいつ。自分でなんとかしろよ。
「俺とお前の仲だろ!?」
「あー……なら酒は禁止っての守れるのか?」
「ご遠慮させていただきます」
即答かよ。アルコール依存症じゃねぇのこいつ……?
「ウチにはお酒置いてませんからね。基本的に皆様飲まないですし」
「そうだな。ジュースは大量にあるんだけどな」
「はい。とても美味しいです」
果汁100%のジュースとか好きだもんな。特にルナはそういう飲み物を好む。子供舌というかなんというか。そういうところが可愛いんだけどな。
「ご主人様はよく炭酸のものを飲まれますよね」
「まぁな」
「お、じゃあビール飲もうぜ!」
「酒は勘弁……」
とりあえず早く話を進めないと居酒屋に連れて行かれそうだ。そんなことをしに来たわけじゃない。
「おいおい、ルナちゃん」
「はい?」
「酒に酔ったら良い特典がいっぱいあんだぞ?」
「そうなんですか?」
おい、こいつ何吹き込もうとしてるんだ。純真無垢なルナを汚すな。
「ほれ、聞いたことあるだろ? 私、酔っちゃったみたい……っての」
「なるほど」
「納得するとこじゃないぞ」
しかもそれお誘いの時の奴だろ。ルナには必要ない。
「ご主人様はお好きですか?」
「え、ま、まぁ嫌いではないが別に好きってわけでも……」
「…………試します!」
「やめてくれ」
俺が誤魔化したのに気付いたな。本当はちょっと憧れてたりする。
「もういいから早く話進めてくれ……」
「既にご主人様が疲れていらっしゃいます!?」
「はいはい、わーったよ。お前の家でいいのか?」
「あぁ」
やっと進んだか。はぁ……。




