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第35話 その真相はあまりにも冷たく

 ミケラを連れ出した俺は街の外に出る。少し外の空気を……というよりは人がいない空気を吸いたかっただけだ。

 人に見られたくなかったというのもそうだが。でも俺はそれ以上にこいつに言わなければならないことがあった。


「それで俺に何か用か〜? というか生きてたならちゃんと顔見せに来いよ〜」

「……何の話だ?」


 生きてたら? 何の話をしてるんだ?


「てっめぇ魔人に連れ去られた後一回もこっちに顔出してねーだろ!」

「そうだっけ?」


 そういえば会ってないような。ん? 会ってなかったっけ? 会ってないな? そういえばだが。


「…………忘れてたな?」

「ひっでぇ!」


 酷い……酷いか。確かにそうか。俺はそうかもしれないな。

 改めて顔を見て思ったさ。確認して思ったさ。獣人殺しの特徴を思い出して……。


「…………酷いついでに言っていいか?」

「何をだ? ま、まさか! あの子達と更に関係が〜!」

「ちげぇよ。カンストしてるんだから今更関係が変わるか。いや、色々変わってるのは確かだが」

「振られてもね〜のかよ」

「ないな」


 こいつは本当にもう。真面目な空気を出そうとしてもすぐにはぐらかされる。


「まぁなんだ。あの時は心配してくれてありがとな。まさかお前があんな真剣な表情を浮かべるとは思ってなかった」

「え、は、え?」


 素直に礼を言われるとは思っていなかったのだろう。ミケラは目を大きく見開いてキョトンとしていた。


「はっはっはっ! お前が素直に礼とか似合わね〜!」

「笑うなよ……」


 俺が真面目な話するのがそんなにおかしいか? そもそもこんな空気に流されると言えなくなっちまう。それじゃあ駄目だ。


「それより……真剣な話をしに来た」

「真剣な話? 何だ? 生理中の女との付き合い方か?」

「んな話聞いてねぇ……。というかあいつらは生理中でも優しい」


 って俺は何を言ってんだろうか……。こいつのペースに呑まれるな。こいつはこういうことで色々と回避してるのかもしれないが今回はそういうわけにはいかないのだ。


「すぅ……はぁ……」


 軽く深呼吸するもミケラは豪快に笑う。俺は目付きを出来るだけ鋭くしてミケラを見る。


「な、なんで睨むんだよ〜」

「…………身長は180cmだった。短髪でボサボサの金髪で発達した筋肉が特徴的だ」

「は?」

「どちらかというとお前に似ているんだろうな。なんとなく面影もある」


 本当に。あの獣人殺しが後数十年すればこいつみたいになるんじゃないだろうか?

 ミケラは目を大きく見開いたまま固まっていた。本当に…………こんな偶然は必要なかった。

 世間は狭いなどよく言えたものだ。しかしだからといってこんな冷たい現実はないだろう。


「複合魔法を使ってる時点で気付くべきだったな……クロスフレイムか……」


 複合魔法を使える奴なんて限られている。いや、人間でそこまで魔法を極めている奴も少ないのだ。

 その技術を知っているのはこいつだ。だがこいつは魔法を教えることをあまり好まない。性格的には広めそうなものだが……。

 しかしそんな奴くらいしか覚えていないはずなのにあの獣人殺しはそれを使った。どこで覚えたのか、その経路を辿ればこいつしか考えられなかった。


「な、なんでお前が俺の息子のことを知ってるんだ!?」

「息子……そうだよな。そういう年齢差だよな」


 親戚とかならまだよかった。でもそうじゃないんだろうな。こいつはチャラいが責任を取るような男だから。

 俺が間近で何度も魔法を教えてもらっている。適当なこいつが律儀にだ。


「お前リケラの場所知ってるのか!?」

「…………」


 口が開かない。こいつを裏切っているのだから当然か……。しかし言わないといけない。それをする為に俺はここに来たのだから。


「…………した」

「は?」

「…………殺、した」

「殺した……!?」


 あぁ、俺はここまで来てもまだ何も感じないんだな。そうか……。やはり俺の心は死んでるんだろうな。


「そうか……あいつをお前が…………」

「……弁解する気もない。でも頼みがある」

「…………言ってみろ」


 ちゃんと聞いてくれるんだよな。でも流石に誤魔化しが効くような空気じゃないのは分かってる。こいつにとってそれだけ真剣な話なんだ。


「あいつらには無理やり付き合わせた。あいつらが渋る中俺が1人で勝手にしたことだ。だから……あいつらに罪はない」

「つまりお前1人のせいだと?」

「あぁ」


 これで俺が殺されても文句は言えない。それに自分の責任は自分で取る。

 マオにも言った通りだ。例えそこに悪気があろうがなかろうが。それをしたのが俺だろうが俺じゃなかろうが。俺はそれの責任を取らないといけないのだ。


「俺は綺麗事や隠し事は嫌いだ。だから、俺を殺したいなら甘んじて受け入れる」

「殺す、か」


 やって、やり返して。永遠に続くかもしれない争いだ。それでも人の気持ちというのは納得がいかないものなのだ。

 どこかでせき止める奴が必要かもしれない。でもそんなこと出来る人間は限られている。だからそれは無駄なのだ。そんなことが出来るなら俺はこんなことを言っていない。

 ミケラは俺の胸倉を掴むと壁に押し付ける。街の壁は意外に硬くて冷たいんだなとどうでも良いようなことを考える。


「綺麗事や隠し事が嫌いだと!?」

「…………あぁ」

「じゃあ今お前がしてるのがそれだろうが!」


 その通りだ。俺は事実を隠蔽している。でも仕方ないだろ。そうしないとあいつらにも責任が伴うんだから。

 事実を捻じ曲げて俺のせいにすればいい。傷付くのは俺1人でいい。あいつらとは協力することはしても被害だけは及ぼしたくない。

 いや…………あいつらには言えなかったんだ。平気なフリをして、1人で抱え込んで。そうして俺は今まで生きてきたから。


「…………俺はな別に怒ってなんかいないんだ」

「そんなわけないだろ……」

「俺にだって事情がある。だからお前も話せ」


 その鋭い目付きは戦闘の時に見せる以上に真剣だ。しかし怒っていたり恨んでいたりしない。いや、思うところはあってもそこまで激情していないのは何故だ?

