第26話 魔人の事情とそれを支える女性
家に着くなり居間に上げるとすぐにお茶を出して話を聞く。まぁその前に自己紹介からだな。
「改めて俺は萩 刀夜。異世界人で20歳の見ての通り人間だ」
それからそれぞれ自分の名前や年齢、種族などを口にして簡易的に自己紹介を済ませる。
「……俺の名前はフレイ・ヴァイス。元は人間だが魔人の血を入れられた。年は20だ」
「同い年だったのか」
まぁ確かに俺と同じくらいだとは思ったが。
「私はソルティア・アーカーシュ。純粋な人間で年は21歳だよ」
「よろしくな。俺達のことは名前で呼んでくれていい。ちなみに俺の元いた世界では名前が刀夜だからそっちでな」
あらかじめこう言っておけば間違えられることはないだろう。さて、軽く自己紹介も済んだことだ。
「ひとまずお前らが何故そうなったのかとか聞きたいが、言いにくいこともあるだろうしな……。言いたくないことは抜きにして状況の説明をしてくれればいいんだが」
流石に誰かを殺しただとか聞いてもこちらもどうしようもない。それにソルティアがいるのなら基本的には相手が悪いのだろう。
「……簡潔に言えば人間は魔人の血に適合しない。だが稀にその血を自分のものにする特殊体質がいるらしい」
「それがフレイってことか?」
「あぁ……」
ということは何か目的があってそういうことをしているのだろう。そこから何か考えられるかもしれないな。
「それで……うっ……!」
「ど、どうした?」
フレイはいきなり頭を押さえ始める。ソルティアが瞬時にフレイを抱き締めた。
「落ち着いて。フレイくんはフレイくんだよ」
「えっと……」
これはどういう状況だ? 全く何が何だか分からないんだが。
「誰かが魔人を操ろうとしてるの。多分魔人を作った人なんだと思うんだけど。フレイくんは強制的に意識を持っていかれてしまって……」
「だい……じょうぶだ……だんだん慣れてきた……」
苦しそうにしながらもフレイは呟く。ソルティアが心配そうにフレイを抱き締め、自分がフレイであることを伝えている。
意識を持っていかれるということはそういうことか。自分が自分ではなくなっていくというもの。つまり魔人の目的は従順な兵士を作ると言ったところか。
「俺は……半分が人間だ。お陰で命令も半減している」
「でも純粋な魔人、確か3人いると聞いたな。そいつらは抗う術がないと……」
自分の意思がないそれはもうただの操り人形と何も変わらない。こいつは必死にそれに耐えているのだろう。
浅野は……浅野のあれは自分の意思だったのだろうか? それともあれが本心で今こうして行方をくらませているのが魔人の意思としてなのか。
「刀夜さん……」
「……平気だ。ありがとな、アリシア」
心配そうに見つめるアリシアに笑みを浮かべる。浅野の意思を聞くまでは俺も諦めない。こいつらがいるんだ、それも出来るはずだ。
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫か?」
「……あぁ、平気だ」
少し呼吸が荒い。フレイは少し大きく息を吸うとゆっくりと吐き出した。瞬時に呼吸を整えたのだ。
そんなフレイをソルティアは心配そうに見つめる。2人の関係はどことなく俺達に似ていて、自然と微笑んでしまう。
「なんだか私達みたいです」
「そうね。愛しているし愛されているわね」
「ガウ!」
全員同じような感想らしい。ソルティアは本当に優しいな。魔人であるフレイに対して恐怖心などはないのだろうか。
「……何を恥ずかしいことを。そんな甘い考えは戦場には不要だ」
確かにそういう考え方もあるだろう。ばっさりと切り捨ててしまえば何の未練もないのだから。
だがしかし、それは脆い強さだ。人というのは誰かと一緒にいたいと思う生き物だ。故に孤独なことは強くはあれど困難に対しての耐性があまり付きにくい。モチベーションも上がらないだろう。
「甘い考えってのは認めるが。でもな」
俺は少し昔のことを思い出していた。仲間の為に最強になりたいと思ったあの日を。そして自分が仲間と一緒にいたいが為に最強であることを決め付けたあの日を。
「そういう考えで案外自分が変われたりするもんだ。強くなれるきっかけになるし何よりもそばにいてくれるってのは嬉しいもんだ」
「……そういうものか」
「あぁ。お前もソルティアと一緒にいれば分かるようになると思うけどな」
ソルティアは優しい。こいつらと何も変わらないくらいにな。
