第33話 ツンデレ美女は可愛い(溺愛)
「……お昼にしましょうか」
「ん、もうそんな時間か?」
時間を確認しようと周囲を見回す。時刻は11時過ぎくらい。少し早いがまぁいいだろうか。
「少し早いかしら?」
「いや、いいんじゃないか? 先に食っておかないと混みそうだしな。忌々しい……」
「私もそうだけれど刀夜さんも大概人嫌いよね……」
それは仕方ない。人間なんて醜い生き物だしな。俺も人間だが人間は大嫌いだ。
「そうだな」
「あら、認めるの?」
「まぁな」
普通に嫌いなの隠したことないと思うんだがな?
「あら、あなたもしかして萩 刀夜くんじゃない?」
「わぁー! すっご! 可愛い顔してるぅ!」
「萩 刀夜くん! 萩 刀夜くん!」
突然一般市民に絡まれてしまう。何この女3人グループ。面倒くさいったらありゃしねぇ。
「刀夜さん、この女達ともしかして知り合い?」
「いや、全く知らん」
真面目に誰だろうなこいつらは。いやに絡んでくる。せっかくのマオとのデートだってのに腹立つ。
「はぁ……何の用だ?」
「えー、なんか感じ悪くない?」
「うんうん。思ってたのとちがーう」
やっべぇ。殴りてぇ。
「刀夜さん、行きましょう?」
「そうだな」
面倒な相手は無視するに限る。俺とマオが歩き出そうとしたところで前を塞いでくる。俺達の邪魔をするってことはこいつは敵ということでいいんだな?
「話くらいいいじゃん。でもしかもそのペットすっごい気持ち悪」
言おうとした女の顔を掴むと同時に足を払ってバランスを崩させる。同時に空中で一回転させた。
「え?」
女は顔面を床にぶつけて鼻血を噴き出した。しかしこれはこいつが悪い。
「骨格変わるくらい顔面の形状変わりたくなければとっとと失せろ」
わざとにっこりと笑みを浮かべると女2人は顔を蒼白とさせて逃げ出した。さて、このとんでもないことを言ってくれたクソアマはどうしようか?
「と、刀夜さん……!」
俺は恐怖に怯える女の胸倉を掴んだ持ち上げると鋭い瞳で睨み付ける。
「世界一可愛いウチのツンデレ美女に向かって気持ち悪いとは何事だ? マオはケモミミという大変素晴らしいものがある上にモデル並みの身体付きをしていて外見は完璧。姉御肌で頼りになる。からかったりしてくるけどからかわれるのが苦手ですぐに恥ずかしがったり照れ隠しにツンツンしてたりで性格も完璧なまさしく完璧な嫁だ。それを気持ち悪い? お前のそういうクソどうでもいい価値観のせいでマオが苦労してるって何故分からない? 第一お前みたいな奴らばっかりだから世界はこんなにも生きづらくなるんだろうが。というかマオの綺麗さ目の前にペットとか気持ち悪いとか何故そんな意味が分かんねぇこと言えるんだお前は。人の神経逆撫でするのが得意ってか? ふざけてんじゃねぇぞこのクソアマが! 大体お前の方が外見も内面も気持ち悪いんだよ。マオを見習えや! あんな完璧な女性は他に4人しか知らねぇんだよ! ルナ達に並ぶくらい魅力的になってから人を馬鹿にしろよ。獣人だから気持ち悪いだとかそういうこと言ってるから一生お前は醜い女なんだよ。お前みたいなタイプが一番嫌いなんだよ。そもそもせっかくのマオとのデートに邪魔しやがって。気分台無しだろうが。今日は予定パンパンなんだよ。お前みたいなクソゴミクズに構ってる暇なんてねぇんだよ分かるか? そもそも逆ナン紛いのことして時間浪費するくらいならどこかで純愛して彼氏でも作れよ。そういう努力を怠ってるくせに普段から苦労してるマオのこと馬鹿にできる立場がお前は? そういう発想ばっかりしてるからお前はいつまで経っても駄目なんだろうが。3人一緒だったからついなんて言い訳になると思ってんのか? そのせいでマオが鬱陶しそうな顔したんだぞ? どう責任取ってくれるんだお前。マオを喜ばせる方法また考えないといけないだろうが! こういう気分だとマオだって気を遣うだろうがふざけんじゃねぇぞ! そもそもお前みたいな」
「刀夜さんストップストップ!」
マオに止められて仕方なくやめる。このクソアマにはまだまだ言い足りないが時間の無駄だな。
「ひぐっ! うぐっ! 生きててずいばぜぇん!」
「あん?」
気付けば女性は泣いていた。こいつ、何泣いてやがるんだ?