 事情か……。説明して……こいつがルナ達に危害を加えたりとかしない……よな?

 いや、して欲しくないのだ。事実を知れば悲しむのはあいつら。そして責任を取って死のうとする……俺と同じことをしているだろう。


「すぅ……はぁ……」


 軽く深呼吸すると俺は震える唇を開いた。


「俺がコロシアムで優勝したのは知ってるよな……?」

「あぁ」

「理由はコウハの知り合いがエルフ族の奴隷を助けたいからということだった」


 それからが全ての始まりだ。そしてそこから繋がっていくのだ。

 話し始めると思い口も軽々開いてくれる。動き始めが一番力が掛かるのと同じように。話し始めてしまってからはもう後戻りは出来ない。


「だが人間とエルフ族が関わった大事件だ。だから警戒した獣人族が偵察に来ていた。それがマオだ」

「…………」

「そして俺はそこで他種族の味方をするような発言をした。だからマオは俺を頼ったんだ。獣人殺しを捕獲してくれ、と」


 当時のことを思い出す。不可解な点は残っており、それが魔人の能力だというのは想像でしかないが。


「その獣人殺しがお前の息子だ」

「獣人殺し…………?」


 妙な呼び方をしたからだろう。胸倉から手を離したミケラは顎に手を当てて思案していた。くしゃくしゃになった服を軽く直すと俺は続ける。


「獣人殺しは出会う獣人全てを殺し回る奴だった。それどころか獣人の住処を見つけ出すような知恵まであったとんでもない奴だったよ」

「そうか……」


 自分の息子がそんなことをしていてこいつはどう思ったんだろうか? いや、そんなことを俺が考えたところで息子を持つ親の気持ちなんて俺には分からないか。


「俺達は襲われるであろう獣人の住処で待ち構えていた。そして1度目の邂逅だ。色々マオと言い合ってる内に俺の魔力は空になっていたがライジンだけは使えた状態だった。そこで奴は俺と互角以上に戦った。正直化け物だと思ったぞ」

「…………」


 ミケラは何も言わなかった。しかし俺の話には耳傾けているようだ。俺の話を聞いた上で色々と判断するらしい。


「その時は片腕を切断した。しかしその後あいつはまるで今まで何かに操られていたかのように正気に戻ったんだ。そしていきなり怯え出し、炎と風の複合魔法、クロスフレイムを使用して俺達の追撃を避けて逃走した」

「そうか」


 少し安堵したようだった。それは多分息子がここまでは生きていたからだろう。


「そして2回目の邂逅。これは獣人が襲われていたという報告から駆け付けた時だ。何故か切断したはずの腕は復活していた」

「回復魔法か?」

「回復魔法でも復活まではしないのは知ってるだろ? あいつの腕は完全にその場に置きっ放しだった」


 回復魔法は傷を治す魔法だ。だから例えば切断された腕を持っていなければそれが繋がることはない。斬り裂かれた腕の傷が塞がるだけで腕までは回復しないのだ。だから不審に思っていた。


「不審に思いながらも追い詰めた。両腕を切断した上に傷だらけで常人では生きてはいないレベルの出血にまで追い込んでな。でも生け捕りするには強過ぎた。気を遣う余裕なんてなくてな。特級属性魔法で仕留めた」


 全ては終えると大きく息を吐いた。これでもう話すことはない。でもあいつらには被害が及ばないようにしないとな。


「…………はぁ」


 ミケラは溜息を吐くと俺を鋭い目付きで睨み付ける。そして……。


「ふんっ!」

「痛って!?」


 いきなり頭をチョップされた。それはもう全力で。何の対策もしていなかった俺はそれを受け止めるしかない。めちゃくちゃ痛かった。

 ガタイが大きい分力が強い。普通じゃ俺が勝てるわけもないのだろう。

 もしやこのまま殴り殺されるのでは? と不安になっているとミケラは俺の頭に手を置いた。


「今の話を聞いてもお前に悪いとこなんてねーじゃねーか」

「ちょっ!?」


 強引に頭を撫でられて髪をボサボサにされる。しかしそれを直す余裕がないくらいに呆気に取られた。


「…………何言ってんだよ。どんな理由があろうと俺はお前の息子を殺した。ならお前は俺を殺す権利があるだろ」

「お前はマジで大人かよ〜……。そんな生真面目な大人お前以外見たことねーよ……」


 呆れた様子を見せるミケラ。そんなはずはない。自分の息子を殺されておいてこんな反応が出来るはずがない。

 何故だ? どういうことだ? 何があるんだ? 何を隠してる?


「お〜混乱しとる混乱しとる。いつも無愛想のお前がめっずらしい。そんなに意外か〜?」

「当たり前だろ! 何でそんな反応なんだよ! 俺は恨まれてもおかしくないだろうが!」


 そんなはずはない……のだが。こいつは俺の全く想像していない一言を発した。


「俺もな……息子を殺そうとしたんだ」

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