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第12話 休憩時間? そんなものは全て勉強時間に当てさせ……あ、膝枕ですか

 2、30分くらい歩いていると大きな壁が見えてくる。これは……もしかして土魔法で壁を作って防いでいるのか?


「門はぐるりと回らないといけなくてな!」


 案内の元壁を伝うようにぐるりと回るように歩く。すると大きな門が見えてくる。これは……手製?

 門は既に開いており、左右にそれぞれ門番が立っている。しかし俺達の顔を見るなり慌て始めた。


「ひ、酷い怪我じゃないか!早く中に入るんだ!」


 この世界の人間は日本と違って良い人が多いな。日本なら間違いなく気味悪がって誰も近付いたりしないのだろう。

 とりあえずこの冒険者達はしっかり歩けているので問題ないとして俺達は何をすればいいのだろうか?


「あんた達は何者だ?」

「俺達はギルドからの依頼で助っ人を頼まれてたんだけどな。偶然あいつらに会ってな」


 ギルドからの依頼書もついでに渡すと深々と頭を下げられた。


「これは失礼致しました!」


 何かすっごい敬われた気がするんだが。何だったんだ?

 とりあえず中に入るとそこはもう1つの集落と呼べるような場所だった。簡易的に木造の建物も建てられており、生活に必要なものが売買されている。


「ん? 刀夜くんにルナさん。2人も来たのか」


 ベースキャンプ内にはリアの姿も。そういえば先に行っていると言っていたな。なら基本的にベースキャンプを拠点に動くのか。


「2人がいれば百人力だ」

「いや、俺は戦力に数えないでもらいたいんだが……」

「そんなことありません! 先程もご主人様がいなければ斧を持ったゴブリン達にあんなにあっさりと勝つ事は出来ませんでした!」

「あのゴブリンを倒したのか!?」


 ほらー、何か誤解させちゃったじゃん。いや、えー?


「たまたまだろ?」

「そんなことありません!」


 そんなことあるんだけどな。あれはマンモスという存在を倒した人間の戦法であって俺独自の戦法というわけではない。まぁつまりは地球の勝利ということだ。俺個人の力がどうとかそういう話ではない。


「是非話を聞かせて欲しい!」

「ん? 何でそんなに慌ててるんだ? あのゴブリン達くらいならリアも勝ってんだろ?」

「い、いや、それが……」


 大まかにリアに事情を聞いた。この世界の人間はどうやら頭の良い魔物に対しては弱く、普段のゴブリンとの違いから死傷者も多く出ているらしい。

 今ここで起こっているのは本当に争いだ。人間対ゴブリンという構図で行われている戦争ということだった。


「どこの世界も戦争か……」


 まぁここはまだ人同士ではないだけマシだろう。これが人同士であれば日本のような欺瞞に満ちた空間が出来上がるわけだが。

 とにかく重要なのは今こちら側がゴブリンの新しい戦法に戸惑って負けているという点だろうか。こいつら他の近接戦闘する魔物と戦ってんだからそのくらい柔軟に対応しろよ。


「ひとまず俺達の倒したやり方は教えるがあまり参考にならんぞ?」


 ということで俺達が取った戦法を教えるとリアは興味深そうに頷いた。


「流石刀夜くんだ!」

「いや、だから普通だって……」


 この世界の人間は戦略やら戦法といったそういう面に弱いのか? 力押しだけが勝負ではない。技術や知恵を磨いてこその戦闘だ。

 人間には敵を殺す牙や爪などないのだ。しかしそれ以上に優れた点を持つからこそ自然社会の頂点に君臨しているわけだ。そしてその自然さえも飲み込み技術を発展させている生物だぞ。


