第38話 魔人vs最強冒険者
「あいつの能力は瞬間移動だ。でも連続使用は出来ない可能性がある。後は物も移動させれる節がある」
「それでキミのその傷か……」
「あぁ。だが直接俺の体内に剣を移動させないことを見ると恐らくは敵の一定範囲内には移動出来ないと推測出来る」
その為の距離を稼ぐのが大剣だ。恐らく奴はカウンター攻撃に弱いのだろう。だからこそ相手の得物よりも距離を取れる大剣を武器にしているのだ。
「鍛冶魔法で武器の破壊は出来ねーのか?」
「真正面から受け止めれば間違いなく俺の胴体真っ二つで瞬殺コースだ。俺の方から刀を当てればいけるんだが……こいつの瞬間移動がその隙を与えてくれないっぽい」
俺が狙われていない場合にはそれが可能かもしれない。横から攻撃すればいいだけだからだ。だがそう上手くいくものか。
「ひとまず対策を立てる時間をっ!」
対策を立てる時間を稼いで欲しい、と言おうとした瞬間だった。俺の目の前、ムイの顔に向かって蹴りが放たれたのは。
大剣を振るよりも確実にダメージを与える方向に変えてきやがった。そのせいでムイは諸にそれを受けてしまった。
「ぐはっ!?」
「ムイっ!」
ミケラが叫んだのと同時に魔法陣を展開した。焦ったせいで少し魔法陣の展開速度が遅れたのだろう。
しかし放たれた中級魔法の雷がクロの眼前に迫る。多少遅くなったところで元々が速いのだ、そうすぐに防がれるものでもないだろう。
「なっ!?」
クロはその雷を手の平で握り潰した。俺の核破壊にも似ているが思い切り力技だ。
動揺したミケラに拳が迫る。俺は咄嗟に刀を斬り上げてその腕を切断しようとする。
「しまっ!」
しかし刀は思い切り虚空を斬り裂いた。咄嗟にクロが拳を引っ込めたからだ。
そしてクロは正面から俺に向かって蹴りを放つ。俺はそれを躱そうとした瞬間、顔に向かって横から剣が迫った。
油断した! こいつの瞬間移動には確かにインターバルがある! でもそれだけじゃねぇ!
「ぐっ!」
咄嗟に腕を挟んで蹴り飛ばされる。その衝撃でなんとか剣は躱せたものの人外の蹴りは俺を壁まで吹き飛ばすのは充分だった。
「がはっ!」
壁に背中を強打し、吐血する。息が一瞬止まってしまった。
そうか……! こいつの瞬間移動は自分と物の2種類があるんだ。クロが瞬間移動したそのインターバルに物は含まれない。もしくは物に関しては制限がないのかもしれない。
骨がへし折れた腕がプラーンとしている。一撃でこれか。こちらはガードは出来ないな。
「…………刀夜、平気?」
「あぁ、わざわざ来てくれたのか」
アスールが駆け付けてくれて回復してくれる。元通りな訳だがそっちにも危険が及ぶかもしれない。
「っ!」
俺はアスールを抱え上げるとその場から退散する。ミケラも殴られたか蹴られたか……酷い打撲痕を腹に残している。
しかしその程度で済むのか? 俺なんて腕がへし折られたんだが。後でミケラに聞いておこう。
俺が元々いた場所にはクロが大剣を振り下ろしていた。まぁこっちをちらりと見たからその前に避けただけなんだが。
激しいくらいの爆音と衝撃に壁が大破する。鋼材が砂になるレベルまで破壊されるその一撃はまともに食らえば即終了だ。
「…………刀夜はあれ食らって腕折れるだけ」
「俺が凄いのか重ね掛けされた魔法が凄いのか。とにかくマオの方走れるか?」
「ん……問題なし」
アスールを離すとギロリと俺を睨み付ける。そうしながらも飛んでくる魔法を手で握り潰していた。
流石はミケラ、間髪入れずに次々魔法を放っている。つまり次の攻撃は予想出来るということだ。
間髪入れずに飛んでくる魔法をわざわざ捌いてまで近付くことはしない。その上、こいつには瞬間移動があり距離感はほぼ関係ない。つまりは……。
ミケラがそれに気付いていないはずがない。ならこの行為は引き付けているということと同義。つまりは囮作戦だ。
本来そういうのは前衛の仕事なんだがな。しかしミケラのことだ、何か秘策はあるのかもな。
しかし世の中はそう上手くはいかないらしい。クロは地面に手を付くと魔法陣を展開した。見たことがない黒色の魔法陣……まだ何かあるのかよ?
