特別編マオ視点第6話 猫嫌い、人間も嫌い
散々エッチをした翌日のお昼。私は刀夜さんと出かけていた。私だけじゃなくてコウハちゃんがいるけれど。
刀夜さんの左右の腕に抱き付くように私達は歩く。本当に人が多いからこの街はあんまり好きじゃないのよね。
けれど人が多い分商人が集まりやすい。品揃えが豊富なのは唯一良い点よね。
「人が多いわね……」
「本当にな……」
「2人とも人嫌いが過ぎるんじゃないか? 特に刀夜殿は同種だろう?」
確かに刀夜さんは人間だけれどやっぱり他の人とは違うもの。仕方ないわよ。
「同種だからこそ嫌いなんだ。同族嫌悪ってあるだろ?」
「刀夜さん、それ多分使い方間違えてるわよ」
それって同じような人が同じような人を嫌うという意味よね。刀夜さんのそれは人間という種族そのものを根本的に否定するような雰囲気だもの。
「こう言ったら済むかなと思っただけだ」
「刀夜さんをあんなゴミクズみたいな連中と一緒にするのは嫌よ」
「マオ殿も辛辣だな……」
仕方ないわよ。人間なんてそんなものだもの。まともな人なんて刀夜さん、アリシアちゃん、ムイ、ミケラさんくらいのものじゃないかしら。
「俺も醜い人間の1人なんだけどな」
「それは違う!」
「それは違うわよ!」
私とコウハちゃんが同時に否定する。刀夜さんが醜い? そんなこと言ったら全ての種族の全ての人が全員醜いことになってしまうわ。
「俺だって遠慮しない時は遠慮しないぞ?」
「ほう? では試してもらおうか」
「何するんだ?」
コウハちゃんが胸を張る。少し揺れた胸に刀夜さんの視線が向いていた。こういうところに反応するのはやっぱり男の子よね。
「今から私達に酷いことをしてもらう」
「酷いことって……度が過ぎたら私達落ち込んで死ぬわよ?」
「そんなレベルの危険なゲームなんて俺やりたくないんだが……」
本当にその通りね。ということでこの話は無しにしましょう。
「ニャ〜ン」
「…………」
また来たわねこの野良猫。今度こそ仕返しをしてやるんだから。
「昨日の猫だな。ってまたこっち寄ってくるのか」
野良猫は当然のように刀夜さんの元へと歩いていく。刀夜さんはそれを抱えるとじーっと見つめる。
『ご主人様ご主人様〜!』
こいつ……あからさまに刀夜さんのこと狙ってるわね。もちろんペットとしてだけれど。リルフェンがいるからもういらないわよ。
「あ、そうだ。マオならこいつと会話出来るんだよな?」
「え? えぇ」
「ならちょっと翻訳してくれ」
えぇ……こんな性格悪い野良猫の翻訳なんて嫌なのだけれど……。けれど刀夜さんの頼みだし……。
「お前は俺のこと好きなのか?」
「それはもちろんよ」
「いや、お前に言ってないんだが……」
つい反応しただけよ。というか刀夜さんなんて質問するのよ。まさか飼いたいなんて言わないわよね?
「ニャーン」
「好き〜。ですって」
「そうなのか。俺もお前のことは好きだぞ」
「…………」
やっぱり刀夜さんって……。
「あのマオ殿……?」
「刀夜さんなんて……」
「え?」
もう我慢の限界よ。言ってやる……今日こそ全部言ってやるんだから!
「でも残念ながら俺はお前よりマオの方が好きなんだよな」
「にゃ!?」
「マオ殿まで猫語に!?」
あ、お、驚きと昨日したせいでつい猫語になってしまったわね。落ち着きましょう。
『この小娘……急にデレデレして何なの〜?』
「デレデレはしてないわよ!」
「え?」
何よこの野良猫は! ほんっとうにムカつくわね!
『ちょっとご主人様に気に入られてるからって良い気になって〜』
「なってないわよ! それに刀夜さんが私のことを気に入ってるのは当然よ! 恋人なんだから!」
『身体だけじゃない?』
「そんなわけないじゃない!」
このクソ猫! 私と刀夜さんの関係を疑ってくるなんて考えられないわ!
「何か喧嘩してないか……?」
「マオも子供っぽいんだな。というかこれもアレだろ。同族嫌悪」
「意味が違うんじゃないか……? それにそれだとマオ殿が猫になってしまう」
「獣人族なんだから半分猫だろ」
確かに刀夜さんの言う事はもっともね。同族嫌悪……なるほど。刀夜さんもこんな感覚なのかしらね。
何よりこのクソ猫はなんてムカつくのかしら。人間と同じくらいに腹が立つのだけれど?
「マオ、とりあえず落ち着け?」
「え、えぇ、そうね」
刀夜さんに言われて心を落ち着かせる。そうよ、私の方が刀夜さんに愛してもらえているのだから落ち着きなさい。こんなに取り乱しては刀夜さんに幻滅されてしまうわ。
「さて」
刀夜さんは珍しくにっこりと微笑む。その姿が怒ってる時のルナちゃんに重なった。
「ニャ!?」
「お前、マオと俺の関係を疑ってくれたらしいな? 例え野良猫だろうと許す気はねぇぞ?」
刀夜さんの雰囲気が……こ、これってあれよね? 私が気持ち悪いって言われた時も同じようなことしていたけれどあれよね?
