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第37話 戦う意思はなくとも殺す気がなくとも

「刀夜ー!」

「痛って! てっめぇいきなり肩組んでくんなよ!」

「いいじゃねーか師匠なんだから」

「ちっ……」

「舌打ちかよ!?」


 集合時間少し前、俺はミケラに絡まれていた。うざい。


「刀夜さんどうかしたの? 確かにいつもみたいに悪態は付いてるけれど……」

「はい。なんだかいつもより優しい気がします」

「充分酷いこと言われてるぞ俺!?」


 俺の変調にこいつらはすぐに気付く。まぁ悪いことはしていないから問題はないはずだ。それに1人でミケラの息子のことを話しに行ったなんて言っちまったら俺ルナのお説教どころか全員からお説教だ。間違いなく泣く。それだけは勘弁して欲しい。


「お前なんてそんなもんだろ。後これ」

「ん? ライジンか?」

「改良版。多分魔人の動きにも付いていける」


 何をそんなに驚いてるんだこいつは……。


「本当になんでも考えてくるよな……」

「そんなことはどうでもいい。ってか早く複合魔法教えろ。その技術も装備に組み込みたい」

「これが終わったらたっぷり教えてやるよ」


 おいその言い方……。はぁ……うん、見事に誤解しとるな。


「アスール、そんなキラキラした目で見るな」

「…………ホモ」

「違う」


 こいつは本当に腐女子かよ。そんなに反応することじゃない上に普通は引くだろ。あと俺の仲間は腐ってねぇな! 趣味が特殊なだけだ!


「…………この前酔ってた」

「ミケラと近況報告兼ねて飲んでただけだ」

「…………でも刀夜は普通飲まない」


 確かに。さて、どうやって誤魔化したものか。普段飲まないのにいきなり飲みに行ったなどおかしな話だろうしな。


「男同士でしか話せないこともあるんだよな〜!」

「ニヤニヤするな。肩を組むな。酒臭い離れろ」

「言っちまうぞ?」

「…………」


 こいつ……人の弱みを握ったからと脅してきやがった。このクソ野郎……。


「刀夜くん?」

「…………泣きたくなってきた」

「刀夜くんがソーサリーさんに弱みを握られてる!?」


 早っ! 気付くの早っ!

 全員が慌てたようにする中、1人だけとてつもない笑顔をしている人が1人……。えっと、マジですか?


「ソーサリー様♪」

「ん? 精霊ちゃんまさか俺に気……が……え、あの……え?」


 ミケラも気付いたらしい。物凄く機嫌良さそうに話し掛けるルナ。めちゃくちゃ笑顔で一見して気があるのではと思わせるくらいに幸せそうだ。

 しかし、分かる人には分かるのだ。むしろ分かる奴は観察眼に優れ、優れた冒険者であると言えるだろう。

 その女神の如き素晴らしい微笑みの奥に見える真っ暗な暗闇を。


「ご主人様に何したんですか?」

「えっと……その…………」

「ソーサリ様?」


 怖い! 黒い笑みで詰め寄るルナさんマジ怖い! ミケラ殺されるんじゃね?


「落ち着けルナ。えっと……そうだ、これ終わったら話す」

「本当ですか?」

「あぁ」


 結局話さないとならないんだろう。加えて間違いなく嘘は通じない。こいつらには簡単に見破られちまう。

 こいつら俺の事好き過ぎないか? いや、俺も好きなんだけどな?