「スターダストソード」
ボソリと呟かれたその言葉。全く聞き覚えのない魔法だった。
いきなりクロの周りに大きな剣の壁が出来た。そして地面から剣山が生えていきそれらがミケラに迫る。
俺は即座にミケラの前に回り込むと鍛冶魔法を発動させて刀でその剣の山を斬り裂きへし折った。しかし止まらない。壊した側から剣が生えていく。
バックステップしながらその攻撃をよく観察する。
「勘違いしてたみたいだな……」
「お前の肩の傷もこの魔法か」
瞬間移動はあるだろうが物はないらしい。考えるに一定範囲内に剣を創り出す言わば魔力装備生成魔法の強化版ということだろう。
更に剣は伸ばすことでどんどんと範囲を広げることご出来る。あの剣の壁がガードになっている攻守一体の魔法。羨ましいことで。
しかし相手が悪かったな。確かに見えなければ位置が正確ではない……が、マオの場合は別なのだ。
「紫電の矢!」
放たれた一撃が剣の壁を貫き、奥のクロの右肩を捉えて突き刺さる。一点集中型は貫きやすく、またその威力は絶大だ。おまけにマオは獣人族なので敵の気配である程度場所は分かる。
「右肩ね……ちっ……」
「マオが舌打ちしてる……」
ちょっと自信あったのかもしれない。確かにあのまま急所を射抜いてくれれば終わるかもしれないしな。
ちらりとルナ達の方を見るとアリシアとコウハがどんどんと追い詰めていた。こちらは今の所能力が見えない。もしかして使えないのか……?
普通に殴る蹴るしかして来ないヒカリという少女は間合いの差で追い詰められているのだ。しかしそれでも2人掛かりでも捉え切れていないのはやはり魔人の実力か。
ルナが常にサポートをしている為になんとか事なきを得ているか。ルナが魔力切れを起こせば少しヤバそうだがルナならまだまだ魔力は温存しているだろう。
「さて、問題はこちらだが……。ちょっと試して見るか……?」
もし仮に何かを操る魔法、俺としては操作魔法の延長戦を睨んでいるのだが。それらを防げる方法があるとすれば浅野を救う方法もあるかもしれない。賭けではあるが魔人は希少、この機会を逃すと試すことももうないかもしれない。
大きく息を吸って……吐いて……心を落ち着かせろ。思考をクールに……策略を立て、全てを利用し、全てを御す。
「刀夜! 複合魔法で一気に片を付け!!」
ミケラがとんでもないことを言い始めたので片手を上げて制する。こいつの魔力がどこまで続くのか分からない以上はその作戦は駄目だ。
確かに俺達は押され気味。このまま行けばジリ貧だろう。一気に片を付けるという作戦も悪くはない。むしろこの場に置いてはそちらが正しいと言える。
「神速の一閃!」
ムイの高速の剣技がクロの喉元に迫る。しかしそれを易々と回転するように躱したクロは同時に大剣によるカウンター攻撃を仕掛けた。
「ライジングフレア!」
逃さずミケラの魔法がクロに迫る。しかしそれでは意味がない。こいつの能力なら。
「なっ!?」
地面から生えた剣がミケラの魔法を防いだ。クロの大剣がそのままムイの首元に迫る。
「ふっ!」
チャンスは逃さない。ここまでは俺の想定通りだ。こいつの動きも加味して立てた策略。これが通じないならきっぱりと諦めて殺す。
ムイを押し退けるように手を伸ばす。ムイの首の皮すれすれの所を大剣が通り過ぎていく。
俺は即座に一歩踏み込むと跳躍し、刀を振り下ろす。しかしそれがムイを捉えることはなかった。
瞬間移動によってムイの背後を取った。つまりは俺の後ろでもあり大剣で一掃出来るチャンス。
そして俺の場合は体勢が大きく崩れている。そのせいで避けることは困難を極めた。
「刀夜くん!」
ムイが俺に向かって手を伸ばす。あ、俺の想定外の行動。まぁいいけど、計画に変更はないからな。
俺は振り下ろした刀そのままに地面に突き刺すとそれを支えに倒立した。大剣がその手を通ってしまう。俺の両腕と伸ばしたムイの腕が切断されてしまう。
「〜っ!」
ムイが悲鳴にもならないくらいの声を上げる。その痛みは壮絶だ、気持ちは分かる。というか俺両腕だしな。
しかしここまでは想定内。ここからだ。
倒れようとする両足でクロの首を挟み込む。回復魔法で俺の腕を繋げると再び刀を支えにして身体を捻る。
「ふんっ!」