「ニャニャニャ!?」
「さて、どうしてくれようか?」
「と、刀夜殿! 落ち着くんだ!」
「そうよ、落ち着いて?」
私とコウハちゃんでなんとか宥めると盛大に溜息を吐いた後に仕方なさそうに猫を離した。
「次何かマオに言ったらぶっ殺す」
「刀夜さん怖いわよ……」
愛が重いわ……。けれどそれくらいが丁度良いのよね、私達は。
「ニャ……ニャーン!」
野良猫は恐怖のあまり大慌てで走り去っていった。少し同情するけれど最後の言葉を聞けば許す気にもなるわね。
「ふふ……喧嘩を売ってごめんなさいって言ってたわ。許してあげてもいいんじゃないかしら?」
「お前がそれでいいならそれでいいけど……。俺の仲間を馬鹿にする奴はどんなだろうと許さん」
刀夜さんは本当に私達のこと大好きよね。刀夜さんがこんなだから他の人に取られるんじゃないかって心配が薄れてしまう。
けれど油断は出来ない。それはつまり私達5人はそういう風に見ているということ。誰が抜きん出てしまうか分からない。
ポケットに手を入れた刀夜さんは歩き出してしまう。私達もそれに習うと左右の腕に抱き着いた。
「あ」
「あ」
私達が同時に声をあげる。コウハちゃんも同じことを考えていたのか行動も声を出すタイミングも一緒になってしまった。気が合うのでしょうね、刀夜さんのことになると私達は。
「負ける気はない」
「私も譲る気はないわよ」
「お前ら人を挟んで喧嘩すんなよ……。というか何で喧嘩してんだよ」
原因である刀夜さんがそんなこと言っていたら駄目でしょうに……。
「本当に刀夜さんは駄目よね」
「鈍過ぎるのも考えものだ」
「え、何で俺今責められてんだ? 俺が酷いことするって話じゃなかったか?」
そういえばそんな話をしていたわね。野良猫が来たせいですっかり忘れてしまっていたわ。
「そうだった。刀夜殿、早くして欲しい」
「お、おう……」
コウハちゃんが急かした為に刀夜さんは慌てて了承してしまう。刀夜さんって勢いに弱いわよね。
刀夜さんは少し俯いて考え込んだ後に苦痛の表情を浮かべ口元を震わせながら告げる。
「お、おま……お前らのことなんて……そ、その……あの……嫌いだから離れろ」
「…………そんなに無理してまで言わなくていいのよ?」
誰の目にも明らかなくらい嘘なのだけれど。こんなので心折れるわけがないわね。というか刀夜さんの方が心折れるんじゃないかしら?
「いや、平気だ。俺も時には心を鬼にしないといけない時が来るだろう。その時の為の予行練習だ……」
「こんな形で予行練習するとは思わなかったのだけれど……」
確かに何があるのか分からないから心を鬼にしないといけない時は来るかもしれないけれど。けれどそうならないように動く努力はするのでしょうね。
刀夜さんは苦しそうにしながらも何とか喉から声を絞り出した。そこにいつもの余裕はなかった。
「鬱陶しい……獣風情がペットの癖にご主人様にくっついてんじゃねぇよ」
「も、もういいわよ? 本当にもういいのよ?」
嘘なのは分かっているけれど私も刀夜さんの声でこんなことを言われたくはない。色々と限界だった。
「わ、私も悪かった……だから少し落ち着いてくれ」
刀夜さんが無理しているところなんて見たくない。ましてや苦しそうな顔なんてもっと見たくない。
コウハちゃんと一緒に刀夜さんを止めていると刀夜さんの瞳から光が消えた。
「何が奴隷種族だ人間ぶち殺してやる……」
「本当に落ち着きなさい!」
「凄いことに言ってるぞ!?」
まるで魔王のような発言だった。こんなことがお偉いさんにでも見られたらこの街にいれなくなってしまう。それくらいに問題発言だった。
「ほら刀夜さんおっぱいよ? 大好きでしょう?」
「え? ま、マオ殿? 今の状況で色仕掛けが通じるわけが……」
「大丈夫よ! 刀夜さんだって男の子だもの! 呑気なことしてないでコウハちゃんも誘いなさい!」
「う、うむ!」
コウハちゃんと一緒に胸を持ち上げるように誘惑する。どうしてライバルであるコウハちゃんと協力することになるのかしら……。
刀夜さんはキョトンとした後に私達2人の背中に手を回すとそのまま抱き寄せた。
「……大好きだ」
先程の反動なのか刀夜さんはボソリと呟いた。身体の芯から温められていくようなそんな素敵な言葉に私もコウハちゃんも幸せそうに笑ってしまう。
「私も大好きよ」
「無論私もだ」
2人で刀夜さんに抱き締め返す。そこでようやく気付いた。ここが街の往来であることを。
周囲を見回すと大量の野次が私達を見つめていた。は、恥ずかしいわ……。
「…………やっぱりこいつら殺しましょう」
「マオ殿!?」
私はそう言わなければいけないくらいに。いえ、そうしないと本当に再起不能になるんじゃというくらいに恥ずかしさで頬が染まってしまった。
ちなみにコウハちゃんも少し恥ずかしそうにしており、刀夜さんは冷たい目をしてボソリと世界中の人間を滅ぼす方法を考え呟いていた。
…………やっぱり人間なんて嫌いよ。




