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第39話 愛する人の涙は見たくないもの

「はぁ……」


 フラッとした。多分血を流し過ぎたんだろう。回復魔法は復活するわけではない。血液だって多少は増えるかもしれないが完璧に元通りという訳にはいかないのだ。


「だ、大丈夫!?」


 近くにいたマオが俺を支えてくれる。暖かい温もりが先程までの冷たい殺意を遠ざけてくれる。


「刀夜はだらしねーな」

「一番頑張った刀夜くんにそれは酷いんじゃないかな!」

「ん…………極刑」


 いや、ミケラは殺す選択を取っていた。俺がわざわざこういうやり方を取ったに過ぎない。本来ならすぐにでも殺すべきだったろう。

 しかしそれ以上に魔人の情報の方を優先したのだ。もちろん最初から殺す気だったが。


「あの、お話はまた後日聞かせていただけませんか? 今はご主人様にお休みいただきたいので」

「いや、俺は平気だから」

「ご主人様? お・や・す・み、くださいね?」

「お、おう……」


 ルナが怖い。逆らったら説教コースだな。


「この2人を泊めればいいんだな?」

「そうだね。あ、でも暴れたりしないでね?」

「角がなければ心配はない」


 そんなことはないんだが。フレイは角がなくても結構苦しそうだったしな。まぁ耐えれないという程ではないかもしれんが。


「ひとまず終わったわね。帰りましょうか」

「そうだな……」


 もうここに用はない。あと疲れたのと眠い。本格的に色々とマズイらしい。まぁいいが。


「刀夜さん、もう休みなさい」

「まだ……ね…ない…………寝たく……ない…………」


 しかし俺の言葉に反して意識はプツリと途切れてしまった。本当に疲れ過ぎていたのか、それとも立っているのも限界なくらいに負傷したのかは分からなかった。


「んっ…………」


 ゆっくりと目を開ける。時間を見ると1時間程経っていた。誰かに家に連れて行ってもらったらしい。


「おはよう」

「ん……おはよう…………」


 マオの声が聞こえて振り向いてしまう。添い寝していたのかベッドに寝転んでいる彼女は何やら不機嫌な様子だ。上体を起こしてもその表情は変わらなかった。


「悪い……ここまで運んでくれたのはマオか?」

「えぇ、けれどそのことで怒っていないわよ。むしろ一番頑張ったのは刀夜さんでしょう?」


 自覚はないがそうなのか? そういえばクロとヒカリから話は聞けたのだろうか?


「クロとヒカリは?」

「今は客室で寝てるわね。2人は相当ダメージを負っているから。今はゆっくり休ませてあげましょう」

「あぁ」


 家の中にいるのか。一応まだ操られる可能性があるのだから……というのは言うまでもなく分かっていることだろう。

 それじゃあマオは何に対して怒っているのだろうか? 全く心当たりがない。


「ねぇ刀夜さん。私達って仲間よね?」

「そうだな」

「大切な恋人よね?」

「そうだな」


 今更確認するまでもなくその通りだ。そんな言葉程度で満足するのもあれだが。世間一般の恋人よりももっと大切な人だ。失いたくない、失うと生きる希望すら消え去ることになるようなそんな人だ。


「じゃあその大切な恋人を放置してミケラさんに話をしに行ったのはどうして?」

「あ……もしかして聞いたのか?」

「ミケラさん本人からね」


 あぁ、だからマオの呼び方が変わってるのか。確かにあんな話を聞いたら尊敬するよな。俺もそうだったし。

 そしてマオが怒っているのは俺が単騎突入したからというわけだが……。


「それに1人で責任を取ろうとしたらしいじゃない。どういう了見なのかしら?」

「そ、れは…………」


 気まずくなって目を逸らす。ここで真っ直ぐにマオの目を見つめられる程俺は豪胆じゃない。


「ねぇ刀夜さん。私達ってそんなに頼りないかしら?」

「そんなわけないだろ。…………分かった、本心を話す」


 責めるような視線が耐えられない。俺は少し深呼吸すると心を落ち着かせる。起き抜けに心臓に悪いな本当に……。


「言わなかったんじゃない、言えなかったんだ」

「え?」

「だから……言い出せなかったんだ」


 マオは意外そうに目を見開いた。そんなに驚くことか?


