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第28話 研究所というのは残酷なものである

 どんな人間でも完璧というのは存在しない。完璧超人だと言われている人間にもどこかしらの弱点があるものだろう。

 今いるここは魔人の研究所。というよりはもう製造場と言うべきだろう施設はそういう生物を創り出そうとしているわけだ。

 コンクリートのような無機質な作りのこの施設は外見からかなり大きい建物だった。こんなアホみたいな施設が何故今まで問題になっていないのか分からないが。

 確かにここの施設の敵の強さは相当なものだろう。しかし世の中上には上がいるものである。


「敵襲だ!」


 気付いた時にはもう遅い。賞金首を狙った際に覚えた隠密行動を駆使して俺は即座にその男を斬り裂いて殺す。


「いいぞ」

「とても素晴らしいです」


 隠れていたルナ達を呼ぶと警戒しながら進む。ルナが褒めてくれるのでかなり嬉しい。


「むぅ……刀夜くん次は私がやってもいい?」

「別にいいけど……」


 何か怒ってないか? アリシアが不満そうな表情で提案してくる。何かしたっけ?

 コウハはこういう不意打ちとか嫌いそうなんだけどな。意外にも何言わない。


「何かあったのか?」

「え?」

「あ、いや、何でもない」


 何かあるなら自分から話してくれるだろう。俺とアリシアの仲だしな。

 少し先に進むと更に敵が見えてくるわけだが……2人いるな。


「アリシア、右側頼めるか?」

「うん」


 俺とアリシアは息を合わせて同時に走り出す。


「ん? ひか」


 光だとでも言いたかったのだろう。しかしその前に俺の刀が首を斬り落とし、アリシアの槍が喉を貫く。

 人を殺すのに俺は別に何とも思わないとはいえアリシアは何とも思わないのだろうか? 冒険者なんだから覚悟は出来ているだろうけど。

 まぁ獣人殺しを殺しているんだ。もう今更と言えば今更だろう。


「アリシア、返り血が」

「え、あ、ありがと……」


 返り血が頬に付いていたのでそれを俺の服の袖で拭ってやると頬を赤く染めた。やっべ、可愛い。


「ちょっと刀夜さん? アリシアちゃんだけじゃなくてこっちも見なさいよ?」

「何の話だ?」

「と、刀夜くん、私だけを見てもいいんだよ?」

「だから何の話だ?」


 何この状況? というかアリシアとマオ、もしかして喧嘩中?


「何かあったのか?」

「ううん、何もないよ?」

「そうね。何もないわよ?」


 確かに怒ってる様子はないし別に嫌ってるわけでもなさそうだ。でも何だろうか? 前より若干距離がないか?


「ご主人様がご心配なさることは特にございませんよ」

「お前らも知ってるのか?」

「はい。ですが乙女の秘密です」


 どうやら俺には教えてくれないことのようだ。何というか、仲間外れにされているようで少し寂しい。


「…………刀夜」

「どうした?」

「…………おっぱい揉む?」

「状況考えろ。……家で頼む」


 寂しい気持ちもあったせいでつい要求してしまった。アスールはゆっくりと頷くとそのまま少し離れた。結局何がしたかったんだ。


「ん?」


 いきなり俺とあいつらの間の壁が盛り上がる。これは……土魔法か?


「お前ら気を付け!」


 俺が声を出そうとしたその瞬間、ルナとマオが走ってくる。俺は咄嗟に2人の腕を掴んで引っ張った。

 盛り上がった壁が埋まるように退路を塞いだ。そして……。


「迫ってきますよ!?」

「ちっ! 逃げんぞ!」


 土魔法は土魔法だがどういう精度してんだよ? 俺達のことが見えてるのか?

 恐らく向こうも同じだ。あっちにはアリシアとコウハの前衛とリルフェンの中衛、アスールの補助がある。こっちはルナの中衛とマオの後衛。咄嗟とはいえ分割されたのは痛いが悪くない組み合わせだ。


「大丈夫でしょうか!?」

「向こうはアリシアがいる。アスールも大体俺の意図は読めんだろ!」

「そうね! 咄嗟にこっちに来てよかったわ!」


 ルナとマオは偶然だ。あいつらは俺に背を向けていたからな。気付かなかったのは無理もない。まぁ俺が声を出したから即座に振り向いて反応してたが。


「で、何でこの土魔法はあんなに速いんだよ!?」


 ライジン使ってるってのに全然追い付いてくる。もしかして魔人の仕業か?


