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特別編アリシア視点第4話 手が冷たい人は心が暖かい

 刀夜くんは天才だと思う。そんな周知の事実の中、私は改めて思い直した。刀夜くんも人間であり、私達と同じように悩んだり苦しんだりすることを。


「刀夜くん……」


 隣で眠る刀夜くんの頬に手を添える。浅野くんとのことがあってからは少し元気がないように見えた。

 ルナさん達も気付いていたみたいだけど自分から話してくれるのを待ってたみたい。私だけ1人先走っちゃったかな?

 でも刀夜くんが悩んだり苦しんでるところを見ると私の胸が痛くなる。そんな姿を見たいわけじゃないから。

 刀夜くんには笑っていて欲しい。いつもクールな印象を受ける刀夜くんだけど笑う時はクスリと笑みを浮かべたりする。

 そのあまり見られない表情が不意に飛んで来るとドキッとしちゃう。でもそういう表情をしている刀夜くんが一番大好きだから。


「…………大丈夫かな」


 刀夜くん本人は大丈夫って言ってたけどフレイくんの台詞は相当ショックだったんじゃないかな。

 魔人という強い力を得る代わりに自由が消えてしまう。それはもう操り人形とかそういう扱いと変わらない。浅野くんの皮を被った偽物だと思う。

 刀夜くんはまだ諦めてないから私も諦めない。でも可能性が低くなってしまったのは事実だ。

 浅野くんが今私達の前に……ううん、刀夜くんの前に姿を現さないのは恐らくそういうことだと思う。もう既に自我は失われて浅野くんじゃないかもしれない。

 刀夜くんに余計な期待をさせてしまったかもしれない。結局その結論に辿り着いたのは刀夜くんだ。私は何も出来なかった。


「…………」


 こんなの謝って許されることじゃない。あれだけ意気揚々としていたのに結局無力でしかも刀夜くんが傷付いただけ。嫌われても仕方ない。


「ぐすっ……ごめんね……」


 謝って許されることじゃないのに謝ってしまう。この期に及んでまだ刀夜くんのそばにいたいと思ってしまってる自分が恨めしい。

 刀夜くんは私のせいだなんて思ってないかもしれない。それでも私は自分を責めてしまう。


「…………アリシア?」


 本当にタイミングが悪い。涙が流れ始めてくしゃくしゃな顔のタイミングで刀夜くんが起きてしまった。

 刀夜くんは私の顔を見るなり慌てた表情になって周囲を見回す。


「敵襲か!? それとも何か怖い夢でも見たか!?」

「ち、ちがっ……」


 そういうことじゃない。でも刀夜くんは必死そうに何が原因かを考えているみたいだった。

 泣いてたって伝わらない。刀夜くんにきちんと謝った上で刀夜くん自身に処罰を決めてもらおう。

 例えどんな言葉を言われても受け入れるつもりだ。でも刀夜くんは優しいからそういうことをしないと思うけど……。


「ごめんなさい……あんなに偉そうなこと言ってたのに……。私達がいるから最強だなんて……結局刀夜くん1人で全部解決していって……あんなに辛い事実しか残らなくて……」


 私の辿々しい謝罪も真剣に聞いてくれる。この期に及んで私はまだ刀夜くんのそばにいたいんだなと思ってしまう。

 刀夜くんに優しくしてもらいたいなんて思ってしまう。許して欲しいなんて傲慢で浅はかだ。


「……なぁアリシア」

「な、何かな?」

「何について謝罪を受けてるのか全く分からないんだが……お前が謝るようなことあるのか?」


 刀夜くんならそう言うと思った。そもそも謝る必要性すらないって。でもそうじゃない……私は自分に責任の持てない言葉を言ってしまったから。


「だって……私があんなこと言ったのに結局何も出来なくて……」

「そんなことねぇよ。お前が言ってくれたからフレイとソルティアに会えたんだぞ?」


 どういうこと……? だって私達って何もしてないよね?


