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特別編マオ視点第4話 野良猫なんかに負けたくない!

「にゃ、にゃ〜ん……」


 私は物凄く恥ずかしいことをしているのを自覚しながら何とか喉から声を絞り出していた。

 刀夜さんに喜んでもらおうと考えた猫のモノマネだった。刀夜さんは動物が好きだからこうすると喜びそう。

 けれど流石に誰にも見られたくないので自分の部屋ですることにしている。本番も刀夜さん1人にしかするつもりはない。


「…………猫プレイ」


 語尾ににゃを付ければいいのかしら。刀夜さんも本気で私が猫になることを望んでいるわけじゃないものね。

 私がこんな羞恥プレイに走ったきっかけは昨日のことだった。刀夜さん、ルナちゃん、アリシアちゃんと私の4人で買い物に来ている時だ。


「ニャーン」

「ん? あぁ、猫か」


 真っ白な野良猫がくんくんと匂いを嗅ぎながら家の屋根から飛び降りてきたのだ。猫は真っ直ぐな刀夜さんの元へと向かった。


「……? 野良猫に好かれるとは思わなかったが」


 刀夜さんは不審に思いながらも野良猫を抱き上げた。そして頭を撫でるとクスリと微笑む。


「可愛いなお前は」

「にゃ〜ん♪」


 嬉しそうに鳴く野良猫を見ているとこっちまでほんわかしてしまう。ルナちゃんとアリシアちゃんも微笑んでいた。

 しかしここで私にだけ聞こえる声が聞こえてきてしまった。猫は声を出さずに会話をする。その習性のせいで他の人には全く気付かれないけれど。


『そこの小娘なんかより私の方が上だよ〜』


 もちろんそこの小娘とは私のこと。これが同族嫌悪と言うのかしら? この猫は気に食わないわね。

 しかしだからといって文句も言えなければ言う権利もない。だから私も別の方向で攻める。


「ねぇ刀夜さん」

「何だ?」


 不思議そうに私を見つめる刀夜さんににっこりと表情を作る。


「そこの猫と私、どっちの方が可愛い?」

「可愛いって……んー、そりゃあ猫じゃね?」


 予想外の答えに固まってしまった。まさか……私よりその猫を選んだの……?


「いや、愛らしい? 何だろうな、分からん」


 可愛いも愛らしいも意味なんて変わらないじゃない。刀夜さんの馬鹿……。


『ふふ、負け猫♡』


 イラっとした。この猫、私に喧嘩を売るなんて良い度胸してるわね?


「刀夜さん」

「ん?」

「その猫、こっちに渡してもらえるかしら?」

「え、な、何でだ……?」


 私の雰囲気を察したのか刀夜さんは少し後ずさり。ルナちゃんとアリシアちゃんも私を見て驚いていた。


「もちろん可愛がる為よ」

「なんか怖いぞマオ……」


 いけない……刀夜さんに私の方が可愛いと言わせないと物理的にやり返したところで私が悪者ね。

 どうすればいいのかしら……。私も猫なのだから猫になってみた方が良いのかしら?

 そして時は戻り現在、私はこうして野良猫のように鳴き真似をしている。


「あんな猫なんかに負けないんだから……!」


 悔しい。何よりも私じゃなくてあの猫を選んだ刀夜さんに納得がいかない。問い詰めてやろうかしら……。いえ、それじゃあ私が言わせたみたいになってしまうわ。それは避けないと。

 やるならアピールよね……。身近に可愛い人っていたかしら…………。

 あ、あれ……? 刀夜さんしか思い浮かばなくなったわ。どういうことかしら。


「落ち着きましょう……そう、可愛らしさが必要なのよ」


 それも刀夜さんにアピールするような。だから女の子らしい仕草で……。

 あ、あれ? やっぱり刀夜さんしか出て来ないわね。けれど別に刀夜さん女々しくないのにどうしてかしら?