「それで俺達はどうすればいいんだ?」

「5日後に戦略会議があるんだ。キミ達も参加してくれないかな?」


 なるほど。つまりその会議までは自由行動ということか。そういうことなら俺は勉強に費やすしかないな。


「分かった。それじゃあ5日後だな。ルナ、一旦街に戻るか?」

「そうですね。ではランケア様、これにて失礼致します」

「もっとゆっくりしていってもいいんじゃないかな?」


 俺はそんなことしてる余裕がない。いつ死ぬか分からないこの世界で技術を高めることは間違いではないだろう。もちろん適度に休憩も必要だが。


「ご主人様は最近あまりお休みになられていませんので。今日はもう寝てしまおうかと」

「え」


 いや、あの、勉強……。


「ご主人様が徹夜して勉強しているのは知っているんですから。きちんとお休みください」

「お、おう……」


 少しキツイ口調で言われて頷くことしか出来なかった。


「そうだったんだ。すまない刀夜くん、無理をさせてしまって」

「いや、徹夜は俺の都合だけどな……? とにかくこれで。あ、リア」

「うん?」

「また今度でいいから身体強化魔法教えてくれ。もちろん対価も支払う」


 身体強化魔法は近接戦闘においては重要だ。俺の鍛冶師魔法と合わせると更に使い勝手が良くなる。


「うーん……本当はあんまり教えるのは良くないんだけど。2人ならいいかな?」

「そうなのか?」

「ほら、他の人が強くなってしまうだろう?」


 なるほどな。確かに冒険者をしている以上自分の力は周りに悟らせるべきではないのかもしれない。この世界はそういう世界なのだから。

 それでも教えてくれるということはやっぱり俺達って高評価なのか? 俺は入れるのやめて欲しいんだが。まだ弱いし。


「これもひとえにご主人様の魅力のお陰です」

「これも俺じゃなくてリアが優しいだけだと思うが……。まぁいいや。ありがとな、リア。また何かあったら言ってくれ」

「うん、ありがとう」


 礼を言うのはこちらの方だけで充分だ。もちろん何か教えて欲しいと言われれば教えるが。俺がリアに教えれることなんてなさそうだな。

 ベースキャンプという第二の拠点を得て俺達は街へと戻る。道中出てきたゴブリンはいつもの弓だけのゴブリンなのでルナがさっさと倒してしまった。

 ルナは魔法の展開速度が恐ろしいくらいに早く、また魔法の種類も豊富だ。ゴブリンが射った矢を氷魔法で防ぎ、次弾装填時に攻撃魔法を放つ。それだけで倒せてしまうのだから流石なものだ。

 宿屋の中に入ると何食わぬ顔で勉強を始めようとする。ルナなら簡単に言いくるめられそうだし問題ないだろう。


「ご主人様?」

「っ! ひゃ、ひゃい……」


 ルナが恐ろしいくらいに冷たい声音を出した。怖い。ルナ怖い。


「お休み、していただきますよ?」


 ルナさんがご乱心じゃ! こ、ここは従っておいた方が良さそうだ。ルナさんが強過ぎる。


「ではご主人様、こちらへいらしてください」


 先程の恐怖はどこはやら。ルナはにっこりと天使のような微笑みでベッドに寝転がるように指示してきた。

 俺に拒否権はない。しかし俺が寝転がろうとするとルナはそれを止めた。


「少し待ってくださいね。はい、こちらで大丈夫です」


 ルナに強制的に頭を太ももに乗せられてしまう。こ、これはもしや巷で噂の膝枕というやつではなかろうか!?


「る、るるるる、ルナさん?」

「寝心地はどうですか?」

「最高です」


 本当に何でこんなに気持ち良いんだろうか? ここは天国か? それとも桃源郷か? 全く分からん。とりあえずあれだ、ルナさんマジパネェ。


「ふふ……喜んでくださって良かったです。ではご主人様、ゆっくりお休みください」

「いや……でもな?」

「お勉強することは大変素晴らしいことですが休息も必要だとおっしゃっておりましたよ? ご主人様は休息を取るべきです」


 いや確かに言ったけど。でもまだもう少しいいんじゃないか?


「5日後には危険な目に遭うんだからいいだろ?」

「駄目です。大人しく寝ないとお仕置きしちゃいますよ?」

「お仕置き……具体的には?」

「頬をつねっちゃいます」


 えらい可愛いなおい。


「それくらいなら勉強しようかな」

「後、ご主人様の足を切断してしまうかもしれません」

「お、おう……」


 ルナなら本当に出来るから怖い。いや、そんなことしないって信じてるしな。しない……よな? たまにルナは分からなくなるから怖い。


「ご主人様はゆっくりとおくつろぎしていただければそれで良いのです」

「魔法を覚えなきゃ駄目だろ?」

「むしろ覚えるのが早過ぎなくらいです。普通はもっと時間を掛けてするところをたったの10日で覚えてしまうなんて」


 どうやら俺は意外と凄い奴だったらしい。そんなことないと思うんだが。


「なら仕方ないな。ルナがキスしてくれたら大人しく寝よう」


 ここで無理難題を言っておけば大丈夫だろう。これで何とかなりそうだ。


「本当ですか?」

「あぁ、本当本当……ん? マジでする気?」


 予想外の反応につい聞き返してしまった。ルナは頬を赤く染めながらゆっくりと顔を近付けてくる。


「ちょ、ちょちょ! ルナさん!? 冗談! 冗談だから!」

「…………私とのキスは嫌ですか?」


 そんなこと言われたら断れないんですが。というか俺もしてみたい気持ちは大いにある。ルナだから余計に。


「ご主人様…………」


 沈黙を肯定と受け取ったのかルナは涙目になる。違う、待って


「も、もうちょっと待ってくれないか?」

「え?」

「鍛冶師でも強いことを証明する。最弱職である俺がこの世で一番最強であることを証明する。お前に頼られる存在になれると証明する。だから……お前が俺に命を預けれると証明出来た時にキスしてくれ」

「ご主人様……私のことを真剣に考えてくれていて嬉しいです……」


 ルナは目尻に涙を溜めながらにっこりと微笑んだ。その表情は先程の暗い涙とは違う嬉しい涙なのだと分かる。幸せそうに微笑んでくれるのが嬉しくなる。


「それじゃあ今はこれで我慢します」

「へ?」


 ルナは顔を近付けてくると俺の頬にチュッと短くキスをした。


「な、な、な、な!?」

「ふふ……ご主人様可愛いです」


 頬を赤く染めたルナだったがその表情は余裕そうだった。くそ、これが大人の余裕というやつか!


「くっ……ルナのファーストキスを奪った奴は許さん」

「え? あの、私まだキスしたことないです」

「はえ?」


 何ですと? キス……したことない?


「1000年以上生きてて……処女?」

「そ、そんなこと言わないでください! 初めては大好きな方に捧げたいんです!」


 この日、俺はこの世界に来て一番驚いただろう。異世界転移したという事実よりも。

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