第34話 面倒事に首を突っ込む気はなくとも
浅野ユキと出会ってから更に数日。俺のサボりスペースに何故かいつものようにいるこいつの扱いに俺は悩んでいた。
面倒なことこの上ない。俺が何をしたというのだろうか? 新手のいじめか何かだろうか?
「萩くん萩くん、この猫可愛いと思わない?」
「ふてぶてしい奴だな」
「え、そうかな?」
浅野は再度携帯を見つめては首を振るう。猫じゃなくてお前の話なんだがな? まぁ別にどうでもいいのだが。
俺は菓子パンを口に含みながら本を開く。名作というのはいい。ここで俺は本に集中して浅野は完全無視する。
「あ、この子も可愛いよ」
「……お前な」
人が本を読んでるのにその上に携帯を乗せてくる。腹立つ。殴ってやろうか?
「だって萩くん全然相手してくれないんだもん」
「する必要性がないからな」
なんで俺がこいつの相手をしないといけないんだろうか? そんな義務はないし面倒くさいのはごめんだ。
「もう……萩くんって動物嫌いなの?」
「動物は好きだがお前は嫌いだ」
「そんな馬鹿な!?」
そこまで驚くことか? そもそも俺はそういった空気を包み隠さず出しているはずなんだがな?
「そんなに嫌わなくてもよくない!?」
「俺の平穏を邪魔するな」
「平穏って……確かに萩くんは平和だと思うけど……」
こいつは平穏ではないんだろう。残念ながら。
「はぁぁ……」
「そんな面倒くさそうな溜息を吐かなくても……」
「実際面倒だからな」
確かに俺といればこいつは早々手を出しては来ないだろう。俺の噂はそういうものばかりだからな。
しかし、だからといって俺の平穏を邪魔されるのも腹が立つ。自分の問題は自分で解決して欲しいものだ。
「ふふ……」
「何笑ってんだよ気持ち悪い……」
いきなり笑い始めた浅野に俺は若干引いた。こいつ嫌いだって言われて何で笑えるんだ? ドMか?
「だって萩くん何だかんだで僕の相手をしてくれてるでしょ?」
「…………」
「そうやって嫌そうな顔するのも僕にとっては新鮮かな。ほら、人って興味ない時って何の感情もない目で見てくるでしょ?」
その目には俺も心当たりがあった。本当に凍えるほどに冷たい瞳だ。その目を向けられると確かに少し怖くもなるかもしれない。
「…………そうかもな」
「うん。だからね」
「面倒くさい」
「まだ何も言ってないよ!?」
本当に面倒な相手だ。特に色々と現実を知っている点で。
確かにこいつは他の奴らとは違う。どちらかというと俺からすれば好感度が高い方の意味でだが。
俺は多分そういう社会の枠組みから外れた奴の方が話せるのかもしれない。色々と現実を知っているし、その上での行動が出来るのだから。
何も知らない奴らというのは人を蔑むことしか出来ない。そんなクズどもに合わせる必要性も義理もないだろう。
「うぅ……そんなに駄目?」
「…………まだ他の奴らよりはマシってだけだ」
「それって萩くんの中では一番ってことだよね?」
「お前は俺のことなんだと思ってんだ?」
実際その通りなのだが安易に友達いないと言われると腹が立つ。確かにいないけど。
この世界はロクな奴がいないからな。その中でもこいつはマシな部類というだけの話だ。完全に良い人間だと認める気はない。
「そっか……」
「…………でも屋上も公共の場だ。俺のものじゃないからそこは好きにしろ」
「っ! うん!」
めちゃくちゃ嬉しそうに頷かれてしまう。はぁ……ここで来るなとか言えるなら俺も言ってる。でも残念ながらここは俺のものではないわけで。
「はぁぁ…………」
「だからそんなに盛大に溜息を吐かなくてもいいんじゃないかな!?」
本当に面倒だ。段々と人のパーソナルスペースに踏み込んでくるところとか。
これからもずっとこいつが屋上にいるわけか。はぁぁ……面倒くさ…………。
こうしてこいつとの繋がりが出来てしまった。俺としては屋上に1人と1人が出来た感覚。2人ではない。これが重要だ。
ただいる知り合いなど空気と何も変わらない。だからこいつは空気だ。そう思う方が楽なのだ。だが……。
「萩くん萩くん! これも見て見て!」
「…………うっぜ」
「今までで一番酷い!?」
それはこいつが許してくれそうになかった。
そして時間は進み現在、俺はゆっくりと目を開けると視界は白いモコモコとした何かだった。
このモコモコ……あぁ、リルフェンが寒くなったから布団に潜り込んできたのだろう。昨日は1人で寝たからな。
「…………寒い」
冬が近付いてきているのだろうか。寒い。寒過ぎる。
俺はついリルフェンを抱き枕にしてしまう。人よりも高い体温が暖かい。しかも極上の毛並みはふんわりとしていて良いクッションだ。
「ガウ?」