その辺りにいるような醜い女とは違う。女というのは腹では何を考えているのか分からないくらい底知れない生き物だから。
だからこそ本心を向けてくれて、本気で心配してくれて、何よりも優しい人というのが俺は弱いのだろう。そんな希少な人がまずいないのだが。
「ひとまず話を戻そう。2人は魔人の居場所に関しては何か分からないか?」
「私達がいたのは……えっと地図とかあるかな?」
「あぁ」
鞄から地図を取り出すとテーブルに広げる。ソルティアはその地図をきっちりと確認した後に両手でとある場所を2つ指差した。
「私達がいたのはこの左手の所だね。ここで魔人に関して研究されてるの。研究所自体は地下にあったんだけどね。今はもう跡形もなく破壊したから残ってないけどね」
「そうなのか。右手の方のは?」
跡形もないのはこの2人が跡形もなく消してしまったのだろう。貴重な情報源だったがこの2人も逃げ出すのに必死だったことだろう。それを考えると責めることも出来ない。
「こっちは研究所を壊している間に出た情報かな。確かこっちにも研究所はあるって言ってたよ」
「なるほど……」
それが分かるなら話は速い。人間を魔人にする研究……研究所を破壊されて何も行動を起こさないとなればそれ程大事なものではないということになる。
明らかに魔人を使って戦力強化をしている。そんな状況で流石に研究所を破壊されるのは問題だろう。
「私達の持ってる情報はこれくらいだよ」
「あぁ、充分だ。助かる」
これで次に向かうべき道が出来た。そこに行けば何か分かるかもしれない。
「ごめんね。あんまり役に立ちそうになくて」
「いいや。それにお前らはこれから色々と初めていくんだろ? 頑張れよ」
こいつらの強さなら別に苦労はないかもしれないが。しかし魔人の一件が片付かなければあまり自由は利かないかもしれないな。
「……俺はこのザマだ。悪いが協力は出来ない」
「別にいいって。これは俺が浅野に会いに行きたいだけのワガママだからな。お前らまで巻き添えにはしないって」
流石に仲間以外は巻き込みたくもないしな。どこで命を狙われるか分かったものじゃないからな。
ひとまずやることが決まればそれでいい。次に次に繋げていくことでいずれは手が届くかもしれない。それまでは走り続けるのみだ。
「……話は終わった。俺たちはお暇させてもらおう」
「そうだね。ありがとう刀夜くん」
「いいや、こちらこそ。情報提供助かる」
流石に雑談を、と言えるくらいには親しくはなれないか。
「…………住む場所が決まればまたこちらに様子を見に来る」
「そうか? ならその時に近況も話そう」
「……あぁ」
……そうでもなさそうか? 人間関係というのはいまいちよく分からない。
立ち上がった2人は普通に玄関から出ていくようだ。正直どこでもよかったのだろう。これからこの2人は始めていくのだから。
「ありがとね。それじゃあまた」
「……じゃあな」
「あぁ」
これ以上の言葉が見つからずに俺とフレイの間で視線が飛び交う。向こうも何言えばいいのか分かっていないっぽい。
その様子を隣で見ていたソルティアはくすくすと笑っている。これが年上の余裕というやつか。
「そっちも頑張ってね」
「え? お、おう……」
ソルティアの言う頑張りというのはどれのことだ? 魔人の話? それとも人間関係の話か? コミュ障だと見抜かれた?
2人が去っていった玄関はなんとも花が消えたような寂しさがある。まぁ別に会えなくなるわけじゃなさそうだし別にいいんだが。
半分魔人の少年とそれを支える普通の人間か。苦労も多そうだがそれ以上に2人一緒で幸せなんだろうな。
「行っちゃったね」
「そうだな」
「大丈夫? 浅野くんとのこと……」
「あぁ、平気だって言ったろ?」
あいつら2人の手前遠慮してるとでも思われたのだろうか? 心配そうに顔を覗き込んでくるアリシアに俺はいつも通り返す。
アリシアはそれで安心してくれたらしい。にっこりと微笑んで何故か俺の頭を撫でてくる。
「何故撫でる」
「刀夜くんが可愛いからかな」
「子供扱いするな」
こいつのブラコン属性は一体どこから来るんだ……。一人っ子というのが駄目なのか? 姉弟に憧れでもあるんだろうけど。
「とりあえず場所は決まったわね」
「ん…………手掛かりは掴んだ」
そういうことになるだろう。何もなかったあれからすればいい進歩だ。
「……ひとまず昼飯にしないか?」
「そうですね。ご用意致します」
もうそろそろ良い時間帯だ。あいつら2人も誘えばよかったか? まぁあの2人はあの2人でなんとかするんだろうな。




