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第29話 実験体は個性の塊である

 俺は現実的な考え方をしているらしい。しかし自分の気持ちが分からないからこそ何も感じない。

 今目の前で殺した人間は確かに元は人間だった。俺はこいつらの心を心配はすれど殺したこと自体には何の罪悪感も抱いていない。

 これが現実的と言えようか? 何に対しても無頓着というべきではないだろうか?


「刀夜さん、大丈夫……?」

「え?」


 マオが心配そうに顔を覗き込んでくる。そんなに心配されるような表情をしていたのか?


「とても苦しそうな表情をされておりました」


 ルナには泣きそうな表情をされてしまう。苦しそう……か。多分そういうことじゃないんだよな。


「いや、俺はいいんだが。あいつらは大丈夫かなと」

「……確かにそうですね」

「えぇ……そうね」


 ひとまずさっさと合流したい。あいつら悲しい表情を浮かべていないだろうか? 心配だな……。

 3人で走り出すと一気に駆け抜けていく。バレているのならと正面突破で研究員を斬り殺していく。


「刀夜さん! ルナちゃん! 横から来るわ!」


 マオの気配探知は優秀だ。五感全てをフル動員されており正確さにおいては他の追随を許さない。

 それほどのマオが警戒する相手だ。俺とルナは咄嗟にバックステップして距離を開ける。

 いきなり隣の壁が大きく破壊される。例えるなら爆発だ。壁が破壊されるように大きな男が現れた。

 何だこいつは? また人間じゃねぇな。

 膨らんだ筋肉が膨らみ過ぎて顔の大きさと合っていない。体長は3m程。こちらもやはり頭がハゲていた。


「おじょーさんおっぱいすわせてぇ!」

「ひぃぃ!」

「な、何よこいつ……!」


 いきなりゾンビのように両手を突き出してきては真っ直ぐにルナ達に向かって来る。俺はそれを遮るように男の足を斬り裂いた。


「意識があろうがなかろうがこいつらに手を出すことは許さん。殺す」


 俺は何の躊躇いもなく男の首を斬り落とす。しかし先程のでまだ死んでいないのは分かっている。

 転がった頭を踏み潰すと脳内の色々なものが飛び散った。とても見せられない光景だがルナ達を怖がらせな報いは受けてもらう。

 今度は何も残らなかった。魔力の粒子となって身体が丸々消えてしまった。


「あいつらが心配だ。早く行くぞ」

「え、えぇ……」

「は、はい……」


 2人はかなり引いた様子で俺の後を付いてくる。ど、ドン引きさせてしまったか。


「と、とんでもない強敵でした」

「え、えぇ。一歩も動けなかったわ……」


 あ、違った。俺のせいじゃなくてあいつが悪い感じだな。でもかなりグロテスクな殺し方してしまったぞ?

 化け物が突き破った穴から別の通路に出る。しかし進めるのは前か右のみ。来た道の方向には戻れないのであいつらとの合流の可能性はあまり望めない。


「どっち行く?」

「真っ直ぐの方がまだ確率はあるんじゃないかしら?」

「そうですね」


 ということで真っ直ぐに進む。安直な理由ではあるが結局は運なのだ、そういう風に選んでもいいだろう。

 現れた半分人間半分魔物をバッサバッサと斬り裂きながらどんどんと進む。幸いにも普通よりも強い敵ではあるが俺達の相手にはならない。

 ルナの魔力にもマオの矢にも限りがあるのだ。前衛である俺が一番頑張らなければならないだろう。


「刀夜さん」

「ん?」


 マオが声を掛けてきたので視線を向ける。マオは何やら少し悲しげな表情を浮かべた。


「恐らく獣人族の実験体もいるわ。気を付けて……」

「…………そうか」


 近くにはいない。恐らくは残り香とかその辺から悟ったんだろう。近くにいるならこんな回りくどい言い方はしないだろうしな。

 獣人族にも手を出しているとなると他の種族も同様か。エルフ族もいると仮定すると結構厄介だな。

 獣人族は身体能力が、エルフ族は魔法の技術力が高い。普通の人間のそれよりも。ということはかなり厄介な生物兵器が出来上がっている可能性もある。


「マオ、見つけても容赦はするなよ」

「…………えぇ、分かってるわ」


 といってもマオにそれをさせるには酷というものだ。可能な限り俺が殺すとしよう。

 しかしこれはどこかのバイオテロかよ? バイオでハザード状態のようにも見えるんだが。感染はしないだろうがグロテスクな奴らが多過ぎる。

 ここの組織は相当長い年月を掛けて研究していたと見える。それ程前ということは代々受け継がれてきた研究なのかあるいは……。

 いや、考えるのはよそう。考えたところで解は出ないだろう。


「っ! 刀夜さん来るわよ!」

「あぁ」


 マオが来るというのなら来るのは分かってる。それに俺も何か嫌な予感はしていた。俺ももしかし何か察知でもしたのだろうか?