リルフェンがキョトンとした様子で俺を見つめる。
「寒いからこうしてていいか……?」
「ガウ〜♪」
どうやら良いらしい。嬉しそうな返事が返ってきた。そのままリルフェンを抱きながら目を閉じる。ヤバい、これは絶対に眠れる。
「と、刀夜殿……朝ご飯が出来ているんだが……」
「んぅ……?」
いつの間にいたのか……最初からか。コウハが俺の顔を覗き込んでいた。
「ガウガウ」
「え? えっと……すまない。何を言っているのか分からない」
「グゥ……」
何やらよく分からないが言いたいことがあるらしいリルフェン。ひとまず朝食だ、起きないと駄目か。
「ふぁぁ…………」
大きく欠伸しながら上体を起こすとリルフェンの頭を撫でる。
「クゥ〜ン♪」
流石に眠い。昨日試作品の武器を作っていたせいで余計に。しかし今日はその試作品の使用実験だ。俺も早く起きないといけない。
「起こしてくれてありがとな」
「うむ。アリシア殿が張り切っていた。早く下に降りてきてくれ」
「ガウ!」
コウハとリルフェンが部屋を出て行く。静寂が訪れた部屋で俺は1人服を着替える。
「また昔の夢か……」
最近多いな。あれから浅野がよく来て話すようになったんだな。というか話すようになったというか相手をしないと余計に面倒だったということに気付いたというか。
まぁ何にしても早く飯食いに行くか。あいつらも待ってるだろうしな。
「ごちそうさん。美味かったぞ」
「う、うん、そうかな?」
食べ終わってアリシアに感想を述べると頬を赤くしていた。相当手の込んだものだったはずだ。最近アリシアが飯を作ることも多くなってきた。ルナがきちんと教えてしまったみたいだ。流石ルナ先生である。
「私ももっと頑張りませんと! アリシア様には負けられません!」
「ルナさんから教わったんだけどね……」
ほら、いつの間にかルナの方もライバル視してるし。まぁ確かに美味いけどな。ルナのともう引けを取らないくらいに。
「さて、じゃあ行くか」
「え? どこに行くの?」
「ん? まぁ試作品の試験をな。魔人との対決にあんま時間ないしな」
もう2週間を切っている。急いで完成させないと。それにこいつらの分の武器もすぐに完成させたい。
まずは俺の刀で試行錯誤だ。数日で出来るとは思わないが使い物になる程度にはしておかないといけない。完成とまではいかなくとも方向性だけはきちんと見出さないと。
とりあえず今回作ったのは風属性の刀だ。炎との相性も良いので色々と都合が良い。
「私も行きます!」
「私も行きたいわ!」
「ずるいよ! 私も行きたい!」
「ん…………当然」
「私もだ! な、仲間外れにしないで欲しい!」
「ガウガウ!」
どうやら全員付いてくるみたいだが……駄目だな。
「悪い、ちょっと1人にしてくれないか?」
「え? な、何かあったんですか!?」
「いや、まぁ他にやりたいことあってな」
こればかりは誰にも付いて来て欲しくはない。だから1人で行きたいのだ。
「隠し事とかそういうのじゃなくてな。ちょっとな」
「本当ですか?」
「あぁ」
全員の顔を真剣に見つめると全員クスリと笑みを浮かべる。
「そこまで言われたら仕方ないわね」
「うん、そうだよね……」
「ご主人様」
「ん?」
ルナはにっこりと微笑む。女神のような安堵する笑みだった。
「行ってらっしゃい」
本当は一緒にいたいんだろう。俺がそう思うようにこいつらがそう思ってくれてるのも知っている。
それでも俺のことをこうして送り出してくれるのだから本当に素敵な恋人だ。だから俺も精一杯笑みを浮かべて。
「行ってくるわ」
「はい!」
全員に送られて俺は家を出た。向かう先はダンジョンではない。
ショッピングモールを抜けて住宅街、更に超えてギルドへ。ここにいるならいいがいなけりゃ探すしかないんだよな。
ずっと考えていたことがある。それを俺は奥底に押し込めてしまっていた。獣人殺しのことを。だから俺は確認しないといけない。武器の性能検査なんかよりもよっぽどそっちの方が大切だ。
思い出せ。獣人殺しの時のことを。あいつはどういう攻撃をしていた? あいつの特徴は?
今回の件はあいつは本当に無関係か? そして関係者なら本当に俺達はそれを見逃したままでいいのか?
魔人にようやく手が届くのだ。それまでに確認しなければならない。それがせめてもの俺が繋げる情報だから。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……!」
「ちょ、おい!? と、刀夜!?」
「っ! い、いた!」
「え?」
そこにいたのは俺が探していた目的の人物。ミケラ・ソーサリー。俺が出会ってきた中で一番適当で……一番面倒な奴だ。