「起動式の罠です! 魔剣と同じく人の魔力を使用して発動させる類のものだと思います!」

「それ利点は!?」

「魔法陣の構造を知らない人でも魔法が使えます!」


 確かにそれは大きな利点だ。大方奴隷かもしくは研究員の仕業なのだろう。この施設は結構大規模だ。

 つまり俺達の侵入はバレていたわけか。そしてこの機を狙っていたと。


「面倒な!」

「っ! 刀夜さん! 前からも来るわよ!」


 いきなり再び壁が盛り上がって道を塞ぐ。させるかよ!


「ルナ!」

「はい!」


 ルナが走りながら壁に軽く触れる。土魔法を展開して反対側の壁を押し上げて退路を塞ぐ。


「どうやって抜けるの!?」

「ルナを信じて突っ切れ!」

「お願い致します!」


 俺達が壁に突っ切るその瞬間、更に上に土が押し上げられて空洞が出来る。俺達はその狭い隙間を通り抜けた。


「…………ふぅ」


 何とか抜けられたか。罠の起動も完全に止まった。


「あちらは大丈夫でしょうか?」

「コウハならあの壁くらいすぐに破壊出来る。大丈夫だろ」


 問題はここまで一本道だった。あいつらが向かう先は完全に出入り口なわけだ。……いや、土が盛り上がったということはこの壁の先は空洞ということになる。ならやはりコウハなら抜けられるか。


「ちっ……俺も破壊の断罪覚えてりゃよかった」


 この壁はかなり硬い。ここで特級魔法は使えないしな、コウハのような破壊系の特技があれば別だが。


「ご主人様、心配いりませんよ」

「え?」

「ふふ……私達は最強、ですよ?」

「…………そうだな」


 あいつらも強い。ここの連中なら相手にもならないだろう。だが問題は魔人の存在だ。あいつらが来てしまうのは結構マズイ。

 身体能力ならもう既に何とかなるだろうが問題は魔法の域を超えた能力だ。そちらに関しては俺達ではどうしようもない。不利なのは明白だ。


「進むぞ。もしかすればあいつらと合流出来るかもしれないな」

「そうね。けれどそういう雰囲気でもなさそうよ?」

「え?」


 ガガガガッ! と壁を破壊しながら牛のような巨大な魔物が襲ってくる。通路より大きいとか面倒な。


「ライジングスピア」


 ルナが雷の上級属性魔法で雷の槍を飛ばす。もちろん槍と言いながらもその軌道はくねくねとしていてまるで読めないが。

 牛の魔物はその雷槍に眉間を貫かれる。元々貫通力の高い雷魔法だ。加えて速いのだから反応も出来ないだろう。

 そもそもあの巨大じゃ反応は出来ても避けることは出来ない。気にするだけ無駄な相手だな。

 粒子となって虚空に消えていった魔物を確認しながら前へと進む。


「…………」


 何故こんなところに魔物が? そういえば魔人というのは人間と魔物のハーフというわけじゃない。

 ハーフであるならそれはアスールと何も変わらない。しかし身体能力から分かるようにそういうわけではないのだ。

 ならここに魔物がいる理由はどういうことだ? もし仮に魔人というのが魔物のもう一次元上の存在であると仮定すればある程度想像は出来る。

 フレイは人間から魔人を作る研究をしているが適合する人間は少ないと言っていた。ならそれを確認する方法は? そもそもいきなりあんな力を手に入れることが出来るのか?