「泣きたいのは俺の方なんだよ……というか顔面殴って凹ませてぇ」
「いいから行きましょう? ほら、早く早く」
マオに手を引っ張られて強制連行される。仕方ないので乱雑に女性を離すと走り去っていった。本当に顔面殴って凹ませてぇ。
「全く……あんなにキレることないじゃない」
「いや、仕方ないだろ。そもそもマオを馬鹿にした時点で殺す。命があるだけまだ感謝して欲しいくらいだ」
「はぁ…………」
マオは盛大に溜息を吐いた。しかしその表情はどことなく嬉しそうだ。
「私が嫌われるなんてありえなさそうね」
「当たり前だろ?」
当然のことを言ったまでだ。それなのにマオは顔を真っ赤にしていた。
「そんなことよりご飯に行きましょう?」
「そうだな。ちっ……あのクソアマ共のせいで結局昼時だな」
「刀夜さんって私達のこと大好きな上に浮気の心配なさそうね……」
浮気って。俺の世界にはあるだけでこの世界にはない。一夫多妻、一妻多夫の世界だ。いや、結婚なんて概念もないのだからそういう言葉も存在しないんだが。
「当たり前だろ」
「そうでもないのよ。男の子は基本的にハーレムを作りたいって思うものらしいわよ?」
「え、いや、俺今ハーレム状態なんだが」
「それはそうだけれど……刀夜さんのは純愛というか愛があるというか……。他の人は身体だけが目的だったりするもの」
確かにそういう男もいるだろうけど。そんな奴らばっかりじゃないだろうに。ムイとか純愛だしな。
「マオは何か食いたいものあるか?」
「そうね……海鮮系かしらね?」
「海鮮系か。ならあっちだな」
「覚えているの?」
「まぁな」
流石にそろそろこの辺りのかとも覚えてきた。ちょっと遠出しても良かったんだがやっぱり気晴らしにするなら知らない所より知っている所の方が安心すると思って。
手を繋いでマオとレストランへとやってくる。ここは海鮮系が割と有名な店だ。喫茶店とかその辺りよりも高級感溢れている。
「なんだか随分大人のお店ね」
「その言い方誤解招かないか?」
「そう? けれど子供が来るような雰囲気でもないわよ?」
「確かにな」
店員に席に案内されると対面に座る……と思いきやマオは俺の隣に座った。
「それで? ここは誰と来たの?」
「え?」
「刀夜さんがこういうお店に詳しいとは思わないし、ルナちゃんかアリシアちゃん辺りに紹介されたお店なんでしょう?」
ああ、そういうことか。しかし舐めないで欲しい。俺だって大人のデートを演出出来るのだ。
あ、もしかしてオススメとか聞きたかったのだろうか? それなら完全にミスったな……。
「すまん……誰とも来たことがなくてな。オススメとかはなんとも言えない」
「え……そ、そうなの?」
正直に言ったところキョトンとされてしまった。うーむ、やはり駄目か?
