特別編アリシア視点第5話 深夜のデートはお悩み解決
「お待たせ刀夜くん」
「おう。…………ん?」
刀夜くんの部屋に向かうと既に準備を整えていた。ベッドに座りながら窓の外の月を見上げていた。
私が部屋に入るなりすぐに私の違和感に気付いたみたい。
「懐かしいな」
「うん、そうだよね?」
今はズボンも長ズボンで上も青いTシャツに白いコート。どう見ても男の子に見えそうな格好をしている。
「でもアリシアのことをよく知ってるからだろうな。普通に可愛く見えるけどな?」
「本当?」
この格好でも刀夜くんは私が女の子だと見抜いてくれた。確かにあの時はお化けが怖くて抱き付いちゃったりしてたからね。
うん……お化け? ひぇ!?
「いきなりどうした!?」
血の気が引いた気がした。だ、だって私が一番苦手なものを思い出しちゃったから。
刀夜くんが慌てたように駆け寄ってくれる。私はつい抱き付いてしまった。
「あ、あの、お化けを思い出しちゃって」
「…………えっと、そうですか」
刀夜くんは反応に困った様子だった。そ、そうだよね。いきなりお化け怖いなんて言っても理解出来ないかもしれない。
「そんなに怖がらなくてもいいんじゃないか?」
「と、刀夜くんは怖くないからそういうこと言えるんだよ……」
「俺と一緒にいて不安か?」
その言い方はずるい。刀夜くんが一緒なら確かに心配ない。それどころか安心して……。
「ううん、平気だよ。でも……こうしててもいい?」
「それはもちろん」
刀夜くんの腕に抱き付くと2人で外に出る。月明かりのお陰で外は明るい。それにこの辺りは自然に溢れているから綺麗だ。
「輝虫だね」
「そうだな」
草花に加えて湖に集まってきた輝く虫。刀夜くんの世界では確か蛍って言ったかな? そんな虫が色々な光を灯しながら宙を舞っている。
とても綺麗な景色。こんな景色を好きな人と見られるのならこうして夜中に抜け出すのも良いかもしれない。
刀夜くんは湖の向こう側を遠い目をしながら見つめる。年下のはずなのに大人びて見えて私はその横顔に目を奪われた。
「ん? どうした?」
「あ、ううん。何でもないよ」
刀夜くんがこちらを振り向いたので慌てて私は視線を逸らした。刀夜くんは変わった。初対面の時は何となくどこか無理をしていた気がしていたから。
そういえば刀夜くんは初日から凄かったね。沢山のゴブリンに囲まれているのに冷静そのもの。それに加えて色々な案を出して結局3人だけで勝ててしまった。
刀夜くんはそんな凄さを見せながらもやはり無理をしていたんだろうね。でも今は無理していないように見える。それでも凄いんだから流石刀夜くんだよ。
私は無理をしても強くなれないかな? 刀夜くんに色々と教えてもらってるけど刀夜くんより強くなれる自信がない。
前衛職の私がそもそも戦闘に参加しない鍛冶師に遅れを取ってるなんて昔は思ってもみなかった。
「刀夜くん」
「ん?」
だから聞いてみたくなった。刀夜くんが何を考えて戦っているのか。
モチベーションに変わりはあれど結果にはあまり反映されないのが感情というものだ。だからこの行動に意味はないかもしれない。
「刀夜くんは戦ってる時何を考えてる?」
「戦闘中か? そうだな……相手を分析したりするかな」
「そうだよね」
多分ここが違い。刀夜くんは分析する能力にとても長けている。
戦術というのは幅が広い言葉だけど2種類あるがあると思う。1つは自分の動き方。これは基本中の基本だ。自分の動き方1つで戦闘は大きく変わる。
そしてもう1つ。これは刀夜くんにしか出来ないことかもしれない。ルナさん達でも無理かな。
相手の行動を読み、そこから戦術を組み立てる方法だ。刀夜くんは模擬戦で私の癖を瞬時に見抜いて戦う。そこも戦術に加えることで私達より一歩先を行ってる。
柔軟な発想、戦略、計略。これらがあるからこそ鍛冶師で強い。
私ももっと強くなれれば刀夜くんの役に立てるかな? 私も刀夜くんに並んで最強を目指したい。でも最近そのイメージが全然湧いてこなくなってしまった。
「どうした?」
顔を覗き込んでくる刀夜くん。可愛い顔をしながらも人類最強なんて凄い。あと可愛い。
「う、ううん。なんでもないよ」
「そればっかりだな……。言わないならこうしてやる」
刀夜くんは後ろに回り込むと私を後ろから抱き締める。こ、これっていつもソファで後ろから抱き締めてくれるあれだよね?