 それは突然変異だ。

 仮に魔人が突然変異した存在だとしよう。ならば3人も現れるだろうか? いきなり3人の魔人が現れることなど存在しない。進化とはそんな単純なものではないはずだ。


「魔物の使い道……か」


 もし仮にフレイのような手駒を増やしたいと思っているのなら魔物は前座だろう。魔人にする前段階、魔物が適合する人間であれば魔人の血にも適合する確率が高いと……。


「突然どうしたの?」

「いや、何でもない」


 ただ胸糞悪いことを考えてしまっただけだ。くだらないことを、事実かどうかも分からないってのにイライラしてたら駄目だな。


「大丈夫? おっぱい揉む?」

「何でアスールもお前も慰め方そんななんだ?」

「アスールちゃんも言ってたの?」


 こいつ聞いてなかったのな。それだけ何かに熱中してたのか? よく分からんが。


「でもまぁ私も譲る気はないけれどね」

「私もありません」

「え」


 譲るって何を? そもそもルナが何かを譲らないとかあるのか? あの優しいルナ先生が? そんな馬鹿な。


「あなたも強情ね……」

「こればかりは私が譲れないものですから」


 ルナにも譲れないものってのがあるんだな。何があるんだろうか。ちょっと聞いてみたい。


「何が譲れないんだ?」

「えっと……」


 ルナは頬を赤く染める。え、もしかして……。


「俺以外に……好きな奴が出来たとか?」

「それはないわよ」

「そういうことじゃありませんよ」


 違うかったらしい。しかしなんだ、そういう願望とかないのか?


「それに他の人に構ってる余裕なんてないものね」

「そうですね。私も負けられません……絶対に!」


 でも俺には教えてくれないのな。まぁいいんだけど……。でもやっぱり仲間外れってのは寂しいな。


「なぁ、やっぱり教えて欲しいんだが……」

「それは駄目よ」

「は、はい。申し訳ありませんが……」


 やはり言えないことなのか。生理か? 女の子の日なのか?

 いやいや、それはルナの譲れないものに関係がないだろう。そもそもルナは生理があるのかどうかすら不明だ。母乳は出るとか聞いた気がするが。


「……俺だけ仲間外れか?」

「い、いえ、そうではなくてですね!」

「そうか? 全員知ってるのに俺だけ知らないっていうのはちょっと寂しい……」

「ご、ご主人様!?」

「そ、そんなキュンとなるようなこと言わないで欲しいわ! だ、大丈夫よ、私達の気持ちを思い出しただけだから!」


 それでも言ってくれないらしい。というかキュンとなるようなこと言ったっけ?

 ひとまず戦場でこんな無駄話をしている暇はない。というかまたまたお客さんな訳だが。


「こいつは……」

「気を付けて刀夜さん。魔物の匂いが混じっているわ」


 つまりは俺の予想は当たっていたわけか。というか中々にグロテスクだなこいつ。

 それは元は男だろう。しかし全裸で左足から右腕に掛けて妙な触手なようなものになっている。また皮膚も赤黒くてもう人間特有の肌の色はしていなかった。

 目玉も片目が失われており、もう片方は瞳孔が開いたまま。髪もなく悲惨な状態だった。


「ごろ!」

「あ?」

「ごろじでぇ〜!!」


 自殺願望を露わにしながらも男は腕の触手を伸ばしてきた。俺はその触手を刀を斬り上げて切断する。


「ぐぎゃぁぁ! いだぁい! いだいよぉ!」

「こいつ……」


 意識があるのか? それなら質問してみるのもいいかもしれないが……。


「おい」

「おがぁざんたずげでぇ! いだぁいよぉ!」

「…………」


 会話する気もないのか、そもそも意識がなく喋っているだけなのか混乱しているのか。どちらにせよ聞き出すのは無理そうだった。

 俺はライジンを使用して即座に懐に入るとその首を斬り飛ばす。これで終わりだろう。


「ぐがぁぁ!! だずげでぇ!?」

「なっ……!」

「ひぃっ……!」


 俺は驚いて目を見開いてしまった。ルナは少し怯えたように声を出し、マオは何も言えないようで口を開けて固まってしまっていた。

 男は首だけなのに動くのだ。それに加えて身体が自分の顔を探していた。


「……すみません」


 流石に見ていられなかった。ルナが赤い魔法陣を展開すると大きな火球を飛ばして男の身体ごと顔を焼き払う。顔面が焼失すると身体も動かなくなり触手部分が消え、右足と左腕が残ってしまう。


「…………行こう」


 この組織は本格的に破壊しておくべきだ。じゃないと色々と耐えられそうにない。

 少し重くなった足取りで。それでも現実から目を逸らさないように俺達は次の一歩を踏み出した。

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