「俺はいちいちあんな回りくどいことしないからな。多分今回の件も浅野のことを諦めていたかもしれない」

「そんなこと……」

「あるんだよ。俺は無理なものははっきり無理だと言う人間だぞ?」


 確かに刀夜くんはあまり嘘を吐かない。隠し事とかちょっと多い気がするけど……。私が言えたことじゃないんだけどね。


「でもお前と話してて回り道することもいいかと思ってな。普段はしないだろう回り道をした」

「それが賞金首?」

「そういうことだ」


 確かに刀夜くんなら色々な方法を考えて直接的な手段で解決していたはず。今までの解決策もそうだったはず。

 ルナさんの時はゴブリンキングを直接1人で倒して最強を証明してた。アスールさんの時は仲良くなる方法をきっぱりと諦めて見直す方向へとシフトチェンジしてる。

 私の時もお父様に直談判しに行ってくれてたしマオさんの時も獣人殺しを何とかして解決した。

 回りくどいやり方とは程遠いのが刀夜くんのやり方だった。確かに今回はそれとは全く関係がない方法で見つけ出してる。


「俺は人生において望むものには決して手が届かないものだと思ってた」

「え、そ、そうなの?」

「あぁ。望むものは自分とは程遠いものだ。望んでいるのにそこに向かって手を伸ばすだけで何も得られるものじゃない。……だからこそ望むものなのだと」


 少し話が難しい。でも確かに刀夜くんの言う通りだ。望んでいるというのは今の自分に縁遠いもの。それをすぐに手にすることは不可能かもしれない。


「でもそこに向かって走っていけばいい。回り道をしようと横道に逸れようとも」


 刀夜くんは天井に向かって手を伸ばした。その先にはきっと天井なんてものじゃなくてもっと奥……浅野くんがいるんだろう。


「そう思えたのはアリシア、お前のお陰だ」

「刀夜くん……」


 そんな風に思ってくれてるなんて思わなかった。本当に刀夜くんは色々と考えていて私なんかよりよっぽど凄い。


「浅野の件はみんなで頑張ろうと決めた。でも今回は問題ないよな?」

「え?」

「だからアリシア。泣くな。それよりもお礼を言わせてくれ」


 この件はみんなの目標ではなく刀夜くん自身が個人で考えて、変わった結論。だから私が介入する余地はもうなかった。

 私はお礼を言われたいが為に刀夜くんの為に頑張ろうと思ったわけじゃない。刀夜くんを幸せにしたいから頑張ってるんだ。

 だから浅野くんの件に関してのお礼は言わないで欲しかった。でも今回はそういうことじゃないんだね。


「アリシア、ありがとう」


 刀夜くんは目尻に溜まった私の涙を指で拭いながら珍しく満面の笑みでお礼を言う。

 私はその表情を見た瞬間に鼓動が跳ね上がった。顔が熱くなるのを感じる。反対に手はどんどんと冷えてくるような気がして。

 そんな私の心情を全て見透かしたように刀夜くんは私の手を握り締める。寝起きだからかもしれないけど少し冷たい。

 刀夜くんは否定してたけどやっぱり手が冷たい人は心が暖かいんじゃないかな。そう思うくらいに刀夜くんの心は暖かい。


「暖かいね」

「ん、そうか? ちょっと冷たい気がしてたんだが」


 刀夜くんは繋がれた手を見ながら首を傾げた。ふふ……こうやって天然で色々してくれるからモテるんだろうね。


「暖かいよ。とってもね」


 クスリと笑みを浮かべるとキョトンとされてしまう。刀夜くん可愛い……。


「アリシアは冷たいな」

「うん。だから暖めて?」

「任せろ」


 冗談を言ったつもりだったのに刀夜くんは優しく私を抱き締めてくれる。本当に暖かくて落ち着いてくる。


「なんか熱くね?」

「刀夜くんが嬉しいことを言ってくれたからポカポカになっちゃったのかも?」

「それじゃあちょっと夜風にでも当たりに行くか?」


 それってもしかして真夜中のデートってことかな? そういうのに少し憧れてたけどまさか本当に叶うなんて!


「うん、お願いします」

「お願い? まぁ何にせよひとまず着替えないとな」

「うん」


 夜はやっぱりちょっと寒い。暖かい格好しないと駄目かな。でも刀夜くんがいるから私は終始暖かい気がするんだよね。


「ちゃんと厚着しろよ?」

「あ、うん」


 風邪引いちゃったら駄目だもんね。刀夜くんも風邪が治ったばかりだし、移しちゃったら申し訳ないしね。

 一旦自室に戻ると私は寝間着を着替える。刀夜くんはどんな格好でくるかな? 見劣りしないようにしないと。

 手早く着替えるとテーブルに髪ゴムがあるのが見えた。……久しぶりに付けてみようかな?

 髪をポニーテールに括る。鏡を見ると以前の刀夜くんと初めて会った時の顔立ちが見えてしまう。

 刀夜くんをドキドキさせたいのに男装しちゃったら意味ないかな? でも私も女の子。この格好でも男の子じゃなくて女の子だって意識されたい。


「これで行ってみよう……刀夜くんどんな反応するかな」


 懐かしい自分を思い出しながらそれでも刀夜くんのことで少し期待を持って私は自室を後にした。

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