「だ、だってあの刀夜さんよ? 平気で人の気にしているところを指摘するあの刀夜さんなのよ?」

「お前俺に対して酷くないか?」

「だって事実でしょう?」


 確かにそうだが。空気を読むのも苦手だし思ったことは口に出てしまう。鈍感なのも自覚しているから人の気持ちを考慮して発言もしていないのだろう。


「…………どんな理由があろうとミケラの息子を殺したのは俺達だ」

「…………そうね」


 マオは悲しげに目を伏せた。この顔が見たくなかった。こんなもの背負わせたくなかった。だから言いたくなかったんだ。


「どうして刀夜さんまで悲しそうな表情するのよ」

「ミケラの息子を殺したのとは別になんとも思ってない。あの時あれが最善だったと思ってる」

「そうね……」

「でもそれをお前らに背負わせたくなかった。特にマオは余計に気にするだろ……」


 事の発端であるマオは余計に沈んでしまう。そんな顔を見たくない。だから言いたくなかった。言い出せなかった。

 俺は何よりも仲間が大切だ。その仲間の悲しい顔を見たくないし死なせたくもない。


「お前らが死ぬくらいなら……俺1人死ぬだけでいい」

「刀夜さん……」

「分かってる。お前らも同じように思ってくれてるのは分かってるんだ。でも……どうしても言い出せなかった」


 俺が自分を犠牲にしてでも守りたいと思うようにこいつらも自分を犠牲にしてでも俺達を守りたいと思ってるのは分かってる。

 俺1人で抱える必要がないことも、こいつらが頼りになるのも、甘えていいのも全部分かっている。

 分かっていても結局抱えてしまった。いつものように1人で。

 マオが怒るのも仕方ない。こんなどうしようもない奴なんだ俺は。


「ごめんなマオ……こんな形になっちまって。こんな形で知る羽目になっちまって」

「いいのよ、別に。刀夜さんの気持ちも分かったから」


 俺の手に自分の手を重ねたマオは悲しげに微笑む。痛々しいその表情が見たくなくて俺はそっとマオを抱き寄せた。


「泣いてもいいぞ……」

「ズルいわよそれ……甘えたくなるじゃない」


 マオは甘えたくなると言っても甘えてはこない。甘やかすことはしても甘えることは苦手なのかもしれない。


「俺も泣きそうになってきた……」

「いいわよ、泣いても」

「…………俺はいいや。お前が代わりに泣いてくれ」

「何よそれ……」


 俺はもう泣いた。だから今はマオに泣いてもらおう。何よりも一番の被害者なのだから。


「ねぇ刀夜さん……」

「ん……?」

「ミケラさん……良い人ね」

「…………そうだな」


 本当にそう思う。あいつは遠慮も何もないのだろう。それなのに普通に許してくれた。むしろ俺達も被害者なのだと納得してるのかもしれない。

 自分の息子が殺されてると分かって悲しくないはずがない。それなのにあいつは…………。


「もちろん刀夜さんの方が素敵だけれどね」

「辛辣だな……」

「私が好きなのは刀夜さんだもの。他の人が駄目なのは当然よ」


 それは当然なのか? こいつ俺のこと好き過ぎるだろ。知ってたけど。


「ねぇ刀夜さん」

「ん?」

「キス、してもらえるかしら?」

「…………別にいいけど」


 マオの顔を見ると目尻に涙が溜まっていた。そんなんじゃ全然スッキリもしないだろうに。それでも我慢しているのはマオが気丈だからだろう。

 顎に手を当てて上を向かせるとそのままマオにキスをする。優しく、壊れないように。


「ふふ……慰めてくれてありがとう」

「…………あぁ」


 唇を離すと溜まっていた涙が流れ始めた。俺はそっと抱き寄せるとそのまま寝転んだ。


「もう何もする気にならない……このまま寝るか」

「……そうね」


 マオの顔を見ないように頭を撫でる。マオも泣き顔なんて見られたくないだろう。

 しかしマオの泣き顔は不謹慎ながら綺麗だと思ってしまった。普段が普段だ、ギャップが凄まじいのだろう。


「晩御飯食べないと怒られそうだけれどね」

「今日くらいはルナも許してくれるだろ」

「…………いえ、きっと駄目よ」


 そうか? ルナってこういうの融通利かせてくれるだろ。多分。


「刀夜さん何で倒れたか分かってる?」

「…………貧血?」

「そうよ。だから食べないと駄目よ」


 そうか。確かにルナなら気持ちより体調を優先させそうだ。気持ちはいつでもどうにでもなるけど体調は崩すとどうしようもないからな。


「…………お前が泣き止むまではこうしてる」

「…………ありがとう」


 マオの頭を撫でながら目を閉じる。本当に今日は疲れた……このままもう一眠りしてやろうか。


「ふふ……」


 いや、駄目だな。マオが嬉しそうに微笑む顔を想像しながら俺は見ないように頭を撫で続けた。

 翌日、いつのまにかマオと一緒に眠ってしまっていた俺はルナから泣きつかれた後に盛大に説教を受けたのだった。ルナさん怖い。

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