「な、ならいいわ」
「……?」
なんか了承されたんだが。呆れられた様子もなし、よく分からんな。やはり俺には乙女心は難解過ぎる。
とりあえず何が出るのかよく分からないので適当に注文する。マオも注文すると料理が来るまでの間は談笑することにしよう。
「つか人多いな……」
「そうね。都合良く座れて良かったわね」
「そうだな」
タイミングが良かったらしい。気付けば外には行列だ。それだけ当たりの店だったということだろうが。
「それにしてもさっきは驚いたわよ」
「何がだ?」
「だってあんなにスラスラと私の褒め言葉が出てくるんだもの」
「何言ってるんだ? むしろあれだけ話をまとめたんだ、まだほんの一部だぞ?r
むしろまとめ過ぎて魅力が伝わっていないまである。説明しようと思えば間違いなく今日は終わるな。むしろ明日から5日間は眠れないことを覚悟してもらわなければならない。
「まぁ褒め始めりゃ1人1日ずつは褒めれるくらいだな」
「24時間褒められるのは聞いてみたい気もするけれど恥ずかしいから聞きたくない気もするわ……」
確かにそれだけ話すのは時間の無駄だろう。そもそも……。
「お前らに話す分には構わないが他の奴らは駄目だな」
「どうして? って聞くまでもなく迷惑よね」
マオさんは全く分かってませんよ。ええ、分かってません。大事なのはそういうことじゃないのだ。
「マオの魅力を話しちまったらそいつがマオに惚れちまうかもしれないだろ? それはなんというかちょっと……あれだ……うん……容認出来ない」
「…………」
マオは大きく目を見開き、そのまま口を開けたまま固まってしまった。そんなに驚かなくても。もしかして呆れられただろうか?
「わ、悪いな……。俺なんか独占欲強かったらしい……」
本当に恥ずかしい。俺が誤魔化すように視線を逸らして無料で配布される水を飲む。
熱くなった顔にはこの冷えた水が丁度良い。段々寒くなってきてるはずなのに熱いとかどうなってんだ。
「…………刀夜さんも」
「え?」
「……そうよね。ふふ……恋愛、してるものね」
「ど、どうしたいきなり?」
何か納得したようなことをぼそりと呟いたマオはにっこりと微笑んで俺の顔を見つめる。
「仕方ないわよ。それが恋だもの」
「…………そうかもな」
好きな人を独占したい。そういう醜い気持ちもまた恋なのだろう。甘酸っぱいだけじゃない。どこまでも冷たいものなのかもしれない。
恋が実らなければ甘いもクソもない。受け入れてもらえたとしても長続きするかなんて分からない。
長続きしても相手の容認出来ない部分に突っかかってしまうかもしれない。
恋愛というのはそういうものなのかもしれない。素敵なことばかりじゃない。常に苦しんで、もがいて、足掻いて。そんなことばかりだ。
人生と全く同じだ。何が起こるか分からない。でもだからこそ人はそれを貴重なのだと思うのかもしれない。大切なものというのは安易に手に入るものじゃないから。
「ご飯食べた後は帰りましょうか?」
「え?」
「気晴らし、してくれたんでしょう? だったら家でやりたいことがあるから付き合って」
俺の意図は普通にバレていたらしい。まぁそうだよな、分かるだろうな。
しかし家でやりたいことか。ベッドでも言っていたが家でやりたいことが多かったのだろうか? 俺としてはパーっと遊ぶ方が良いかと思ったんだが。
まぁでもあのクソアマみたいなのが彷徨いてばかりなのだ。ここだとのんびりイチャイチャも出来ないよな。
「やりたいことって?」
「そうね。まずは膝枕の続きね。昨日は中途半端だったもの。それに一緒にお風呂も入ってもらおうかしら?」
「中々ハードだな……。俺の理性が持つかな……」
「お風呂で性的に搾り取ってあげるから覚悟しなさい♡」
ヤル前提かよ。まぁ無理か。昨日もしてないのにマオと一緒に寝たおかげで悶々としてたからな。
「お風呂の後には早速このブラシを使わせてもらうわね」
「そうか。でも髪を梳かすの、俺がしてもいいか?」
「してくれるの?」
「あぁ」
今日はもうマオに時間を使う。明日からまた鍛冶屋にこもるんだろうけどな。
「楽しみにしてるわね♡」
「お、おう」
嬉しそうな表情を浮かべるマオ。ツンツンしてない。むしろ嬉しそうだ。これがデレなんだろうな。可愛い。
ツンデレ美女は可愛い。俺のマオへの評価や好きなところがまた1つ増えたな。
こういう時を重ねて。互いに分かっていって。それでもやっぱり分からなくて新しいことを知る。その繰り返しだ。
恋愛は冷たい。でも冷たいことばかりじゃない。マオの嬉しそうな顔を見ていると冷たい現実の中にある幸せという暖かい温度が心に染み渡った。