クロの身体が反転する。常人なら首の骨がイカれてしまうだろうに、硬いな。
しかしこの体勢にまで持っていけるのなら問題はない。そしてここで先程の瞬間移動のインターバルは少し残っている。次に奴がする行動は剣の精製。しかしそれは俺には通じないのだ。
地面に着地すると同時に刀を引き抜き、鍛冶魔法を使用しながら振り上げる。
俺の刀を受け止めるようにクロの眼前に剣が発生するが俺の刀はそれをいとも容易く破壊した。
ニヤリと笑みを浮かべる。本当に想定通りに動いてくれて助かる。
狙うはクロの首ではない。何の為に生えているのか不明なこめかみの角だ。
炎魔法を発動させると風魔法付与の刀に反応して一気に燃え盛る。刀がクロの角を焼き、斬り裂き切断した。
「なっ!?」
少し髪が切れたのは勘弁して欲しいものだ。後このまま動かれても困るので腹部を蹴り飛ばした。
「ふぅ……」
クロは吹き飛んで転がっていくといきなり頭を抱えて暴れ出した。
「グゥゥ! ガァァ!!」
「っ! く、クロさん!」
ヒカリが突然叫んだ。どうやら元に戻ったらしい。
クロに駆け寄ったヒカリは涙を流しながらクロを抱き締める。苦しむクロは力の加減が出来ないのかヒカリの背中を掴み、抉る。
「な、何をしたんだい?」
「…………この生物の実験上では言わば完璧な生物を造り出そうとしていたわけだ。ならその延長線上にあるだろう魔人のあの角の存在意義が分からなくてな。それにフレイは角がない。だからそれが操られる大きな要因とみただけだ」
頭突きをしようとも先に頭が出る。その程度の短い角が何の意味があるのか。別の用途があってあれを付けているのではないかと考えたのだ。
加えてフレイに角がない。なら角付きのこいつらはそれが理由で強制的に操られているのではと考えたのだ。
「ご主人様!」
「お疲れさん。ひとまずアスール、ムイとミケラの怪我治してやれ」
「ん……」
ここからどうなるのか、どうするのかはこいつらが決めることだ。俺はこの結果をどうなるのか見届けたいだけだ。
「やっぱすげーな刀夜」
「黙ってろ」
「酷ぇ!」
酷くない。むしろこの状況で呑気に出来る方が俺としては怖い。
俺は号泣するヒカリを尻目に歩き出した。やはり刀はいつの間にやらポッキリ折れていたのだ。せっかく良い素材を使ったというのに。
上体を起こしたクロはだらだらと頭から流れる血を押さえつけながら俺を睨み付ける。
「…………元に戻ったみたいだな」
「…………目的はこれか?」
「いいや、直前までは殺す気だった。でも魔人を相手には情報が欲しくてな。試しただけだ」
角は酷い出血となっている。明らかに急所だ。
「だがこれでお前は敵じゃないことは理解した。ということで回復魔法掛けるからどけ」
「クロさんにそれ以上近付かないで!」
ヒカリに止められてしまう。相当敵意剥き出しだなこいつ……。
「やめろヒカリ」
「で、でも……」
ヒカリが少し戸惑いながらもクロの言うことに従うらしい。俺はその間に回復魔法を掛けた。
「おいおい、そいつは魔人なんだぜ〜?」
「そういう適当な口調の時はお前は別に何とも思ってない時だろ。それよりも言ったろ? 情報が欲しいと」
角がやはり受信機の役割のようだ。切断すれば操られることもない。
しかし同時に魔人の力を著しく失うようだ。もう先程までの異常な力は存在しないように思える。
魔人というのは操る人間が力を送っているわけか。角を破壊したことでそれが消えたのだろう。
「角がなくて身体に異常はないのか?」
「あぁ……むしろ頭に掛かっていた靄が晴れた気分だ」
「…………そうか」
鍛冶魔法で刀を一時的に戻す。さて、もう一仕事しとくか。
「そっちのヒカリ? の方の角も切断しようか?」
「…………頼む」
まぁこれが交換条件にでもなるだろう。情報を知りたければ相手より優位の立場に。これは基本だろうしな。恩を売っておくに越したことはない。
「目を閉じて動くなよ」
「う、うん……」
ヒカリは思い切り目を閉じていた。痛いのは我慢してもらうしかないな。
光の角も切断するとやはり壮絶な痛みだったのか悶え、その後にクロに抱き締めていた。
「アスール、回復魔法」
「ん…………」
アスールの回復魔法で2人の傷は完全に癒えた。ふぅ……ようやく終わったか。強敵だった。