 現れたのは真正面や壁からではなかった。そいつは天井だった。

 まるでブリッジしているような格好の女だ。ボロボロの服がかろうじて残っており大事な部分は隠されている。見え隠れしているのは素敵な素肌などではなく赤黒い球体のようなもの。顔も美人……に見えなくもないが口からはよだれが垂れたままだったり白目だったり長い髪もボサボサになっていたりでどちらかというとホラーなんだが。


「ご、ご主人様! あまり見てはいけません!」

「そうよ! あんな痴女見ている場合じゃないわ!」

「え、いや、敵から目を逸らすなよ」


 何言ってるんだこいつらは。もしや嫉妬か? だとしたら超絶可愛いな。


「ぐらぁ!」


 女怪物は手足を天井から離して飛び込んで来る。俺はその瞬間に刀を一閃。女の顔面から股に掛けてを両断した。

 大量の血が撒き散らされる中、俺は更にもう一閃して空中で女を横に両断。四分割して殺害する。


「刀夜さん容赦なさ過ぎないかしら……」

「あ、返り血が付いてしまってます」


 呆れるマオと俺の頬に付いた返り血を拭き取ってくれるルナ。対象的というか何というか。でもそういう反応を返してくれるのはありがたい。

 普通ならドン引きされるだろうなこれ。でも仕方ない。そういう敵に容赦などしてたまるか。


「マオはともかくルナは人を殺すのに抵抗とかないのか?」

「いえ、特には。ご主人様に危害を加える時点で敵ですので」

「さらっとどうして私を抜いたの?」

「お前人間恨んでるんだから別に問題ないかと思っただけなんだが」


 そもそもむしろ殺したいと思う派じゃないのか? その辺りはよく分からんが。


「まぁそうなのだけれど……」

「元々同族だからといって殺すなという方が無理な世界だけどな」


 やらなければやられる。地球よりも単純な世界だ。


「っ! 刀夜さん!」

「え? うおっ!」


 突然マオが飛び込んでくる。咄嗟のことで受け止めようとした瞬間、バランスを崩して後ろに倒れようとしてしまう。

 マオが何故こんなことをするのかはある程度想像は付く。俺は前方を見ると何本もの針がかなりの速度で飛んできていた。

 針というのは目で簡単に見えるものではない。こういう奇襲もあるので怖いな。

 そう思いながら俺は尻餅を付いた。針は俺達の間を通り抜け彼方へと消えていった。


「悪いマオ、助かった」

「いえ……刀夜さん暖かいわね……」

「そんなラブシーンを繰り広げている暇ないですよ!? というより羨ましいのでやめて欲しいです!」


 怒り方も違うくね? そんなことしてる場合じゃなくね?

 立ち上がるとどんどんと針を飛ばした正体が見えてくる。マオは見えていたみたいだが。

 それは全身に棘が刺さったような人間だった。いや、皮膚が溶けているのか知らないがドロドロで女のようなのだが原型がない。全身棘まみれとか拷問にでもあったのかというくらいだ。

 恐らくハリネズミのような魔物なのだろうが……。ちょっと酷い気がしてきてならない。


「うばぁ!」


 棘女は飛び込むように俺に突っ込んでくる。俺は咄嗟にバックステップで回避していた。


「えい」


 ルナが土魔法で落とし穴のような穴を開けた。棘女はそこに1人突っ込んで地面に棘が刺さって動けなくなる。

 何これおっちょこちょいなのか? というか腕使えよ。抜けれるだろ。


「まぁいいか……」


 なんとも言えない気持ちになりながらも俺は刀を首に突き刺した。棘が邪魔で斬り刻めないのはあれだが。殺しにくい。


「この子も実験体よね」

「そうだな」

「……拷問とか受けていたのかしら」

「どうだろうな」


 研究員というのが何を考えているのか俺には分からない。ただ妙な奴らだというのは確かだ。

 こんな生物を創り出す意図が読めない。まず俺はあまりそういうに興味がないだけだが、人は誰かを蔑まずにはいられない生き物らしい。

 自分が上であると誇示したい。そういう生き物だ。人は人の犠牲の上に幸せを掴むのである。

 こいつらのこれが単なる遊び。理由のない研究であるならばそれは間違いなく淘汰されるべきものだ。それを俺が下す権利はないけどな。


「まぁ流石にそれはないか……」


 理由もなくこんな戦力を作る必要性がない。何かしら理由……やはり魔人を創る為というのが一番納得が出来る。しかし回りくどいことするよなこいつらも。

 まぁ回り道が悪いわけでもない。こいつらにどんな考えがあるのかは知らないがここまでしていて見逃す訳にもいかない。

 いつ俺達に危害を加えるのかも分からないしな。明確に敵と見定めた。


「さて、さっさと行くぞ?」

「えぇ」

「はい!」


 ひとまず合流を優先だ。あいつらは大丈夫だろうか? 何もなければいいんだが。

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