「お待たせ刀夜くん」

「ん? あぁ」


 待っていた最後の人物、ムイが来ると全員が揃った。


「ムイ、これ持っていけ」

「あ、うん。新品のライジン装備かな?」

「あぁ。出力を上げてるから魔人にも引けは取らない。さて、さっさと行くぞ?」


 ルナが転移魔法陣を展開する。精霊だからな、魔力が一番多いルナが適任だろう。

 ルナの魔法陣でやってきたのは……。


「あれ、施設行くんじゃねーの? めちゃくちゃ遠くね?」

「ここから先はダンジョンだからな。残念ながら走りだ。数秒ですぐ着くけど」

「数秒?」

「ほら、行くぞ」


 一気に走ると慌てた様子でムイとミケラが付いて来る。そしてその速度に目を大きく見開いた。


「刀夜くんこれは!?」

「ルナ、説明頼む」

「は、はい」


 前衛である俺、アリシア、コウハなら奇襲に対して初撃を防げる可能性が高いからな。加えてどういう構造か分かっている方がムイもミケラも遠慮がなくなるだろう。

 前衛職である俺を抜いてまともに説明が出来るのはルナくらいのものだろう。

 物の数秒で施設に到着すると中へと入って駆け抜ける。目指す場所は実験場だ。


「本当に何もないな」

「当たり前だ」


 既にここは潰してるからな。そして魔人が帰ってくるのもここだ。

 クロ、か。どういう攻撃をしてくるのか聞いておくべきだったんだが。それも無理か。


「マオ、気配とかは感じないか?」

「特にないわね。それにしても刀夜さん」

「ん?」


 いきなりマオが抱き付いてくる。な、何だ?


「何だか前と違うわよ? 大丈夫? というか私だけじゃなくて刀夜さんも獣人殺しのこと気になっているわよね?」

「そうだな。とにかく顔に胸を押し付けないでくれ」

「あら、嫌?」

「…………その聞き方はズルい」


 嫌なんて言えるわけない。というか嫌じゃない。嫌じゃないからこのままでいたい。魔人なんて忘れて。


「…………ズルい」

「あら、ここは譲れないわよ?」

「むぅ…………」


 この緊張感の無さ、どう考えても駄目だろ。これから魔人が来るんだぞ?


「そういうのは家でしてくれ。今魔人が来て襲われちまうと終わりだろ?」

「…………その必要はない」

「っ!?」


 誰も知らない声に俺達は即座に構える。マオの気配探知すら抜けた……? いや、そういう能力なのか?

 声のする方へと確認すると黒いコートを着た長身の魔人が立っていた。服装が完全に俺と被ってるんだが?