「あー、もう、分からないわ……」


 どうしてこうなのかしら。私にとっての可愛らしさは刀夜さん……ということなのね。仕方ないわね可愛いもの。

 私が1人納得したところでノックの音が響いた。この匂いは……刀夜さん?

 私は急いでドアを開けて刀夜さんの顔を見つめる。少し心配そうな、それでいて無表情のような。刀夜さんは表情にあまり出ないものね。

 それにしても刀夜さん……。


「可愛い……」

「え?」


 口に出てしまった。刀夜さんもキョトンとしていてその表情も可愛い……。


「何か昼から様子がおかしくないか? 風邪か?」


 刀夜さんが私の額に手を当てる。刀夜さんの手って大きいし冷たいから気持ち良いわね。確かに人間よりも獣人族の方が体温が高いからだけれど。


「熱いけど獣人ならこんなもんだよな……? 風邪引いてるなら無理せず休んだ方がいいぞ?」

「それ刀夜さんには言われたくないんだけれど……」

「…………そうだな?」


 あっさり認める辺り自覚はあるのね。けれど直す気はなさそうだけれど。


「きょ、今日は様子を見にきただけよね?」

「ん? あー、そのつもりだったんだけどな」

「……?」


 何かあったのかしら? 他の用事っていうと……武器の意見交換とかそんなのでしょうね。刀夜さんだもの。


「何となく放って置けないから今日は俺の部屋で一緒に寝ないか?」

「…………はい?」


 予想外の言葉だった。何となく雰囲気に流されてだったり私達から誘って添い寝することはあったけれど刀夜さんからこうやって誘ってくれたことってあったかしら?


「いや、だから一緒に寝ないか?」

「…………」


 いえ、勘違いしては駄目ね。刀夜さんだもの。肝心な時に絶対に落としてくる。上げて落とすなんて酷い人だけれど天然だから文句も言えない。

 期待しちゃ駄目。刀夜さんのことは好きだし好きでいてくれてることも伝わってくるけれどそれとこれとは話が別ね。


「そんなに溜まってるの?」

「え? いや、別に」


 あ、あら? 違うのね。けれど最近していないし溜まっていると思うのだけれど。絶倫だものね。


「風邪引いた時は誰かがそばにいた方がいいだろ? それにマオと眠れるなら別にエロいこと抜きにして嬉しいしな」

「そ、そう……」


 そんなにはっきり言われると困るわ。どういう表情をすればいいのかしら……。とりあえず頬が熱くなってきてしまうわね。


「顔赤いぞ? 本当に大丈夫か?」

「え、えぇ、平気よ。これは単にその……あれよ」

「どれだ?」

「どうしてそんなに鈍いのよ……」


 ほら、肝心な時はこれじゃない。分かってたわよ刀夜さんだもの。


「……? とりあえず一緒に寝ることに関しては?」

「大丈夫よ。着替えてから行くわ」

「そうか。じゃあ部屋で待ってるな」

「えぇ」


 刀夜さんは自室へと戻っていく。その背中を見ながら私は溜息にも似た熱い息を吐いてしまう。


「…………ちゃんと見てくれてたのね」


 きちんと隠していたはずなのに私の違和感に気付いてくれた。それだけ普段の私のことを見てくれてるってことよね。そう思うと嬉しいわ。

 それより早く着替えないと。下着も…………変えておいた方が良いわよね。多分その……私の方が我慢出来なさそうだもの。


「んんっ……にゃ、にゃ〜ん……」


 いけるわよね? 試してみましょう。猫の声真似なんて無駄よね。そもそも私半分は猫なのだし。

 刀夜さんは私のことを可愛いって思ってくれるかしら? 何としてでもあの野良猫よりも可愛いって言わせてみせるわ!