「あ、あの、刀夜くん?」
「どうした? 話す気になったか?」
「えっと……」
戸惑っているという方が正しいんじゃないかな。あと物凄くドキドキする……。
「ほら、話してみろって。早くしないと俺の手がお前の脇に入っちまうぞ?」
「何その脅し!?」
くすぐられる!? あ、でも刀夜くんが触ってくれるなら別にいいかも……。って今そんなことされたら声漏れちゃうね。騒いだらマオさんに怒られそう。
「マオさんが起きちゃうからやめてね?」
「まぁそうだな……。でも言わないなら脇に手を入れる」
「ひゃっ!?」
お腹を触られて変な声が漏れてしまった。だ、だめ……これダメ!
「わ、分かった、言う! 言うから!」
「最初からそうしてりゃいいのに」
「うぅ、刀夜くん意地悪だよ……」
「俺の悩みを聞いたんだからお前も話せ」
刀夜くんの悩みは真剣だけど私の悩みなんてくだらないよ……。ただ劣等感を感じてるだけだなんて。
でも話すって言ってしまった以上は話さないと。刀夜くんはどんな顔するのかな。
私は自分がもっと強くなりたいこと。刀夜くんに並びたいことを伝えた。刀夜くんは最初は真面目に聞いていたはずなのに段々と目をパチクリとし、そして次第に呆れたような表情に。
「お前最近俺と同じくらい強くなってるだろ。むしろ追い抜かされないかヒヤヒヤしてるぞ俺」
「そ、そんなことないよ!?」
「あるんだよ。お前に足りないもの、というか俺にあってお前にないのはもう応用力だけだと思うがな」
「応用力?」
確かに大事なことだけど……。
「俺は魔法や武器を破壊出来る。だから活躍の機会が多いってだけだ。例えばこれが相手が超絶硬い鉱物みたいな奴だとしたらどうする?」
「うーん……槍は貫通力が高いから突いてみるとかかな?」
「確かにそれも1つ。他にもコウハみたいな破壊力があれば倒せるかもしれないしルナみたいに魔法の弱点を探ることで倒せるかもしれない」
確かにそうだね。それぞれの役割がきちんとあるんだよね。
「それぞれの役割がきちんと存在する」
刀夜くんも私と同じことを考えてたみたい。あれ、でもこれって全部刀夜くん1人で……。
「でも俺はその全ての行動を1人で出来るわけだろ? つまり応用力が高いからってだけだ」
「確かに……」
でもそれは刀夜くんだからこそというわけじゃない。みんな覚えようと思えば出来ること。なのに刀夜くんはそれを除いても強い。これはどういうことなんだろう?
「納得言ってないみたいだな」
「う、うん……」
的確に私の心情を見抜いてくる。そんなに顔に出てたかな?
「じゃあ俺がひとつ的確かもしれないアドバイスをしてやろう」
「なんでそんなに曖昧なの……?」
かもしれないって。それってあんまり信用出来ないパターンじゃないかな?
「俺を追い掛けても俺にはなれないぞ?」
「っ!?」
曖昧なんかじゃなかった。むしろ私の考えてることを全て分かった上で言ってない?
「人には得手不得手がある。当然俺が得意なものとお前が得意なものは違う。人はどれだけ真似ようともその人にはなれねぇよ」
「……そうだね」
そんなことは分かってる。でもこんなに凄い人が目の前にいて憧れないなんて事の方が無理だよ。
刀夜くんは確かに凄いし色々なものを見てる。でも人の気持ちはあんまり分かっていない。刀夜くんの過去のこと……人付き合いが苦手な事情も知ってるから怒ったりは出来ないけど少しモヤモヤする。
「つまり何が言いたいかというとだな」
「う、うん」
刀夜くんは少し恥ずかしそうに視線を逸らした。何か恥ずかしいことを言うのかな?