 強面で目付きが鋭い。黒髪でなんだか妙なシンパシーを感じる。


「刀夜さんに似てるわね……」

「ですがご主人様の方が素敵です!」

「何比べてんだよ……」


 ひとまず不意打ちはして来ない、か。ということはフレイのように打ち解けたりは……。


「始めようか」


 鋭い目付きと殺気。しかし何だろうか? ここまで近付いていて俺も全く何も感じない。

 こういうパターンは知っている。ムイのようなパターンだ。つまり強敵である。

 背中から取り出した大剣の切っ先をこちらに向ける。それは俺とムイ2人に向けられていた。


「ヒカリ、女は頼む」

「はいはい」


 男に隠れていたのか平均的な身長の女が姿を現した。しかもこちらは魔人ではなく半魔人。つまり人間との混合種ということだ。

 片方が白髪となっており片方は黒髪のロングヘアーだ。顔は綺麗というよりは可愛い系で身体付きは可もなく不可もなくといった具合だ。

 不意打ちしなかったり女は斬らないような奴だ。なるほど、悪い奴ではないようだが……。


「お前らに敵意がなければ俺達も手を出す気はない。が、そういう訳にもいかないのか?」

「…………ぐっ!」


 だろうな。そういうことだと思った。

 こいつは操られている。なら残念ながら和解というのは無理のようだ。それに……。


「ん……!」


 もう1人、ヒカリと言われた女性も操られているらしい。つまりこれに争っていたフレイは相当抵抗心が強かったということだ。


「…………お前らはその女をやれ!」

「ふんっ!」


 男は大剣を思い切り俺に向かって振ってくる。咄嗟に軽く跳躍しながら刀でそれを受け止めると全員から距離を取るように飛ばされる。

 男は更に追撃に俺に向かって大剣を振り下ろす。やはりこいつも抵抗しているのだろう、ルナ達には一切手出しをしないようだ。

 ヒカリと呼ばれた女はルナ達に向かって突っ込んだ。腕が剣に変化してそれを振りあげる。


「させるか!」


 咄嗟にコウハが大剣でそれを弾いた。ナイスだコウハ。


「男女に分かれましょう! ムイ様とソーサリー様は男の方をお願い致します!」

「私は両方の援護をするわ!」

「ん……同じく」


 男と男、女と女という風にするらしい。確かにこのクロと呼ばれる男もその方が良いはずだ。操られているとはいえ女は斬りたくないだろうしな。


「刀夜! ムイ! 気を付けろよ!」

「お前に言われるまでもねぇよ!」

「はい!」


 ムイがすぐ様やってきて剣を振り下ろした。それをまるで後ろに目があるかのように躱したクロは回転しながら大剣を振り回す。


「っ!」


 そこに衝撃波が生じた。俺とムイが咄嗟にしゃがむと斬撃となった衝撃が壁に向かって飛んでいく。

 やはり速度で対応は可能。これならまだ勝機はある!


「なっ!?」


 目の前にいない!? どこに行ったんだ!?

 物理的に人が消えるなどあり得ない。そういえばこいつはマオの索敵範囲外から瞬時に移動して来ている。これがこいつの能力か!?


「刀夜! 後ろだ!」


 そんな言葉に反応してたら間に合わないだろ。しかし分かるのは俺の後ろにいるんだろ? そして刃は既に俺の目の前だ。

 知っていたさ。だから対策はしてあるんだよ。既にな。

 パァンッ! と甲高い音が響く。俺が懐に忍ばせていた銃だ。避けた直後にすぐ様後ろに構えておいた。

 銃は運良く足を撃ち抜いた。足元の衝撃でバランスを崩したクロの大剣は俺の横を抜けた。

 回転しながら俺は刀を握り締める。このまま追撃を入れてやる。狙うは首、切断すれば流石に殺せるはずだ。


「刀夜くん! 後ろ!」

「は?」


 目の前にクロはいるはず……。なのにムイは叫んだ。何かヤバイ……何か、攻撃されている?

 突如として右肩が鋭い痛みと高熱を持った。クロは目の前にいて……何故後ろから剣が俺に突き刺さっている!?

 斬り掛かる体勢に入ってなければ間違いなく心臓ひと突きにされていた。危ねぇ……。


「ご主人様!」

「俺のことは気にするな! 目の前の敵に集中してろ!」


 そいつも手を抜いていい相手じゃない。集中させないと。

 クロの能力は1つは瞬間移動だ。これは間違いない。マオの探知に掛からないのもいきなり現れたのもそれが理由だと推測出来る。

 そしてそれは自分だけでなく物も出来る可能性がある。だからこそ魔力装備生成魔法で精製された剣が俺の後ろにあったのだろう。

 この仮説が正しければこいつに距離の概念はない。速度だけでいえば空間を操作出来る浅野よりも速い。

 となれば前衛後衛という概念がない。瞬間移動出来るのだから。フォーメーションを見直す必要性がある。

 肩を動かして剣を無理やり引き抜くと同時にミケラに向かって走る。一番危険なのは前衛じゃない、後衛だ!


「刀夜!? 何をする気だ!」


 ミケラを押し退けたその瞬間、目の前にクロが現れる。俺は咄嗟に刀を間に差し込んだ。


「ふっ!」


 振り下ろされる大剣に俺は刀の刃を滑らせる。大剣は刀の刃に沿うようにその方向を変える。

 連続攻撃が出来るのであればこいつは無敵だ。だが瞬間移動には少しの間がある。ならば……!


「神速の一閃!」


 ムイの高速の剣技がクロの腹部を切り裂いた。噴き出た血は相当な深手であることを確認させる。


「ライジングフレア」


 雷魔法に炎魔法を加えたミケラの魔法が飛んでくる。相変わらず魔法陣が速過ぎて見えない。流石だ。

 しかし少し遅かったらしい。その場から一瞬で姿を消したクロは俺達から距離を取った。


「刀夜、助かったぞ」

「いや、それよりなんとなくあいつの能力の仮説は立てた。言う余裕があるなら話す」


 本当なら距離を取りたいところだが……。ひとまず話せる分を簡潔に話すべきだろう。

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