 黒いネグリジェに着替えて刀夜さんの部屋に向かう。軽く深呼吸してから部屋をノックした。


「どうぞ」

「失礼するわね」


 刀夜さんの許可をもらってから中に入る。刀夜さんも着替えたみたいね。黒い薄着でちょっとラフな格好が可愛いわ……。


「んじゃ寝るか」

「えぇ」


 ベッドに横になった刀夜さんは掛け布団を持ち上げて私を見上げる。可愛い……。


「ほら、早く」

「え、えぇ」


 急かすように言われてしまい私も急いで中に入る。今日はいつもとは違う。刀夜さんに可愛いって言われるまでは眠れない。

 刀夜さんなら話相手になってくれるもの、刀夜さんの方が先に眠ることはあまりないわよね。


「ねぇ刀夜さん」

「ん?」

「刀夜さんが可愛いって思う女の子の仕草ってどんなのかしら?」


 私にはもう刀夜さんしか思い浮かばなかったものね。本人に直接聞くのはアレだけれどルナちゃん達に聞かれると妙に勘ぐられるから駄目ね。


「んー……具体的にあげろって言われると難しいな。日常のふとした時に無意識にやる行動が、ってことだよな?」

「えぇ」


 もちろん意図的の可能性もあるけれど。いえ、私達にそれはないでしょうけどね。刀夜さんに見抜かれそうで怖いもの。

 刀夜さんは目を閉じて少し思案。すると思い浮かんだのかパチッと目が開いた。


「そうだな。この前なんだがルナがな」

「えぇ」

「俺が寝ぼけながらドアを開けると丁度目の前に立っててな。頭ぶつけちまったんだよ」


 タイミング悪いわね。けれど結構あることよね?


「で、涙目になってたから頭撫でてたんだけどな頬を赤く染めながら嬉しそうしてた。それがちょっと可愛かった」

「そ、そう」


 ハプニングから一転してご褒美だもの。ルナちゃんじゃなくても嬉しいでしょうね。


「そういやアスールもあったな。よだれ垂らして寝ててな」

「珍しいわね」


 アスールちゃんはふざけたりするけど結構ガードが固いのよね。刀夜さんが相手だと緩々だけれど。


「無防備な寝顔はそりゃ可愛かったぞ。堪能した」

「私も見てみたかったわ」

「やめとけ……指摘したら本気で怒られた」

「でしょうね……」


 やっぱりアスールちゃんね。けれど刀夜さんが相手だと気が緩むのも仕方がないわよね。刀夜さんも若干緩いもの。


「アリシアはぬいぐるみ抱き締めてる時本当に嬉しそうな顔するよな」

「そうね。刀夜さんとのエッチの後くらい嬉しそうね」

「やっぱりそうか……。もっと満足させないと駄目か」

「もしかしてぬいぐるみに嫉妬してるの?」


 指摘すると刀夜さんは視線を逸らした。やっぱり刀夜さんの方が可愛いわよね。


「コウハは女の子らしい服装しようとしてる時がいいな」

「少し無理してる感じがあるわよね?」

「それが可愛いんだろ? 自分には似合ってないと思いつつも恥ずかしがる表情は良いぞ?」

「刀夜さんって実はちょっとSっ気があるわよね」


 もちろんそういうところも素敵だけれど。逆にMっ気があってもそれはそれで可愛いからいいんだけれどね。


「もちろんマオにもあるぞ」

「そうなの?」

「あぁ。この前のデートの時とかな。ほぼデレデレのツンは可愛かったぞ」

「う、うるさいわね……」


 そういうところはあまり指摘しないで欲しいわ。刀夜さんは意地悪ね……。

 けれど刀夜さんは私のことも可愛いと思ってくれているのね。けれどやっぱり野良猫の方が可愛いわよね。

 けれど刀夜さんが思い出してほんわかしている今こそチャンスよ。ここで私も野良猫みたいに甘えるわ! 無防備な時程最適な一撃よね!


「にゃ、にゃ〜ん♪」

「っ!?」


 刀夜さんが目を大きく見開いて驚いていた。それもそうだろう。私が猫の鳴き真似をして刀夜さんの胸元に頬擦りしたのだから。


「な、何があった!?」


 そんなに驚かなくてもいいじゃない。確かにいきなりだとは思ったけれど……。

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