「お前は俺なんて目指さなくても強いし俺を目指しても強くなれないと思う。お前はお前なりに自分の強さを探求するべきだ」
「あ……」
刀夜くんは確かに人の気持ちは分かってない。でもその言葉は核心を突いたものだった。
私が追い掛ける刀夜くん。でもその行動に意味なんてなくて……。私は私なりの強さを持つべきなんだろう。
同じ人間なんてこの世にはいない。だから私は私の得意なことを伸ばしたり、苦手なものを克服したりすればいいんだ。
さっきの鉱物みたいな魔物。どうやって倒すのか。その答えを刀夜くんは色々と見つけている。でも私がするべきなのは槍で突くこと。だから防御力を上回る貫通力をどうすれば出せるのかを考えるべきだった。
1つの道を極めるのもまた強さだと思うから。刀夜くんも色々な最強があるって言ってたよね。
「刀夜くん……」
「何だ?」
恥ずかしそうに視線を逸らしていた刀夜くん。呼び掛けるとこちらを振り向いた。その瞬間、私は目を閉じて刀夜くんに優しくキスをした。
刀夜くんがしたいから、なんて理由じゃない。私がしたかったから。あんなことを言われて、私のことを真剣に考えてくれてるのが伝わってきて我慢出来なくなっちゃった。
「大好き」
「お、おう……」
「愛してるよ」
「おま、よくそんな恥ずかしいのを続けざまに言えるな……」
だって言いたくなったから。恥ずかしいけどそれ以上に刀夜くんが愛おしい。照れる刀夜くん可愛い。
「冷えて風邪引いちゃったら大変だし、そろそろ戻ろっか」
「……そうだな」
刀夜くんの腕を抱き締めると私は頬を緩ませた。刀夜くんには本当にお世話になりっぱなしだ。私が何か返せるものがあるかな?
自分の道を極める。刀夜くんが何度も言っていた。望むものには手を伸ばしても届かないと。そこに向かって走っていかないといけない。でも決して道は交わらないって。
本当にその通りだと思う。私は刀夜くんにはなれない。刀夜くんみたいな凄い人には。だから私が求めるべきなのは別の強さ。私が信じる強さを身に付けるべきなんだろう。
「ねぇ刀夜くん」
「ん?」
「刀夜くんが風邪を引いちゃう前に言ってた武器の構造なんだけど私の槍に関しては私から提案してもいいかな?」
刀夜くんが見出した価値じゃなくて私の価値を示したい。だから刀夜くんが驚くようなアイディアを私から出したかった。
「あぁ、それはもちろん構わない。というか試作品も増えるからその方がいいんだけどな」
「うん、そうだよね」
ふふ……刀夜くんはやっぱり根っからの鍛冶師だね。槍使いの私とは縁遠い存在だね。
この人の強さを私は知ってる。でも私にはそれはない。刀夜くんは決して道は交わらないと言っていた。その通りだよね。
でも……人の気持ちはそう単純じゃないから。だから憧れるくらいはいいよね?
目指す道は違うけど。それでも刀夜くんは私にとって凄い人。その認識が変わることはないんじゃないかな。
「良い気分転換になったみたいだな」
「あ……ふふ、うん」
泣いていた部屋でのことを思い出すと苦笑いが溢れてしまう。加えて刀夜くんが優しくしてくれたのが嬉しくて胸の奥がぽかぽかと暖かくなってくる。
少し冷たいくらいの風が今は熱くなった身体に丁度良い。このまま一緒に刀夜くんと寝て……我慢出来るかな?
「あ、あの、刀夜くん」
「ん?」
「その……明日研究所に行かないといけないんだけどその…………も、もっと愛して欲しいって言ったら……駄目……かな?」
刀夜くんは驚いたように目を見開いた後に耳まで真っ赤にして顔を逸らした。
「……別にいいけど」
そしてそう短く返事を返してくれた。




